Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

文字の大きさ
上 下
42 / 192
第二章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?

Episode 13

しおりを挟む

■遠野 葵

私達が【劇場作家の洋館】のハードモードをクリアした少し後。
あのままゲーム内に居てもどうせアップデート処理によって叩きだされるのだからと、一度ログアウトをした後に通話アプリを使って現実世界側で集まっていた。

「いやぁ、しっかし私達がログアウトした後にオリエンスでも攻略されたんだっけ?」
『そうみたいね……うん、今現実こっち側にも酔鴉からメッセージきたわ。自慢したいのね……』
『あぁ、攻略されたのはアナウンスされても誰がまでは通知されませんもんね。こっちもハードクリアしてるのに気づいてないのか』
「まぁあっちも戦闘中だっただろうし……そもそも私達もなんで勝てたんだろうって戦いだったしねぇ」

メアリーは現在もゲーム内で、私の頼んだ武器の作成をしてくれている。
ある程度まで出来たら彼女もこちらに合流するそうなので、雑談でもしていればいずれ来るだろう。
といっても、現状話すことと言えば一つしかないだろう。

「というか、アップデートかぁ。結局ホームページは更新されて……っと。更新されてるねぇ」
『あらホント?さっき見た時はまだだったけど』
「ついさっき更新されたみたい。アップデート内容と……それに一気に新規プレイヤーが増えるって」
『成程、まぁ大体サービス開始から1ヵ月ですし、運営の方も一気に増やしても問題ないって判断ですかね』
『でしょうねぇ。問題が多めに出そうだから正直困るのだけど……あ』

と、ハロウが何かを思い出したかのように声を上げた。

「ん?どうかしたかい?」
『あー、いえ。すっかり忘れてて……ごめん、アップデート終わったらもしかしたら私の友人が1人FiC始めるみたいなのよね。最初の方はそっちにつきっきりになるかも』
『分かりました。その友人さんは【犯罪者】は何で始める予定なんです?』
『【ラミレス】だと思うわ。他になっても自分で変更すると思うから……あー、いつもの面々の中には【ラミレス】関係のスキルとか戦い方を知ってるのが禍羅魔かスキニットくらいしかいないのよねぇ……』
「あぁ、それなら私知ってるぜ?」
『『は?』』

【ラミレス】での戦い方やスキル自体は調べものをしている時に資料として見る機会があったりしたのだ。
それこそ、三人称視点での動画や区画順位戦での共闘、他にもソロで活動しているときの野良でのパーティなど、色々な所で学ぶ機会はあった。
そういった話をすると、2人は感心したような声を上げた。

『初心者が短い間にここまで成長するだなんてねぇ……』
『やっぱり元から素質があったんですね先輩。ようこそこちらゲーマー側へ』
「あは、それは遠慮しよう。とりあえず今は内容を確認しようぜ?」
『それもそうね』

そんな茶番のようなことをしながらも、私達は更新されたアップデートの情報を流し見していく。
正直な話、私にとっては人生初のゲームのアップデートなのだ。
何が良くて何が悪いのか、よくわからない。
ハロウやマギのようにある程度ゲームをやっている人間からみての意見を聞いたほうが、個人的には参考に出来るため、ここではどういったアップデートが行われるのかだけを大まかに把握することに努めることにした。

暫くして。
2人も読み終わったのか、軽く息を吐くような音が聞こえてくる。

「何か気になったやつはあったかい?」
『そうねぇ……まずは第二階層開放かしら』
『第二階層に行けるのは何処かの区画のダンジョンを1個、ノーマル以上クリア……最低限それくらいの戦闘能力は持っておけってことなんでしょうかね』
「まぁ私達にとっては既に超えたハードルだねぇ」

結局の所、私達はすぐに超えたハードル。
区画順位戦中も同じように一回攻略してきたが、全体を見てみれば、未だクリアしていないプレイヤーの方がまだ多いというのが現状だ。
他の区画のダンジョンはどうか分からないが、少なくともデンスの【劇場作家の洋館】においては、シェイクスピアの第二段階……巨大化する所で全滅するパーティが多いとのこと。
……うーん。大振りになるからある程度見てから避けるが出来るんだけどなぁ。

これは後から知ったことなのだが。
リアルで死ぬことはなくとも、人間というのはそういった恐怖を目の当たりにすると動けなくなるとのことで。
プレイヤー達が未だクリアできていないのはそこが関係しているらしかった。
私にはなかったことなので、少しだけ興味深いと思った事を覚えている。

「第二階層には闘技場とかがあるんだっけ?」
『私達の場合だと闘技会になりそうね。ほら、剣闘士が戦ったっていう』
「あぁ、【犯罪者】だから?」
『そういうこと。実際には奴隷が多かったって話だけど、犯罪者も少なからずいたとは思うから。私達に近いのはこっちよねぇ……』
『ん……他には食事処とかもあるみたいですね。ゲーム内でまともな食べ物を食べてる姿がやっと見れるわけですね』
「おや、それは私に言ってるのかな?」
『そりゃあもう』

闘技会、食事処の追加。
ある意味では、娯楽を他の区画へと輸出しているデンスらしい追加要素だろう。
他の区画にも色々と追加された施設があるらしいが……正直、他の区画に行くかどうかはまだ怪しい所があるために、一旦スルーすることとなった。
必要ならばその都度調べればいいのだ。

他にはスキルの調整など、所謂修正と言われるものの確認が続く。
だが、現在主流である最初期の【犯罪者】5種のモノがメインであり。他は自主的にバグ報告したのであろう上位職のスキルが載っていたくらいであった。

「えーっと、次。『新規を含めた新イベント企画中!近日公開!』……だってさ」
『次のイベントねぇ。次は何が来ると思う?』
『今回は区画順位戦じゃあないんですよね。殲滅戦やったんで、次は頭使う系が来るんじゃないです?それかまた羽目が外せるようなものですかね』
「私としては、まともに食べれる人型がいれば十分なんだけど……いるかなぁ……」

次回のイベントの予告。
現段階ではまだ詳細などは分からないものの。それでも普段とは違った楽しみ方ができるイベントは楽しみだ。
そんなことを話していると、いつの間にかメアリーが通話に参加して。
アップデート処理も終わり、FiCへとログインできる時間となった。

会話を程々に切り上げた私は、再度あの地へと降り立つためにヘルメット型のVR機器を取り付ける。
意識は、あの天に浮く都市へ。
しおりを挟む

処理中です...