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第四章 天使にレクイエムを
Episode 18
しおりを挟む彼、というよりは掲示板からのコメントは至極真っ当な事を言っている。
しかしながら、それを行うには少しだけ問題がある。
「あー……まぁそうなんだけどね。事実、私達だけでやるよりは成功する確率が高くなるのは確かよ」
「じゃあなんでしない、というよりは選択肢にないんです?」
「結構簡単な話だぜ?マギくん」
私達の顔を見て理由を察したのか、苦笑いでCNVLが説明を引き継いだ。
「単純に、ここにいるのは知り合いだけなんだよ。で、言ってしまえば他の2つの区画……ネースやディエスには知り合いがいない。だからこそ」
「……あぁ、伝手がないって事ですか。ならそれこそここに居ない人……これを見ているプレイヤー達に他の区画の知り合いくらいはいるでしょう?そっちは……ってこっちもダメなのか」
「そうなのよねぇ。私達デンスと、第一回目の区画順位戦から同盟を組んでいたオリエンスなら兎も角、他の2つの区画は同盟も組んでなければイベント中は敵対関係と言っても過言じゃあないってわけ。まぁここに他の区画からの使者というか、それに似たような人が来たならその限りじゃないけれどね」
そもそもの話、他の2つの区画と組むのであればイベントが始まってしまったこのタイミングでは遅すぎるのだ。
前回の区画順位戦でオリエンスと同盟のようなものを結べたのはある意味運が良かったと言いようがない。
こちらから出向こうものなら、恐らくは施設を破壊しにきたと勘違いされ戦闘になるのは想像に難くないだろう。
……一応知り合いはいないわけじゃあないんだけどね。
情報が全くと言っていいほど回ってこないディエスは兎も角として、ネースの方ならば知り合いはいる。
この前の決闘イベントで知り合ったプレイヤーなのだが……そも、連絡してきてくれるとは限らないため、ここで名前を出すような真似はしない。
「だから、私達で何とかするしかない……ってのは語弊があるわね。どっちにしろ全区画があの天使をどうにかしないと、全員最下位には変わりないんだから……どこかのタイミングで仕掛けるとは思うわ」
「まぁそれがこちらを巻き込んでのものか否かって所よね。禍羅魔、偵察に向かわせてるのから連絡は?」
「来てねェな。他の区画のプレイヤー、天使との戦闘報告はあッても中央まで着いたッてのはまだだ」
一つ、言ってしまえば。
この場で話している意味というのはかなり薄い。
だが話さないといけない理由も勿論存在している。
『私達はこうやって考えて、この結論を出しましたよ』という……言わば過程を配信としてこの場に居ないプレイヤーに見せることによって、その考えが深く考えられていないものではなく、きちんと考えられた作戦であるということを錯覚させるためのパフォーマンスなのだ。
私達は別に戦争屋でも、軍師でもない。
単純にゲームを楽しんでいるだけのゲーマーだ。
だからこそ、『とりあえず倒せば解決するだろ』という考えには一番最初に至っているし、それが最善だろうということも分かっている。
というか私のパーティメンバーは全員それしか案が出てこなかった。
「……ん、着いたみたいね」
「俺達じゃなかったらこんな早く着けないからな!?人使いが荒いわ!」
「あら、久しぶりに会ったけど結構元気ね。【立会人】を始めてやった時はあんなに静かだったのに」
と、ここでスキニットが彼のパーティメンバーを連れつつ噴水広場に登場した。
配信を開始してからそこまで時間が経っていないというのに大したものだ。
「あ、CNVLお願い」
「りょうかーい」
「禍羅魔もいって」
「はいはいよ」
しかしながら、その速さは厄介なものまでも噴水広場に連れ込んできたために、自由に動きやすいCNVLに処理を頼んだ。
酔鴉の方も禍羅魔が迎撃に出たため、そこまで時間は掛からないで処理できるだろう。
「……あー、すまねぇ。ついてきてるのは気が付かなかった」
「別にいいわよ。CNVLと禍羅魔でどうとでも出来るレベルのプレイヤーでしょうし、協力する気があるなら武器を持ったままこちらに近づかずに様子を伺うはずもないから。本当に協力する気があったならそれは申し訳ないけれどね」
正直な話、今のこの状況でどこの所属かも分かっておらず、こちらを遠巻きから武器を片手に観察しているプレイヤーなどPKされても仕方ないだろう。
デンスならばデンスと、オリエンスならばオリエンスと。
はっきり言えばその上で目的を聞いて相手になるというのに。
「それなら助かる。で、【立会人】のスキルを使うんだろう?結論は出たのか?」
「まぁ出たと言えば、出てはいるのだけど……」
「実際、ここで立ってても仕方ないしオリエンスは中央に攻め込もうと思ってるわ。デンス側は?」
「デンスも同意見。じゃあそういうことにしましょうか……ってことでよろしく」
「はいはい……パフォーマンスなんだからもうちったぁ演技しろよ……」
そう言いながらも、彼は【立会人】の【契約審議】というスキルを行使する。
彼の身体から湧き出るように出現した文字が、私と酔鴉の間に集まり1枚の紙となった。
「【契約審議】。単純に言えば、そこに書いた内容を【立会人】が掲示板に流してプレイヤー達が賛成か否かを審議。賛成になった場合、書いた内容が成立し効果を発揮するってわけだ。当然、内容の範囲によってどの規模の掲示板に流されるかは決まるぞ」
「今回の場合でいうなら、第一回区画順位戦から出てる同盟掲示板かしら」
「そうなるな。ほれ、書きこんじまってくれ」
そう言ってスキニットはこちらに書くように促した。
酔鴉を見ると頷いていたため、私が先に浮いている紙に触れる。
すると、タイピング用のウィンドウとキーボードが出現し、自由に文字が打ち込めるようになった。
「あぁ、それは他人からは見えねぇから安心してくれ」
「了解了解」
……とりあえず、『参加したい者は中央区画への侵攻作戦に参加、参加者は作戦への参加中オリエンス所属のプレイヤーへ危害を加える事は禁止する』でいいかしらねぇ。
ここで決めるべきは全体ではなくデンス側の契約内容。
オリエンス側は酔鴉が決めるためこちら側からは干渉できないものの、スキニットという仲介人がいるため、おかしい内容は突っ撥ねられるためそこまで心配はしていない。
「はい、書いたわ。酔鴉」
「はーい。……ふむ、じゃあ私もほぼそのまま書きましょうか」
「あら別に変えてもいいのよ?」
「そんなことしても許されないでしょうに。というかそんな所でそっちのプレイヤーと溝を作りたくないわ」
素早く打ち込み、それをスキニットに手渡した酔鴉は少しだけ息を吐いた。
まぁこちらとしても正直変えられたら考えることが増えるためありがたいっちゃありがたいのだが。
「よし、確認した。じゃあ掲示板に流すから結果を待ってくれ。あぁ、別にこの契約内容に異論がない奴の中で中央区画に行ける奴はもう向かっててもいいぞ。道中の天使を駆除しておいてくれると助かる」
「あ、それはこちらからもお願いしたいわね。一応こっちは動き始めるから一緒に駆除することにはなると思うけど」
配信を見てるプレイヤー向けにそう言った後、私達は処理に向かったCNVL達を待ってから中央区画へと向けて歩き出した。
勿論配信はつけたまま、掲示板の審議を片目で確認しつつではあるが。
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