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第四章 天使にレクイエムを
Episode 30
しおりを挟む私達へと視線を、ヘイトを向ける天使は先程とは違いかなり少ない。
周囲の天使達のほぼ全てがメアリーの方へと注目しているからだ。
だからこそ、私達はある程度自由に出来る。
【印器乱舞】によってバフをかけた後、すぐさま天使の1体へと近づき。
その首をハサミによって鋏みこむ。
じょきん、というハサミ特有の音が響き光の粒子が溢れた。
……やっぱり抵抗がないわね。骨あるのかしら。
恐らくは筋肉すらもないのだろう。するっと入り、抵抗なくそのまま傷を付ける事ができる。
大量に生産できるからこその性質だろうか。
もう少し試してみて考える必要があるかもしれない。
「【フードレイン】。いやぁ、愉しいなぁコレ!」
近くから聞こえた笑い声の方向に視線を向けると、そこには頭のおかしいプレイヤーがいた。
否、私のパーティメンバーのCNVLがいた。
【フードレイン】。
私の聞いたことのない名前のスキル。しかしながらその効果はある程度察することが出来た。
彼女の周囲からまるで雨のように降り続けている何かの肉や骨。
最初はそこまでの量は無かったものの、次第に降ってくる量が増えていくのが目に見えて分かった。
見れば、腕や骨をCNVLが食べていることからコスト消費型の攻撃スキルなのだろう。
中々便利に見えなくもないが、何かのウィンドウを弄りながら肉を貪っている彼女の姿を見ると、中々面倒なのではないか?という考えも浮かんだ。
「新スキル、ねぇ……私の【強欲性質】の制限も外したい所だけど、新しく出来ることが増えるのも魅力よね」
近くの天使の首を鋏み切りながら、少し考える。
とは言っても、CNVLのスキルの多さは単純に彼女が【犯罪者】を変えていないことからくるレベルの高さによるものだ。
私も1つの【犯罪者】に絞ってレベルを上げればあのように使えるスキルが増えていくのだろうが……正直、貰える称号の効果も無視できない。
……いけないいけない。今はとりあえず集中しないと。
そういった事を考えるのはまた後ででいいだろう。
「CNVL!そろそろ前出るわよ!」
「了解!じゃあもうちょっと派手にいくかなッ!【食人礼賛】ッ!!」
彼女が腕をインベントリから取り出すのを見ながら、私は私で攻撃と拡張の印章を取り出しハサミに捺印する。
上手く効果が乗ったのを確認しつつ、私はハサミを双剣へと変え天使が固まっている方向……中央区画の中心へと向けて足を進めた。
瞬間、全てではないものの、周囲に存在する天使の視線がこちらへと向く。
流石に中心に向かおうとすると注目くらいはされるようだ。
槍や剣、斧や杖のようなものを持って襲い掛かってくる天使までいるのを見ながら私は双剣をゆらり、と構え振るう。
心臓や頭といった部分は狙う必要がない。
動けなくするだけで私達は前に進む事が出来るのだから。
こちらへ向かって攻撃してくる天使達の腕や足を狙い、所謂達磨と言われる状態にして放置する。
血が出ているようには見えないが、何かしらは漏れ出ているのだろう。
少しすると光の粒子になって消えていくのを見て、私はそのまま中心に向かって進んでいく。
……うん、数が少し少ない。メアリーの方にも取られてるのかしらね。
或いはソーマも似たように中心へ向かって進んでいるのかもしれない。
「ハロウ避けなよー?行くぜ」
「言われなくても分かってるわよ」
突然後ろから伸びるように私を影が覆った。
それと同時CNVLから声を掛けられたため、横へと跳ぶようにしてその場から離脱する。
次の瞬間、巨大な黒い骨の塊が先ほどまで私がいた位置を巻き込むようにして中心に向かって振り下ろされた。
それと同時、黒い骨の塊が砕け……その大小様々な破片は形を変えスケルトンとして周囲の天使を襲い始めた。
「またジョンソンの腕?」
「性質的に使いやすいんだよ。スポナーと違って探す必要もないからね」
「成る程」
スケルトン達が天使に襲い掛かる光景は中々見れるようなものではない。
というよりは、スケルトンを使役する側で見る機会など早々にないだろう。
【詩人 ジョンソン】の腕を使い、その副産物として作られたスケルトン達は、CNVLの指示に従い、天使達の打倒ではなく妨害に徹している。
元が第一階層の素材から作られているのだ、1体が天使1体を相手に出来るほどの強さも技量も持っていないのだから当然だ。
私達はそのままCNVLによって開いた中心まで続く道を走って進んでいく。
天使の量が少しずつ増えていっているため、その速度自体は遅いものの前進は前進だ。
それに、私達が中心に進んでいる事を焦っているのか、今までは探さなければ見つからなかった神父までもが視界にチラチラと映るようになってきた。
未だ攻撃自体はしてこないものの、アレが攻撃に加わってくるとなると今よりは少し忙しくはなるのだろう。
しかしそれはそれで好都合。
スポナー系の敵がこちらの前に躍り出て攻撃するという最大の隙を晒してくれるかもしれないのだ。
その時が来るのをじっと待ちつつ。私達は中心に向かって足を進めた。
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