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第四章 天使にレクイエムを
Episode 35
しおりを挟む『ごめん待たせた!出来たよ!(';')』
「了解、これ私が捺印した矢よ。普通に使えば効果発揮するはずだから何とか使って」
『分かった!今回は火力メインでいいんだよね?(゚д゚)』
「えぇ、当たる前に弾かれたら意味がないから火力があった方が良さそう」
バリスタの組み立てが再度終わり、こちらへと話しかけてきたメアリーに動かしにくい手を頑張って動かし矢を渡す。
CNVL達の方を見れば、今もなお至近距離で何とか戦っているのが分かるものの、それもいつまで続くのか分からない程度には苦戦もしているようだった。
一体どれだけの量の天使をこの浮遊監獄都市内にばら撒いていたのか、吸収されていく光の量は時間が経っても変わらない。
その分回復されるのだから厄介すぎる。
私はメアリーが矢を装填し、放つまでの間自分の手に巻かれた包帯の様子をチェックしていた。
きつく絞められており手の力が抜けた程度では双剣が落ちない程には固定もされている。
指程度なら動かせるが、それもそれで先程試したが印章程度の小物しか摘まむことができない。
……バフは……自分の印章だけか。
ステータスを確認し、いつの間にか切れていたデスペナルティにホッとしながらもマギを探す。
「居た。マギ」
「どうしました?バリスタは用意出来たんですよね?」
「それはそろそろ発射ね。それとは別に、強化が欲しいのよ。今私って自分の印章だけしかバフ掛かってなかったから」
「あぁそういう……デスペナは?」
「切れてるわ。バフはダメージ上昇系と敏捷系で頼めるかしら?」
私の注文に、彼はわずかに目を見開きその後薄く笑う。
私が何をする気か分かったのだろう。注文した強化と共に、ダメージ軽減効果のあるバフまで掛けてくれた。
察する能力が高い相手とは会話がしにくいとはいうが、こういう時マギの察しの良さはありがたいものだ。
『よし、出来た!撃つよー!(゚д゚)!』
「了解、ちなみに今回の矢の構成は?」
『ハロウが捺印してくれた印章に加えて、爆破、貫通性能付与したダメージ重視の金属矢!(^ω^)』
「いいわねぇ。じゃあやりましょうか」
音声入力で返事を返しながら。
私はいつでも走り出せるように前を見据える。
今もたまにこちらへと飛んでくる光の槍は、やはり中央区画の外側に向けて放たれているのかその数自体は少ない。
弾幕が薄い、とでもいえばいいのだろうか。
これでは避けてくださいと言っているようなものだ。
今まで弾いていたのは単純に、弾かねば純後衛職のプレイヤーに被害が出る可能性があったから。
でもその役目も放棄する。マギの方を見たら溜息を吐きながらインベントリから彼の武器である箒を取り出してくれたからだ。
流石に、ここまで来て私が接近戦に参加しないなんてことはしたくない。
今まではタイミングと、相性が悪かった。
しかしながら、こうやって遠巻きから戦場を眺めある程度の槍の射線や勢いを自らの身をもって知った今。
『Fire』
短く発せられたパーティチャットを横目に、私は走り出した。
中心に、【反海星 ■リ■・ス■ラ】へと向かって。
背後からはメアリーが放ったのであろう金属矢が私を追い越して飛んでいく。
2種類の札のようなものが巻き付けられており、勢いも今まで見た中で最高に近いほど早い。
途中何度か光の槍が進路を潰すかのように降ってきていたものの、それすら置き去りにして飛んでいく。
そして次の瞬間、出現した場所からほぼ動いていない【反海星 ■リ■・ス■ラ】に矢は突き刺さり、白い爆発を引き起こした。
いつかのファウスト戦で見たような爆発。白い煙によって【反海星 ■リ■・ス■ラ】の姿は見えなくなるものの、私の足は止まらない。
ボスの周囲に居たメンバーも、パーティチャットを事前に確認していたらしきCNVL以外は一瞬何が起きたのか理解が出来ず動きを止めていたものの、すぐに思考を再起動し動き出す。
中には私が近づいてきている事に気が付き、笑みを浮かべる者もいた。
「あはッ!仕方ないなぁうちのリーダーは!【暴食本能】、【フードレイン】!」
先頭で戦っている中で1、2を争う程度にはボロボロになっているCNVLが肉と骨の雨を今までにない範囲で振らせ始める。
光の槍よりも低い位置から降るそれは、ダメージを稼ぐために発動されたのではないことをすぐに察した。それは光の槍の勢いを少しでも削ぐための小手先の手段。しかしながら効果はしっかりと出てくれた。
肉や骨に突き刺さった光の槍は、その勢いが若干落ち。それに加え本来突き進んでいくはずだった機動から少し外れていく。
それだけでも十二分に避けやすい。
白い煙が晴れていく。ボスはぴんぴんとしているものの、HPはそれなりに……約2割ほど削れていた。
笑みを浮かべ、CNVLにありがたいと思いながら自分の武器が届く範囲まで近づいていき。
「【強欲性質】ッ!」
叫ぶようにスキルの発動を宣言しながら、私はボスへと切りかかった。
両の手に固く握られた剣が柔らかそうなボスの肉体へとずぶり、と入っていき。
次の瞬間、私の視界を光が覆った。
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