Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第五章 月を壊したかぐや姫

Episode 5

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■【印器師A】ハロウ

『大丈夫かな……CNVL(;^ω^)』
「大丈夫でしょ。まぁ何かあっても死に戻りするだけだから、特に気に居する必要はないわ」
『あぁ、いやそっちじゃなくて(';')CNVLの事だからこの後・・・の事を忘れそうで(-_-;)』
「あー……そこらへんどうなのよ、マギ」

午前中だというのに暗い裏路地を走りながら。
私達は軽い雑談のような事をしながら目的地へと急いでいた。
途中途中でネース所属のプレイヤーからの攻撃が飛んでくるため、それらに対する警戒も忘れてはいない。

「先輩は一応、そこらへんははっきりさせてますよ。食事は食事、やるべきことはやるべきことって感じに」
「まぁ確かにねぇ……うん。とりあえず今はソーマと早く会いましょう。向こうが出てこなかったら、このまま重要拠点に突撃ね」
『出てきたら?('ω')』
「もちろんその時はきちんと決闘よ」

手に持っていた【HL・スニッパー改】をハサミの形へと変えながら、私はにっこりと笑う。
思い出されるのは、かつて彼と戦った決闘イベントの決勝戦。
あの時はまだ私が印章を使う前、【偽善者】だった頃だ。

その時使っていたソーマのスキル等を考えるに、恐らく彼はその時から【犯罪者】を変えておらず。しかしながら見た事の無い武器を使っていた事から、手の数は増えている事だろう。
そんな彼と戦う事が出来るかもしれない。それが堪らなく嬉しかった。

「手は出しちゃダメよ?」
「出しませんよ。出したら出したで後が大変ですから」
『だねー。私達は一応生産職なんだよー?(;^ω^)』

暫く走っていると、見覚えのある広場へと辿り着いた。
暗かった裏路地から、無数のモニターによって明るく照らされている場の中心には、やはりというかなんというか、知っている顔が独り立っていた。
昨日見た時よりも、幾分か草臥れた病衣を身に纏った彼は、広場へと辿り着いた私達の方へ気怠げな表情を向ける。

「……神酒の奴は止められたか」
「まぁうちにも似たようなのが居るから当然ね。……で、ここに貴方が出てきたって事は私達を止める気なんでしょう?」
「それこそ当然だろう。お前は他の区画の……それこそ酔鴉なんかが一直線に重要拠点の方向へと向かってたら迎撃しないのか?」
「ふふ、そこまで警戒されてるなんて光栄ねぇ」

そんな事を言いながら、私はハサミを。
彼は何も持っていない手を前へと構えた。

「まぁそれは建前としても……どうせお前の事だ。俺と一戦交えたいとかそういうのだろう?相手をしてやる」
「分かってるじゃない、話が早くて助かるわ」

私はメアリーとマギを少し後ろへと下がらせ、自分は少しだけ構えたまま前へと出る。
絶対に勝てるとは思っていない。
負ける確率の方が高いだろう。それこそ、向こうは遠距離攻撃手段を持っている。
近づく前に殺されることもあり得るし……そもそも近づいた所で、向こうの方が上手になっている可能性もある。

……それでも挑むのが私よね。
今から始まるのは完全に私欲でしかない只の野試合。
区画順位戦という事を完全に無視して、私が満足するためだけに行う戦闘。
人が聞けば「今やるべきことじゃない」と言うだろう。
だが、今なのだ。今だからこそ、出来る事や考えられる事もあるのだから。

「ルールは?」
「そうね、少し話したい事もあるし、システム使って決闘しましょう。HP1残しの奴」
「了解だ。……始めるとしよう」

以前、酔鴉に稽古をつけてもらった時のように。
私達の前に半透明のウィンドウが出現する。

-Ready……-

「あの時の俺だと思わないことだ」
「あら、それはこっちの台詞よ。昨日色々見せたでしょう?」
「だからこそ言ってるんだ。お前もお前で慢心して一瞬で終わるなよ」

-Start!!!-

ウィンドウが砕け散り。
瞬間、私はソーマに向かって走り出した。
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