Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第五章 月を壊したかぐや姫

Episode 7

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だが、ソーマも伊達に決闘イベントで準優勝はしていない。
私の【土精の鎚】をタワーシールドで大きく弾き、少しだけ距離をとらせると。
彼自身の顔に光が集まった。
次の瞬間、彼の顔には簡易的な潜水用の器具が出現していた。
【窒息】は呼吸が出来ている状態ではすぐに回復してしまう状態異常だ。そのため、一時的にでも呼吸が出来るようになる潜水器具は確かに効果的だろう。

……あんなのもストックの中にあるのね。
予想していなかったものの登場に、少しだけ面食らったものの。
盾の無くなった彼に対して攻撃を仕掛けるために攻撃を仕掛けていく。

一歩踏み出し、左から右に回すように振るう。
しかし大振りになってしまったからか、しゃがむようにして避けられてしまい、大きく隙を晒すことになってしまった。
彼はそれを見逃さない。
潜水器具が光となって消えていく中、彼の手には新たにどこかで見たような……それこそ、昨日戦った【反海星 マリア・ステラ】が持っていた光の剣が握られていて。
鋭く前へと向かって突き出された。

「あっぶなッ!?」

身体を捻っている所から、更に避けにくい身体の中心へと向かって突き出されたそれを、咄嗟に身体の向いている方向である右へと転がりながら避けようとする。
しかしながら流石に完全に避けきるということは出来なかったようで、少ないHPが更に減少したのが見えた。
残りのHPは約2割。それに比べて、ソーマは8割ほどHPを残している。
【窒息】や、受けきれなかった衝撃によるダメージによって少しずつ削れているものの……まともにダメージを与えられていないというのは中々厳しい。

……この後もまだやることあるのよねぇ……でも仕方ないか。
負けるよりはマシだろう。そう思いながらソーマがインクの操作範囲外に出ないように、少しだけ距離をとる。
ソーマはソーマでこの距離感だからか、こちらが仕掛けるまではじっと待っている事にしたようだ。今も光の剣を消して潜水器具を再び出現させ【窒息】のダメージから逃れていた。

「使いたくはないんだけど……【印章暴走】」

私は1つ溜息を吐くと、今まで使ってこなかったスキルを発動させ、攻撃と拡張の印章を選択する。
瞬間、印章が光り輝き罅割れていくのが分かった。
私はそんな印章を自身の身体へと捺印する。

すると、身体がいつも以上に軽く……そしてどこまでも手が届くかのような錯覚に陥った。
否、ある程度までなら実際に届くようになっているのだろう。
しかしそんな身体の変化と同時に、攻撃と拡張の印章は崩れ落ちるようにして壊れてしまった。
次いで、私の視界の隅に【1:00:00】という数字が出現し、1秒経つごとにその数字が減っていくのが見えた。

それを確認すると、私はすぐに動き出した。
一歩踏み出し【土精の鎚】ではなく、右手でソーマの首へと手を伸ばす。
普通ならば手の届かない距離。ソーマもそう思っているのか、警戒はしているものの……潜水器具から他の武具へと変更することはない。
しかしながら。

「ッ!?」
「……あんまり待ちに徹してもこういうことになるから、やめた方が良いわよ?」

……あっぶなぁ。ギリギリ届いたぁ……!
私の手は明らかに届いていないのに、ソーマの体温が、首の感触が手に伝わってきた。
そのまま、私は彼の身体を上に持ち上げていく。
彼は彼で、何に持ち上げられているのか分からず藻掻いているものの、逃げ出すことが出来ていない。

【印章暴走】。
スキル自体は単純で、選択した印章が捺印後に壊れてしまう代わりに、普段よりも強力な効果を付与してくれる。
だがその効果力は絶大だ。それこそ、テストで使った私がバグではないか?とGMコールを行ってしまうくらいには。
では、その効果量はと言えば……以前、【決闘者の墓場】に挑んでいた時の、修正される前の印章の効果量とほぼ同じだと言えばある程度理解できるだろうか。

持ち上げられたソーマは、次第に顔が赤くなっていく。
だが、諦めてはいないようで、潜水器具を光に戻すと新たに鉄の剣を出現させる。
そしてその鉄の剣に手を添えると、鉄の剣自体が光を発し……そして先程私が使った【印章暴走】のように、その刀身が少しずつ罅割れていった。

……【印章暴走】と同じ系統なら、多分威力アップ系、もしくは性能アップ系のスキル……!
私はそれを見て、【土精の鎚】から【HL・スニッパー改】へと武器を変え、ハサミの状態で左手にそれを持った。
印章の効果か、そのまま片腕でも扱う事が出来るようだ。

瞬間、宙ぶらりんになっているようにしか見えないソーマが手に持った罅割れた剣をこちらへと投げつけてきた。
勢いよく、斜め上から飛んでくるそれを。私は手に持ったハサミを盾のように扱って弾こうとする……が。
いつものような鉄と鉄がぶつかる音はせず、グギギ……という音と共に、刀身を半分ほど貫通させ、少しばかり私の身体へと切っ先を届かせていた。

HPがその分減り、残り1割ほどとなる。
しかしながら、同時に私の手にも力が入りソーマの首を少しずつ潰していく。
それに伴い彼のHPも急速に減っていき、そして次いでに地面へと力強く叩きつけた。

-Your Winner!-

その瞬間、私の視界に文字が出現しソーマのHPが1になったのが決闘の終了と共に告げられた。

「……はぁ。これで満足か?」
「まぁね。それにしてもストック増えたわねぇ」
「当然だ。お前らのように俺は特化型じゃあないからな。酔鴉のように分かりやすいなら兎も角、お前のように真正面から突破していくのとは相性が悪い」

ソーマは溜息を吐きつつ、インベントリから回復薬を取り出し服用している。
私も私で、近づいてきたマギに回復してもらいながら、にっこりとソーマに対して笑いかけた。

「さて、じゃあここからは少しだけお話の時間にしましょうか」
「……話だと?」
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