Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第五章 月を壊したかぐや姫

Episode 21

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雨によって聞こえないのならば、仕方ない。
彼は彼で何かしらのスキルを使おうとしているのか、こちらへと手を向けているものの。
『犯歴』によって強化された【フードレイン】の所為で上手く発動できないのか、その顔を苦々しく歪めていた。

恐らく、【式紙】を操ろうとしているのだろう。
もしかしたら耐水性の高い紙を用意していたのだろう。
しかしながら、生暖かい赤い豪雨はそれらを許さないかのように今も振り続けている。

コスト自体は問題はない。
いや、在庫全てを使い切るつもりで使っているからこそ問題がないとも言える。
私が現在持っている素材を全てつぎ込めば、恐らくはあと1回ほどは発動できる……はずだ。きちんとインベントリを確認していないため、そんなに素材があるかは分からないが。
しかし、もう一度発動させる必要もないだろう。
【フードレイン】が解除させるよりも先に、決着が着くだろうから。

一つ、息を吐く。
……声が届かないなら仕方ないねぇ。
本当ならば、少しばかり言葉を交わしてから終わりにしたかったのだが……【フードレイン】を解除するメリットもないため、残念ながらそのままに。
じりじりと私が近づくにつれ下がっていく彼に一気に近づき、手にもったマグロ包丁を使ってその首を切り払おうとした、その時。
ガキンという音と共に、一瞬私のマグロ包丁が弾かれ……それと同時、ずぶりという音が私の身体の中から聞こえてきた。

下の方、腹部へと視線を動かせば。
徐々に空から降ってきている血によって赤く、そして水分を含んだことによってドロドロに崩れていく紙の剣が私の脇腹へと刺さっていた。
先に回復をしておいて良かったなと思いつつ、刺された所が悪かったのだろう。
私のHPが、先程よりも急速に減っていくのが目に見えた。

悠長に回復している暇はない。
こうして私を倒すために、殺すために不利である近距離まで近づかせてまで致命傷となり得る攻撃を私に徹してきたのだ。
他にも何か……それこそこの状況をひっくり返せる何かしらの手段を持っているかもしれない。

次は決める。
私がデスペナルティになったとしても、目の前の彼だけは道連れにする。
改めてそう考え、私はマグロ包丁を予備動作無しに振るう。
無茶な身体の動かし方をしたからか、更にHPの減る速度が速まったものの。
反応できなかったのか、それともするつもりがなかったのか……薄く笑みを浮かべた木蓮はそのままマグロ包丁の一撃を首元に喰らい、光となって消えていった。
彼の後ろにあった【偽神体】は、木蓮が消えていくと同時に光となって消えていく。
時間制限か、それ以外の制限か。もしかしたら木蓮と紐づけられていたのかもしれない。

戦闘は終わったものの、私にはやることがある。
急いでHPを回復しなければ、このままデスペナルティになってしまうからだ。
そう考え、インベントリ内から何かしらの食糧を取り出そうとインベントリのリストを開いて、苦笑いをする。
インベントリ内には、装備以外何も入っていなかったのだ。
何処かで素材量の調整をミスしていたのか、それとも単純に私が数え間違えていたのか。

自分の身体を使って回復しようにも、ダメージも喰らってしまうために【あなたを糧に生きていく】が発動する前にデスペナルティになってしまう。
所謂詰み、と言う奴だろう。
パーティチャットを開き、端的に死ぬ事を伝えた後。私は自分の首を出刃包丁で掻っ切った。
最悪、最後の一撃の所為でディエス側にポイントが入ってしまう可能性もあったからだ。
そうして、私の視界は暗く闇に染まっていく。

--System Message『あなたはデスペナルティとなりました。一定時間全ステータスが低下します。また、所属区画であるデンスの区画順位戦ポイントが減少しました』
--System Log『-6pt』
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