Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第五章 月を壊したかぐや姫

Epilogue

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犯罪の祭典 epilogue

■鷲谷 香蓮

「っていう感じで、こっちもこっちで色々大変だったのよ」
『……それを、アカウント特定されて尚且つ通話に強制参加させられてる私に言う……?』
「あら、当事者じゃない。色々知りたいこともあるでしょう?」

イベントの翌日。
私は珍しく夜だというのにゲームにインせずに現実である人物と通話をしていた。

『はぁ……まぁ、いいわ。とりあえず、今後そっちにお邪魔するかもしれないから、その時はよろしく』
「……ん?さっき聞いたけれど、貴女の【赫奕姫】のデメリットじゃ問題しか起こらないわよね?」
『それをどうにかするのがまとめ役の役目でしょう?』
「無茶ぶりねぇ。まぁ、来る1時間前くらいにゲーム内でもこっちでもいいから連絡をくれればデンスの掲示板には書いておいてあげるわ。あぁ、丁度いいからその時リベンジさせてもらってもいいかしら?」
『……面倒なのだけど』
「悪いものに目を付けられたと思って諦めなさいな」
『……自分の事を悪いものって言うのね』

そう、通話の相手は私達……というか、私を主に苦しめてくれたディエスのぼっち姫こと、アリアドネだ。
ちなみに、彼女の通話用のアカウントについては知り合いである木蓮から教えてもらったため、法を犯すようなことは何もしていない。まぁ本人に承諾を貰っていないため、マナー的な所を言われると痛いのだが。

私はマグカップに淹れたインスタントの紅茶を飲みながら。
彼女と共に今後の話を続けていく。

『というか、木蓮さんと知り合いだったのね貴女』
「んー……アレは偶然みたいなものよ。向こうは普段使ってるネームやアバターじゃなかったから私ももう1人の身内赤ずきんも気が付かなかったし」
『ふぅん……ちなみに彼って他だと何て名前でやってるの?これくらいは教えなさいよ。こっちはアカウント知られてるんだからいいでしょう?』
「えぇっと、動画とかもあるけど調べない方がいいわよ?多分イメージ崩れるから。『ガビーロール』って名前なのだけど」
『ガビーロール……へぇ、WAOの動画がヒットしたわね……』

……ノータイムで検索かけてるわこの娘。
ガビーロールに、と言うよりは木蓮に対して心の中で手を合わせておくことにした。
恐らく彼も彼であの世界では木蓮のようなロールプレイを心掛けているだろうから。

「あぁ、そうそう。公式サイトみたかしら」
『一応ね。次回のアップデートとかの話?』
「そうね。今まではダンジョンの最前線がクリアされると解放だったのが、今後は他のゲームと同様に時間を置くらしいのよ」
『……そりゃ、どっかの誰かがアレだけハイペースで攻略してた今までがおかしいのよ。普通に難度高いのよ?FiC』
「ほら、うちには脳筋アタッカーとかいるから」
『……それで納得できちゃった自分に頭が痛いわ……』

何やら現実に絶望しているような声が聞こえるが気にしない。
ともあれ、今後はゆっくり焦らずに攻略に集中できそうなのだ。
この機会に色々と試したいものもあるし、レベル上げをしておきたいというのもある。
CNVLを見ていればレベルを上げるという行為が大切なのが本当によくわかるからだ。

「まぁお互い頑張りましょうってことで」
『えっ、もしかしてこれで終わり?私貴女達デンスのイベント中の動き程度しか聞いてないんだけど?』
「えぇ、終わりよ。まぁ今後ゲーム内とかでも交流は増えるでしょうし……」

一息。

「後輩的な子には、優しくしないと。そうでしょう?」
『……そんな相手に、この後ゲーム内で決闘挑もうとしてるのについては?』
「?そんなにおかしいことかしら?」
『この決闘厨が……。はぁ、いいわ。じゃあ先に行って待ってるから。中央ね』

ブチッと通話が切られ、私の部屋には静寂が訪れた。
苦笑いを浮かべながらも、遅れたら遅れたでまたとやかく言われるのだろうと急いでFiCへログインする準備を進め、VR機器を起動した。

瞬間、私の意識は現実から仮想空間へと旅立っていく。
スゥと身体から何かが抜けていくような感覚は、何度やっても慣れなかったものだが……今では、もう私の生活の一部とかしていた。
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