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第一章

Episode 27

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音はなかった。
彼女が引き金を引いた瞬間、強烈な光と共に暴風のような衝撃が私達の身体を襲い。
事前に準備していたとは言えど、その衝撃に一瞬身体が浮きそうになるのを必死にスキルを操作して持ちこたえた。

やがてそれも収まり、光に慣れてきた目をどうにか開け。
周囲を見渡せば、そこには圧倒的な破壊の跡と1人苦笑いしながら立っている少女の姿があった。

『……やりすぎた?』
「やりすぎだよ」
『ごめんなさい、でも周りの人狼も吹き飛ばすならコレが一番かなって思ったのよ』

先程まで私達を襲おうと、周囲を取り囲んでいた人狼達の姿はそこにはなく。
どこに消えたのかと思えば、すさまじい量の討伐ログが流れているのに気が付いた。
アレが、アーちゃんの切り札なのだろう。
……【憑依】したら私もアレ使えるってことだよねぇ……。

制御はアーちゃんのようにできないだろうが……それでも、1つの可能性とも言えるものを結果として見せてくれた。
それだけでも感謝するべきだろう。
私は近くの穴の中で生き埋めになりかけていたスキニットの手を掴み、無理やり立たせるとサーちゃんが静かなことに気が付いた。

見れば、彼女はアーちゃんが発砲した方向をじっと見続けている。
その視線は鋭く、手にはぎゅっと硬くモーニングスターの柄が握られていた。

「サーちゃん、どうしたの?」
『……くるよ、マスターさん。まだ終わりじゃない』
「は?」

サーちゃんがそう言った瞬間。
どくんと此処ゲーム内にはない心臓が鼓動するのを感じた。
そして少し遅れ、背筋を刺すような寒気を感じる。
何かに見られているような、そんな威圧感。
狩人が獲物を静かに狙うときのような、刃物のような視線。

「アーちゃん!」
『分かってる!ほら、あんた達も呆けてないで!』

私の短い言葉で理解してくれたのか、それとも彼女も感じたのか。
アーちゃんが発砲した方向から感じるそれ・・は、徐々に近づいてきていた。

「おい、語り部……」
「あぁ、うん。アレがそうだね……やっぱり出てきたか、【人狼王】」

隣に来ていたスキニットの問いかけに対し、肯定を返す。
私達の視線の向こう。アーちゃんの銃撃によって抉るように木々が破壊された向こうから、それは現れた。

先程まで相手にしていた人狼の軽く数倍はあるであろう巨躯。
光の加減か、銀色に光って見える毛並み。
そして、射殺すようにこちらを睨みつけている金色の眼。

【人狼王】コートード。
人狼達の王、このルプス森林の王と思われるモンスターがそこに居た。

<BOSS BATTLE!>
<【人狼王】コートード Lv:???>

空中にテキストが出現し、コートードの頭上には彼の体力であろう緑のバーが3本出現する。
前に会った時は存在しなかった演出だ。
前回はまさしくイベントだったのだろう。

『GARAAARAAAAAAA!!!!』
「全員散開!」

想定していたものの、しかしそれよりも早く訪れたボスとの再戦が今ここに始まった。



再三言う様だが、私達のパーティはバランスは良くない。
むしろ悪いと言っていいだろう。
スキニット側の戦力を合わせても、前衛を行えるのが1~2人。
中衛がほぼ0で、残りが全て後衛向きの戦力だ。

『紡手』である私とスキニットがワイルドカード……どこのポジションにでも成れるとはいえ、それも一時的なもの。
ゲームでの『基本の形』というものを補えるものではない。
そして、今。
バランスが悪いものの、何とか『基本の形』に寄せた私達の陣形は、ある1つの……これまたゲーム的要素によって、壊滅寸前に陥っていた。

「おいおい、そろそろ余裕ないよ!?」
「すまん!追いつけねぇ!!」

ブォンと、耳の横を通り過ぎる音が聞こえる。
見れば、コートードの立つ地面の近くに何かが掘り返されたような跡があった。
恐らくは木をそのままこちらへと投げつけてきたのだろう。

当たらなくて助かったと思うと同時、何故コートードが私しか狙わないのか疑問に思い始めていた。
そう、今現在私達はコートードとの戦闘中。
アーちゃんや、アナ、ジョン、サーちゃんが攻撃を加え、牛若丸を【憑依】させたことによって侍のような姿となったスキニットがコートードのヘイトをとろうとしているのに対し。
それらを意にも介さずヘイトも向けず、コートードは私だけを狙ってきていた。

「Hey!スーちゃんなんかない!?ヘイト下げる方法!」
((申し訳ありません、解決法が見つかりませんでした))
「OMG!」
((と、ふざけてても仕方ないんですけど、本当にどうしようもないというか。気配を消す系のスキルを使ってもらおうにも、視線が外れないことには……))

私に【憑依】しているスーちゃんもお手上げ、というわけで。
スーちゃんに所々補助してもらいながら、ヘイトが他に行くまで避けるのに徹している状態だった。
下手に攻撃すると、それだけでまた地道に他が稼いだヘイトが帳消しになってしまう可能性があるために、私は攻撃に参加できない。

攻撃を防ぐのにも、出来る限り私だけで何とか対処しているものの。
【憑依】しているスーちゃんという第二の視点がなければ、すぐに攻撃に当たって死に戻りをしていたであろうことが既に数回。
……スキルの制御慣れてきてるけど、流石にスーちゃんみたいに受け流すようにはできないし……。

【その脅威は這い寄るように】が刃の形状であることを利用した防ぎ方。
刃の腹の部分で攻撃を受け流すように防御する。
先程の木を投げつけてくる攻撃も、弾道を逸らすように刃を配置してやれば、私に当たらない程度には進路が逸れてくれる。

しかし、ジリ貧な事には変わりない。
私の代わりにスーちゃんがスキルを発動できるとはいえ、彼女も疲労が溜まっていき、繊細さを欠いていく。
今現在、コートードの残り体力は未だ最初の1本目の5分の1しか削れていない。
どうにか打開策を考えなければ……負けるのは必然だろう。
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