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第一章
Episode 30
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ついに其の時は訪れた。
獲物が、あの女が再びこの森へと現れたのだ。
周囲には以前現れた時よりも多い数の人間がいたものの。
彼にとってはそれすら些細なものだった。
獲物の数が多いことに喜ぶことはあるものの、それを嘆くことはないのだから。
自ら出向き狩りたい気持ちを必死に抑え、まずは配下となっていた人狼たちをけしかけた。
単純に疲労を貯めるため。あわよくば弱らせるため。
幾らまた逃げようとすれど、疲労がたまっていればそれもままならない可能性があるからだ。
3度目はない。
そんなことがあれば、彼はまた1人になってしまう。
周りに失望され、また森の中で1人に……簡単な獲物だけを狙う誇りも何もない畜生へと逆戻りだ。
そんなことはあってはならない。
もう、今の場所へと引き上げてくれた存在はこの世にはいないのだから。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■赤ずきん
巨大な狼の姿となったコートードは、先程以上に厄介だった。
というのも、やはり速度が全く違う。
2足歩行と4足歩行の違いだろう。
今までが自転車程度の速度ならば、今は自動車くらいの速度はあるだろう。
どちらも全速力という但し書きがつくものの。
十分に厄介なのは変わりなかった。
「うぉっ危ないなぁ!」
人狼から狼に変わったためか、変わった攻撃パターンに対応しつつ。
私はスーちゃんに手伝ってもらいながら避けに徹している。
噛みつき、前脚でのひっかき、後ろ足での蹴り。そして尾による薙ぎ払い。
それぞれの攻撃範囲が大きく、今まで以上に距離をとるのが難しい。
人狼状態では自分の身体能力のみである程度避けられていたのに対し、今はほぼすべての攻撃を【浮遊霊の恋慕】込みで避けるのが精一杯という状態。
……これ、避けられるけど……長くは無理だなぁ……。
森林に入る前に試した通り、【浮遊霊の恋慕】で無理矢理身体を引っ張るように動かせば、その分負荷も掛かる。
仮想の身体にはないはずの胃がかき混ぜられ、少しばかり吐き気もこみあげてきている。
「スキニットくん!どう!?」
「あぁ、問題ない!が、さっきよりも硬くなってんな!」
「成程、任せた!!」
違いはまだある。
それはダメージが私以外からもある程度徹るようになったことだ。
私が攻撃にも回る必要がない。これだけでも大きな違い。
その分スーちゃんに手伝ってもらったり、他の事をしてもらえるのだから。
「スーちゃん、次」
((了解です、残りカウント3で入ります。……3、2、1、開始))
身体が何かに優しく柔らかいものに包まれる。
スーちゃんの発動した【浮遊霊の恋慕】だ。
それと同時、こちらへと襲い掛かってきたコートードの前足を後ろに跳ねることで避けようとする。
瞬間、身体に強烈な後ろへの力が加わり一気に距離を稼いだ。
しかしながら、それを読んでいたのか何なのか。
コートードは素早く振り下ろそうとした足を止めると、そのまま距離をとった私の目の前まで距離を詰め、その大きな顎で私の身体を噛み砕こうと大きく口を開けた。
『チャンスね』
『あぁ、そのようだ』
避ける方法がない。
しかし、避ける必要もなかった。
『GRAッ!?』
口を大きく開いていたコートードの頰に、巨大な炎がぶつかった。
それに続くように数本の矢が放たれ、コートードの顔の向きが強制的に私の居ない方向へと向かされる。
ガチン、という歯と歯がぶつかり合う音を真横で聞きながら、その場から離脱し再度距離をとった。
「助かったよ!」
『ふふ、感謝は後にとっときなさい?』
『君が注意を引いてくれているお陰で自由に動ける。感謝を』
炎と矢が放たれた方向を見れば、骸骨のランタンを持ったアナと、次の矢を持ち弦を引いているジョンの姿があった。
彼女達の援護はこれが初めてではなく、特に自由に矢を操ることが出来るジョンには数度、危ない場面で助けてもらっていた。
彼らの言葉に手をあげることで返しつつ、再度コートードの姿を視界に捉える。
この姿になってから、コートードの速さやその巨躯による攻撃など厄介な所は増えたものの、1つ不明な点も増えていた。
それは今のように、観察するような視線を私に向けてくる所だ。
何か確認するように、じっと動きを止めそして首を振って再度唸りだす。
それが何を意味しているのかは分からないものの、その状態のコートードに攻撃を当てることは出来ない。
どうやって把握しているのか、その状態のコートードに攻撃を放っても全て避けられるか無力化されてしまうのだ。
そのため、この状態はボス戦中の休憩ポイント、もしくは回復タイムとして私達は使っていた。
「HPはここまででやっと全体の5割ってところか」
((早い方でしょう。この紡手数でこの速度なんですから))
「そりゃね。……よし、あと半分さっさとけずっちゃおうぜ」
((まぁ、まだ2本目も底付いてませんからね……))
端から見れば独り言のような会話をしつつ、いつコートードが動き出したとしても対応できるように待機する。
そしてふと、視界の隅に点滅しているテキストが存在するなと思いそれを見てみれば。
<尿意検出>
「……ッ!皆!張り切って削っていこう!可及的速やかに!!」
私の尊厳に関わるタイムアタックを告げるものだった。
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