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ひと仕事終えた僕はかつてないほどの満足感に包まれていた。
僕の手には仕事の報酬を使って手に入れた串焼きが握られている。
一口食べたときの衝撃は口では表現できないほどだった。栄養は満点だが、味気なくぱさついた触感のアマランサスとジャガイモの炒め物はもう完全に
過去のものだった。
予想外だったのは体に溜まっている疲労が存外心地よいことだった。
コロニーの中で運動する用事といえば通学とスミコのお見舞いくらいなもので、これほどまでに激しい運動をしたことはなかった。
果たして一日耐えられるかと作業の後半くらいから思っていたのだが、終わってみればいっそ気持ちのいいくらいだった。
一日労働に励んで、それで得たお金で自分の好きなものを買う。何の目的もないシンプルな暮らしだ。
コロニーの人間たちはコロニーが人類を導くという理想のもとで日々どんな風に働いているのだろうか。
僕にはとてもではないがなじめそうになかった。
それくらい僕はここでの暮らしを気に入り始めていた。レンにコロニーを追い出されたのが今日のことだというのが信じられない。
「でも、今日はどこで寝ればいいのだろう」
おなかを満たし、多少のお金を得たところで次の問題はそれに尽きた。コロニーを追い出された僕にまさか家が用意されているわけもない。
「他の人はどうしているのか聞いておけばよかったな」
独り言ちてうろうろしていると、結構な人数の男たちが道の端や軒先で転がっている。めいめいに飯を食べたり、酒らしき飲み物を飲んだりしている。
なるほど。そうなるのか。ただ、日々清潔なベットで寝ていた身としては少々抵抗がある。
どうにかならないのかとあたりを見回しながら歩いていると、ひときわ人が集まっている一画があった。
人ごみを縫って前に出る。
そこにいたのはロボットたち。朝、レンとともに僕を追いかけてきた四足歩行型のやつ。複数匹で群れを作るようにして、2人の人間を囲んでいる。
僕と同じくらいの男の子と女の子。四足歩行のロボットたちが少女を地面に縫い付けるように抑えている。それを歯噛みして見ている少年。
「あれはなんですか」
僕はとなりにいた男に聞いた。
「ありゃコロニーのロボットよ」
「どうして女の子を捕まえているんですか」
「さてね。コロニーのことはよくわからん。連中は再教育とかなんとか言ってたがね」
再教育。何年もコロニーで暮らしていて一度も聞いたこともない言葉だった。
それよりも気になることがあった。
「どうして誰も助けないんですか」
はあ、と男はため息をついた
「兄ちゃん、さては新入りだな。ここでの一番の決まりを教えてやる。コロニーには逆らうな、だ」
「......」
「あのロボットを見ろ。まともに戦って勝てるわけがねえ。この市場にはありとあらゆるものが並んでいるが、ただひとつ武器だけがねえ」
「どうしてですか」
「この市場はやつらに管理されてるのさ。自由に生きているように見えて、俺たちも結局はコロニーに縛られてるってわけだ」
語る男の顔は言葉とは裏腹に沈んでいる。
「市場の治安維持、金の管理、出店者の身元保証。俺たちだってコロニーの恩恵を受けている」
ある意味共犯者なんだぜ、と言って男はしけた顔をして人の輪を抜けていった。
まさに少女がロボットたちに連れていかれようとしている。
どうする。
助ける、という選択肢が頭によぎったことに僕は驚きを隠せなかった。
男は言っていただけではないか。絶対に勝てない。コロニーには逆らうな。
それさえ守れば僕はこの意外と悪くない暮らしを続けることはできる。
目の前のこの光景を受け入れることができるのなら。
気が付くと僕の体ははじけるように動き始めていた。
「三つ先の角を曲がったところに資材置き場がある。なにかあるとすればそこだ」
なぜか頭の中から聞いたことのない声がする。
僕の手には仕事の報酬を使って手に入れた串焼きが握られている。
一口食べたときの衝撃は口では表現できないほどだった。栄養は満点だが、味気なくぱさついた触感のアマランサスとジャガイモの炒め物はもう完全に
過去のものだった。
予想外だったのは体に溜まっている疲労が存外心地よいことだった。
コロニーの中で運動する用事といえば通学とスミコのお見舞いくらいなもので、これほどまでに激しい運動をしたことはなかった。
果たして一日耐えられるかと作業の後半くらいから思っていたのだが、終わってみればいっそ気持ちのいいくらいだった。
一日労働に励んで、それで得たお金で自分の好きなものを買う。何の目的もないシンプルな暮らしだ。
コロニーの人間たちはコロニーが人類を導くという理想のもとで日々どんな風に働いているのだろうか。
僕にはとてもではないがなじめそうになかった。
それくらい僕はここでの暮らしを気に入り始めていた。レンにコロニーを追い出されたのが今日のことだというのが信じられない。
「でも、今日はどこで寝ればいいのだろう」
おなかを満たし、多少のお金を得たところで次の問題はそれに尽きた。コロニーを追い出された僕にまさか家が用意されているわけもない。
「他の人はどうしているのか聞いておけばよかったな」
独り言ちてうろうろしていると、結構な人数の男たちが道の端や軒先で転がっている。めいめいに飯を食べたり、酒らしき飲み物を飲んだりしている。
なるほど。そうなるのか。ただ、日々清潔なベットで寝ていた身としては少々抵抗がある。
どうにかならないのかとあたりを見回しながら歩いていると、ひときわ人が集まっている一画があった。
人ごみを縫って前に出る。
そこにいたのはロボットたち。朝、レンとともに僕を追いかけてきた四足歩行型のやつ。複数匹で群れを作るようにして、2人の人間を囲んでいる。
僕と同じくらいの男の子と女の子。四足歩行のロボットたちが少女を地面に縫い付けるように抑えている。それを歯噛みして見ている少年。
「あれはなんですか」
僕はとなりにいた男に聞いた。
「ありゃコロニーのロボットよ」
「どうして女の子を捕まえているんですか」
「さてね。コロニーのことはよくわからん。連中は再教育とかなんとか言ってたがね」
再教育。何年もコロニーで暮らしていて一度も聞いたこともない言葉だった。
それよりも気になることがあった。
「どうして誰も助けないんですか」
はあ、と男はため息をついた
「兄ちゃん、さては新入りだな。ここでの一番の決まりを教えてやる。コロニーには逆らうな、だ」
「......」
「あのロボットを見ろ。まともに戦って勝てるわけがねえ。この市場にはありとあらゆるものが並んでいるが、ただひとつ武器だけがねえ」
「どうしてですか」
「この市場はやつらに管理されてるのさ。自由に生きているように見えて、俺たちも結局はコロニーに縛られてるってわけだ」
語る男の顔は言葉とは裏腹に沈んでいる。
「市場の治安維持、金の管理、出店者の身元保証。俺たちだってコロニーの恩恵を受けている」
ある意味共犯者なんだぜ、と言って男はしけた顔をして人の輪を抜けていった。
まさに少女がロボットたちに連れていかれようとしている。
どうする。
助ける、という選択肢が頭によぎったことに僕は驚きを隠せなかった。
男は言っていただけではないか。絶対に勝てない。コロニーには逆らうな。
それさえ守れば僕はこの意外と悪くない暮らしを続けることはできる。
目の前のこの光景を受け入れることができるのなら。
気が付くと僕の体ははじけるように動き始めていた。
「三つ先の角を曲がったところに資材置き場がある。なにかあるとすればそこだ」
なぜか頭の中から聞いたことのない声がする。
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