ジジイ、やってみた

amanojaak

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ジジイ、宇宙に行く

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廃れた商店街の少し外れの古いアパートに、あるジジイが住んでいた。

毎朝5時に起きて、窓を開けてラジオ体操をする。

襟ぐりがダルダルに伸びたタンクトップからは
年齢相応の鎖骨や胸骨がうっすら見えるが、もう見栄えを気にする年齢でもない。

インスタントコーヒーをすすりながら、
時々、ボロい老眼鏡を下げて空を見上げたり木がそよぐ様子を眺める事が日課だ。



いつも近所の小学生を見守り、軽く話すのも日課。
ある日、まだ小さな小学生に「これからやりたいことがあるんだ、じいちゃんはある?」と話しかけられ、
他の小学生が気まずさから、「やめとけよ」と小さい声で言い終わる前に
「わしは宇宙に行く」と言った。


別の子どもたちは笑った。

「源三じいちゃん、もう年じゃん!」
「冗談でしょ」

淡々と答える。

「日本の会社は年齢制限がある会社もある。だが、宇宙に年齢制限なんてものはない」

子供も大人も、本気とは受け取らなかった。

ある日、ニュースが流れた。

「民間宇宙旅行のテスト参加者を募集します」

テレビの前で固まった。
応募条件を見る。

健康であること

短期間の訓練に耐えられること


「まだいけるかもな・・・」

それからの3か月、ジジイは変わった。

毎朝ランニング。
腕立て。
スクワット。
公園の鉄棒でぶら下がり訓練。

近所の人はざわついた。

「最近あのジジイ、やばくない?」

時々、徘徊老人だと通報された。

数週間後、奇跡が起きた。

合格通知。

源三の応募理由はたった一行だった。

「死ぬ前に一度、地球を見たい。」

そして打ち上げの日。

巨大なロケットの前で、ジジイは震えていた。

みんな、ジジイが怖がっているか、
感動しているのだろうなと思った。

カウントダウンが始まる。

10…
9…
8…

窓の外を見た。

「母ちゃん、見てるか」

3…
2…
1…

ゴオオオオオオ!!

ロケットは空へ。

数分後。

無重力の宇宙。

源三の体がふわりと浮く。

窓の外には、青い星があった。

地球。

それを見た瞬間、源三は涙を流した。

「なんだ…こんなに綺麗だったのか」

静かな宇宙の中で、声が震える。

「人生、最後まで諦めちゃいけねえな」

それから、言葉を発さずに帰還した。

記者が「宇宙はどうでしたか?」と聞こうと駆け寄ってくるが
言い終わるのを待たずに、彼は全速力で走りながら言った。

「トイレに行かせてくれー!」
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