のんこ

緑ノ革

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コハナ

コハナ2

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 撮影はとてもスムーズに進んでいた。
 あれから機材トラブルもおきて無いし、リンゴちゃんとも楽しく喋れてると思う。

 リンゴちゃんは少し気が弱いのか、自分から話を始めようとはしないけど、こっちから喋りかけるとちゃんと会話をしてくれる。

 自分から喋れないなんて、よくミーチューバーやれてるなと思う。
 でも、リンゴちゃんの出してる動画では、リンゴちゃんは普通に喋れてるのよね。

 もしかして、緊張してるのかな?

 年上なのに、仕方ないなぁ。
 私がしっかり進めるしかない。

 きっと、こういう所で私とリンゴちゃんとの差はできてるのね。
 チャネル登録者数では私の方が上だもん。

 それからの撮影では私が話題を出したり広げたりした。
 リンゴちゃんは変わらず、話題を振ってはくれない。
 まだ撮影時間はあるから、リンゴちゃんが自分から話しかけてくれる事を祈るわ。

 でも、何だろう。
 リンゴちゃんは時折カメラの向こう側を見る。
 誰もいない場所を気にしてるような感じ。




 そして、撮影が進んでクッキーをオーブンに入れ終わったところで。

「質問コーナー!」

 と、私は元気な声を上げる。
 本当は質問コーナーなんて予定に無かったんだけど、ここまでの間にあまり盛り上がりが無かった気がしたから。

「え? 質問コーナーですか? 聞いてないんですけど」

 リンゴちゃんがおろおろしてる。

「リンゴちゃんのことを知りたいから、私が勝手に始めたの」

 私が言うと、リンゴちゃんは「分かりました」と質問コーナーを受け入れた。
 リンゴちゃんもきっと思ったのよね、盛り上がりが足りないって。

「質問は三つ、まずひとつめの質問は……ズバリ! 好きな人はいますか?」

 私が聞くと、リンゴちゃんはちょっと困ったように笑って。

「今はいません。 あ、でも、小学一年の時は、担任の先生が好きでしたね、学校内でも格好いいって評判の先生だったんですよ」

「キャー! 学校の先生かぁ! いいよね! よっぽど格好いい先生だったんだろうなぁ」

 私はリアクションをやや大げさにして返す。
 このくらいしないと、視聴者さんに興奮が伝わらないと思う。
 なのにリンゴちゃんたら、少し困ったような顔で笑ってる。

 困ってるのは私だよ。

「次の質問! 友達は多い方? 少ない方? ちなみに私は友達は多い方で、親友と呼べる友達がいるよ!」

 笑顔で聞くと、リンゴちゃんの表情が曇った。

 あれ?
 もしかして、私、悪いこと聞いちゃった?

「あ、もし、秘密なら、こ──」

「友達は少ないです、でも、最近親友と呼べるような友達ができました」

 リンゴちゃんは『答えなくてもいいよ』と言おうとした私の言葉に被せるように、返してきた。
 それで、笑顔を見せる。

 そのリンゴちゃんの様子に、私はちょっとムッとした。
 親友がいるなら、さらっと返してよ、私が嫌なことを聞いたみたいじゃない。

 私は笑顔を作る。

「親友はいいよね、相談したり楽しい話をしたりして、遊んでるとあっという間に時間が過ぎちゃうの」

 笑いながら私が言うと、リンゴちゃんは頷く。

「一緒にいると楽しいですよね、親友はのんこさんて子なんですけど、実は今日も一緒にここに来てるんですよ」

 そう言われ、私は「え? のんこさん? どの人?」と室内を見回す。
 撮影するのに関係者以外を連れてくるとか、ありえない。
 しかも撮影してるのに親友の名前を出しちゃうとか、配信者として意識低すぎ。

 イラっとしたけど、表情には出さないようにする。

「いますよ、そこに」

 そう言うと、リンゴちゃんはカメラの向こう側に視線を向けた。

 んん?
 待って?
 そこには誰もいないよ?

「えっと……あの、リンゴちゃん? 私には見えないんだけど……」

 そう聞くと、リンゴちゃんは目を丸くして、両手を口に当てる。

「あ……ごめんなさい、さっきのは忘れてください、すみませんが、二つ目の質問、やり直させてください」

 そう言ったリンゴちゃんの顔は、とても悲しげだった。
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