ラビリンス~悪意の迷宮~

緑ノ革

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気配

気配2

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 どれだけ走ったかはわからない。
 ただ、ひたすら、自分に迫ってくる悪意から逃れようと、必死に足を前へと進めていく。

 息が上がり、顔には汗が滲み、視界がぶれる。
 ずっと家に引きこもっていた空良の、少ない体力は尽きてしまいそうだった。
 走り続けていたが、ついに足がもつれて、転んでしまう。

「うぅっ」

 うめき声を漏らして、空良は体を起こす。
 ぜぇぜぇと、荒い呼吸をしながら、空良は四つん這いで壁に近付いた。
 壁に背中をあずけ、張り裂けそうなほどに鳴る心臓の音を聞く。

「さ、さっき、のは、何だッ、たんだ」

 思わず気持ちを口に出し、空良は服の袖で額を拭う。
 汗が吹き出して止まらなかった。

(こんな道の途中にいたら、危ないかも知れない……何処かの部屋で身を隠して、少し休もう)

 そう思った空良は、壁に手を当てて、上がる呼吸のままゆっくり立ち上がる。
 足がガクガクとしたが、何とか壁に手をつきながら歩き出した。

 少し歩くと、直ぐに部屋が見える。
 その部屋の入り口にはドアがついていて、空良はそのドアにじりじりと近付いた。

(ここにはドアがある……今までの部屋にはドアらしいドアは無かったのに)

 不思議に思いつつ、空良はそっとドアノブに触れ、捻る。
 するとガチャリと音を立てて、ドアは開いた。

 空良はごくりと喉を鳴らし、部屋の中へと進む。
 部屋はまるで子供部屋のようになっていて、シンプルなブルーの掛け布団が乗せられたベッドや少し汚れた勉強机がある。
 バスケットボールの選手が写るポスターが張られた壁や、床に置かれた漫画などを見る限り、この部屋の主は男の子なのだろうと予想ができた。

 しかし、その部屋には、子供の部屋には本来存在するべきでは無いものもある。

「あれは……」

 空良の視線の先にあったのは、最初の部屋にあった台座と同じものだった。
 空良が近付くと、台座の上にふわりと光が現れ、その中心にひょっこりとシトリーが現れる。

「やぁ、空良くん、まだ生きているみたいだね」

 シトリーはそう言って、ふふ、と笑った。

「シトリー」

 空良は表情を苦々しく歪め、シトリーを見つめる。
 このシトリーという存在は自分の味方なのか、敵なのか、判断ができなくて、空良は複雑な気持ちを抱いていた。

「まぁ、まだ始まったばかりだからね、そう簡単に死んでもらったら困っちゃうよ」

 シトリーは言葉に続けて耳障りな高い笑い声を上げる。
 空良は眉間にシワを寄せて、台座に手を置き、シトリーの事を見つめた。

「シトリー、俺はどうすればいいんだ? どうしたら家に帰れる?」

 すがるように空良が聞くと、シトリーはふわふわと動く。

「最初に言ったハズだよ、生きてこの迷宮を出れば、元の世界に戻れるって」

 そう返され、空良は唇を噛む。
 確かにシトリーは最初に会った時にそう言っていた。
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