ラビリンス~悪意の迷宮~

緑ノ革

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家1

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 涙を拭いながら、空良はこの部屋で唯一の扉に向かう。
 出口がこのひとつである以上、来た道を戻らなければならない。

(確か、逃げていた時に、扉を見かけたな)

 桜に助けられて逃げたあの時、パニックになっていた空良は、途中の扉に入る余裕が無くて、通り過ぎてしまっていた。
 それを思い出して空良はそっと扉を開ける。

 長く続く通路を見て、空良は一度頷き、手を握りしめた。

 そして、緊張しながら歩き出す。
 緩やかにカーブしている通路を早足で進み、扉を探した。

 歩き出して一分もかからない程度進むと、前方に扉を見つけ、空良は駆け足になる。
 扉は真っ青に塗られていて、やけに目立っているように感じた。

 この扉に入れ。

 そう訴えかけて来るような、そんなイメージを脳に主張してくる扉を開けていいものかと、空良は少し迷ったが、逃げていた時に見かけた扉はここだけだった。

(もっと戻るべきか? でも、一応この扉の先も確認した方がいい……よな?)

 空良はそう考え、扉を開く事を決意し、強く頷く。
 そしてノブの無い扉に手をあて、強く押した。

 少し重たい扉が開き、その先には薄暗い通路が続いている。

 決してまるで見えないというほどの暗さでは無かったが、遠くは暗くて確認できない。
 しかし、道は続いている。

(……進んで、みるか)

 不安ではあったが、空良は薄暗い通路を歩き始めた。
 さっきまでの通路とは、床と壁の質が違うようで、足音が響き、不気味に反響する。

 高い位置に空良の手のひら程度しかない、小さな窓が点々とあり、そこから入る光だけが通路を照らす。

 自身の足音以外に、音がないかと警戒しながら歩いていると、正面にまた、真っ青な扉が見えた。
 薄暗い中でもハッキリと目立つその扉に近付き、扉を開ける。
 すると、扉の先には下りの階段が続いていた。

「これって……下の階に繋がっている階段か?」

 言葉をこぼし、空良は薄暗い階段を駆け降りる。
 階段をくだりきると、そこには茶色をした木製の扉があった。

 ドアノブがあり、今まで見てきた扉とは違う雰囲気がある。
 この迷宮にある扉の殆んどは、デザインがどこか非現実的な物が多く、まるでファンタジーな漫画やゲームで出てきそうな物だった。

 しかし、今、目の前にある扉は、現代の日本でもよく見るような、リアリティのあるデザインになっている。

 空良は、その扉を見て、背筋が凍り付くような感覚に襲われた。

(……この、扉って……うちの扉とそっくりじゃないか?)

 自分の勘違いか、ただ似ているだけなのか。
 そう考えながら扉を見ていると、扉が『がちゃり』と音を立て、ゆっくり開く。

 空良の心臓がドクドクと音を上げて、手が震える。

 扉の向こうには、見慣れた玄関があり、玄関から見えるリビングへの扉と、二階に上がる階段があった。

「ここは……俺の家?」

 生まれた時からずっと見ている自分の家と、全く同じ光景に、空良は狼狽うろたえ、額に気持ちの悪い汗が浮かんだ。
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