ラビリンス~悪意の迷宮~

緑ノ革

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また会いましょう

また会いましょう1

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 元の迷宮に戻ったことに、空良は安心しながら壁から体を離す。
 自らの力で立った瞬間、めまいを感じ、空良は両手を壁につけて目を閉じた。

 体力の限界を超えて動き続けているせいだろう。
 既にこうして立っているだけでも苦痛だった。

(どこかで、休まないと……今、化け物に追われたら終わりだ……もう、走れない)

 そう思いながら、ゆっくりと目を開ける。
 そして壁に片手をつけながら、空良は廊下を歩き始めた。
 汚れひとつ無い廊下は、不気味だというのに、綺麗だと、空良はぼんやりと思う。

 歩き出して暫くすると、扉がひとつだけ有るのが見えた。
 ゆっくりとした足どりで扉の前に立つと、シトリーのいる場所であることを祈りながら、扉を開ける。

 その部屋は丸い形をした部屋で、歪な形の窓が三つあった。
 部屋の壁には画用紙が何枚か貼ってあり、それぞれに小さな子どもが描いたような絵が描かれている。

 そして、部屋の中心には、空良が今、一番求めていた、台座があった。

 空良は入り口の扉を閉めて、台座の方へと向かう。
 足がもつれそうになりながら、台座の前に立つと、台座に手を置いて口を開いた。

「シトリー、いるんだよな?」

 早く、誰かに会いたかった空良は、穏やかな口調でシトリーの名を呼ぶ。
 この迷宮で一人きりである事が辛くて、頭がおかしくなりそうで、たとえ相手が人間ではないとしても、意思の疎通ができる存在に早く会いたいと思っていた。

 空良の声が空間にのまれていくと、台座の上にふわりと光の玉が現れる。
 光の玉の中から、シトリーが翼足をひらひらとさせながら現れ、空良を見上げた。

「ひどい顔だね、空良くん」

 シトリーはそう言うと、その場でくるんと宙返りをする。
 そんなシトリーを見た空良の目から、大粒の涙が溢れ出た。

「……大丈夫?」

 さすがにシトリーも驚いたのか、泣き出した空良を心配するように声を掛ける。

「だ、大丈夫……なわけ、ないだろ」

 しゃくりあげながら返した空良を見上げ、シトリーは体をゆっくり揺らす。

「喋れるなら大丈夫さ、さて、出口へのヒントをあげようか」

 さらっと空良の様子を流し、シトリーが言った。
 しかし、シトリーが次の言葉を続けようとした時、空良はシトリーの事を両手で水をすくうように持ち上げる。
 驚いたシトリーは、空良の両手の中で右往左往した。

「な、何? ボクをどうにかしても、迷宮からは出られないよ?」

 慌てている様子のシトリーに、空良は顔を近付けて、目をぎゅっと閉じる。

「ごめんっ、シトリー、少しだけ、こうさせて、欲しいんだ」

 泣きながら空良が言うと、シトリーは動きを止めて、鼻水をすすり上げる空良を見た。

「……体温も何も無いボクじゃあ、安心できないんじゃないの?」

 空良が生き物の温もりを求めているのだろうと考えたシトリーが問い掛ける。
 すると空良は首を振った。

「こ、こで、信頼できるのは、桜さん、と、シトリーだけなんだ」

 そう返されたシトリーは、一瞬跳ねるような動きをしたが、また普通にふわふわと浮く。
 そして涙が止まらずにいる空良を見つめた。

 大粒の涙で頬を濡らす空良をしばし見ていたシトリーだったが、そっと空良に近付いて、空良の額にぴたりとくっつく。

 くすぐったいくらい優しく触れたシトリーの体の冷たさに、空良は目を開ける。
 顔を持ち上げて、宙に浮くシトリーを見た。

「シトリー」

 空良が呟くと、シトリーはさっと空良から離れて元の空良の両手の中へと戻る。

「さぁ、次のヒントを教えようか」

 何も無かったかのように、シトリーは言った。
 空良はそっとシトリーから手をはなして、服の袖で顔を拭い、頷く。

「ありがとう、シトリー」

 空良に言われ、シトリーは少しだけ早く、翼足を動かした。
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