28 / 40
また会いましょう
また会いましょう1
しおりを挟む
元の迷宮に戻ったことに、空良は安心しながら壁から体を離す。
自らの力で立った瞬間、めまいを感じ、空良は両手を壁につけて目を閉じた。
体力の限界を超えて動き続けているせいだろう。
既にこうして立っているだけでも苦痛だった。
(どこかで、休まないと……今、化け物に追われたら終わりだ……もう、走れない)
そう思いながら、ゆっくりと目を開ける。
そして壁に片手をつけながら、空良は廊下を歩き始めた。
汚れひとつ無い廊下は、不気味だというのに、綺麗だと、空良はぼんやりと思う。
歩き出して暫くすると、扉がひとつだけ有るのが見えた。
ゆっくりとした足どりで扉の前に立つと、シトリーのいる場所であることを祈りながら、扉を開ける。
その部屋は丸い形をした部屋で、歪な形の窓が三つあった。
部屋の壁には画用紙が何枚か貼ってあり、それぞれに小さな子どもが描いたような絵が描かれている。
そして、部屋の中心には、空良が今、一番求めていた、台座があった。
空良は入り口の扉を閉めて、台座の方へと向かう。
足がもつれそうになりながら、台座の前に立つと、台座に手を置いて口を開いた。
「シトリー、いるんだよな?」
早く、誰かに会いたかった空良は、穏やかな口調でシトリーの名を呼ぶ。
この迷宮で一人きりである事が辛くて、頭がおかしくなりそうで、たとえ相手が人間ではないとしても、意思の疎通ができる存在に早く会いたいと思っていた。
空良の声が空間にのまれていくと、台座の上にふわりと光の玉が現れる。
光の玉の中から、シトリーが翼足をひらひらとさせながら現れ、空良を見上げた。
「ひどい顔だね、空良くん」
シトリーはそう言うと、その場でくるんと宙返りをする。
そんなシトリーを見た空良の目から、大粒の涙が溢れ出た。
「……大丈夫?」
さすがにシトリーも驚いたのか、泣き出した空良を心配するように声を掛ける。
「だ、大丈夫……なわけ、ないだろ」
しゃくりあげながら返した空良を見上げ、シトリーは体をゆっくり揺らす。
「喋れるなら大丈夫さ、さて、出口へのヒントをあげようか」
さらっと空良の様子を流し、シトリーが言った。
しかし、シトリーが次の言葉を続けようとした時、空良はシトリーの事を両手で水をすくうように持ち上げる。
驚いたシトリーは、空良の両手の中で右往左往した。
「な、何? ボクをどうにかしても、迷宮からは出られないよ?」
慌てている様子のシトリーに、空良は顔を近付けて、目をぎゅっと閉じる。
「ごめんっ、シトリー、少しだけ、こうさせて、欲しいんだ」
泣きながら空良が言うと、シトリーは動きを止めて、鼻水をすすり上げる空良を見た。
「……体温も何も無いボクじゃあ、安心できないんじゃないの?」
空良が生き物の温もりを求めているのだろうと考えたシトリーが問い掛ける。
すると空良は首を振った。
「こ、こで、信頼できるのは、桜さん、と、シトリーだけなんだ」
そう返されたシトリーは、一瞬跳ねるような動きをしたが、また普通にふわふわと浮く。
そして涙が止まらずにいる空良を見つめた。
大粒の涙で頬を濡らす空良をしばし見ていたシトリーだったが、そっと空良に近付いて、空良の額にぴたりとくっつく。
くすぐったいくらい優しく触れたシトリーの体の冷たさに、空良は目を開ける。
顔を持ち上げて、宙に浮くシトリーを見た。
「シトリー」
空良が呟くと、シトリーはさっと空良から離れて元の空良の両手の中へと戻る。
「さぁ、次のヒントを教えようか」
何も無かったかのように、シトリーは言った。
空良はそっとシトリーから手をはなして、服の袖で顔を拭い、頷く。
「ありがとう、シトリー」
空良に言われ、シトリーは少しだけ早く、翼足を動かした。
自らの力で立った瞬間、めまいを感じ、空良は両手を壁につけて目を閉じた。
体力の限界を超えて動き続けているせいだろう。
既にこうして立っているだけでも苦痛だった。
(どこかで、休まないと……今、化け物に追われたら終わりだ……もう、走れない)
そう思いながら、ゆっくりと目を開ける。
そして壁に片手をつけながら、空良は廊下を歩き始めた。
汚れひとつ無い廊下は、不気味だというのに、綺麗だと、空良はぼんやりと思う。
歩き出して暫くすると、扉がひとつだけ有るのが見えた。
ゆっくりとした足どりで扉の前に立つと、シトリーのいる場所であることを祈りながら、扉を開ける。
その部屋は丸い形をした部屋で、歪な形の窓が三つあった。
部屋の壁には画用紙が何枚か貼ってあり、それぞれに小さな子どもが描いたような絵が描かれている。
そして、部屋の中心には、空良が今、一番求めていた、台座があった。
空良は入り口の扉を閉めて、台座の方へと向かう。
足がもつれそうになりながら、台座の前に立つと、台座に手を置いて口を開いた。
「シトリー、いるんだよな?」
早く、誰かに会いたかった空良は、穏やかな口調でシトリーの名を呼ぶ。
この迷宮で一人きりである事が辛くて、頭がおかしくなりそうで、たとえ相手が人間ではないとしても、意思の疎通ができる存在に早く会いたいと思っていた。
空良の声が空間にのまれていくと、台座の上にふわりと光の玉が現れる。
光の玉の中から、シトリーが翼足をひらひらとさせながら現れ、空良を見上げた。
「ひどい顔だね、空良くん」
シトリーはそう言うと、その場でくるんと宙返りをする。
そんなシトリーを見た空良の目から、大粒の涙が溢れ出た。
「……大丈夫?」
さすがにシトリーも驚いたのか、泣き出した空良を心配するように声を掛ける。
「だ、大丈夫……なわけ、ないだろ」
しゃくりあげながら返した空良を見上げ、シトリーは体をゆっくり揺らす。
「喋れるなら大丈夫さ、さて、出口へのヒントをあげようか」
さらっと空良の様子を流し、シトリーが言った。
しかし、シトリーが次の言葉を続けようとした時、空良はシトリーの事を両手で水をすくうように持ち上げる。
驚いたシトリーは、空良の両手の中で右往左往した。
「な、何? ボクをどうにかしても、迷宮からは出られないよ?」
慌てている様子のシトリーに、空良は顔を近付けて、目をぎゅっと閉じる。
「ごめんっ、シトリー、少しだけ、こうさせて、欲しいんだ」
泣きながら空良が言うと、シトリーは動きを止めて、鼻水をすすり上げる空良を見た。
「……体温も何も無いボクじゃあ、安心できないんじゃないの?」
空良が生き物の温もりを求めているのだろうと考えたシトリーが問い掛ける。
すると空良は首を振った。
「こ、こで、信頼できるのは、桜さん、と、シトリーだけなんだ」
そう返されたシトリーは、一瞬跳ねるような動きをしたが、また普通にふわふわと浮く。
そして涙が止まらずにいる空良を見つめた。
大粒の涙で頬を濡らす空良をしばし見ていたシトリーだったが、そっと空良に近付いて、空良の額にぴたりとくっつく。
くすぐったいくらい優しく触れたシトリーの体の冷たさに、空良は目を開ける。
顔を持ち上げて、宙に浮くシトリーを見た。
「シトリー」
空良が呟くと、シトリーはさっと空良から離れて元の空良の両手の中へと戻る。
「さぁ、次のヒントを教えようか」
何も無かったかのように、シトリーは言った。
空良はそっとシトリーから手をはなして、服の袖で顔を拭い、頷く。
「ありがとう、シトリー」
空良に言われ、シトリーは少しだけ早く、翼足を動かした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる