浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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優しくされると惚れちゃうの

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僕は彼女のことを親しみを込めて、黒舌(くろじた)さんと呼んでいる。
「おや、Tさん、こんにちは」
「こんにちは、また来ちゃいました」
「それはいいけどもさ、君はもうちょっと同じ人間と親しくした方がいいんじゃないかな?」
黒舌さんは人間ではない、竜と蛇が半分ぐらいの竜蛇さんである。
「…みかん食べる?」
「あっ、いただきます」
本当の姿はもっと大きいのだが、こたつを楽しむために黒舌さんは、ちょうどいいサイズになっている。
(今、ちょっと体が当たったな)
「こめんよ」
謝罪すると、僕もこたつを楽しめるように、胴の一部がこたつから出たので。
「じゃあ、代わりに」
毛布をかける。
「ずいぶんと準備がいいものだね」
「必要になると思ったんですよね」
そういってスーパーで買い物したものをこたつの上に乗せる。
「ゼリーはあるかい?」
「はいはい、社畜ゼリーですね」
もちろん社畜ゼリーは本当の名前ではない、ただすんごい疲れているときは、このゼリーじゃないと乗り越えられない、社畜ご愛顧の品である。
「味さえよければ定期的に食べたいんだけともね」
飲みやすくはしているが、薬の味がほのかに
残るので、少し苦手らしい。
人間にとっても疲労回復の効果があるこのゼリーは、人ではない黒舌さんにとっては鱗艶が変わってくるらしく、苦手だけども、頑張って食べている。
「黒舌さんはみかん食べないんですか?」
「ゼリーが効いてきてからね」
こうして体力を確保するのも意味があった。
「六階のあいつ、またやりやがったんだよ」
この六階のあいつというのは、僕の住んでいるまんしにいる怪奇現象的な存在。
「元は人間みたいだけど、自分は特別だと思っているみたいだよ」
そんな厄介なやつのせいで、うちのマンションは部屋の空きが多いのだ。
「人間に悪さをしているとわかると、すぐにピンポンしているんだけども、あいつは出ないからな」
この竜蛇ボディでマンション内を移動して、その六階まで行く姿は、僕にとっては微笑ましいが。
「他の人に見られたりはしないんですか?」
「事を起こした直後だと、住人さんは不安がって外出控えるし、お金のある人はさっさと引っ越しているよ」
「僕は引っ越しは出来るだけのお金はありますけども、引っ越そうとは思わないな」
「そりゃあ、君に何かしたら、私がインターホン鳴らすだけじゃ済まないと思ってる」
「滅びの歌とかはもう歌ってますけども、それ以上の事をするんですか?」
「滅びの歌はどうしても人間も巻き込むから時間をかけて歌わなきゃいけない、そうでないならば今すぐでもなんだけども、私はそうじゃないから」
「優しいんですね」
「そうかな?人間の基準はよくわからん」
こういう時、黒舌さんの胴を丁寧に撫でてあげたくなる。
撫でているうちに、いい雰囲気になっちゃったりして…
「ふっふっふっ」
「なんだよ、いきなり…」
「いえいえ、こう…五分後に何が起こるかわからないじゃないですか」
「君は今、確かにそうだね」
「えっ?」
「我々と関わると、そうなりやすいので」
「そういうものなんですか?」
「そういうものじゃないかな…たまに積極的に関わりたいという層はいるが」
「どういう?それこそオカルト好きとか?」
「オカルト好きはいるし、なんか嫁さん目的もいる」
「よ、嫁さん目的って多いんですかね?」
「昔からはいたんじゃないかな」
「ふ~ん…黒舌さんは人間の男性はどう思ってますか?」
「そこまで接点がないから」
「そうは言わずに」
「君のことは好きだよ」
「それはラブじゃないですよね」
「ラブじゃないね」
「ラブなら良かったのに」
「やっぱり君はお見合いなんかした方がいいんじゃないかな?一席設けようか?」
「大丈夫です!」
「自信はもっていうようだけども、寂しくなってからじゃあ遅いんじゃないかな、ほら、人間としてはどうしてもね」
「そこは何とかなりますよ」
「ならないものだよ。私は君の体をたまたま若い状態に変えてはいるけども、それを解けば元通りだ」
「解いちゃいますか?」
「いいや、解かないよ。医学が代わりになってくれるならばまだしもね、せっかく人として生まれたのだから、精一杯生きてほしいものだよ」
スリスリ
「なんで触ってるの?」
「触り心地って気になりません」
「鱗肌だしな、触ってて楽しいものではないだろう」
「この絶妙なヒンヤリ」
「冬に触っても寒いだけでしょ」
「冬だからいいんですよ、こたつの中に足を入れてから、黒舌さんの胴を撫でる」
(猫好きなのかな)
モフモフしたくなるあれ、そこからの猫吸いならぬ鱗吸い。
「待ちたまえ、それはやりすぎだ!」
「そうですかね、もっと仲良くなってもいいんじゃありませんか?」
「ダメだよ」
そういって黒舌は、人間の女性に化けてしまう。
(こっちも可愛い)
たぶん黒舌はこれならば、モフモフも鱗を吸われることはないと思ってるのだろう。
「神社には行ってきた?」
「そういうのには寛大なんですね」
「日本に住んでるし、この辺が開発される前は、寺の鐘の音なんかもよく聞こえてたな」
「黒舌さんのその女性のお姿は誰かモデルはいるんですか?」
「いや、いないよ。ここからまた化けると違うけど」
そういって俺に化けた。
「よく化けれているだろう?」
「鏡を見ているみたいだ」
そういったので、しばらくこっちの真似をしてくれて、鏡のように動いてくれた。
「面白いな」
「このぐらいで楽しめるなら、人生の上級者さ」
「そうですかね」
「そうだよ、それでいいんじゃないか?そのまま人生に従って、人ともに生きていくというので」
「それも良かったんですがね」
「おや、何かきっかけが?」
「このままでいいのかなってありませんかね?自分の人生っていうのはなんなんだろうって、何も意味がないのも、あまりわからないまま生きても…」
「あなたは難しいことを考えるね」
「人からもよく言われます」
「そうか…それに関しては私は人ではないから答えるのは難しいよ、生きる時間、長さが違うから」
「何百年とか生きるんですか?」
「生きるみたいだよ、まだそこまで生きてないからわからない」
「えっ?」
「生まれてからの時間経過でいうと、あなたと私は同じぐらい、一年も差はないと思うよ」
「それは奇遇ですね。同じ年の友人たちは、結婚して、家庭も持ったりしているので」
「そうか、そうだよな、人間だったらさ」
「あなたは家庭を持とうとは思わないんですか?」
「私が?」
「そうです、そうです、あなたがです!」
「私か…引きこもってばっかりだし、家事もそんなにできないしね」
「この部屋にはハウスダストの気配がないように思いますが?」
アレルギーではないがわかる方。
「あぁ、それは、君が来ると思ったから、その前にって思って掃除したのさ」
まずは高いところから、埃を落としていき、飛び散らないようにドライシートや粘着クリーナーを往復させてから、掃除機で仕上げます。
「一部屋ぐらいならば簡単さ」
「嫁さんになってください」
「掃除ひとつで、嫁を選ぶな」
「だって」
「だってじゃありません」
「それとも、誰かいい人いるんですか?」
「いないよ」
「本当ですか?」
「本当だよ」
「そんなことを言っておいて、イケメンと付き合っていたらすんごい嫌なんですけども」
「この部屋に来るのも君ぐらいだしな」
お布団の中ぐらい快適な暗闇に引きこもっているのが好きなのだが、さすがに人間の知り合いにはそこは不味いと思ってか、わざわざ部屋を作って、その部屋の鍵として、黒舌の鱗を渡してある。
「こんなに僕に優しいのは、気があるのかなって」
とうとう言っちゃった!
「あなたは優しくされると惚れちゃうのか?」
「そこをズバッと言われると弱い」
「どれだけ人生で、扱いがひどいんだよ」
「そりゃあ、イケメンに生まれてないし」
「じゃあ、イケメンになるといいよ」
そこでイケメンに変えられるが。
「お気持ちは嬉しいのですが、元のままでいいです」
「どうしてさ」
「そういうので判断しない子がいいからです」
「ああなるほど、姿形でそう見られるのは辛いのね」
「もしもそこから年齢を重ねたらどうなるんですか?別れることになるんですか?」
「あ~そうだね、その観点が私には抜け落ちていた、すまない」
そのまま元の姿、正確には黒舌さんなよって若い頃の姿に変えられている。
「あなたの容姿は、そこまで悪くはないと思う」
「でもね、容姿がいい人間と比べられちゃうとね」
そこで過去のエピソードを紹介すると。
「ではその人間をこの鏡で見てやろう」
「そんなこともできるんですか?」
「まあね、おっ、でも君のいう同級生は世間一般からみると、何をやっても上手く行かない
それに当たるようだよ」
「えっ?」
「確かに顔がよくてモテていたが、そのせいで遊びすぎた、自分はイケメンだから許されるという考え方のもとで、あ~これは酷いな、恨まれてる、まだ努力をしてくれていたら、回避できるかもしれないが、おおっと噂をすれば影というやつだ」
誰?その女?
黒舌さんはそこから先は見せてくれなかった。
「ちょっとこれはな…」
「助けた方がいいのでは?」
「匿名のなんとやらはもうした、ええっと、被害者と加害者のスマホを三桁のコール先に繋げてある」
「ああ、それならば」
なので、繋がったときの音声。
「はい、こちらは…」
の声で、我にかえる。
「 まっ、これからもなんであの時に、緊急連絡通話状態になっているのかわけは、わからない顔はされるかもしれないが、そこは優しさだと思ってほしいね」
「でも恋愛、男女間では誠実な方がいいかも」
「それはそうじゃない?他に好きな相手ができたのならば、別れてからいけばいいのになって」
「好きなときに別れることができないこともあるんですよ」
「何?あなたは経験者なの?」
「全くもって大事にされない恋愛はしたことあります」
「もっといい恋をした方がいいとは思うよ」
「今、してるので大丈夫!」
「恋ね…そんなにいいものなのかね」
そういってみかんを一つ渡してきた。
「そりゃあもちろん」
そのみかんを僕は受け取った。
「何気ないことでもたのしくなるものです」
「それは素晴らしいね」
「どういうタイプが好きなんですか?」
「えっ?私?私は…あんまりそういうのかんがえたことはないかもしれないね。イケメンとか見映えよりは一緒にいて楽しいかとな、話が弾む方が大事なんじゃないか」
「僕とは話は弾んでますかね」
「弾んでいると思うよ、なんだい?自信はないとか」
「あまりないですね、面白い話ができる人間ではありませんから」
頭をかきながらいう。
「そんなに困った顔しないで、あなたの良いところを見てくれる相手は、いると思うから」
そこで優しく微笑んでこちらを見てくる。
「今度、どっか行きません?」
「今度?」
「水族館とか」
「水族館?行ったことはないな、あれだろう?お魚がたくさんいる、動画では見たことはあるよ」
「じゃあ、決まりですね」
「行くなら、人間の姿でいかなきゃ」
「来月の9日か11日とかはどうですかね?」
9日は日曜日、11日は祝日である。
バレンタインの前の休みをしっかりと抑えに来てやがるぞ!
「そういう時は混んだりしない?かな?」
「それでしたら、11日の次の金曜日ならどうですか?」
「次?平日だよ」
「有給取ります」
 11日の次の金曜日はバレンタインデーである。
「有給まで取らせちゃって悪いな」
「いいじゃありませんか、どうか僕に案内させてくださいよ」
「わかった、それじゃあ、お願いしようかな。…なんで喜んでるの?」
「いや、嬉しくて」
「そうか水族館好きなんだね」
確かに大人一人だとちょっと行きにくいかなんて思ってるが、そこは男心がわかってない。
「絶対ですよ、絶対、途中でやっぱりやめるとかは無しですよ」
「そういうことはしないよ…されたことあるの?」
「はっはっはっ」
「大丈夫だって、私はあなたにはそういうことはしない」
「本当ですか?」
「本当だよ」
「約束してくれますか?」
「いいよ」
「その人間同士には小指同士で約束する」
「あっ、小さい子がやってるようなやつだね、いいよ、それで」
そこで手を差しのべてくるものだから、ドキドキしながら、自分の手も伸ばして。
「緊張してる?」
そらならと黒舌さんの方から手を、指を絡ませてくれて。
「じゃあ、約束ね」
「…はい、約束します」
ぽ~となっちゃってた僕に、何もわかってない黒舌さんの顔がとても印象的で。
「あれ?もう離してほしいんだけども」
「まだです、こういうときはなかなか離さないものなんです」
「へぇ~そういうものなんだ」
そんなわけはないが適当な理由で指を結んでた。
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