浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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男子の胃袋はそうはいかないんですよ

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本日の旦那様の予定は、「のっそり役人」との屋敷での昼食である。
「お待たせいたしました」
メイドが二人分の唐揚げ定食を運んでくる。
「おぉ、待ってました」
のっそり役人は嬉しそうだ。
「お預けをしてはダメでしょうから、まずは食べてからにしましょう」
「そうしてください、あぁ、なんて旨そうなんだ」
唐揚げにキャベツの千切り、ご飯に根菜の汁ものという定食スタイルである。
大きな口で唐揚げにかぶりつく、最高だ!

「ふぅ、大変美味しかったです」
「いえいえ、お粗末様でした」
食事が終わるとお茶の準備が始まる。
「この年になると、食事でも見栄の張り合いが始まるので大変なのですよ」
これが「のっそり役人」が領主の屋敷で食事をする理由なのである。
ある年齢になると体が油ものを受け付けなくなるのだが、いつまでも若々しく見られたい、丈夫だと見られたい世界では、無理に食べるようになるという。
「それは…」
領主も薄々は気づいている。
「死病を抱えていても、自分はそうではないと見せたい、どうしようもない世界に我々はいるのですよ」
血色がよく見えるなど、メイクの世界はむしろ男性の方が執着するらしい。
「奥方様が愛するご領主のために考えたレシピというのは、まことに素晴らしい、できれば秘匿することを勧めますね。これはその見栄っ張りの世界には強烈な一撃になる」
「うちの奥さんをその世界に引きずり込まないのであれば、約束を結んでもいいかな」
「怖いな、領主殿が私の敵になるなんて」
運ばれた無糖のお茶、熱いお茶に口をつける。
「話を少し変えますかね、唐揚げを作ると、うちの屋敷のみんなの昼はカレーになるんですよ」
「えっ?なんでですか?」
それは調理法の関係である。
肉を柔らかくするために、下処理を行った状態で調味料に漬け込む。
「これで柔らかくなったお肉を、特製のざっくり衣につけて揚げると唐揚げに、その漬け込んだ液のまま、トマトで煮て、スパイスで味付けするとカレーになるんですよ」
「それはおもしろいな、これも奥方様の考案で?」
「なんか本人、肉を柔らかくするにはどうすればいいか、昔散々家庭の都合で考えたらしいんですよ」
ただそうなると、漬けた後のヨーグルトはどうすれば…と色々と探した結果、カレーにすればいいという結論になった。
「まんま食べれるじゃん!って言ってました」
「はっはっはっ、いいな、そのカレーを私も食べてみたいですね」
というと、味見という形で、小皿に持ってきてもらえた。
「匂いだけで旨いってわかる」
「ですよね」
口をつけると。
「これは困った、唐揚げもいいがカレーも惜しくなってきた」
「ただこの唐揚げを作らないと、カレーにはならないんですよね」
「唐揚げカレーとか、両方いいところを取るところはできないんですかね」
「あ~やはりそこに行き着きますよね、まっ、絶賛レシピは考え中というやつみたいですよ」
奥さまからすると、唐揚げは唐揚げ、カレーはカレーでいいんじゃないかなと思っていたが、男子の胃袋はそうはいかないんですよ。


「結構頑張って、レシピの理論確かめて、味の調整したんだけどもね」
「ごめんなさい」
会食終了後、のっそり役人がお帰りなった後の領主夫妻。
「でも食べれるってことが嬉しくって」
俺もまだいけるんだなって!
「それは良かった」
「少なくても同年代では数えるぐらいの元気な胃袋の持ち主扱いだね」
普段奥様のレシピで食べているので、普段の会食に出向いたとしても問題なく食べれる。
「ふっへへへ」
気持ちの悪い笑い方をした。
「まあ、お役人さんがいってたけどもね、健康に見られるというのは悪いことではないからね」
「唐揚げ定食で火花が散る展開になるとは、こっちは思いませんよ」
「そう?でもあの辺ってすごいんだよね、それこそ食べれ切れないのに、豪華な食べ物が用意され、また無理して食べるから」
「若く見られたいから」
「そっ、本当に僕らはどうしようもないよね。ただ、山海からご馳走が届けられると、食べてみたいというのはあるけどもね」
旦那様は元来美酒に美食好みである。
「食に興味がないほうが長生きはできますよ」
「それじゃあ、人生がつまらないじゃないか」
「その気持ちもわからなくはないんですけどもね」
「君は逆に難問を解くことが楽しい気がするのは何故だろうか?」
「楽しいというか、解かないor死なんで」
「そこがすぐに死と直結しちゃうのもなんか嫌だな」
「今の手持ちで買える食材で、体を壊さずに生き抜けって話ですから、確かに今の物価に比べたら、私が本当にどうしようって思っていたときよりかは安いですけども、そもそも使える額が、ないんですよね…明日に希望がないのであれば、栄養剤で体を壊さないようにして、後は美味しいものに割り振ればいいですよ」
「そのライフハックはいらないよ」
「でも意外と使えるんですよね。ただこの辺も上には上がいるんで、そこまで行くとむしろその技術でなんとかなっちゃう、仕事になるとかそういうレベルなんじゃないかな」
「そういう意味では時間があれば、そういった資料とか見直しているよね」
「そうですね。唐揚げとカレーができるならば、唐揚げカレーもいけるだろうっていうご要望が」
「本当にすいませんでした!それはその、言葉のアヤだから、そう、うん、そういうやつ、気にしなくてもいいよ」
「本音は」
「もしもそれで唐揚げカレーを食べることができたら、凄くうれしいっていうか、でもそんなんじゃないから、君の負担になるんだったら、うん、気にしないで」
「ふ~ん」
「ごめんなはい」
「…」
「お嬢様はそこに座っててください、後は私めが用意いたします、お疲れでしたら、肩をお揉みしますよ」
両手をオーバーに動かしながら、領主はいう。
「私としては、元々のレシピは安いお肉を食べやすくするためのものなんですよね」
この時領主はお茶用のカップをお湯であたため始めていた。
「そんなに食べることが、面子に関わることからば、もっとレシピを、それこそお抱えの料理人などがいるけですから、見つけてくださればいいかと思うんですが」
「それは耳が痛いね。そしてそういう方向性の調理法というのは、聞いたことがないかな」
「でも旦那様も叱られたじゃないですか」
健康診断の数値が正常値内になった瞬間、テンションが高くなりすぎて騒いでしまったアレである。
「あれはね、申し訳ないけども、気を付けてないわけじゃなかったんだよ。昨日の夜は食べ過ぎた、朝は食べないとか、控えるとか、そういう選択してきたんだよね」
「それは…あんまり体によろしくないのでは、まあ、一概には言えませんよ、そういう専門家ではありませんが、ほぼ私が自分の体で実験したようなメニューなので」
「なんかさ、体張りすぎじゃないの」
「…」
「ごめん」
「それを言われちゃうと、すんごい困るし、あの時には自分でやるしかなかったし、ならば助けてくれれば良かったのにとか、そういう言葉で片付けたくはなるんですが」
「その割にはここで感情的にはならないね」
「そうですかね?う~ん、どっちかっていうと、擦りきれちゃったに近いかな」
「何さ、それ」
「えっ?そういう食事の話をしたときに、『私ならそんなご飯じゃ耐えれない』とか言われたことはあります」
「何それ」
「まあ、いう人はいうんですけどもね」
「それはちょっと聞かせてくれる?」
お茶がスッ~と奥様の前に出される。
「ありがとうございます、旦那様」
笑顔を浮かべるが、この顔は夫としては少し苦手だ。
なんというか、社交辞令的な表情だからだ。
「私の家族はあぁじゃありませんか、それは変えれません。問題が起きても、家族だからという理由で何とかしなくちゃいけませんから、そうなると、節約するということが大事になるわけですよ」
「使えた額面聞くと、僕の同期の奨学金もらって、バイトしていた一番大変なやつより、手元にないんだよな」
「そこは地域性が…私の実家は地方にありますから」
「確かにそうなんだけどもさ」
それでもさ、限度っていうものがあるでしょうよ。
ただそうなると、また…そういう環境にいた人間に、あなたは心配はするけども、他は何もしないのですね。みたいな心の声が聞こえてきそうで。
「…イヤだな」
「何の話ですか?」
「君と会えて嬉しいよって話」
「ずいぶんと省略しましたね」
「思考を省くのがわりと普通でさ、でもそうなると、他の人は、何をいっているんだコイツみたいな顔をするからね。教育機関に行くまでは、その点は辛かったかな」
ちょっと待て、自分の妻の話を聞くつもりなのに、なんで自分語りしてんだよ。
そこに気づいてしまうと恥ずかしくなったところに。
「そういうのもあるから、旦那様は全力の出し方が空回りするんじゃないかな」
「えっ?」
「慣れてないというか、全力出しても、対応しきれない忙しさになって、常時その状態になっていても、周囲と比べることもないから、わかってないんですよ」
「??」
「ええっとね、旦那様は今ようやく本来の自分にこんにちはしている!」
「あぁ、そういうこと。…ずいぶんと遅い思春期来ちゃったね」
「旦那様はいつでもヤングボーイ」
「なんだよ、それ。えっ?それってさ、僕のことさ」
目の感じが変わってきたので。
「それですね~」
奥様は強引に話を変えに来た。
「えぇ、まだ話足りないよ」
「変えましょうよ」
「なんでさ…」
夫婦だけどもさ、まだまだ知らないことってたくさんあると思うんだよね。
そういうのを知りたいなって僕は思うわけよ。
君の嫌いなものは避けたいし、好きなことをもっと教えてくれないかな。
愛しているよ、愛している。
あぁもう、どうにかなってしまいそうだよ!
「旦那様?」
「おおっと失礼、自分の心と向き合ってた」
「なんかろくでもない心の気配」
「男女間ってそういうもんじゃないかな」
言い訳のための目をそらし。
「旦那様って意外と感情的ですよね」
「そうだね…うん、自分でもビックリしたし、最近カマキリのオスの気持ちがわかったよ」
カマキリ、メスに近づくことで命の危険性がある。
それなのに、オスは距離を縮めようとする。
「その生態を知ったとき、なんでそんなバカなことをしてしまうのかな、俺だったら逃げちゃうぜって、子供の頃の僕ならばそう思ってたんですけどもね」
今、ここで逃げてはいけない。
ここで逃げてしまうということは…なんだろう、彼女と永遠の別れになってしまうということじゃないだろうか。
「それは生きていると言えるのだろうかってね」
「次のチャンスを待つとか、そういうことは考えないんですか?」
「次?次はないでしょ。その次を待ってさ、その間に君の隣に誰かいたとしたら…僕は崩れ落ちるし、後悔する。あぁ、なんであの時僕はって」
「そこまでなのかな」
「そこまででしょ、君は触れてほしくない一線は確実にあるからさ、そういう意味では、君の元婚約者殿は上手かったからね」
「その名前を出しますか」
「狭い世界だからね、出しちゃうよ…まあ、これは僕のコンプレックスでもある、おとぎ話に出たご領主の気持ちがわかる。恵まれた体格があれば、やっぱりそれだけで人生が違うわけじゃん」
「でも旦那様ってその恵まれた体格があったとしたら、今好きなこと全部捨てれますか?」
「無理だね。あっ、そうか、そういうことか、なるほど、コンプレックスに感じてはいるけども、実際にそうなったとしても自分は自分であるから、気にしなくても…むしろそういう体力あると、スカウト凄いからな」
「でしょうね、よくそういう話は聞きますよ」
「うちの執事くんも修行先に行ってたときに、スカウトは来てたっていってたもんな」
お話はありがたいのですが、私は修行後は実家に戻ることにしているので…
「そういう体格があったら、君はもっと俺のこと好きになってくれるんじゃないかって思ったよ」
「えっ?そんなこと思っていたんですか?」
「そりゃあね、女の子って、ほら、相手に彼氏にするなら~身長が高くて~っていうじゃん」
領主は絶妙にギャル口調が上手かった。
「で、そこんところはどうなの?君は男性の好みは?」
「好みですか?」
「誰でもいいから紹介してくれるよ、好感度は高めの設定しておくから」
どこの恋愛シミュレーション、イージーモードなんですかね。
「彼氏とか作らないのぉ?アタシ顔がチョー広いから、声かけておくょ!」
「どっから出ているんですか、その声は」
「頑張ってる」
「私の好みですか?」
「俺の場合は、旦那様でいいですって雑な理由じゃヤダヨ」
「旦那様のことは…それこそこんな感じで話をする関係のままだったして、私が成人すると同時に結婚することが決まっていたとしても、不安とかは一切ないまま嫁げるぐらいには信用してますよ」
「…」
「どうしましたか?」
「つまりこのお兄ちゃんのお嫁さんになるってことでいいわけ?」
領主は混乱し始めた。
「でも旦那様と結婚される方はみんなそのような感じじゃないですかね」
「ううん、あなたはつまんないねとか言われたことあるよ」
「うわ…それは旦那様の良さを知らない人の、素人発言ですね」
「くっ、ここに俺のプロが」
「旦那様のプロ準二級ですね」
「早く一級とって、私とゴールインしてよぉ!責任とって!」
ゴホン
咳払いが聞こえた。
「すいません、お楽しみの最中申し訳ありませんが、書類を受取に参りました」
今の盛り上がりを聞かれていたらしい。
そのまま二人は黙って、書類を執事に渡し。
「はい、結構ですね。ではごゆっくり」
そういって三男執事が離れていく靴音を聞いたあとに。
「ごめんなさい」
「君が謝ることはないんじゃないかな、僕も楽しんじゃったし」
「もうしません」
「イヤーよ、あなた、私を愛してくれないのぉぉぉぉ!!!!」
こういうことは悪ふざけは楽しいかっていうと、スゲー楽しい!!!

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