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遺伝子は憶えてる
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ベースギターを始めたのは中学2年の頃だった。大学生の従兄にヘビーメタルのLPを聴かされ、その道に引きずり込まれた。夏、所沢で行われたSuper Rock 84に有無を言わさず連れて行かれ、坊主頭で見よう見まねのヘッドバンキングを強要された。
今になれば、眩いばかりの思い出である。
高校生になり、初めてクラスメイトとバンドを組んだ。MSGやIRON・MAIDENのコピーから始まり、様々な曲に挑戦したな。特に、ゲディー・リー(Rushベーシスト)などの早弾きに憧れていた。
ある時、ベースでパガニーニの名曲「24のカプリース」が弾けたらかっこいいだろうなと思い立ち、自室で猛練習をしていると、(当時まだ健在であった)祖母が訪室するなり、
「お前、この曲は……」
と言葉を詰まらせた。
「ごめん、おばあちゃん。音が大きかったね」
と謝ると、私の側に近寄り耳元で、
「この曲知ってるよ。おじいさんが若い頃よく弾いてくれたからね。あの頃田舎じゃバイオリンなんかやってたら何を言われるかわかったもんじゃない。だからこの話は、あんたの母親だって知らないんだよ。懐かしいねぇ」
と、囁いた。
死んだ爺さんバイオリンやってたのか……
しかも、パガニーニを弾いていたっ!
後日、母親にこの事を伝えると知らなかったという返事。また、なぜ私がこれ程音楽が好きなのかわかる気がする。とも言っていた。
私はじいさん方の血を受け継いだのか……
そう言えば、釣りや囲碁が好きな父とは話が合わなかった。
ボートで海釣りに連れて行かれても船酔いするばかりで、楽しい思い出なんかひとつもない。囲碁を教えてもらっても退屈なだけだった。父は中学、高校時代とサッカーをやっていて、私の中学での部活動はサッカー部だと勝手に決め、強制的(脅迫的)にやらされた、強引なのだ。無論、楽しくはなかった。
そんな父との接点を見いだしたのは私が40になった頃か。
当時「ヒカルの碁」というアニメの再放送に 、息子と妻が夢中になっていた。私も一緒に観てみると、なかなかどうして面白い。奥が深い。息子同様、私も碁が打ちたくなった。
息子に、おじいちゃんは囲碁が打てると話すと大喜びだ。週末は実家に何度となく足を運び、息子と一緒に囲碁を教わった。本棚にあった囲碁の教則本を借り、勉強もした。息子には内緒で、実家で父との対局を楽しんだりもした。ハンデ5から始まった置き碁が3になった頃、父の好きだった世界を共有出来た気がした。
そんな父も、喜寿を待たずに脳梗塞で呆気なく逝ってしまった。
――‐‐……
「お父さん、亡くなる前に言ってたよ。最後に一緒に打てて嬉しかった、とね」
四十九日の法要が済み、遺品を整理していると母が呟いた。
「えっ……そうだったのか」
子供の頃、もっと熱心に父と向き合えばよかった。不意に、涙が溢れた。
「……へへっ、今でも正嗣《まさし》(息子)とはたまに碁を打つんだ、俺より遥かに強い。親父の遺伝子はここにある……そう思ったよ。いわゆる隔世遺伝ってやつさ」
「なんだい、そりゃ……」
「ほら、俺もそうだったじゃないか。お祖父さんのバイオリン。ひとまたぎして遺伝するってやつさ、だから正嗣は囲碁が強いんだ」
「そういうもんなのかい。……あれ、なんだろうね、こんなタンスの隅っこに」
「ん、なんだい、見せてみな。……これ、は?」
新聞紙にくるまれたそれは、ビデオテープだった。
そのVHSのラベルには「久美子さん」と、私の妻の名が記されていた。
……了
今になれば、眩いばかりの思い出である。
高校生になり、初めてクラスメイトとバンドを組んだ。MSGやIRON・MAIDENのコピーから始まり、様々な曲に挑戦したな。特に、ゲディー・リー(Rushベーシスト)などの早弾きに憧れていた。
ある時、ベースでパガニーニの名曲「24のカプリース」が弾けたらかっこいいだろうなと思い立ち、自室で猛練習をしていると、(当時まだ健在であった)祖母が訪室するなり、
「お前、この曲は……」
と言葉を詰まらせた。
「ごめん、おばあちゃん。音が大きかったね」
と謝ると、私の側に近寄り耳元で、
「この曲知ってるよ。おじいさんが若い頃よく弾いてくれたからね。あの頃田舎じゃバイオリンなんかやってたら何を言われるかわかったもんじゃない。だからこの話は、あんたの母親だって知らないんだよ。懐かしいねぇ」
と、囁いた。
死んだ爺さんバイオリンやってたのか……
しかも、パガニーニを弾いていたっ!
後日、母親にこの事を伝えると知らなかったという返事。また、なぜ私がこれ程音楽が好きなのかわかる気がする。とも言っていた。
私はじいさん方の血を受け継いだのか……
そう言えば、釣りや囲碁が好きな父とは話が合わなかった。
ボートで海釣りに連れて行かれても船酔いするばかりで、楽しい思い出なんかひとつもない。囲碁を教えてもらっても退屈なだけだった。父は中学、高校時代とサッカーをやっていて、私の中学での部活動はサッカー部だと勝手に決め、強制的(脅迫的)にやらされた、強引なのだ。無論、楽しくはなかった。
そんな父との接点を見いだしたのは私が40になった頃か。
当時「ヒカルの碁」というアニメの再放送に 、息子と妻が夢中になっていた。私も一緒に観てみると、なかなかどうして面白い。奥が深い。息子同様、私も碁が打ちたくなった。
息子に、おじいちゃんは囲碁が打てると話すと大喜びだ。週末は実家に何度となく足を運び、息子と一緒に囲碁を教わった。本棚にあった囲碁の教則本を借り、勉強もした。息子には内緒で、実家で父との対局を楽しんだりもした。ハンデ5から始まった置き碁が3になった頃、父の好きだった世界を共有出来た気がした。
そんな父も、喜寿を待たずに脳梗塞で呆気なく逝ってしまった。
――‐‐……
「お父さん、亡くなる前に言ってたよ。最後に一緒に打てて嬉しかった、とね」
四十九日の法要が済み、遺品を整理していると母が呟いた。
「えっ……そうだったのか」
子供の頃、もっと熱心に父と向き合えばよかった。不意に、涙が溢れた。
「……へへっ、今でも正嗣《まさし》(息子)とはたまに碁を打つんだ、俺より遥かに強い。親父の遺伝子はここにある……そう思ったよ。いわゆる隔世遺伝ってやつさ」
「なんだい、そりゃ……」
「ほら、俺もそうだったじゃないか。お祖父さんのバイオリン。ひとまたぎして遺伝するってやつさ、だから正嗣は囲碁が強いんだ」
「そういうもんなのかい。……あれ、なんだろうね、こんなタンスの隅っこに」
「ん、なんだい、見せてみな。……これ、は?」
新聞紙にくるまれたそれは、ビデオテープだった。
そのVHSのラベルには「久美子さん」と、私の妻の名が記されていた。
……了
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