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百九話
しおりを挟む路地まで来ると
壁にもたれてしゃがみ込んでいる
キトの姿が見えた
両腕で膝を抱え、そこに顔を埋めていた
私達はキトの近くまで行くと足を止めたが、
ライハは心配そうにそのまま駆け寄って行った
「キト!
お前、大丈夫かよ?」
心配そうにしゃがみ込み肩に手を置く
「‥‥」
顔を上げ、ボソボソと話すキトの声は
何を話しているかは分からなかった
「何?
聞こえねぇぞ?」
「‥あれは、間違いなく、シギだ」
今度の声は近くにいる私にも
はっきりと聞こえる声だった
「もしかして、あの腕の火傷か‥?」
「‥そう、あの火傷の跡は
パン屋で出来た火傷‥
前に見た事がある‥
やっちまったって、言ってて‥
心配したら
僕は気にしてないから
心配すんなって、笑ってたんだ」
私もあの人はシギ本人だと思った
だって、紙袋の中に
チーズがたくさん入ってた
リリが教えてくれた、
シギはチーズが好きだって‥
「‥僕のこと、分からないって
何で、だろう‥」
悲しみに溢れた表情は
見ているこちらも胸が痛くなる程だ
「なら、分かるようにしたら
いいんじゃね?」
しんみりした雰囲気の中、
サラッと言うその言葉に
キトは目を細めながらライハを見る
「‥どうやって?」
「知らねー
けど、お前ら親友なんだろ?
もしこのまま分からなくても
また親友になればいいじゃん
シギを見ていると
あの優しい性格は変わってなさそうだし、
また一からでも悪くないと思うぜ」
キトはライハから少し目を外しながら、
ふんっと言う
「‥適当なことばっかり、
言ってくれるね」
「いいじゃん、
人生1回しかないんだし
楽しんだもん勝ちってよく言うじゃん
もう一回親友になれるなんて
普通経験出来ないぜ」
駆け寄った時は心配そうにしていたのに、
今はずっと明るくキトに話しかけている
盗賊だとしても
嬉しく楽しいこともあるし、
傷つき悲しくなることもある
一生懸命生きている同じ人間だと
改めて感じられた
同じ事を思っているかは分からないが、
タリアとシオンも
2人から目を離すことはしなかった
そんなみんなの様子を見ていると、
なんとなく
胸が苦しくなったような気がして
私はお守りを握りしめ
静かに深呼吸した
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