巡り合い、

アミノ

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百十八話

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雨の中、アジトへ戻る為に
キトは前にナツ達から奪った馬に乗って
街の外を走っていた

「おーい、キトー、おーい、
ちょっと雨キツすぎだから
顔に当たって痛ぇんだけどー?
そんな飛ばして帰ることねぇだろー」

後ろから叫んでいるライハを無視し
変わることない速さで駆けていく

ジーナとリクの話を思い出しながら
シギの事を考えていた

記憶が死ぬ‥
僕やライハはもちろん、
自分が盗賊だった記憶もなくなったのか

でも、自分の名前は覚えていたじゃないか
記憶が全部無くなった訳ではないのか

馬の鳴き声と共に
ズシャッという音が耳に届いた

「ってぇ‥」

少し後ろの方でライハが乗っていた馬が
足を上げて暴れているように見える

その横で放り出されたのだろうライハが
腕で身体を支えながら
起き上がる途中なのが目に入った

「‥何やってんの?」

呆れながら近付くと
馬の様子が明らかにおかしい事に気付く

自分の馬から降り、
暴れている馬を確認してみると
左前肢に矢が刺さっていた

辺りは雨で視界が悪く
どこから誰が放った矢なのかは分からない

とりあえず暴れる馬から矢を抜き
自分の持っていた布でその傷を覆い
落ち着かす為に背中を撫でる

撫でている間に少し雨が弱くなってきた

馬が何とか落ち着きを取り戻すと
ライハが刺さっていた矢を見て
馬の横で固まっていた

「‥この馬に乗るのは、可哀想だから歩くよ
ぼぅとしてないで、ちゃんと、
付いてきなよ」

自分の乗っていた馬の方へ戻ろうとすると
ライハに呼び止められた

「‥何?」

少し不機嫌な顔で返事をすると
返ってきたのは予想外の言葉だった

「この矢、俺達が使ってるやつと
同じ‥なんだけど?」

僕達が使っている矢は一般的だが、
盗賊だけが使う小さなマークが
印字されている

討伐隊だってこれには気付いてないはず

ライハから矢をもらい見てみると
見覚えがあるマークが印字されていた

「‥これ、南西の奴らの、マーク‥」

「マジかよ‥
なんで俺の乗ってる馬に‥?」

「‥下っ端が、調子に、乗ってるんだよ」

奪った物資を分けろと我儘を言い、
仕方ないから分けたのに
勝手に売り捌いたり、
夜中に警備隊を出動させたり
好き勝手しすぎてる

腕はあるようだから黙っていたが、
連携が取れないのに暴れられるのは
こちらも動けなくなるから迷惑だ

「‥今は、シギのことを、
考えたいのに‥」

「まぁなー」

自分に同調してくれた返事に、
路地での会話が頭をよぎる

調子に乗るから本人には言わないけど、
あの時、ライハのおかげで
気持ちが沈み込まずにいられたんだと思う

「今度さ、シギの家行ってみねぇ?」

急に何を言い出すのかと顔を伺うと、
こんな時でもニカっと笑い
あっけらかんとしているライハが
こちらを見ていた

「僕達の事、覚えてないのに、
行ってどうするの」

「前のことは覚えてなくても
俺なんかもう2回も会ってるし
知り合いじゃん、
キトも今日会ったし、知り合いだろ?
金持ちそうな家だったしさ、
行ったらおいしいお菓子とか
出してくれるかもよ?
それに、街に行ったらタリアちゃんにも
会えるかもしれないしな」

「‥ふぅん」

「傘持ってきてくれて優しかったけど
馬に乗るのに傘させないからなぁー、
あっ、でも今なら馬乗らないし
傘欲しいよな!」

「‥こんなに濡れてたら、
今更、傘さしても、一緒だよ」

雨にずぶ濡れになりながら
馬を引いてのアジトへの帰り道、
ライハの話を聞くのは悪くなかった


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