聖なる悪魔~sin of faith~

須桜蛍夜

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Day by day

森の中で(5)

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「すごいな……」


 しばらく経ってぽつりと漏らした。茶化しはしたが、彼は彼女達を尊敬していた。学年最強でありながら、慢心する事なく誰よりも努力する。彼には眩しすぎる勝ち組達。


「俺もあそこまでひたむきに上を目指せたら良いんだけどな」

強くなりたいと願っても、修行を積んでも平均以上には行けない者には、真似のできない生き方。眩しすぎて涙が出そうになる。


「目指せばいいじゃん」


「無理だよ。俺は強くなれないから」


 もう一人の勝ち組の言葉に即座に否定を示す。

サクにこの気持ちは理解できない。ラキにも匹敵する力を持ちながら、使おうともしない彼女には。

自分は落ちこぼれだなんて言う、人を馬鹿にしたような彼女には。
眩しさにやられたのか、卑屈な思いが溢れ出してきていた。

サクが事情を抱えている事も、ラキ達が努力している事も知っているのに、自分を棚に上げて嫉妬してしまっている。嫌だと思うのに、彼はそれを止められない。


「タルクは強くなれると思うけどな」


「え?」


 予想外に嫌悪の濁流が瓦解する。タルクは信じられないように相棒を見つめた。少女はコッペパンにかぶりつきながら言葉を続ける。


「だって、強化の精度でタルクの右に出る人は居ないじゃん」


「それは使い手が少ないからだろ?」


「そんな事ないよ。私、タルクには一目置いてるもん。力が発揮できないのは出力が小さいから。そこさえ克服できればタルクはもっと上に行けると思うよ」


 手放しの賛辞。それを受けた事の無い少年は、どうしていいのか分からずサクを見つめる。


 出力とは、一度に呪文に載せられる魔力の総量の事。魔術熟練度の判断基準の一つだ。これが高い者程、呪文に多くの魔力を載せられ、短時間の詠唱で大きな魔術を使える。


「出力か……」


我を取り戻した少年は地面を見つめ、小さく呟いた。




 
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