聖なる悪魔~sin of faith~

須桜蛍夜

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「はぁ。疲れたわ」

「ほんと、タルク達よくやるよね」

 モリグとサクは木陰に腰を下ろし、二人の死闘を笑って見つめる。

「身体、大丈夫か?」

「うん、ただの風邪だしね。こじらせちゃったけど、今は元気だよ」

 そう言う彼女は幾分か元気そうだ。

「でも、まさか勝てるとは思わなかったよ」

「あいつらがあんなに相性悪いとはな」

 独壇場かと思われたラキのファイヤーシュートがモリグを前にいまいち揮わず、ラキから奪い取るように撃ったタルクのシュートは魔術の相性が悪くて揮わない。

次第に不満を溜め込み始めた彼らは、負けず嫌いな性格もあって仲間内でボールを奪い合い始め、勝利はサク達のものとなったのだ。その過程故に今、一騎打ちが行われている。

「おれらはあのペアで合ってるんだな」

 おちゃらけてはいるが本心だった。モリグはサクの戦法に着いていける自信はないし、タルクの魔術を活用できるとも思えない。同様にラキのペアは自分しか居ないと思っている。

「どうだろうね。もしかしたらタルクには、ラキとかモリグの方が合ってるかもよ」

 同意されるものとばかり思っていた言葉に、彼女は意外にも難色を示す。

「それは無いだろ。あいつはサクとだから成長できた。サクじゃなきゃ駄目だったんだよ」

「いや、でも私は……」

 それっきりサクは何も言わなかった。基本ポジティブな事しか言わない彼女にしては珍しい。

掛ける言葉を見つけられないまま静かな風が吹き抜ける。沈黙が切なくその場を満たす。

「はぁ、勝ったよ。圧勝だ」

 にこにこのラキと不機嫌なタルクが戻ってきたのはそれからしばらく経ってからだった。

試合結果は、ラキのシュートを止められなかったタルクの惨敗。それでも納得できない彼の要求で再選が行われ、無駄に時間を喰ってしまった。空はもうすっかり夕陽に染まっている。

「俺だって剣とか使わせてくれれば勝てるし」

「じゃあ、またやるか? 今度は剣許可で。それでもボコボコにしてやんよ」

「できるもんならな」

 耳聡く反応して喧嘩を売るラキとそれに乗るタルク。確かにこれはこれで良いペアになるのかもしれない。モリグは不服ながらもそれを認めた。

「楽しかったね」

 ぽつりとはっきり声が聞こえた。

先行していたサクが振り返る。夕陽を背負う彼女は、長い髪をオレンジに溶かしてどこか幻想的に笑っている。

「あぁ、またやろうぜ」

 タルクがそれに笑みを返す。ラキもモリグも笑っていた。なんだかんだ言って四人で居る事は楽しい。地面に伸びた四つの影は踊るようにいつまでもゆらゆら揺れていた。
      
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