パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

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ごちゃごちゃとした雑音が入ってくる。相変わらずに昼休みは煩くて、本の内容が全く入ってこない。
ーーやっぱり、図書室行くかな。
?茲に貼られたガーゼを弄りながら小説を閉じ、立ち上がる。鈍い痛みが全身に伝った。一週間が経ち、怪我はだいぶ良くなってきていたけど、痛みは無くなっていなかった。でも、別に気にならない。これは、わたしを現実に引き止めてくれるから。
「……で、何の用?」
顔を上げ、行先を遮る三人組に目を向ける。いじめっ子は大切そうに青いビニール袋を抱えていて、残りは彼に従うように後ろに静かに佇んでいる。
「ちょっと来いよ」
デブとノッポがわたしの腕を無理やり引っ張る。また体育館裏でも行くのかな。それなら面倒くさい。その手を振り払って歩き出す。その瞬間に無数の視線がわたしにかかった。クラスは、空虚な会話を続けながらも、あからさまにこっちを見ていた。
ーーくだらない。
関わりたくはないけど気になる。そんな意識に嫌気がさす。
「馬鹿にしやがって!」
机を蹴るような音とキレた声、ビニールの音。そして、分かりやすい程の敵意が背中に触れた。
「はぁ」
嘆息する。あの袋に何が入ってるか知らないけど、別に――。
「えっ……」
聞こえた音に意識が止まった。
「へぇ」
感心する声、そして再び鳴った風切り音。ゆっくりと強張った身体で彼の方を振り返る。
――なんで……。
隠した感情が漏れ出しそうだった。いじめっ子が手にしているのは細長いベルト。トラウマに似た装飾具。
「お前、これが怖いんだろ?」
浮かべられる確信と優越感の混じった笑い。挑発するようにピシッピシッと鳴らされるベルト。わたしを更に凍りつかせていく。
"怖くなんてない"
いつもの声色で言いたいのに、喉がカラカラにで上手く音が出てくれない。彼は狂った笑みで近づいてくる。わたしの身体は動いてくれない。そのうちに、段々と足音が聞き慣れたものに変わりはじめた。ベルトにしか意識が行かなくなり、周りの視線も、音も、少年の声すら消えていく。視界が闇に近づいていく。そして……迫る影は、過去の記憶に重なった。
「っ……」
全身を蝕む寒気、激しさを増す震え。ここにあの人は居ない、居るのはただのクラスメート。頭では理解しているのに感情はついていかない。
「よお」
影がわたしにかぶさった。
「だん……」
身体の力が全て抜け、膝が地面につく。記憶はわたしを完全に飲み込んだ。目の前には眼鏡をかけた男。辺りは鉄の匂いが充満した暗闇。ここはもう、地獄の底だ。
「おとなしくやられろ」
『瑠璃、はやく降参したほうが楽だよ』
二つの声が重なって聞こえ、影が鞭を振り上げる。そして、スローモーションのようにゆっくり、それがわたしに向かって放たれた。
――駄目だ、わたしはもう逃げられない。
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