21 / 158
盈月
13
しおりを挟む
*
ごちゃごちゃとした雑音が入ってくる。相変わらずに昼休みは煩くて、本の内容が全く入ってこない。
ーーやっぱり、図書室行くかな。
?茲に貼られたガーゼを弄りながら小説を閉じ、立ち上がる。鈍い痛みが全身に伝った。一週間が経ち、怪我はだいぶ良くなってきていたけど、痛みは無くなっていなかった。でも、別に気にならない。これは、わたしを現実に引き止めてくれるから。
「……で、何の用?」
顔を上げ、行先を遮る三人組に目を向ける。いじめっ子は大切そうに青いビニール袋を抱えていて、残りは彼に従うように後ろに静かに佇んでいる。
「ちょっと来いよ」
デブとノッポがわたしの腕を無理やり引っ張る。また体育館裏でも行くのかな。それなら面倒くさい。その手を振り払って歩き出す。その瞬間に無数の視線がわたしにかかった。クラスは、空虚な会話を続けながらも、あからさまにこっちを見ていた。
ーーくだらない。
関わりたくはないけど気になる。そんな意識に嫌気がさす。
「馬鹿にしやがって!」
机を蹴るような音とキレた声、ビニールの音。そして、分かりやすい程の敵意が背中に触れた。
「はぁ」
嘆息する。あの袋に何が入ってるか知らないけど、別に――。
「えっ……」
聞こえた音に意識が止まった。
「へぇ」
感心する声、そして再び鳴った風切り音。ゆっくりと強張った身体で彼の方を振り返る。
――なんで……。
隠した感情が漏れ出しそうだった。いじめっ子が手にしているのは細長いベルト。トラウマに似た装飾具。
「お前、これが怖いんだろ?」
浮かべられる確信と優越感の混じった笑い。挑発するようにピシッピシッと鳴らされるベルト。わたしを更に凍りつかせていく。
"怖くなんてない"
いつもの声色で言いたいのに、喉がカラカラにで上手く音が出てくれない。彼は狂った笑みで近づいてくる。わたしの身体は動いてくれない。そのうちに、段々と足音が聞き慣れたものに変わりはじめた。ベルトにしか意識が行かなくなり、周りの視線も、音も、少年の声すら消えていく。視界が闇に近づいていく。そして……迫る影は、過去の記憶に重なった。
「っ……」
全身を蝕む寒気、激しさを増す震え。ここにあの人は居ない、居るのはただのクラスメート。頭では理解しているのに感情はついていかない。
「よお」
影がわたしにかぶさった。
「だん……」
身体の力が全て抜け、膝が地面につく。記憶はわたしを完全に飲み込んだ。目の前には眼鏡をかけた男。辺りは鉄の匂いが充満した暗闇。ここはもう、地獄の底だ。
「おとなしくやられろ」
『瑠璃、はやく降参したほうが楽だよ』
二つの声が重なって聞こえ、影が鞭を振り上げる。そして、スローモーションのようにゆっくり、それがわたしに向かって放たれた。
――駄目だ、わたしはもう逃げられない。
ごちゃごちゃとした雑音が入ってくる。相変わらずに昼休みは煩くて、本の内容が全く入ってこない。
ーーやっぱり、図書室行くかな。
?茲に貼られたガーゼを弄りながら小説を閉じ、立ち上がる。鈍い痛みが全身に伝った。一週間が経ち、怪我はだいぶ良くなってきていたけど、痛みは無くなっていなかった。でも、別に気にならない。これは、わたしを現実に引き止めてくれるから。
「……で、何の用?」
顔を上げ、行先を遮る三人組に目を向ける。いじめっ子は大切そうに青いビニール袋を抱えていて、残りは彼に従うように後ろに静かに佇んでいる。
「ちょっと来いよ」
デブとノッポがわたしの腕を無理やり引っ張る。また体育館裏でも行くのかな。それなら面倒くさい。その手を振り払って歩き出す。その瞬間に無数の視線がわたしにかかった。クラスは、空虚な会話を続けながらも、あからさまにこっちを見ていた。
ーーくだらない。
関わりたくはないけど気になる。そんな意識に嫌気がさす。
「馬鹿にしやがって!」
机を蹴るような音とキレた声、ビニールの音。そして、分かりやすい程の敵意が背中に触れた。
「はぁ」
嘆息する。あの袋に何が入ってるか知らないけど、別に――。
「えっ……」
聞こえた音に意識が止まった。
「へぇ」
感心する声、そして再び鳴った風切り音。ゆっくりと強張った身体で彼の方を振り返る。
――なんで……。
隠した感情が漏れ出しそうだった。いじめっ子が手にしているのは細長いベルト。トラウマに似た装飾具。
「お前、これが怖いんだろ?」
浮かべられる確信と優越感の混じった笑い。挑発するようにピシッピシッと鳴らされるベルト。わたしを更に凍りつかせていく。
"怖くなんてない"
いつもの声色で言いたいのに、喉がカラカラにで上手く音が出てくれない。彼は狂った笑みで近づいてくる。わたしの身体は動いてくれない。そのうちに、段々と足音が聞き慣れたものに変わりはじめた。ベルトにしか意識が行かなくなり、周りの視線も、音も、少年の声すら消えていく。視界が闇に近づいていく。そして……迫る影は、過去の記憶に重なった。
「っ……」
全身を蝕む寒気、激しさを増す震え。ここにあの人は居ない、居るのはただのクラスメート。頭では理解しているのに感情はついていかない。
「よお」
影がわたしにかぶさった。
「だん……」
身体の力が全て抜け、膝が地面につく。記憶はわたしを完全に飲み込んだ。目の前には眼鏡をかけた男。辺りは鉄の匂いが充満した暗闇。ここはもう、地獄の底だ。
「おとなしくやられろ」
『瑠璃、はやく降参したほうが楽だよ』
二つの声が重なって聞こえ、影が鞭を振り上げる。そして、スローモーションのようにゆっくり、それがわたしに向かって放たれた。
――駄目だ、わたしはもう逃げられない。
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
【完結】親の理想は都合の良い令嬢~愛されることを諦めて毒親から逃げたら幸せになれました。後悔はしません。
涼石
恋愛
毒親の自覚がないオリスナ=クルード子爵とその妻マリア。
その長女アリシアは両親からの愛情に飢えていた。
親の都合に振り回され、親の決めた相手と結婚するが、これがクズな男で大失敗。
家族と離れて暮らすようになったアリシアの元に、死の間際だという父オリスナが書いた手紙が届く。
その手紙はアリシアを激怒させる。
書きたいものを心のままに書いた話です。
毒親に悩まされている人たちが、一日でも早く毒親と絶縁できますように。
本編終了しました。
本編に登場したエミリア視点で追加の話を書き終えました。
本編を補足した感じになってます。@全4話
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?
ねーさん
恋愛
アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。
何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。
何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。
「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…
処刑を望んだ悪役令嬢ですが、幼なじみの騎士が手放してくれません
藤原遊
恋愛
「私は処刑される運命の悪役令嬢――そう信じて、死を望んでいた。
けれど、幼なじみの騎士は『この命に代えても守る』と離してくれなくて……?」
侯爵令嬢アメリアは、幼い頃から「悪役令嬢」として囁かれてきた。
その冷たい視線と噂の中で、彼女は静かに己の役目を受け入れていた――。
けれど、すべてを遠ざけようとする彼女の前に現れたのは、まっすぐに想いを示す幼なじみの騎士。
揺らぐ心と、重ねてきた日々。
運命に逆らえないはずの未来に、ほんの少しの希望が灯る。
切なく、温かく、甘やかに紡がれる悪役令嬢物語。
最後まで見届けていただければ幸いです。
※ 攻略対象の叔母である悪役令嬢に転生したけれど、なぜか攻略対象の甥に激重に愛されてます
にて、親世代の恋愛模様を描いてます。
はらぺこ令嬢は侯爵様を満たしたい
有栖
ファンタジー
エルヴィラはいつもお腹を空かせている子供だった。あまりに大食いするので心配した両親が医者に連れていくと、それは彼女が持つ魔力量のせいだとわかる。彼女は多すぎる魔力を維持するため、いつも疲れるほど食べ続けていなければならなかった。しかしひとつだけ、有り余る魔力を放出する方法があった。料理だ。彼女が作る料理には、魔力がたっぷりこめられているのである。そんな彼女の元へある日、知らせが訪れる。
※食事の描写は普通の日本のお料理になっています
私の存在
戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。
何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。
しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。
しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる