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盈月
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「何が?」
分かってはいるが、聞き返す。正直あまり触れて欲しくない。私を当事者に巻き込んで欲しくない。
「いじめの事。篠崎の事だから気づいてるんだろ? あんたの行動が原因で、安河内沙羅達が西山さんをいじめ始めた。あんたがいじめを引き起こしたって」
責める声色。そして、責任転嫁。西山さんを助けたい。でも自分は被害を被りたくない。そんな我儘がその言葉には溢れている。
「知ってるよ」
意識するのはいつもの声。内心呆れていた。好きな娘の為に自分を犠牲にするなんて格好いいじゃんと少しは見直したのに。
ーーやっぱり人間そんなもんか。
「なら、助けてやろうとか思わないのか? 自分のせいで傷ついてる人が居るんだぞ。何にも感じないのか?」
見つけた糸に縋り付くカンダタ。周りを蹴落としてでも自分は助かりたい。目の前の少年はまさにそれだった。
「西山さんがいじめられるのは私の責任。だから私には助ける義務がある。……本気で言ってるの?」
「あたりまえだ」
正論を通して彼は自身の正当化を図ろうとする。でもそれは無理。その理論は既に破綻している。
「ならそれは笑える話ね。自分にできない事を人に押しつけて正義面。滑稽すぎるよ、あんた」
「なんだよ、僕にだって助ける気はある。でも、原因は君なんだから、僕より篠崎が助けるべきだって言ってるんだ。何か間違ってるか?」
正しさの証明に、責任をなすりつけるために、必死な彼。
滑稽。滑稽。滑稽。
自分がピエロだって気がついていない。
「自分ができない事って言ったのは今のことじゃない。前の話。あんたが賢太郎のいじめから解放された後。聞くけど、なんであんたは、あなたが原因でいじめられている西山さんを助けなかったの? 原因になったなら助けるべきなんでしょ」
ピシッ!
彼は固まった。そして、逃げるように目を逸らす。いままでの勢いは何処へやら、その様子はすっかりいじめられっ子。
バツが悪そうで、この場から消える術を考えている。そんな彼に、心底呆れる。
「……それ、貸して」
彼の所まで大股で近寄り、紙袋を奪い取った。
「あ……」
驚いたように顔を上げる。そこには微かに安堵が見える。
「今度のいじめは私が止める。だから、これは沙羅の席に戻しとく」
勢いだった。同じ、いじめの原因になった者として、こいつと一緒の所まで堕ちるのが嫌だった。
紙袋の中身を覗く。香水やら、化粧品やらのカモフラージュの下に細いベルトが見えた。
「これ、もう使われたの?」
単調な声。あの子のような声で問う。
「今日の朝。それが初めて」
「そう」
紙袋を沙羅の机に戻し、彼の存在を無視したまま外へ出た。
人気のない廊下に足音が響く。壁に当たり、天井に当たり、こだまする。その音のある静寂が、今の気分には丁度良かった。
ーーそっか。もう、使われたか。
思い出す。腕に抱いた小さな温かさ。震えていた身体。
外界の全てを遮断するあの子が、唯一反応を示すもの。彼女の弱点。
あの様子は異常だった。脆くて、壊れてなくなりそうで、弱々しかった。
「そっか、使われたか……」
私は、あんな姿を見たくない。あれを続けていたら、きっと彼女は壊れる。
分かってはいるが、聞き返す。正直あまり触れて欲しくない。私を当事者に巻き込んで欲しくない。
「いじめの事。篠崎の事だから気づいてるんだろ? あんたの行動が原因で、安河内沙羅達が西山さんをいじめ始めた。あんたがいじめを引き起こしたって」
責める声色。そして、責任転嫁。西山さんを助けたい。でも自分は被害を被りたくない。そんな我儘がその言葉には溢れている。
「知ってるよ」
意識するのはいつもの声。内心呆れていた。好きな娘の為に自分を犠牲にするなんて格好いいじゃんと少しは見直したのに。
ーーやっぱり人間そんなもんか。
「なら、助けてやろうとか思わないのか? 自分のせいで傷ついてる人が居るんだぞ。何にも感じないのか?」
見つけた糸に縋り付くカンダタ。周りを蹴落としてでも自分は助かりたい。目の前の少年はまさにそれだった。
「西山さんがいじめられるのは私の責任。だから私には助ける義務がある。……本気で言ってるの?」
「あたりまえだ」
正論を通して彼は自身の正当化を図ろうとする。でもそれは無理。その理論は既に破綻している。
「ならそれは笑える話ね。自分にできない事を人に押しつけて正義面。滑稽すぎるよ、あんた」
「なんだよ、僕にだって助ける気はある。でも、原因は君なんだから、僕より篠崎が助けるべきだって言ってるんだ。何か間違ってるか?」
正しさの証明に、責任をなすりつけるために、必死な彼。
滑稽。滑稽。滑稽。
自分がピエロだって気がついていない。
「自分ができない事って言ったのは今のことじゃない。前の話。あんたが賢太郎のいじめから解放された後。聞くけど、なんであんたは、あなたが原因でいじめられている西山さんを助けなかったの? 原因になったなら助けるべきなんでしょ」
ピシッ!
彼は固まった。そして、逃げるように目を逸らす。いままでの勢いは何処へやら、その様子はすっかりいじめられっ子。
バツが悪そうで、この場から消える術を考えている。そんな彼に、心底呆れる。
「……それ、貸して」
彼の所まで大股で近寄り、紙袋を奪い取った。
「あ……」
驚いたように顔を上げる。そこには微かに安堵が見える。
「今度のいじめは私が止める。だから、これは沙羅の席に戻しとく」
勢いだった。同じ、いじめの原因になった者として、こいつと一緒の所まで堕ちるのが嫌だった。
紙袋の中身を覗く。香水やら、化粧品やらのカモフラージュの下に細いベルトが見えた。
「これ、もう使われたの?」
単調な声。あの子のような声で問う。
「今日の朝。それが初めて」
「そう」
紙袋を沙羅の机に戻し、彼の存在を無視したまま外へ出た。
人気のない廊下に足音が響く。壁に当たり、天井に当たり、こだまする。その音のある静寂が、今の気分には丁度良かった。
ーーそっか。もう、使われたか。
思い出す。腕に抱いた小さな温かさ。震えていた身体。
外界の全てを遮断するあの子が、唯一反応を示すもの。彼女の弱点。
あの様子は異常だった。脆くて、壊れてなくなりそうで、弱々しかった。
「そっか、使われたか……」
私は、あんな姿を見たくない。あれを続けていたら、きっと彼女は壊れる。
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