46 / 158
盈月
38
しおりを挟む
「何が?」
分かってはいるが、聞き返す。正直あまり触れて欲しくない。私を当事者に巻き込んで欲しくない。
「いじめの事。篠崎の事だから気づいてるんだろ? あんたの行動が原因で、安河内沙羅達が西山さんをいじめ始めた。あんたがいじめを引き起こしたって」
責める声色。そして、責任転嫁。西山さんを助けたい。でも自分は被害を被りたくない。そんな我儘がその言葉には溢れている。
「知ってるよ」
意識するのはいつもの声。内心呆れていた。好きな娘の為に自分を犠牲にするなんて格好いいじゃんと少しは見直したのに。
ーーやっぱり人間そんなもんか。
「なら、助けてやろうとか思わないのか? 自分のせいで傷ついてる人が居るんだぞ。何にも感じないのか?」
見つけた糸に縋り付くカンダタ。周りを蹴落としてでも自分は助かりたい。目の前の少年はまさにそれだった。
「西山さんがいじめられるのは私の責任。だから私には助ける義務がある。……本気で言ってるの?」
「あたりまえだ」
正論を通して彼は自身の正当化を図ろうとする。でもそれは無理。その理論は既に破綻している。
「ならそれは笑える話ね。自分にできない事を人に押しつけて正義面。滑稽すぎるよ、あんた」
「なんだよ、僕にだって助ける気はある。でも、原因は君なんだから、僕より篠崎が助けるべきだって言ってるんだ。何か間違ってるか?」
正しさの証明に、責任をなすりつけるために、必死な彼。
滑稽。滑稽。滑稽。
自分がピエロだって気がついていない。
「自分ができない事って言ったのは今のことじゃない。前の話。あんたが賢太郎のいじめから解放された後。聞くけど、なんであんたは、あなたが原因でいじめられている西山さんを助けなかったの? 原因になったなら助けるべきなんでしょ」
ピシッ!
彼は固まった。そして、逃げるように目を逸らす。いままでの勢いは何処へやら、その様子はすっかりいじめられっ子。
バツが悪そうで、この場から消える術を考えている。そんな彼に、心底呆れる。
「……それ、貸して」
彼の所まで大股で近寄り、紙袋を奪い取った。
「あ……」
驚いたように顔を上げる。そこには微かに安堵が見える。
「今度のいじめは私が止める。だから、これは沙羅の席に戻しとく」
勢いだった。同じ、いじめの原因になった者として、こいつと一緒の所まで堕ちるのが嫌だった。
紙袋の中身を覗く。香水やら、化粧品やらのカモフラージュの下に細いベルトが見えた。
「これ、もう使われたの?」
単調な声。あの子のような声で問う。
「今日の朝。それが初めて」
「そう」
紙袋を沙羅の机に戻し、彼の存在を無視したまま外へ出た。
人気のない廊下に足音が響く。壁に当たり、天井に当たり、こだまする。その音のある静寂が、今の気分には丁度良かった。
ーーそっか。もう、使われたか。
思い出す。腕に抱いた小さな温かさ。震えていた身体。
外界の全てを遮断するあの子が、唯一反応を示すもの。彼女の弱点。
あの様子は異常だった。脆くて、壊れてなくなりそうで、弱々しかった。
「そっか、使われたか……」
私は、あんな姿を見たくない。あれを続けていたら、きっと彼女は壊れる。
分かってはいるが、聞き返す。正直あまり触れて欲しくない。私を当事者に巻き込んで欲しくない。
「いじめの事。篠崎の事だから気づいてるんだろ? あんたの行動が原因で、安河内沙羅達が西山さんをいじめ始めた。あんたがいじめを引き起こしたって」
責める声色。そして、責任転嫁。西山さんを助けたい。でも自分は被害を被りたくない。そんな我儘がその言葉には溢れている。
「知ってるよ」
意識するのはいつもの声。内心呆れていた。好きな娘の為に自分を犠牲にするなんて格好いいじゃんと少しは見直したのに。
ーーやっぱり人間そんなもんか。
「なら、助けてやろうとか思わないのか? 自分のせいで傷ついてる人が居るんだぞ。何にも感じないのか?」
見つけた糸に縋り付くカンダタ。周りを蹴落としてでも自分は助かりたい。目の前の少年はまさにそれだった。
「西山さんがいじめられるのは私の責任。だから私には助ける義務がある。……本気で言ってるの?」
「あたりまえだ」
正論を通して彼は自身の正当化を図ろうとする。でもそれは無理。その理論は既に破綻している。
「ならそれは笑える話ね。自分にできない事を人に押しつけて正義面。滑稽すぎるよ、あんた」
「なんだよ、僕にだって助ける気はある。でも、原因は君なんだから、僕より篠崎が助けるべきだって言ってるんだ。何か間違ってるか?」
正しさの証明に、責任をなすりつけるために、必死な彼。
滑稽。滑稽。滑稽。
自分がピエロだって気がついていない。
「自分ができない事って言ったのは今のことじゃない。前の話。あんたが賢太郎のいじめから解放された後。聞くけど、なんであんたは、あなたが原因でいじめられている西山さんを助けなかったの? 原因になったなら助けるべきなんでしょ」
ピシッ!
彼は固まった。そして、逃げるように目を逸らす。いままでの勢いは何処へやら、その様子はすっかりいじめられっ子。
バツが悪そうで、この場から消える術を考えている。そんな彼に、心底呆れる。
「……それ、貸して」
彼の所まで大股で近寄り、紙袋を奪い取った。
「あ……」
驚いたように顔を上げる。そこには微かに安堵が見える。
「今度のいじめは私が止める。だから、これは沙羅の席に戻しとく」
勢いだった。同じ、いじめの原因になった者として、こいつと一緒の所まで堕ちるのが嫌だった。
紙袋の中身を覗く。香水やら、化粧品やらのカモフラージュの下に細いベルトが見えた。
「これ、もう使われたの?」
単調な声。あの子のような声で問う。
「今日の朝。それが初めて」
「そう」
紙袋を沙羅の机に戻し、彼の存在を無視したまま外へ出た。
人気のない廊下に足音が響く。壁に当たり、天井に当たり、こだまする。その音のある静寂が、今の気分には丁度良かった。
ーーそっか。もう、使われたか。
思い出す。腕に抱いた小さな温かさ。震えていた身体。
外界の全てを遮断するあの子が、唯一反応を示すもの。彼女の弱点。
あの様子は異常だった。脆くて、壊れてなくなりそうで、弱々しかった。
「そっか、使われたか……」
私は、あんな姿を見たくない。あれを続けていたら、きっと彼女は壊れる。
0
あなたにおすすめの小説
はらぺこ令嬢は侯爵様を満たしたい
有栖
ファンタジー
エルヴィラはいつもお腹を空かせている子供だった。あまりに大食いするので心配した両親が医者に連れていくと、それは彼女が持つ魔力量のせいだとわかる。彼女は多すぎる魔力を維持するため、いつも疲れるほど食べ続けていなければならなかった。しかしひとつだけ、有り余る魔力を放出する方法があった。料理だ。彼女が作る料理には、魔力がたっぷりこめられているのである。そんな彼女の元へある日、知らせが訪れる。
※食事の描写は普通の日本のお料理になっています
幸せの賞味期限――妹が奪った夫は、甘く腐る
柴田はつみ
恋愛
幸せには「賞味期限」がある。
守る実力のない女から、甘い果実は腐っていく
甘いだけのダメンズ夫と、計算高い妹。
善意という名の「無能」を捨てたとき、リリアの前に現れたのは
氷の如き冷徹さと圧倒的な財力を持つ、本物の「男」だった――。
「お姉様のその『おっとり』、もう賞味期限切れよ。カイル様も飽き飽きしてるわ」
伯爵家の長女・リリアは、自分が作り上げた平穏な家庭が、音を立てて崩れるのをただ見つめるしかなかった。
信じていた妹・エレナの狡猾な指先が、夫・カイルの心の隙間に滑り込んでいく。
カイルは、優しくて美貌だが、自分の足で立つことのできない「甘い」男。彼はエレナの露骨な賞賛と刺激に溺れ、長年尽くしてきたリリアを「味のないスープ」と切り捨て、家から追い出してしまう
笑顔が苦手な元公爵令嬢ですが、路地裏のパン屋さんで人生やり直し中です。~「悪役」なんて、もう言わせない!~
虹湖🌈
ファンタジー
不器用だっていいじゃない。焼きたてのパンがあればきっと明日は笑えるから
「悪役令嬢」と蔑まれ、婚約者にも捨てられた公爵令嬢フィオナ。彼女の唯一の慰めは、前世でパン職人だった頃の淡い記憶。居場所を失くした彼女が選んだのは、華やかな貴族社会とは無縁の、小さなパン屋を開くことだった。
人付き合いは苦手、笑顔もぎこちない。おまけにパン作りは素人も同然。
「私に、できるのだろうか……」
それでも、彼女が心を込めて焼き上げるパンは、なぜか人の心を惹きつける。幼馴染のツッコミ、忠実な執事のサポート、そしてパンの師匠との出会い。少しずつ開いていくフィオナの心と、広がっていく温かい人の輪。
これは、どん底から立ち上がり、自分の「好き」を信じて一歩ずつ前に進む少女の物語。彼女の焼くパンのように、優しくて、ちょっぴり切なくて、心がじんわり温かくなるお話です。読後、きっとあなたも誰かのために何かを作りたくなるはず。
私の人生に、おかえりなさい。――都合のいい「お姉ちゃん」は、もうどこにもいません
しょくぱん
恋愛
「お姉ちゃんなんだから」
――それは私を縛る呪いの言葉だった。
家族の醜い穢れを一身に吸い込み、妹の美しさの「身代わり」として生きてきた私。
痛みで感覚を失った手も、鏡に映らない存在も、全ては家族のためだと信じていた。
でも、、そんな私、私じゃない!!
―― 私は、もう逃げない。 失われた人生を取り戻した今、私は、私に告げるだろう。
「私の人生に、おかえりなさい。」
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
仮面王の花嫁
松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。
しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。
記憶をなくしても君は忘れない
水城ひさぎ
恋愛
本田光莉(ほんだひかり)、アメリカ・ロサンゼルス在住フォトグラファー、28歳。光莉には、松村理乃(まつむらりの)という同い年の異母姉がいる。行方不明になった理乃を探すため、日本へやってきた光莉は、高校時代の元カレ、月島拓海(つきしまたくみ)と再会する。しかし、彼は高校時代以降の記憶を喪失していた……。
迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜
青空ばらみ
ファンタジー
一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。
小説家になろう様でも投稿をしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる