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我に返れば、消え去りたい程の恥ずかしさと言い様の無い後ろめたさが交錯する。麗子は顔を背け身を捩らせた。
「ねえ、やっぱりダメ、離して。私を放っておいてっ」
麗子が泣きながら小さくそう叫んだ時、グイッと引き寄せられ抱き締められた。目を見開いたまま身動きも出来ない麗子に星児は心の底から吐き出すように言った。
「やっと見つけたのに、離すわけねぇだろうがっ!」
全身で感じるその身体に鼓動が加速する。麗子は身悶えした。一人の男から、心からの優しさや愛情を注がれた事など無かった。困惑し戸惑う。
「星児っ! 私はそんな、貴方からの愛情を貰えるような女じゃない!」
だって私はこんな――!
「何も言うな! 言ったろ、俺が助けてやるから! 俺が麗子を守ってやるから!」
力強い星児の腕の中で麗子の強ばる身体から力が抜けた。腕の中で泣く麗子に星児は優しく言った。
「麗子、時間がない。桑名の奴が警察にでも連絡したら面倒な事になる。その前に俺がアイツをボコボコにしてやる」
不安げに見上げる麗子に、星児はもう一度キスをし「大丈夫だ」と笑った。
「麗子、こっちだ!」
星児に手を引かれて麗子は劇場から外へ飛び出した。星児は着ていたジャケットを麗子に羽織らせ、雨降るネオンの街へと走り出した。
「どこに行くの、星児!」
振り向く星児は麗子に晴れやかな笑顔を見せた。
「お前をちゃんと助けてくれるとこ!」
私を、助けてくれるところ?
星児が麗子を連れて駆け込んだのは、交番だった。開口一番、星児は言った。
「少年課の、亀岡っていうオッサンを呼んでくれ」
麗子は息を切らせ、驚き星児を見る。
少年課?
「ああ、また君か。今度はなんだ。亀岡さんが今掴まるとは限らんぞ」
対応してくれた警官は星児と顔見知りのようだった。文句を言いながらも署に連絡を取ってくれた。
警官が署に連絡を入れやり取りをしている間に星児は麗子にそっと話した。
この界隈で、ヤンチャをして幾度かお世話になった事。担当してくれていた少年課の刑事に、信頼出来る男がいる事。
話を聞いた麗子は、昔から変わらない星児の姿を見た。
ああ、私、帰って来れたんだ。
俯き、込み上げる涙を堪えて顔を覆った麗子の肩を、星児は優しく抱いた。
「もう、一人にはしないから。近いうちに、保にも会えっから」
星児の優しい声に麗子は何度もうなずいていた。
署との数分程のやり取りを終えた警官は星児に言った。
「亀岡さん、君の名前を出したら直ぐに来てくれるって」
星児は「サンキュー!」と安堵の声を漏らしたが、警察官は麗子と星児を交互に観察し、息を吐いた。
「とりあえず、そこに座って。亀岡さんが着く前に、話しだけは聞かせてもらうよ」
歓楽街の交番は忙しい。常に三人体制で交番を守る警察官だが、対応してくれた警官は今は二人に任せ、星児と麗子を端の椅子に促した。
星児は観念し、深呼吸をして口を開いた。
「ちょっと事情があって、男を、刺した」
息を呑む警官を前に麗子は星児の腕を掴んだ。星児は麗子の腕をそっと握る。
大丈夫だ、麗子は何も話すな、と言っているようだった。
ここに来る前。星児は劇場で桑名を、殴り、麗子の刺した傷口が目立たないよう〝より深い傷〟を付けた。
鬼の形相で迫る星児に桑名は怯え、命乞いまでしていた。
どこまでもクズ野郎だった。こんなヤツに麗子は。
止めどなく込み上げる怒りに震えそうだった。殺してしまおうか、とナイフを握り直し振り上げた星児を、麗子が泣きながら止めた。
『こんなヤツの為に! こんなヤツの為に星児の罪を重くしないで! 殺してしまったら、いくら未成年でも一生背負う咎は計り知れないのよ! お願い、星児、私の側にいてくれるんでしょう! 私を守ってくれるんでしょう!』
目の前で情けない姿を晒す桑名にひと蹴りいれて、星児は言い放つ。
『命拾いしたな。麗子に感謝するんだな。二度と、麗子の前に姿を現わすな。今度俺たちの前にその醜いツラを見せた時は、ミンチにして遺体も見つからないようにしてやる!』
星児は、二十歳を迎える一週間前だった。来てくれた少年課の亀岡は「狙ったのか」と笑いながら聞いた。
星児の性格も性質も知り尽くしていた優しい刑事は、全ての事情を丁寧に聞いてくれた。
改めて、麗子は星児を想った。
手が付けられないくらいヤンチャなのに、どこか人を惹きつけて離さない魅力のある子だった。ああ、正義感は誰よりも強かったからか。
「まあ、実刑になると思うが、ちゃんと勤めりゃ出て来れる。待っててやってな」
泣き崩れた麗子は、亀岡の言葉に素直に「はい」と応えていた。
「ねえ、やっぱりダメ、離して。私を放っておいてっ」
麗子が泣きながら小さくそう叫んだ時、グイッと引き寄せられ抱き締められた。目を見開いたまま身動きも出来ない麗子に星児は心の底から吐き出すように言った。
「やっと見つけたのに、離すわけねぇだろうがっ!」
全身で感じるその身体に鼓動が加速する。麗子は身悶えした。一人の男から、心からの優しさや愛情を注がれた事など無かった。困惑し戸惑う。
「星児っ! 私はそんな、貴方からの愛情を貰えるような女じゃない!」
だって私はこんな――!
「何も言うな! 言ったろ、俺が助けてやるから! 俺が麗子を守ってやるから!」
力強い星児の腕の中で麗子の強ばる身体から力が抜けた。腕の中で泣く麗子に星児は優しく言った。
「麗子、時間がない。桑名の奴が警察にでも連絡したら面倒な事になる。その前に俺がアイツをボコボコにしてやる」
不安げに見上げる麗子に、星児はもう一度キスをし「大丈夫だ」と笑った。
「麗子、こっちだ!」
星児に手を引かれて麗子は劇場から外へ飛び出した。星児は着ていたジャケットを麗子に羽織らせ、雨降るネオンの街へと走り出した。
「どこに行くの、星児!」
振り向く星児は麗子に晴れやかな笑顔を見せた。
「お前をちゃんと助けてくれるとこ!」
私を、助けてくれるところ?
星児が麗子を連れて駆け込んだのは、交番だった。開口一番、星児は言った。
「少年課の、亀岡っていうオッサンを呼んでくれ」
麗子は息を切らせ、驚き星児を見る。
少年課?
「ああ、また君か。今度はなんだ。亀岡さんが今掴まるとは限らんぞ」
対応してくれた警官は星児と顔見知りのようだった。文句を言いながらも署に連絡を取ってくれた。
警官が署に連絡を入れやり取りをしている間に星児は麗子にそっと話した。
この界隈で、ヤンチャをして幾度かお世話になった事。担当してくれていた少年課の刑事に、信頼出来る男がいる事。
話を聞いた麗子は、昔から変わらない星児の姿を見た。
ああ、私、帰って来れたんだ。
俯き、込み上げる涙を堪えて顔を覆った麗子の肩を、星児は優しく抱いた。
「もう、一人にはしないから。近いうちに、保にも会えっから」
星児の優しい声に麗子は何度もうなずいていた。
署との数分程のやり取りを終えた警官は星児に言った。
「亀岡さん、君の名前を出したら直ぐに来てくれるって」
星児は「サンキュー!」と安堵の声を漏らしたが、警察官は麗子と星児を交互に観察し、息を吐いた。
「とりあえず、そこに座って。亀岡さんが着く前に、話しだけは聞かせてもらうよ」
歓楽街の交番は忙しい。常に三人体制で交番を守る警察官だが、対応してくれた警官は今は二人に任せ、星児と麗子を端の椅子に促した。
星児は観念し、深呼吸をして口を開いた。
「ちょっと事情があって、男を、刺した」
息を呑む警官を前に麗子は星児の腕を掴んだ。星児は麗子の腕をそっと握る。
大丈夫だ、麗子は何も話すな、と言っているようだった。
ここに来る前。星児は劇場で桑名を、殴り、麗子の刺した傷口が目立たないよう〝より深い傷〟を付けた。
鬼の形相で迫る星児に桑名は怯え、命乞いまでしていた。
どこまでもクズ野郎だった。こんなヤツに麗子は。
止めどなく込み上げる怒りに震えそうだった。殺してしまおうか、とナイフを握り直し振り上げた星児を、麗子が泣きながら止めた。
『こんなヤツの為に! こんなヤツの為に星児の罪を重くしないで! 殺してしまったら、いくら未成年でも一生背負う咎は計り知れないのよ! お願い、星児、私の側にいてくれるんでしょう! 私を守ってくれるんでしょう!』
目の前で情けない姿を晒す桑名にひと蹴りいれて、星児は言い放つ。
『命拾いしたな。麗子に感謝するんだな。二度と、麗子の前に姿を現わすな。今度俺たちの前にその醜いツラを見せた時は、ミンチにして遺体も見つからないようにしてやる!』
星児は、二十歳を迎える一週間前だった。来てくれた少年課の亀岡は「狙ったのか」と笑いながら聞いた。
星児の性格も性質も知り尽くしていた優しい刑事は、全ての事情を丁寧に聞いてくれた。
改めて、麗子は星児を想った。
手が付けられないくらいヤンチャなのに、どこか人を惹きつけて離さない魅力のある子だった。ああ、正義感は誰よりも強かったからか。
「まあ、実刑になると思うが、ちゃんと勤めりゃ出て来れる。待っててやってな」
泣き崩れた麗子は、亀岡の言葉に素直に「はい」と応えていた。
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