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つくづく勇者には味方でいて欲しい
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「冗談はよせ」
「し、しかし・・・」
私の左に座すその女性には、彼女の目の前で跪く部下の報告を聴く気が全くないらしい。
「我らが主たる王が死んだだと?馬鹿な。すぐにその、ふざけた発言を取り消せ」
「・・・・・」
その部下は部下で、それ以上何かしゃべろうとする気配を出さない。
「そうかそうか。そこまで頑となってしまえば最早、仕方はあるまい」
女性は自らの右手の親指を、自らの首の端に添えると反対側の端へ素早く引っ張った。中指を立てるのと同じよう に、良い意味ではまず使われないハンドサインだ。しかし、私が守るべきであるその女性にさせれば、二つ目の意味を持つようになる。
バリッ、と何かが千切れる音が空間に響き、次にゴトッ、と何かが落ちる音がする。
月光はあれど照らされることは無い。闇の空間が広がっているが、一度明かりを灯せば一帯、鮮血に染まっていることだろう。
同袍の死に流石に嫌悪感を覚えた私は、つい声を掛ける。
「奇術師。そこまでする必要はなかったはずですが?それに・・・」
「は?」
女性は短く言葉を発し、今度は右手の小指をスッと横に、私の首を裂く様なルートで振った。ブチッと先と似たような音がしたが、私の首を裂くまでには至らない。正確にはそれに至るだけの威力はあったのだが、間一髪に私の左手の人差し指が『裂くためのルート』を妨害したため、指が落ちる程度で済んだのだ。
「貴様まで、我らが主を愚弄するというのか!?」
「妃!今するべきことは、怒りのままに血を蒔くことではないはずだ」
私が仕方なく声を荒げると、魔王の妃たる女性は少し落ち着いた様であった。暗い空間の中では、彼女の顔色までは分からない。
「・・・それに、我らが主は決して戦線からの離脱を許さない。それにもかかわらず、あのペルクータはこの城へと戻って来た。これはやはり・・・」
「そんな。だってあの人は人類の中でも最強で周りにだって彼を守る家臣はたくさんいて実際その力で何十年もこの世界の頂点にいて
「妃。私とて信じられませんが今は・・・」
焦る彼女をゆっくりとなだめながら、私は私で思案する。今思えば、王がいきなり私に妃を『守る』などという役割を付けたのにはこういう目的があったのかもしれない。
・・・私は今、その使命を果たせているのだろうか?
「とりあえずは妃。彼と同じように情報を持って帰ってくる者がいるかもしれません。待ちましょう」
私は1つ思い出し、暗い中に手探りであるものを探す。先ほど妃によって切り落とされた人差し指だ。指先を冷たい床に這わせて動かすこと10秒ほどで目的の物を見つけた。断面と思われる箇所をペロリと舐めると、元通りなるようにくっつける。1秒もかからず、完全に傷は治癒した。
「全ての傷を許容し、多大なる無へと還した異端中の異端である人間。なんて難しい話はよく分からないが、ようは吸血鬼か。おっかないわね」
「奇術師。たった一人でこの広大な城のありとあらゆる箇所を管理しているあなたには敵いません。・・・しかし、お気を付けください」
私は妃の言葉を軽視し、注意を喚起する。
もしもペルクータが誰かにつけられていれば、既に城のすぐ近くに伏兵やらがいるかもしれないからだ。ついでに言うなら、私が提示した可能性は、半分ほどあっていた。そして間違っていた半分に、私たちは・・・。
「確か、戦局が変わったと言っていたのは一月くらい前からだったわね」
「妃。その通りです」
「詳しいことは知らないけど実際何があったの?」
私や王はその戦場には居合わせなかったのだが、逆に居合わせたものは誰一人として帰らず、全滅したという内容の報告だけが虚しく脳みそを揺さぶったのを覚えている。
「私からは何とも・・・」
「そう・・・」
「なにかしら・・・?」
「奇術師。どうかいたしましたか?」
妃が何かに気づいたのは、それから数分のことだった。その間にも妃はそわそわと指をいじっていた様だが、それに気づくと一気に殺気立つのが私にも感じ取れた。
「何者かがこの城の中に侵入したわ。しかも物凄いスピードでこ、こっちに向かっ・・・!」
妃の言葉が唐突に切れた。同時に、というよりはその一瞬前に妃は大きくつんのめる。
「糸がっ!」
妃が叫ぶ。糸。ペルクータの首を切り落とし、私の指を落とした物の正体。この城の中で妃を唯一無二の絶対に仕立て上げてその物。それが、なにかの強い力を受けたらしい。
「妃ッ!侵入者の数はどれほどですか?」
「一人・・・!?」
「なっ・・・たった一人?そんな馬鹿な!」
「でも・・・!」
妃の焦りは本物だ。自然と私も焦り始める。
「迎撃しましょう。必ず、ここ
この瞬間。私の体は文字通り、蜂の巣となった。
「し、しかし・・・」
私の左に座すその女性には、彼女の目の前で跪く部下の報告を聴く気が全くないらしい。
「我らが主たる王が死んだだと?馬鹿な。すぐにその、ふざけた発言を取り消せ」
「・・・・・」
その部下は部下で、それ以上何かしゃべろうとする気配を出さない。
「そうかそうか。そこまで頑となってしまえば最早、仕方はあるまい」
女性は自らの右手の親指を、自らの首の端に添えると反対側の端へ素早く引っ張った。中指を立てるのと同じよう に、良い意味ではまず使われないハンドサインだ。しかし、私が守るべきであるその女性にさせれば、二つ目の意味を持つようになる。
バリッ、と何かが千切れる音が空間に響き、次にゴトッ、と何かが落ちる音がする。
月光はあれど照らされることは無い。闇の空間が広がっているが、一度明かりを灯せば一帯、鮮血に染まっていることだろう。
同袍の死に流石に嫌悪感を覚えた私は、つい声を掛ける。
「奇術師。そこまでする必要はなかったはずですが?それに・・・」
「は?」
女性は短く言葉を発し、今度は右手の小指をスッと横に、私の首を裂く様なルートで振った。ブチッと先と似たような音がしたが、私の首を裂くまでには至らない。正確にはそれに至るだけの威力はあったのだが、間一髪に私の左手の人差し指が『裂くためのルート』を妨害したため、指が落ちる程度で済んだのだ。
「貴様まで、我らが主を愚弄するというのか!?」
「妃!今するべきことは、怒りのままに血を蒔くことではないはずだ」
私が仕方なく声を荒げると、魔王の妃たる女性は少し落ち着いた様であった。暗い空間の中では、彼女の顔色までは分からない。
「・・・それに、我らが主は決して戦線からの離脱を許さない。それにもかかわらず、あのペルクータはこの城へと戻って来た。これはやはり・・・」
「そんな。だってあの人は人類の中でも最強で周りにだって彼を守る家臣はたくさんいて実際その力で何十年もこの世界の頂点にいて
「妃。私とて信じられませんが今は・・・」
焦る彼女をゆっくりとなだめながら、私は私で思案する。今思えば、王がいきなり私に妃を『守る』などという役割を付けたのにはこういう目的があったのかもしれない。
・・・私は今、その使命を果たせているのだろうか?
「とりあえずは妃。彼と同じように情報を持って帰ってくる者がいるかもしれません。待ちましょう」
私は1つ思い出し、暗い中に手探りであるものを探す。先ほど妃によって切り落とされた人差し指だ。指先を冷たい床に這わせて動かすこと10秒ほどで目的の物を見つけた。断面と思われる箇所をペロリと舐めると、元通りなるようにくっつける。1秒もかからず、完全に傷は治癒した。
「全ての傷を許容し、多大なる無へと還した異端中の異端である人間。なんて難しい話はよく分からないが、ようは吸血鬼か。おっかないわね」
「奇術師。たった一人でこの広大な城のありとあらゆる箇所を管理しているあなたには敵いません。・・・しかし、お気を付けください」
私は妃の言葉を軽視し、注意を喚起する。
もしもペルクータが誰かにつけられていれば、既に城のすぐ近くに伏兵やらがいるかもしれないからだ。ついでに言うなら、私が提示した可能性は、半分ほどあっていた。そして間違っていた半分に、私たちは・・・。
「確か、戦局が変わったと言っていたのは一月くらい前からだったわね」
「妃。その通りです」
「詳しいことは知らないけど実際何があったの?」
私や王はその戦場には居合わせなかったのだが、逆に居合わせたものは誰一人として帰らず、全滅したという内容の報告だけが虚しく脳みそを揺さぶったのを覚えている。
「私からは何とも・・・」
「そう・・・」
「なにかしら・・・?」
「奇術師。どうかいたしましたか?」
妃が何かに気づいたのは、それから数分のことだった。その間にも妃はそわそわと指をいじっていた様だが、それに気づくと一気に殺気立つのが私にも感じ取れた。
「何者かがこの城の中に侵入したわ。しかも物凄いスピードでこ、こっちに向かっ・・・!」
妃の言葉が唐突に切れた。同時に、というよりはその一瞬前に妃は大きくつんのめる。
「糸がっ!」
妃が叫ぶ。糸。ペルクータの首を切り落とし、私の指を落とした物の正体。この城の中で妃を唯一無二の絶対に仕立て上げてその物。それが、なにかの強い力を受けたらしい。
「妃ッ!侵入者の数はどれほどですか?」
「一人・・・!?」
「なっ・・・たった一人?そんな馬鹿な!」
「でも・・・!」
妃の焦りは本物だ。自然と私も焦り始める。
「迎撃しましょう。必ず、ここ
この瞬間。私の体は文字通り、蜂の巣となった。
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