Be Crazy To Be Crazy!!

ENIGMA

文字の大きさ
4 / 17
第一章 日常

004 世間話

よくある寂れたオフィス街に立つ、中身不明の白いコンクリート製ビル。謎の中華料理店”ジー”の広告が貼ってありますが、炒飯でもなく天津飯でもなく、でかでかと杏仁豆腐のみが描かれています。スタンスが前衛的です。

「センパイ遅いですねー、さっきお風呂上がったって話じゃなかったんですか?」
『ああ、そうなんだけど・・・。』

ちょうどその広告が貼られた窓の裏で、ピョコピョコと何かが動いています。チョコレート色のソファーに寝転がり、足をパタつかせているツインテールの少女が一人。

「というか、よくあのセンパイが入らせましたね。そういうの凄い嫌がるじゃないですか、あの人。」
『・・・勝手に入ったから怒らせちゃったよ。』
「へー案外デリカシーないですね澄晴さん。」
『馬鹿な事したな。・・・刻は怪我してても言わないからね。を確認したかったのもある。』

それらしきデバイスも介在せずに聞こえる、やや落ち込んだような声。少女ーー綾瀬 柚あやせ ゆずは励ますように、というより面白がるようにニヤリと笑いました。その手元では、凄まじい勢いで文字や絵、数字、画像やら何やらが現れては消えを繰り返す、真っ赤な背表紙の”本”が開かれています。少し覗き込んだだけでめまいがしてきそうなそのページを弄びながら、柚は誰もいない空間へと話しかけました。

「そこで千里眼スキルを使わないあたりが筋金入りの風紀委員って感じです。デリカシーないですけど。」
『はは、耳が痛いな。・・・まあ、もうすぐ引退の身だよ。』
「あー3年ですもんね。っていうか、澄晴さんはいいんですけどセンパイやばそうです。特に出席日数とか平常点とか態度全般に関して。教師に好かれるタイプじゃないですし、見るからに。」

全身黒装束で憎たらしい年上の友人を思い浮かべながら、柚はそう言いました。昔はさらにシルバーやらチェーンやらピアスやらが付随していた立派なヤンキーでしたが、最近はちょっと丸くなったようです。

『・・・教師に好かれる、ね。な。』
「ん?何ですか?」
『いや、何でもないよ。気になるなら君も未来視ればいい。』
「あーー!!意趣返しですかソレ!!意趣返しですね!?受けて立つ。センパーイ、なんか澄晴さんがセンパイの成績まで覗いて来いって、あ、そういや前言ってた衝撃の数学0点事件はどうなりました?」
『ごめんごめん。悪かった。』

職人技を彷彿とさせる手さばきで圧縮概念アイテムを展開させました。”本”の上に現れた光の紋様が宙をくるくると回る様子を澄晴にながら、柚はペロりと舌を出します。癖ですね。

「・・・能力は悪魔に対してだけ、ってことでしょう。お説教は十分です。」
『ああ。』
「別に好き好んで人の”運命”なんか見たくもないですよ、私。」
『・・・君の心労には言葉もない。』
「もーそういうのいいです。早くセンパイ連れてきて下さいッ!今から大事な話が大量にあるんですから!」
『了解。』
「抵抗するようでしたら杏仁豆腐ひとじちをFLY AWAYするって言っといて下さい。」
『ははは、分かった。』

フッと通信が途絶えると、机上の明かり一つしか灯っていないその部屋は、仄暗い雰囲気に包まれました。窓の外は深い夜の闇に覆われており、ソファーの上の柚の表情すらも塗り潰しています。

「よ、っと。」

ーーその一言で、部屋中の照明が一斉に光輝きました。

「面倒なことになりそうですね。」

誰に向けてでもなくそう呟いた柚は、笑っていました。

新しい玩具を見つけた子供のように。

感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。