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第一章 日常
004 世間話
よくある寂れたオフィス街に立つ、中身不明の白いコンクリート製ビル。謎の中華料理店”極”の広告が貼ってありますが、炒飯でもなく天津飯でもなく、でかでかと杏仁豆腐のみが描かれています。スタンスが前衛的です。
「センパイ遅いですねー、さっきお風呂上がったって話じゃなかったんですか?」
『ああ、そうなんだけど・・・。』
ちょうどその広告が貼られた窓の裏で、ピョコピョコと何かが動いています。チョコレート色のソファーに寝転がり、足をパタつかせているツインテールの少女が一人。
「というか、よくあのセンパイが入らせましたね。そういうの凄い嫌がるじゃないですか、あの人。」
『・・・勝手に入ったから怒らせちゃったよ。』
「へー案外デリカシーないですね澄晴さん。」
『馬鹿な事したな。・・・刻は怪我してても言わないからね。それを確認したかったのもある。』
それらしきデバイスも介在せずに聞こえる、やや落ち込んだような声。少女ーー綾瀬 柚は励ますように、というより面白がるようにニヤリと笑いました。その手元では、凄まじい勢いで文字や絵、数字、画像やら何やらが現れては消えを繰り返す、真っ赤な背表紙の”本”が開かれています。少し覗き込んだだけでめまいがしてきそうなそのページを弄びながら、柚は誰もいない空間へと話しかけました。
「そこで千里眼を使わないあたりが筋金入りの風紀委員って感じです。デリカシーないですけど。」
『はは、耳が痛いな。・・・まあ、もうすぐ引退の身だよ。』
「あー3年ですもんね。っていうか、澄晴さんはいいんですけどセンパイやばそうです。特に出席日数とか平常点とか態度全般に関して。教師に好かれるタイプじゃないですし、見るからに。」
全身黒装束で憎たらしい年上の友人を思い浮かべながら、柚はそう言いました。昔はさらにシルバーやらチェーンやらピアスやらが付随していた立派なヤンキーでしたが、最近はちょっと丸くなったようです。
『・・・教師に好かれる、ね。つまらないな。』
「ん?何ですか?」
『いや、何でもないよ。気になるなら君も未来視ればいい。』
「あーー!!意趣返しですかソレ!!意趣返しですね!?受けて立つ。センパーイ、なんか澄晴さんがセンパイの成績まで覗いて来いって、あ、そういや前言ってた衝撃の数学0点事件はどうなりました?」
『ごめんごめん。悪かった。』
職人技を彷彿とさせる手さばきで圧縮概念を展開させました。”本”の上に現れた光の紋様が宙をくるくると回る様子を澄晴に見せつけながら、柚はペロりと舌を出します。癖ですね。
「・・・能力は悪魔に対してだけ、ってことでしょう。お説教は十分です。」
『ああ。』
「別に好き好んで人の”運命”なんか見たくもないですよ、私。」
『・・・君の心労には言葉もない。』
「もーそういうのいいです。早くセンパイ連れてきて下さいッ!今から大事な話が大量にあるんですから!」
『了解。』
「抵抗するようでしたら杏仁豆腐をFLY AWAYするって言っといて下さい。」
『ははは、分かった。』
フッと通信が途絶えると、机上の明かり一つしか灯っていないその部屋は、仄暗い雰囲気に包まれました。窓の外は深い夜の闇に覆われており、ソファーの上の柚の表情すらも塗り潰しています。
「よ、っと。」
ーーその一言で、部屋中の照明が一斉に光輝きました。
「面倒なことになりそうですね。」
誰に向けてでもなくそう呟いた柚は、笑っていました。
新しい玩具を見つけた子供のように。
「センパイ遅いですねー、さっきお風呂上がったって話じゃなかったんですか?」
『ああ、そうなんだけど・・・。』
ちょうどその広告が貼られた窓の裏で、ピョコピョコと何かが動いています。チョコレート色のソファーに寝転がり、足をパタつかせているツインテールの少女が一人。
「というか、よくあのセンパイが入らせましたね。そういうの凄い嫌がるじゃないですか、あの人。」
『・・・勝手に入ったから怒らせちゃったよ。』
「へー案外デリカシーないですね澄晴さん。」
『馬鹿な事したな。・・・刻は怪我してても言わないからね。それを確認したかったのもある。』
それらしきデバイスも介在せずに聞こえる、やや落ち込んだような声。少女ーー綾瀬 柚は励ますように、というより面白がるようにニヤリと笑いました。その手元では、凄まじい勢いで文字や絵、数字、画像やら何やらが現れては消えを繰り返す、真っ赤な背表紙の”本”が開かれています。少し覗き込んだだけでめまいがしてきそうなそのページを弄びながら、柚は誰もいない空間へと話しかけました。
「そこで千里眼を使わないあたりが筋金入りの風紀委員って感じです。デリカシーないですけど。」
『はは、耳が痛いな。・・・まあ、もうすぐ引退の身だよ。』
「あー3年ですもんね。っていうか、澄晴さんはいいんですけどセンパイやばそうです。特に出席日数とか平常点とか態度全般に関して。教師に好かれるタイプじゃないですし、見るからに。」
全身黒装束で憎たらしい年上の友人を思い浮かべながら、柚はそう言いました。昔はさらにシルバーやらチェーンやらピアスやらが付随していた立派なヤンキーでしたが、最近はちょっと丸くなったようです。
『・・・教師に好かれる、ね。つまらないな。』
「ん?何ですか?」
『いや、何でもないよ。気になるなら君も未来視ればいい。』
「あーー!!意趣返しですかソレ!!意趣返しですね!?受けて立つ。センパーイ、なんか澄晴さんがセンパイの成績まで覗いて来いって、あ、そういや前言ってた衝撃の数学0点事件はどうなりました?」
『ごめんごめん。悪かった。』
職人技を彷彿とさせる手さばきで圧縮概念を展開させました。”本”の上に現れた光の紋様が宙をくるくると回る様子を澄晴に見せつけながら、柚はペロりと舌を出します。癖ですね。
「・・・能力は悪魔に対してだけ、ってことでしょう。お説教は十分です。」
『ああ。』
「別に好き好んで人の”運命”なんか見たくもないですよ、私。」
『・・・君の心労には言葉もない。』
「もーそういうのいいです。早くセンパイ連れてきて下さいッ!今から大事な話が大量にあるんですから!」
『了解。』
「抵抗するようでしたら杏仁豆腐をFLY AWAYするって言っといて下さい。」
『ははは、分かった。』
フッと通信が途絶えると、机上の明かり一つしか灯っていないその部屋は、仄暗い雰囲気に包まれました。窓の外は深い夜の闇に覆われており、ソファーの上の柚の表情すらも塗り潰しています。
「よ、っと。」
ーーその一言で、部屋中の照明が一斉に光輝きました。
「面倒なことになりそうですね。」
誰に向けてでもなくそう呟いた柚は、笑っていました。
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