Be Crazy To Be Crazy!!

ENIGMA

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第一章 日常

010 社交場

地下駐車場の入り口付近で少々暴走状態だった大型二輪のスピードが弱まるのを見計らい、刻は飛び降り下車しました。いい子の皆さんは真似しないようにしましょう。そのまま慣れたように奥へ消えていくバイク集団を見送って、視界不良の主な要因であるフルフェイスを取り去ります。都会の心臓部に位置するこの場所は、周囲を包み込む闇夜をものともしない明るい輝きに満ちていました。

「Cの西街ねぇ・・・。」

正確にはまた別の土地名があるのですが、刻たち魔法戦士は”悪魔出没地域レッドゾーン”として区切った地域を、それぞれAからEまでの区街、それをさらに分割した東西南北の街として呼ぶことが多いです。あまり日本語に堪能でない未恋がつけたので街が被ってますが、誰も気にしてません。

「・・・やべ。」

ヘルメットを小脇に抱えたままポケットに手を突っ込んだ刻は、そこに入っていたの存在に気が付きました。引っ張り出してみると、出かける際にペンケースか何かに入れておこうと思って忘れていた、例の澄晴からのメモです。不良の溜まり場で持っておきたくはない代物ですね。特に”偵察”って辺りがいい感じに不穏です。

「よっしゃー久々にたけぇ酒飲めんぞ刻って言いたいところだがそういえばお前炭酸も飲めねえお子ちゃまだったなったくよぉ、酒も飲めねえタバコもパスりやがるとか何が楽しくて不良やってんだっつー何見てんだそれまさか5秒に1回バイバイン式に無限増殖する諭吉か!?」
「あー、なんかバイバインだと番号被るから贋金らしいなァ。」

後ろからいきなり抱き着いてきた羽蔡を軽くいなしながら、刻はそう言いました。思いっきり飛び付かれましたが微動だにしない辺り、流石の体幹です。

「叔父さんの買い物メモだよボケ。」
「はあああお前そんなん見るしかねえだろ何何何マムシ入りの酒とか無可動実銃とかカプサイシンとかその辺どう」
「ん?使用済みの包帯と豚の眼球。」
「すまん詮索して悪かったな!行こうぜ!」

ちなみに実話なので闇が深いです。後から続々とやって来た阿崎たちから鍵を受け取り、羽蔡は刻の肩に腕を回して、というより半分のしかかりながら、歓楽街の方へと足を進めました。ネオンの色とりどりの光が渦巻く中央道には、スパンコールまみれのドレスを着た女性やら全身真っ赤なスーツの男性、道行く人に手当たり次第に声をかけまくっている若者、やせ細った野良猫、道端で蹲っている酔っ払い、水槽の中で巨大化した金魚、ゴミ箱を漁るカラス、シャツから刺青が覗いている輩など、様々な人や生き物がいます。たまに警察が歩いていますが、人混みの中に紛れてすぐに見えなくなりました。

「・・・そういや電話で話してたじゃん?どっかと揉めてんの。」
「ひゃはは、別にダーツ屋で絡んできたゴミを片したってだけだよバーカインブルの神に愛された俺様の天賦の才に嫉妬しやがったんじゃねえの」
「加護薄そうな神だな。」
「あんだとォテメエ呪われて一生パジェロも石鹸も当たんなこの背信者が」

しばらく他愛もない話で盛り上がりながら、刻たちはやや入り組んだ路地の先にあるビルの前まで来ました。一見しただけでは”店”とは分からないような趣きのエントランスには、何やら物々しい風貌をしたいかつい体格の男性が立っています。とは言え頭髪がポマードでがちがちに固められていたり結構お高そうなブランド物のスリーピースをきちんと着こなしていたりするので、刻の脳裏にドレスコードという単語がよぎりましたが、隣の奴の服装を思い出して何も気にしないことにしました。

「おーそーいや刻ってこの店来た事ねえかァまあ俺もたまにしか来ねえってかけど」

その見るからに”門番”といった感じの男の前で足が止まった刻に、蛍光ピンクはそう笑いながら囁きました。そしてひらひらと男に手を振り、丁寧なお辞儀と共に横にけた男の傍を通り抜けて、黒いスモークが全面にかかった自動ドアへと向かいます。

薄暗い照明のかかった内部に吸い込まれるようにして、刻たちの姿がガラスの向こうに消えると、男は再びドアの前に立ち塞がり、辺りは静寂に包まれました。

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