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第一章 日常
012 依頼
薬物依存の原因の一つに、薬物のもたらす多幸感があります。不安を和らげ心を落ち着かせたり、豊かな感覚と感性を与えたり、安らかな眠気を誘う効果。悲しいことに、たとえ後に地獄が待っていると分かっていても、自らの全てを投げ捨てて薬物が見せる美しいその”一時の夢”を求める人々は後を絶ちません。大体心の弱さだとか、軽率な行動だとか、自己責任で片付けられる話ではありますが、どうしようもない闇に飲まれて何もかもがどうでもよくなった人々にとって、規則や倫理や正義が一体何の意味を持つのでしょうか。
「・・・ヤク?んなもん何で俺らが調べるんですかね?慈善事業って訳じゃなさそうだが、それこそサツの仕事でしょう。」
静かに部屋に戻って来た阿崎からコップを受け取った刻は、そのままテーブルの上に置いてうんざりした表情で榊を見ました。
「ふふ、その辺りの事情を伝えるのも良いですが、聞いた後で妙な真似をすればどうなるか分かってますね?常盤。」
「・・・あ?」
顔を伏せ、不敵に口元を歪ませて笑う榊に、刻の目がそっと細められました。不穏な雰囲気です。“事情”を知ったものは簡単には関係を切れない、それが不良に限らず組織やグループの恐ろしい所ですね。
「裸エプロンで自慰させながら全員の靴でも舐めさせますか。貴方は羞恥プレイが良く効きそうです。」
「死ね。」
「うふふ、貴方のような人が屈辱的な懲罰に泣き喚く様もなかなか愉快だと思いまして。その無駄なプライドをずたずたにして差し上げますよ。いかがです?」
「テメエを物理的にずたずたにしてやろうか、あ?」
ついに敬語も外れて軽く瞳孔も開いている刻に、榊はハイライトの消えた目で笑いかけます。暴力は専門でこそありませんが、リーダー格の一人である以上、榊の強さも並大抵ではありませんし、何より数と武器の差が圧倒的です。ピリついた雰囲気に静まり返る周囲の青年たち。そんな中に緊張感のまるでない声が響きました。
「刻さぁちょい聞きてーんだけど・・・」
「・・・んだよ。」
「インスタ上げねーから記念に撮っていい?刻の裸エプロンぐえッ」
わざとらしく静かになりました。南無阿弥陀仏。とはいえ多少なりとも毒気が抜かれたのか、やや冷静さを取り戻した刻は、表情の抜け落ちた顔で榊を睨みながら話を続けます。
「・・・まあ、話す気がねえっていう意味なら別にいいですよ。そっちの厄介ごとなんぞに興味はない。」
「おや、そうでしたか。私はてっきりそれ目当てかと。」
「・・・?」
「ふふ、では目的はお話しましょう。そのクスリに関わったらしい手下数人が消息不明でしてね。裏で面倒な連中に繋がられても困るので、少しばかり行方を探ろうと思うのですよ。」
「はぁ?生きてんのかそいつら?」
「今の所は連絡一つ通じませんね。ただ、街をふらついているのを見かけた、とかいう目撃情報があるので生きてはいるのでしょうが、それだと尚更厄介な話になる訳です。」
「・・・へぇ、アンタとしては死んでて欲しかったみたいだな。」
「いえ、別に何事もなければそれで良い話ですよ。貴方こそ、この私からの頼み事にしては結構乗り気じゃないですか?どういう心境の変化でしょう?」
お互い笑顔で火花が飛び散っています。熱量3万ボルト。
「まーまー何にせよ聞き込みして来りゃいいんでしょ任せて榊さん俺そーいうの得意だしってかボスは?」
「ああ、凱なら用があるとか言って来ていませんよ。いつもの事です。」
「ひゃはは残念せっかく刻が来たのになー、こないだはあんなに会いたがってたじゃん何か話あんじゃなかったのかよって」
「さて、あの人の考えは私には想像が尽きませんから、何とも言い難い所ですね。」
すっかり酔いが回り始めた羽蔡を、榊は愛おしげに眺めながらそう言いました。時刻は3時半を過ぎ、そろそろ深夜とも明け方ともつかない時間帯に突入しました。
「おい刻ーなんかお前分裂してんぞ分身の術ナチュラルに習得してんぞひゃははははプラナリアみてえ」
「チッ・・・お前羽蔡どんだけ飲んでんだ。徹夜したきゃアルコール控えろって散々言ったろ。」
「いやだって刻と酒場来てなんかはしゃいじゃってさぁ幸せの現れ?的な?だから有り難がれ!」
「・・・バイクの鍵は?」
「マスターに預けた!」
「・・・取ってくるわ。」
「はああもう帰るとかお前マジ、あ、ちょい待て待て阿崎あーざーきーちょっとついてってこのプレートと交換しろって言ってこい」
「了解っス。」
***
部屋から出ていく二つの影を見送って、羽蔡は隣で優雅にワイングラスを揺らす青年に向かい、穏やかに呟きました。
「あーあ、逃げられた」
「・・・何故アレを連れて来たのです?どうも最近は風紀とつるんでいると専らの噂ですが。」
「そりゃ大事な友達だもんってか自分でドッグタグ付けてるもんなぁアイツ、ひゃはは」
「羽蔡。」
「心配しなくても大丈夫だよ榊さん」
ーーもうすぐ刻も俺たちと"一緒"になるんだから
「・・・ヤク?んなもん何で俺らが調べるんですかね?慈善事業って訳じゃなさそうだが、それこそサツの仕事でしょう。」
静かに部屋に戻って来た阿崎からコップを受け取った刻は、そのままテーブルの上に置いてうんざりした表情で榊を見ました。
「ふふ、その辺りの事情を伝えるのも良いですが、聞いた後で妙な真似をすればどうなるか分かってますね?常盤。」
「・・・あ?」
顔を伏せ、不敵に口元を歪ませて笑う榊に、刻の目がそっと細められました。不穏な雰囲気です。“事情”を知ったものは簡単には関係を切れない、それが不良に限らず組織やグループの恐ろしい所ですね。
「裸エプロンで自慰させながら全員の靴でも舐めさせますか。貴方は羞恥プレイが良く効きそうです。」
「死ね。」
「うふふ、貴方のような人が屈辱的な懲罰に泣き喚く様もなかなか愉快だと思いまして。その無駄なプライドをずたずたにして差し上げますよ。いかがです?」
「テメエを物理的にずたずたにしてやろうか、あ?」
ついに敬語も外れて軽く瞳孔も開いている刻に、榊はハイライトの消えた目で笑いかけます。暴力は専門でこそありませんが、リーダー格の一人である以上、榊の強さも並大抵ではありませんし、何より数と武器の差が圧倒的です。ピリついた雰囲気に静まり返る周囲の青年たち。そんな中に緊張感のまるでない声が響きました。
「刻さぁちょい聞きてーんだけど・・・」
「・・・んだよ。」
「インスタ上げねーから記念に撮っていい?刻の裸エプロンぐえッ」
わざとらしく静かになりました。南無阿弥陀仏。とはいえ多少なりとも毒気が抜かれたのか、やや冷静さを取り戻した刻は、表情の抜け落ちた顔で榊を睨みながら話を続けます。
「・・・まあ、話す気がねえっていう意味なら別にいいですよ。そっちの厄介ごとなんぞに興味はない。」
「おや、そうでしたか。私はてっきりそれ目当てかと。」
「・・・?」
「ふふ、では目的はお話しましょう。そのクスリに関わったらしい手下数人が消息不明でしてね。裏で面倒な連中に繋がられても困るので、少しばかり行方を探ろうと思うのですよ。」
「はぁ?生きてんのかそいつら?」
「今の所は連絡一つ通じませんね。ただ、街をふらついているのを見かけた、とかいう目撃情報があるので生きてはいるのでしょうが、それだと尚更厄介な話になる訳です。」
「・・・へぇ、アンタとしては死んでて欲しかったみたいだな。」
「いえ、別に何事もなければそれで良い話ですよ。貴方こそ、この私からの頼み事にしては結構乗り気じゃないですか?どういう心境の変化でしょう?」
お互い笑顔で火花が飛び散っています。熱量3万ボルト。
「まーまー何にせよ聞き込みして来りゃいいんでしょ任せて榊さん俺そーいうの得意だしってかボスは?」
「ああ、凱なら用があるとか言って来ていませんよ。いつもの事です。」
「ひゃはは残念せっかく刻が来たのになー、こないだはあんなに会いたがってたじゃん何か話あんじゃなかったのかよって」
「さて、あの人の考えは私には想像が尽きませんから、何とも言い難い所ですね。」
すっかり酔いが回り始めた羽蔡を、榊は愛おしげに眺めながらそう言いました。時刻は3時半を過ぎ、そろそろ深夜とも明け方ともつかない時間帯に突入しました。
「おい刻ーなんかお前分裂してんぞ分身の術ナチュラルに習得してんぞひゃははははプラナリアみてえ」
「チッ・・・お前羽蔡どんだけ飲んでんだ。徹夜したきゃアルコール控えろって散々言ったろ。」
「いやだって刻と酒場来てなんかはしゃいじゃってさぁ幸せの現れ?的な?だから有り難がれ!」
「・・・バイクの鍵は?」
「マスターに預けた!」
「・・・取ってくるわ。」
「はああもう帰るとかお前マジ、あ、ちょい待て待て阿崎あーざーきーちょっとついてってこのプレートと交換しろって言ってこい」
「了解っス。」
***
部屋から出ていく二つの影を見送って、羽蔡は隣で優雅にワイングラスを揺らす青年に向かい、穏やかに呟きました。
「あーあ、逃げられた」
「・・・何故アレを連れて来たのです?どうも最近は風紀とつるんでいると専らの噂ですが。」
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