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第一章 日常
013 帰り道 (R6/1/30改稿)
”望んだ世界”。刻の脳内に妙に焼き付いた榊の言葉は、不思議な魅力を持っていました。まるで優しく”手招かれている”ような感覚。そんな誘いをどこか冷めた感情でいなし、刻は先ほどの会話と例の“死体”の関わりについて考えていました。
通常、悪魔は人には見えません。しかし、人間の生命エネルギーを“餌”としており、襲われた人間は大抵"存在"そのものを跡形も残さず食い尽くされてしまいます。この場合、食われた人間の"運命"が断ち切られ、何らかの別の事情ーー事故や事件などーーによって、食い尽くされたことが誤魔化されるという仕組みになっているのですが、生憎刻にはこの辺の話があやふやです。後で柚か澄晴あたりにレクチャーして貰いたいところです。
ただまあ、今回のように中途半端に"存在"が残ったままである変死体は、結構な騒ぎを引き起こす筈だということは刻も悟っていました。雰囲気で。
しかし、なぜ今日いなくなったであろう死体の人間について、誰も騒がないのでしょうか。刻のフルパワー聞き耳でも、それらしき話は欠片も掴めませんでした。まだ発見されていないとしても、あの何だかんだ周囲に目敏い羽蔡や榊がいる仲間内で、メンバーが消えたことに一切言及がないというのが、刻にとっては少々不気味です。もしかしたら、勢力圏に迷い込んだ無関係の野良不良だったのか。それともいようがいまいがどうでもいいで済まされたのか。
――例の行方不明になった連中も悪魔絡みか?
行方不明の連中に関しても、もし悪魔が関わっているとするならば、何かしらの催眠やら能力やらをかけられている可能性が考えられます。失踪の原因は悪魔でした☆とか報告したら、榊がどんな顔をするのか刻はちょっとだけ気になりましたが、そんなことよりもっと気になることがありました。
――望んだ世界に関わってた、ねえ。
悪魔絡みにせよ何にせよ、その厄介な“クスリ”を調べてみないことには埒が明きません。ややこしくなってくる現状に、刻のささやかな脳細胞が発狂ののち爆発四散しかけていた時、刻の背中にのしかかっている人影がはしゃいだ声をあげました。
「中華専門料理亭”極”だとよーおい刻ィやばくねあの広告アヴァンギャルドを勘違いしてる奴が作りました的なえげつねー見た目してんぞひゃはは」
「あ?・・・いいだろ別に。」
「え何その反応まるで実は常連でしたみたいな」
「黙れ。」
酔っ払いのダル絡みにしては無駄に鋭い勘に辟易しながら、刻は信号待ちのバイクを軽く吹かせました。脇道にはでかでかと看板に杏仁豆腐がかかれた異様な存在感を放つ店が、明朝にも関わらず謎のネオンで光り輝いています。誘蛾灯みたいに。
「んだよー好きなら好きって言えよブァーカ親友たるこの俺に教えてくれたっていいじゃんホント分かりやすいなーお前そうだ二次会行かね杏仁豆腐パーリナイ」
「さっさと帰って寝ろ酔っ払い。」
そう素っ気なく言い返しながら、刻はスッと切れ長の目を細めました。すっかり人や車の姿が減った町並みは、やや白み始めた空を背景に、どこか幻想的な青い光と影に包まれています。刻はこの寝静まった街の静謐な雰囲気が好きでした。
「キレーだね」
「ん・・・まあな。」
珍しく短いセリフが来たので少々面喰いながら、刻は信号が変わると同時にバイクを発進させました。阿崎やらなんやらの大型二輪がそれに続き、バイク集団の重厚なエンジン音が周囲に響き渡ります。住宅街でやったら訴訟モンですね。
「・・・あのさぁ、羽蔡。」
「あー何?刻」
明け方の冷たい空気が、凄まじいスピードで首筋を吹き抜けていきます。刻は何かを躊躇うように少し口を噤みましたが、やがて腹を括った様子で話し始めました。
「・・・凱さんがどうのってお前さっきなんか言ってただろ。アレ何の話だよ。」
「おーそうそう凱さん!こないだ珍しく溜まり場の方来ててさぁーお前のこと探してたぜ二人で話したいことあるとか言ってってか俺の方が聞きたいんだけどその話詳しく」
口調は笑い交じりですが、どこかドスのきいた羽蔡の声に若干気圧されながら、刻はどうでも良さそうに顔を背けて黙り込みました。分かりやすいですね。
「ンな事知る訳ねーだろ馬鹿。・・・最後に会ったの去年の冬口だぞ。お前も居たろ。」
「あん時もさぁお前頭撫でられてなんか嬉しそーにしててさぁなんかムカつくからマジ写真撮って炎上ネタと共にネットの海にでも晒し上げたらどんな顔すんだろーなとか思ってさぁ」
「殺す。」
刻の珍しくふわふわしていた態度が消し飛びました。羽蔡のサド趣味には付き合ってられません。ケラケラと笑いながら刻の腰に回した腕で刻をギュッと抱きしめる羽蔡と、より密着具合が増した体勢に舌打ちしながらも放置する刻。二人の乗った大型二輪は、他の仲間たちのバイクを引き連れながら、並び立つ巨大ビル群の中に消えていきます。
「ひゃはは悪ィ悪ィ怒んなって、ジョーダンだよ刻」
ーー不貞腐れた様子の刻にそう笑いかけた羽蔡の手が、刻のポケットに伸ばされていたことに、刻は気付きませんでした。
通常、悪魔は人には見えません。しかし、人間の生命エネルギーを“餌”としており、襲われた人間は大抵"存在"そのものを跡形も残さず食い尽くされてしまいます。この場合、食われた人間の"運命"が断ち切られ、何らかの別の事情ーー事故や事件などーーによって、食い尽くされたことが誤魔化されるという仕組みになっているのですが、生憎刻にはこの辺の話があやふやです。後で柚か澄晴あたりにレクチャーして貰いたいところです。
ただまあ、今回のように中途半端に"存在"が残ったままである変死体は、結構な騒ぎを引き起こす筈だということは刻も悟っていました。雰囲気で。
しかし、なぜ今日いなくなったであろう死体の人間について、誰も騒がないのでしょうか。刻のフルパワー聞き耳でも、それらしき話は欠片も掴めませんでした。まだ発見されていないとしても、あの何だかんだ周囲に目敏い羽蔡や榊がいる仲間内で、メンバーが消えたことに一切言及がないというのが、刻にとっては少々不気味です。もしかしたら、勢力圏に迷い込んだ無関係の野良不良だったのか。それともいようがいまいがどうでもいいで済まされたのか。
――例の行方不明になった連中も悪魔絡みか?
行方不明の連中に関しても、もし悪魔が関わっているとするならば、何かしらの催眠やら能力やらをかけられている可能性が考えられます。失踪の原因は悪魔でした☆とか報告したら、榊がどんな顔をするのか刻はちょっとだけ気になりましたが、そんなことよりもっと気になることがありました。
――望んだ世界に関わってた、ねえ。
悪魔絡みにせよ何にせよ、その厄介な“クスリ”を調べてみないことには埒が明きません。ややこしくなってくる現状に、刻のささやかな脳細胞が発狂ののち爆発四散しかけていた時、刻の背中にのしかかっている人影がはしゃいだ声をあげました。
「中華専門料理亭”極”だとよーおい刻ィやばくねあの広告アヴァンギャルドを勘違いしてる奴が作りました的なえげつねー見た目してんぞひゃはは」
「あ?・・・いいだろ別に。」
「え何その反応まるで実は常連でしたみたいな」
「黙れ。」
酔っ払いのダル絡みにしては無駄に鋭い勘に辟易しながら、刻は信号待ちのバイクを軽く吹かせました。脇道にはでかでかと看板に杏仁豆腐がかかれた異様な存在感を放つ店が、明朝にも関わらず謎のネオンで光り輝いています。誘蛾灯みたいに。
「んだよー好きなら好きって言えよブァーカ親友たるこの俺に教えてくれたっていいじゃんホント分かりやすいなーお前そうだ二次会行かね杏仁豆腐パーリナイ」
「さっさと帰って寝ろ酔っ払い。」
そう素っ気なく言い返しながら、刻はスッと切れ長の目を細めました。すっかり人や車の姿が減った町並みは、やや白み始めた空を背景に、どこか幻想的な青い光と影に包まれています。刻はこの寝静まった街の静謐な雰囲気が好きでした。
「キレーだね」
「ん・・・まあな。」
珍しく短いセリフが来たので少々面喰いながら、刻は信号が変わると同時にバイクを発進させました。阿崎やらなんやらの大型二輪がそれに続き、バイク集団の重厚なエンジン音が周囲に響き渡ります。住宅街でやったら訴訟モンですね。
「・・・あのさぁ、羽蔡。」
「あー何?刻」
明け方の冷たい空気が、凄まじいスピードで首筋を吹き抜けていきます。刻は何かを躊躇うように少し口を噤みましたが、やがて腹を括った様子で話し始めました。
「・・・凱さんがどうのってお前さっきなんか言ってただろ。アレ何の話だよ。」
「おーそうそう凱さん!こないだ珍しく溜まり場の方来ててさぁーお前のこと探してたぜ二人で話したいことあるとか言ってってか俺の方が聞きたいんだけどその話詳しく」
口調は笑い交じりですが、どこかドスのきいた羽蔡の声に若干気圧されながら、刻はどうでも良さそうに顔を背けて黙り込みました。分かりやすいですね。
「ンな事知る訳ねーだろ馬鹿。・・・最後に会ったの去年の冬口だぞ。お前も居たろ。」
「あん時もさぁお前頭撫でられてなんか嬉しそーにしててさぁなんかムカつくからマジ写真撮って炎上ネタと共にネットの海にでも晒し上げたらどんな顔すんだろーなとか思ってさぁ」
「殺す。」
刻の珍しくふわふわしていた態度が消し飛びました。羽蔡のサド趣味には付き合ってられません。ケラケラと笑いながら刻の腰に回した腕で刻をギュッと抱きしめる羽蔡と、より密着具合が増した体勢に舌打ちしながらも放置する刻。二人の乗った大型二輪は、他の仲間たちのバイクを引き連れながら、並び立つ巨大ビル群の中に消えていきます。
「ひゃはは悪ィ悪ィ怒んなって、ジョーダンだよ刻」
ーー不貞腐れた様子の刻にそう笑いかけた羽蔡の手が、刻のポケットに伸ばされていたことに、刻は気付きませんでした。
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