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強化蘇生【リバイバル】
吐故納新のユーティリティ
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ゆらゆら。
またこの場所だ。
周りのこのふわふわは、何で出来ているんだろう。
水みたいな、空気みたいな、掴みにくいふわふわ。
包まれると温くて、柔くて、とっても気持ちいい。
ーーまた、あの光が大きくなってる。
光の向こうは、どこかに繋がってるのかな?分かんないけど、そんな気がする。
まあ、気持ちいいから全部どうでもいいや。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「......ツト、タ......トーーータツトよ」
上の空で聞いていた可憐な少女のような声も、脳が覚醒してくるにつれて意識せざるを得なくなる。
「う......、ん、クロか......? って、何してんだ」
「タツトよ、起きるのじゃ-......おや、やっと目が覚めたようじゃな」
固い岩盤の上で寝そべっていて痛くなった首をゆっくりと起こしたのはタツトだ。目を開けると、新雪のような真っ白な肌に妖しげかつ可憐な黒のワンピースを纏った、神の造形としか思えない美少女が自分のお腹の辺りを枕にして寝転んでいた。
タツトが起きたことに気付いたその少女は、頭だけをこちらに向けてぱっちり開いた真紅の瞳孔をやや細めながら、こちらに向けてはにかんだ。
「......起きてそうそうで何だが、とりあえず、何してたかだけ聞いて良いか?」
「いやな、特に深い意味はないのじゃよ。目が覚めたらこの【岩場】にいてな、恐らく数時間は寝込んでおったようで、めちゃめちゃ首が痛かったんじゃ。そしたら近くにお主がおったんで、ちょっとばかり腹を貸してもらっとったんじゃ」
未だに腹に頭を預けたまま毅然とそう言い切ったクロにタツトがジト目になり、腰に提げた【空虚と否定の短剣】の柄に右手を伸ばそうとする。
「ちょっ、待つのじゃ、我が悪かったわ。ち、ちと悪ノリしてしもうたの。だからその目をやめてくれんか」
「......ちっ、分かったよ」
「お主そんな性格じゃったっけ......」
クロの懇願に渋々と引き下がり、右手を元の位置に戻したタツトに、クロがらしくもなく、困惑を隠さずに戸惑う。タツトは寝起きの機嫌が少々悪いのだ。
「んで、ここはどこだ......?っていいたいとこだが、生憎見覚えありまくりだな。悪い記憶しか思い出せないけど」
ーーどこまでも広がる崖、崖、崖、たまに岩。
どこぞのグランドキャニオンを彷彿とさせる、一面黄土色の景色がそこにあった。
何を隠そう、洞窟の中、【メナシ】との一連の邂逅によってタツトが文字通り狂い死にそうになった場所であり、その後の【強化蘇生】でクロに出会うきっかけになった場所であり、タツトにとって“最も思い出したくない場所ランキング”堂々のナンバーワンを呈する場所である。
「見るに、【異常地】の9つのエリアの内の一つ、【岩場】で間違いないの。初見じゃが【花畑】といいこの地といい、一極端すぎるじゃろ。」
先ほどの【花畑】から、景色を表現するのに多用している「どこまでも」やら「一面」といった形容詞を、しかし酷使せざるを得ないこの【岩場】のありようを初めて見たクロが、タツトの抱いた所感と同じそれをリピートする。
「それ俺も思ったわ。まあ、これ見てその手の感想以外が出てくることの方が稀だと思うがな。......ところで、さっきからスルーしてるんだが俺ら死んだよな?ゲズィストに思いっ切り頭突きされて。蘇り系スキル持ちの俺はおいといて、何でお前が生きてるんだよ、クロ」
「そのことなんじゃが、誠に不思議なことに、どうやらお主が蘇生されるとお主を宿主にしている我も再構成ようじゃ。 見たところ腰のその短剣も傷一つないようじゃし、さしずめ、道具などのお主が携えとる物や、我のような存在は、「お主の一部」と見なされるようじゃな。 再三言っておるが、つくづく超常的なスキルよのう。 お主が人間界におったなら、一国どころか世界を支配できたろうに。 いや、むしろこの【異常地】さえも行く行くは攻略してしまうのかもしれんの。 なんとも想像しがたい光景じゃが、お主ならいつか成し遂げてしまいそうな気になるわ。」
クロがしみじみと、半ば呆れたようにタツトのスキル、【強化蘇生】のチートじみた権能をそう語る。
「まあ、実際のところは魔物にボコられてしかないから強さに関してはまだ何とも言えないけどな。」
「“無条件の蘇生”のみをとっても比類無き凄まじい権能なのじゃが、蘇るその度に神話級の武具や“概念”の実がバーゲンセールのようにバカスカ手に入るとあっては、もはやチートを通り越してバグレベルじゃろ。 どうして神はかようなスキルをお主に授けたんじゃ......」
クロがタツトの能力がいかに常軌を逸しているのかを熱弁するが、当の本人には未だにあまり実感がないようだ。
「ほーん、そういう見方もあるんだな。そういや、蘇るって言えば、そろそろアレが来る頃だと思うんだが、まだなのか」
クロの熱い語りを「ほーん」の一言で片付けたタツトが意味深に何もないところを見やりながらそう言うと、不審に思ったクロが反応して質問する。
「もう少し自覚があっても良いと思うんじゃが...... さておき、"アレ"、とな? 一体何が来るというんじゃ」
クロがそう言い終わった途端、タツトにとっては例の如く、オレンジと赤の混じった、朱色に近い硝煙のような気体がタイミングを計ったようにどこからともなく発生し、一目散にタツトの胸あたりを目掛けて吸い込まれるように飛び込んでいく。
「おおっ、きたきた。この感覚」
「ほぅ......これはまた、興味深い現象じゃの」
強めの炭酸飲料のようなシュウウウウという心地良い音を立てながらその朱煙はタツトに流れ込んでいき、既に人類の到達点を優に超えているスペックがさらに跳ね上がる。冴え渡っていた思考がさらに増して鋭くなり、視覚聴覚といった五感の神経や、危険感知などの所謂直感の類いさえもとことん研ぎ澄まされる。
更に重ねて例の如く、後方に既に宝箱が出現していた。クロが入っていたときのものとは一風変わった質素な装飾が施された小箱ほどのサイズである。その価値が計り知れない程度には美しい箱であったが。
中身が何なのか知りたくてたまらないといった様子でクロがうずうずしている。「早く開けろ」と言わんばかりだ。
その宝箱に近づく。歩くと分かるが、これ以上に上がる余地があるのかと思っていたステータスが明らかに跳ね上がっているのを感じられるほど足取りも馬鹿みたいに軽くなっていた。全身、無限に力が込められそうな気がしてくる。いくらでも早く、風のように走ることができそうな気がしてくる。
宝箱を眼前に見据え、美しい上蓋にそっと手を掛け、開ける。
ーーー中身は一つの、金のブレスレットだった。
空虚と否定の短剣に引けをとらないクオリティーの、細部に至るまで緻密で精巧でありながら決して冗長に見えない装飾が施されていて、一目で一級品と分かる見映えだ。
クロが信じられない物を見たかのような顔で愕然としている。引き上げられたスペックによって魔力をも感じ取れるようになったタツトが見ても、確かに尋常ではない魔力は感じるが、些か効能が分からない。その詳細が理解できないことにはリアクションの取りようが無いのだ。
「...........一応聞いておくが、タツトよ。 それが何か分かっておるか?」
「いや......分からないな。 とてつもない魔力が宿っていることは分かってるんだが」
「ふむ、ーーよいか、心して聞くんじゃ。そのブレスレットは【アイテムポーチ】といってな、名前の通りなんじゃが、物理的に不可能なサイズのものでも“収納"することができるんじゃ。」
「あぁ、よくあるやつな。 でも聞いた感じだとアイテムポーチって結構ポピュラーな気もするんだけどな。そんなに珍しいもんなのか?」
地球で培ったゲーム脳がここでも生きる。物理法則を無視した魔道具の存在をあっさりと受け入れた上でタツトはそう尋ねた。
「いや、アイテムポーチだけなら人間界でもあることにはあるんじゃが、ここにおいてあるのは【アイテムポーチ(極)】という、通常のそれとは比べものにならない破格の性能を秘めたもはや神器と呼べる代物なんじゃよ。我も(極)ランクのものは耳にしたことぐらいしかないが、敢えて級数にするなら恐らく神話級には届くであろうな。」
そこからのクロの説明はしばしの時間を要したので、大体の内容を簡略化して表すならこうだ。
ーー曰く、この世の【アイテムポーチ】にはランクがあって、上位のものになればなるほど入れられる上限が指数関数的に増えていく。
ーー曰く、【アイテムポーチ】とはもともと次元系魔法を応用して道具に付与した物らしく、付与さえすればどんな物でもアイテムポーチとして使うことができるらしい。
ーー曰く、魔法を付与するのにはその魔法を行使するよりも高い技術が求められ、その付与する対象が大きければ大きいほどその難度は下がっていくらしい。よって、この世に出回っている【アイテムポーチ】はどれも特大サイズの倉庫や小屋自体であり、そのランクも低位のもののため、割にあっていないのが現状だということ。
ーー曰く、ブレスレットほど小型のものに付与するとなれば、次元系魔法の少なくとも伝説級を操る程度の能力が求められるらしく、更にそこに(極)ランクを付与するとなれば次元系神話級魔法か、【次元】に干渉する能力どちらかを持っていないと不可能だということ。
また、付け加えて言うなら、(極)ランクの【アイテムポーチ】とは、如何なるものでも、いくらでも収納することができ、如何なるときでも、いくらでも取り出すことができるという。
更には(極)特有のオプション効果として、一度収納したものは次に取り出すまで保温、保冷、保存が利き、擬似的な時間停止状態にすることができる。とも言っていた。クロ曰く、「例えば、アツアツの湯豆腐を収納したとして、一年後に取り出したとしても腐らないまま、アツアツのまま食べられるという感じじゃな」らしい。例え方はともかく、チートと呼ぶに値する権能であることは十分に理解できた。
「これのことは大体わかった。確かに凄まじい能力だな。この溢れ出るような魔力の説明もつくわけだ。だが、【アイテムポーチ】が袋とかなら収納したいものを中に入れるだけでいいんだろうが、ブレスレット型なら一体どうしたらいいんだ?」
「ふむ、我も使ったことはないので詳しくは知らんな。何か、声に出すなり念じるなりしてみたらどうじゃ」
「そうか。じゃあ物は試しだな」
驚くほど手首にぴったりと填まる金のブレスレットを左手に装着して、試しに腰に下げたままの神の短剣を収納してみる。
「ーー“収納”!」
すると不思議なことに【空虚と否定の短剣】が一瞬ぽわっと光ったかと思うとひとりでに消え、呼応するかのように金のブレスレットも同じような光を見せ、それも数瞬のあとに消えた。恐らく、収納できたのだろう。
今度は、何も言わずに念じるだけで取り出そうとしてみる。
ーーーすると先ほど見せた温かい光で再度タツトの左手部分を照らし、空虚と否定の短剣が同様の光を発しながらタツトの右手に現れた。
「......驚いたな。この【アイテムポーチ】、収納したものは狙ったところに出せるのか。」
「取り出せる範囲に制限はあるようじゃが、大まかに言うとそうなるの。次元系魔法を組み込んで空間を移動させとるんじゃろう。これを創った存在はただただ規格外の化け物じゃな。現世の神でも再現できるか怪しいレベルじゃ」
タツトはそれを聞くと再度その左手の美しいブレスレットを確かめるように右手の手のひらで包み込むように掴み、
「恐らく死ぬ度にこうなるんだが、また使えるものが手に入ったな」
「いや、じゃから、“使えるもの”程度で済ませてはいけないもんなんじゃて。お主神話級ナメとんのか? おォ?」
相変わらず価値観のおかしいタツトの発言に、クロはどこぞの不良のような口調で、神の造形と呼ぶべき美しい顔を盛大に歪めて反論した。
またこの場所だ。
周りのこのふわふわは、何で出来ているんだろう。
水みたいな、空気みたいな、掴みにくいふわふわ。
包まれると温くて、柔くて、とっても気持ちいい。
ーーまた、あの光が大きくなってる。
光の向こうは、どこかに繋がってるのかな?分かんないけど、そんな気がする。
まあ、気持ちいいから全部どうでもいいや。
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「......ツト、タ......トーーータツトよ」
上の空で聞いていた可憐な少女のような声も、脳が覚醒してくるにつれて意識せざるを得なくなる。
「う......、ん、クロか......? って、何してんだ」
「タツトよ、起きるのじゃ-......おや、やっと目が覚めたようじゃな」
固い岩盤の上で寝そべっていて痛くなった首をゆっくりと起こしたのはタツトだ。目を開けると、新雪のような真っ白な肌に妖しげかつ可憐な黒のワンピースを纏った、神の造形としか思えない美少女が自分のお腹の辺りを枕にして寝転んでいた。
タツトが起きたことに気付いたその少女は、頭だけをこちらに向けてぱっちり開いた真紅の瞳孔をやや細めながら、こちらに向けてはにかんだ。
「......起きてそうそうで何だが、とりあえず、何してたかだけ聞いて良いか?」
「いやな、特に深い意味はないのじゃよ。目が覚めたらこの【岩場】にいてな、恐らく数時間は寝込んでおったようで、めちゃめちゃ首が痛かったんじゃ。そしたら近くにお主がおったんで、ちょっとばかり腹を貸してもらっとったんじゃ」
未だに腹に頭を預けたまま毅然とそう言い切ったクロにタツトがジト目になり、腰に提げた【空虚と否定の短剣】の柄に右手を伸ばそうとする。
「ちょっ、待つのじゃ、我が悪かったわ。ち、ちと悪ノリしてしもうたの。だからその目をやめてくれんか」
「......ちっ、分かったよ」
「お主そんな性格じゃったっけ......」
クロの懇願に渋々と引き下がり、右手を元の位置に戻したタツトに、クロがらしくもなく、困惑を隠さずに戸惑う。タツトは寝起きの機嫌が少々悪いのだ。
「んで、ここはどこだ......?っていいたいとこだが、生憎見覚えありまくりだな。悪い記憶しか思い出せないけど」
ーーどこまでも広がる崖、崖、崖、たまに岩。
どこぞのグランドキャニオンを彷彿とさせる、一面黄土色の景色がそこにあった。
何を隠そう、洞窟の中、【メナシ】との一連の邂逅によってタツトが文字通り狂い死にそうになった場所であり、その後の【強化蘇生】でクロに出会うきっかけになった場所であり、タツトにとって“最も思い出したくない場所ランキング”堂々のナンバーワンを呈する場所である。
「見るに、【異常地】の9つのエリアの内の一つ、【岩場】で間違いないの。初見じゃが【花畑】といいこの地といい、一極端すぎるじゃろ。」
先ほどの【花畑】から、景色を表現するのに多用している「どこまでも」やら「一面」といった形容詞を、しかし酷使せざるを得ないこの【岩場】のありようを初めて見たクロが、タツトの抱いた所感と同じそれをリピートする。
「それ俺も思ったわ。まあ、これ見てその手の感想以外が出てくることの方が稀だと思うがな。......ところで、さっきからスルーしてるんだが俺ら死んだよな?ゲズィストに思いっ切り頭突きされて。蘇り系スキル持ちの俺はおいといて、何でお前が生きてるんだよ、クロ」
「そのことなんじゃが、誠に不思議なことに、どうやらお主が蘇生されるとお主を宿主にしている我も再構成ようじゃ。 見たところ腰のその短剣も傷一つないようじゃし、さしずめ、道具などのお主が携えとる物や、我のような存在は、「お主の一部」と見なされるようじゃな。 再三言っておるが、つくづく超常的なスキルよのう。 お主が人間界におったなら、一国どころか世界を支配できたろうに。 いや、むしろこの【異常地】さえも行く行くは攻略してしまうのかもしれんの。 なんとも想像しがたい光景じゃが、お主ならいつか成し遂げてしまいそうな気になるわ。」
クロがしみじみと、半ば呆れたようにタツトのスキル、【強化蘇生】のチートじみた権能をそう語る。
「まあ、実際のところは魔物にボコられてしかないから強さに関してはまだ何とも言えないけどな。」
「“無条件の蘇生”のみをとっても比類無き凄まじい権能なのじゃが、蘇るその度に神話級の武具や“概念”の実がバーゲンセールのようにバカスカ手に入るとあっては、もはやチートを通り越してバグレベルじゃろ。 どうして神はかようなスキルをお主に授けたんじゃ......」
クロがタツトの能力がいかに常軌を逸しているのかを熱弁するが、当の本人には未だにあまり実感がないようだ。
「ほーん、そういう見方もあるんだな。そういや、蘇るって言えば、そろそろアレが来る頃だと思うんだが、まだなのか」
クロの熱い語りを「ほーん」の一言で片付けたタツトが意味深に何もないところを見やりながらそう言うと、不審に思ったクロが反応して質問する。
「もう少し自覚があっても良いと思うんじゃが...... さておき、"アレ"、とな? 一体何が来るというんじゃ」
クロがそう言い終わった途端、タツトにとっては例の如く、オレンジと赤の混じった、朱色に近い硝煙のような気体がタイミングを計ったようにどこからともなく発生し、一目散にタツトの胸あたりを目掛けて吸い込まれるように飛び込んでいく。
「おおっ、きたきた。この感覚」
「ほぅ......これはまた、興味深い現象じゃの」
強めの炭酸飲料のようなシュウウウウという心地良い音を立てながらその朱煙はタツトに流れ込んでいき、既に人類の到達点を優に超えているスペックがさらに跳ね上がる。冴え渡っていた思考がさらに増して鋭くなり、視覚聴覚といった五感の神経や、危険感知などの所謂直感の類いさえもとことん研ぎ澄まされる。
更に重ねて例の如く、後方に既に宝箱が出現していた。クロが入っていたときのものとは一風変わった質素な装飾が施された小箱ほどのサイズである。その価値が計り知れない程度には美しい箱であったが。
中身が何なのか知りたくてたまらないといった様子でクロがうずうずしている。「早く開けろ」と言わんばかりだ。
その宝箱に近づく。歩くと分かるが、これ以上に上がる余地があるのかと思っていたステータスが明らかに跳ね上がっているのを感じられるほど足取りも馬鹿みたいに軽くなっていた。全身、無限に力が込められそうな気がしてくる。いくらでも早く、風のように走ることができそうな気がしてくる。
宝箱を眼前に見据え、美しい上蓋にそっと手を掛け、開ける。
ーーー中身は一つの、金のブレスレットだった。
空虚と否定の短剣に引けをとらないクオリティーの、細部に至るまで緻密で精巧でありながら決して冗長に見えない装飾が施されていて、一目で一級品と分かる見映えだ。
クロが信じられない物を見たかのような顔で愕然としている。引き上げられたスペックによって魔力をも感じ取れるようになったタツトが見ても、確かに尋常ではない魔力は感じるが、些か効能が分からない。その詳細が理解できないことにはリアクションの取りようが無いのだ。
「...........一応聞いておくが、タツトよ。 それが何か分かっておるか?」
「いや......分からないな。 とてつもない魔力が宿っていることは分かってるんだが」
「ふむ、ーーよいか、心して聞くんじゃ。そのブレスレットは【アイテムポーチ】といってな、名前の通りなんじゃが、物理的に不可能なサイズのものでも“収納"することができるんじゃ。」
「あぁ、よくあるやつな。 でも聞いた感じだとアイテムポーチって結構ポピュラーな気もするんだけどな。そんなに珍しいもんなのか?」
地球で培ったゲーム脳がここでも生きる。物理法則を無視した魔道具の存在をあっさりと受け入れた上でタツトはそう尋ねた。
「いや、アイテムポーチだけなら人間界でもあることにはあるんじゃが、ここにおいてあるのは【アイテムポーチ(極)】という、通常のそれとは比べものにならない破格の性能を秘めたもはや神器と呼べる代物なんじゃよ。我も(極)ランクのものは耳にしたことぐらいしかないが、敢えて級数にするなら恐らく神話級には届くであろうな。」
そこからのクロの説明はしばしの時間を要したので、大体の内容を簡略化して表すならこうだ。
ーー曰く、この世の【アイテムポーチ】にはランクがあって、上位のものになればなるほど入れられる上限が指数関数的に増えていく。
ーー曰く、【アイテムポーチ】とはもともと次元系魔法を応用して道具に付与した物らしく、付与さえすればどんな物でもアイテムポーチとして使うことができるらしい。
ーー曰く、魔法を付与するのにはその魔法を行使するよりも高い技術が求められ、その付与する対象が大きければ大きいほどその難度は下がっていくらしい。よって、この世に出回っている【アイテムポーチ】はどれも特大サイズの倉庫や小屋自体であり、そのランクも低位のもののため、割にあっていないのが現状だということ。
ーー曰く、ブレスレットほど小型のものに付与するとなれば、次元系魔法の少なくとも伝説級を操る程度の能力が求められるらしく、更にそこに(極)ランクを付与するとなれば次元系神話級魔法か、【次元】に干渉する能力どちらかを持っていないと不可能だということ。
また、付け加えて言うなら、(極)ランクの【アイテムポーチ】とは、如何なるものでも、いくらでも収納することができ、如何なるときでも、いくらでも取り出すことができるという。
更には(極)特有のオプション効果として、一度収納したものは次に取り出すまで保温、保冷、保存が利き、擬似的な時間停止状態にすることができる。とも言っていた。クロ曰く、「例えば、アツアツの湯豆腐を収納したとして、一年後に取り出したとしても腐らないまま、アツアツのまま食べられるという感じじゃな」らしい。例え方はともかく、チートと呼ぶに値する権能であることは十分に理解できた。
「これのことは大体わかった。確かに凄まじい能力だな。この溢れ出るような魔力の説明もつくわけだ。だが、【アイテムポーチ】が袋とかなら収納したいものを中に入れるだけでいいんだろうが、ブレスレット型なら一体どうしたらいいんだ?」
「ふむ、我も使ったことはないので詳しくは知らんな。何か、声に出すなり念じるなりしてみたらどうじゃ」
「そうか。じゃあ物は試しだな」
驚くほど手首にぴったりと填まる金のブレスレットを左手に装着して、試しに腰に下げたままの神の短剣を収納してみる。
「ーー“収納”!」
すると不思議なことに【空虚と否定の短剣】が一瞬ぽわっと光ったかと思うとひとりでに消え、呼応するかのように金のブレスレットも同じような光を見せ、それも数瞬のあとに消えた。恐らく、収納できたのだろう。
今度は、何も言わずに念じるだけで取り出そうとしてみる。
ーーーすると先ほど見せた温かい光で再度タツトの左手部分を照らし、空虚と否定の短剣が同様の光を発しながらタツトの右手に現れた。
「......驚いたな。この【アイテムポーチ】、収納したものは狙ったところに出せるのか。」
「取り出せる範囲に制限はあるようじゃが、大まかに言うとそうなるの。次元系魔法を組み込んで空間を移動させとるんじゃろう。これを創った存在はただただ規格外の化け物じゃな。現世の神でも再現できるか怪しいレベルじゃ」
タツトはそれを聞くと再度その左手の美しいブレスレットを確かめるように右手の手のひらで包み込むように掴み、
「恐らく死ぬ度にこうなるんだが、また使えるものが手に入ったな」
「いや、じゃから、“使えるもの”程度で済ませてはいけないもんなんじゃて。お主神話級ナメとんのか? おォ?」
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でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
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