"強化蘇生"~死ぬ度に強くなって蘇るスキル~

ハヤサマ

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強化蘇生【リバイバル】

刹那乖離のアロガンシア

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 タツトに殴られた魔物が、まるで大型トラックに弾き飛ばされでもしたかのように壮絶に吹き飛んだ。

 人間の視認できる限界を超えた速度で飛来した魔物とぶつかった部分の壁が、大きな地鳴りと共に砕け散ったが、それでも勢いが留まらずに次第に壁が陥没していき、その深さが2メートルに差し掛かろうとする辺りでようやく止まったのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 ーー【執念】干渉能力、派生その一、【超再生】。

 権能は至極単純、文字通り「受けた傷を癒やす」というものだ。一時的な全ステータスアップのおまけ付きで。

 そもそも、「感情」に干渉する能力というのは何も“ヒト”や“魔物”といった、生き物の情動を支配することに限らない。対象を楽しくさせたり、悲しくさせたり、怒らせたり、不安にさせたり。これらはその能力のほんの一端でしかないのだ。

 “感情操作”というのは、極限まで一つの感情に特化させて、その感情で心を埋め尽くすことで、物理的な効果を伴うようになってくる。

 このことは標準的な人間に置き換えても、科学的な観点から同じ話をすることができる。例えば、ヒトは興奮状態に陥ると、結果、脳内のアドレナリン、ドーパミンが多量に分泌され、一時的に痛みなどを感じなくなる沈痛作用、興奮作用を得ることが出来る。

 また、アロマ芳香や整体といったリラクゼーションでは、エンドルフィンなどの脳内物質が放出され、結果、脳の活性化、多幸感、疲労感を感じなくなるといった効果が得られるという。

 

 ーーでは、そういった、小さな心の揺れ動きでさえ身体に影響が出るというのに、「神の力」である概念干渉能力を用いて強制的に感情を支配した場合、その効果はどうなってしまうのだろうか。

 付け加えるなら【執念】という、非日常な激しい情動で心を埋め尽くした場合、どのような効果がもたらされるのだろうか。

 答えは必然的に、その【執念】を引き起こす対象となった存在を排除するための力を飛躍的に向上させることになる。

 今のタツトに必要なのは、“早期の超回復”と、“眼前の敵を屠る力”、この二つである。クロが敵に嬲られるのを見ていることしかできなくて、【執念】を燻るように燃やしたタツトに、必要な条件を満たした【超再生】の能力が解放されるのも、また必然なのである。 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 硬い岩盤で出来た洞窟の壁に盛大に激突し、大きなクレーターを作り出したチンパンジー型の化け物は、ぴくぴくと全身を痙攣させながらぐったりとしている。

 “一撃”、である。

 クロが渾身の力で放った【空虚と否定の短剣イミディナイダガー】の剣閃を受けてもすぐに立ち上がるほどの、圧倒的な硬さ、驚異的な回復力を持った超常の化け物が、一撃。それも、単純な膂力任せの殴打のみで。

 タツトは拳を振り抜いた姿勢をそのままに、首だけで振り向いてもう一匹のチンパンジーを睥睨する。クロを苛烈に嬲った魔物を見やるタツトの眼には、悍ましいほどの、敢然たる殺意が籠もっていた。
 
 その強烈な視線を向けられた化け物も流石に身の危険を感じたのか、たじろぎ、今すぐにタツトに飛びかかることはなかった。両者の間に剣呑な空気が走り、一触即発の状態が続く。
 
 その状況に、今まで後方で静観を貫いていた、先鋒の二匹より一際体躯の大きな魔物、ーーさしずめ、ボスチンパンジーといったところか、ソレがのそりのそりと、両者の間に割って入るように歩み寄り、小さい方のチンパンジー(とはいっても、あくまでボスチンパンジーと比較した際の話で、規格外の体躯をしていることに変わりはない)の陰に重なる位置に立ち、強制的にタツトの視線を自分に移した。

「....................」

「.....................」

 ーー恐らく、五分五分。一瞬の油断や隙が、冥土を見るきっかけとなる。そんな感触をタツトは得るが、その表情に一切の焦りや恐怖は見られない。あるのは「目の前の敵を殺す」という、研ぎ澄まされた殺意のみ。

 ジリジリと、肌が焼けるのを錯覚するような、否応なく全身が緊張する雰囲気がしばし続く。

 互いに相手の実力が己に相当しうるのを分かっているのか、すぐに拳を交えることはせず、隙を伺い続けている。

 二人、ーー正確には一人と一匹が醸し出す息の詰まるような空気に耐えきれなくなったのか、小さい方のチンパンジーが、半ば投げやりにタツトに向かって飛び出した。

  目にも止まらぬスピードで襲いかかってきたその魔物をタツトは、だらん、と脱力して棒立ちのまま、左の裏拳を振り抜くだけで殴り飛ばした。

 「ボゴォ」と魔物の頭蓋骨が砕ける音がし、一拍後、洞窟の岩壁と魔物の衝突音が、砂塵を大量に巻き上げながら辺りに轟く。

 タツトとボスチンパンジーの両者は、そんなことは些末事だとでも言うかのように、何事もなかったようにそのまま睨み合いを続ける。

 哀れにも双方に無視された、一匹目と動揺にぴくぴくと全身を痙攣させているチンパンジーは、どこか滑稽さを感じさせた。
 
 二匹目が作り上げたクレーターの奥から小石が、カランカランと音を立てながら転がって、最後にコツン、と地面に落ちた。

 その直後、両者がほとんど同時に動き出す。パラメーターが振り切れた脚力で地面を蹴り上げ、凄まじい爆音を上げながら両者が距離を詰め、ちょうど真ん中辺りで邂逅する。双方が先ほどまで居た場所の地面は跳び上がる際の衝撃でめくれ上がっていた。

 先ずはボスチンパンジーが、丸太のような左腕を射出する。タツトはそれを身体を半身に捻ることで躱し、その勢いをも利用して、魔物の鳩尾目がけて蹴りを放つ。避けきることができないと悟ったボスチンパンジーはその超速の蹴りに右腕を合わせてガードした。

「ギィィィィイ」

 悪夢のような蹴りを正面から受けた右腕の肘骨が粉々に砕ける鈍い音が響き渡る。魔物が苦痛に顔を歪めるが、その刹那の隙にタツトが即座に魔物の懐に飛び込んで、大型トラックさながらの強打を放ち、苦痛に藻掻く暇すらも与えない。

 その殺人的な打擲を後ろにステップバックしてなんとか避けきった魔物はその胸部を風船のように膨らませ、大量の空気を吸い込んで数拍の間の後、耳を塞ぎたくなるような轟音で咆哮した。

「ーーゴオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!」

 ソレを聞いた途端、タツトの身体が金縛りにあったように動かなくる。その間隙をボスチンパンジーが見逃すはずもなく、瞬間移動と見紛う速度でタツトのもとへと飛来し、右腕は砕かれて使い物にならないため、技もクソもない、左の豪腕に任せたラリアットを見舞ってきた。咆哮による行動停止はほんの数瞬のことであったが、それ以上の速度で放たれたラリアットに、為す術もなく直撃を許し、地面に叩きつけられる。

「がふゥっ!!?」

 あまりの衝撃に肺の空気が全て、強制的に吐き出され、身動きが取れない。その直後、タツトの脳が大音量で警鐘を鳴らし、無意識に、地面を転がるようにして左側に回避する。

 数拍の後、ボスチンパンジーが大きく跳び上がり、降下と同時に腕を振り抜き、タツトが一瞬前までいた、顔面辺りに熾烈な殴打が放たれた。

 その拳は深々と地面に突き刺さっており、もし、直撃を受けていたら、などと想像すると身が竦んでしまう。「一歩間違えたら死んでいた」その事実にタツトの背中に冷たい汗が走る。

 それよりも、先ほどのダメージが想像以上に大きく、動けない。【強化蘇生リバイバル】のステータスアップで飛躍的に向上したはずのタツトの防御力を易々と貫通し、余りの衝撃によって内蔵はかき混ぜられていた。

 それでも【超再生】により、傷が修復されていくが、瞬く間に完治、とまではいかない。

 ーーだが、タツトは立ち上がる。半分は【執念】の力、もう半分は気合だ。

 ボスチンパンジーは、苦痛に顔を歪めてフラフラと立ち上がったタツトを、まるで狩りの獲物のように、ただ純粋にと言わんばかりの目で見ている。

 傷を負ったタツトに、自分の攻撃にもはや抵抗できるだけの力を持っていないと判断した魔物は、一切の躊躇無くタツトのもとへ詰め寄り、右腕で、直撃すれば一撃必殺の、大砲のような殴打を放った。

「ギャァアアアアアアッッ!!」

 余力の残っていないタツトが、化け物の渾身の打擲をもろに受け、その命が潰えた。

 ーーーもし、その光景を見ていたなら、十人中十人がそう思ったことだろう。「目の前の少年は、馬鹿でかい猿に殴られて死んだ」そう確信するだろう。だって、“そういう状況”だったのだから。


 ーーー否、断じて否である。


 確かにその予想は、ひどく理に適っていて、疑いようがない。だがそれは、タツトが手に、場合に限った話だ。

 実際に苦悶の雄叫びを上げたのは、その化け物の方。胸部に“刃物で抉られたような”傷を残して。

 実は、タツトはボスチンパンジーが超速で飛来した瞬間、左手に装着している【アイテムポーチ(極)】を発動し、近くにあった【空虚と否定の短剣イミディナイダガー】を収納したあと、再度自分の右手に出現させ、それを飛び込んできた魔物の方へ向けたのだ。

 タツトはその短剣を魔物に向けたあと、特にどうあするわけでもなかった。ただ、ありえない速度で突撃してきたボスチンパンジーが自分で勝手に突き刺さり、胸に大きな傷を残しただけだ。

 ーーーだが、ここで一つ疑問が生じる。【アイテムポーチ(極)】を使って【空虚と否定の短剣イミディナイダガー】を手元に呼び込んだというなら、一体どうしてアイテムポーチの発動圏内に、その短剣があったのだろうか。さきほどまでは、倒れ伏したクロの近く、つまりはタツトからは十メートル離れた位置に転がっていたはずだ。

「ーー間一髪、ギリギリで間に合ったようじゃな......」

 やはりというべきか、その犯人はクロである。

 その立ち姿はタツトと似たり寄ったりでフラフラ危なっかしいものだったが、右手は前方に振り抜かれており、その状態が暗に、クロが短剣を投擲したことを証明していた。

 彼女は、タツトとボスチンパンジーの戦闘の間に回復した僅かな魔力を限界まで振り絞って自分に回復魔法を掛けた後、側に転がっていた、刃の部分が少し欠けた短剣を手に取ってタツトのもとへ投げたのだ。

 【空虚と否定の短剣イミディナイダガー】を投げ渡したクロは、役目を果たしたと言わんばかりに今度こそ本当に意識を失って、洞窟の硬い地面にドサリと倒れ込んでしまった。

「......ったく、ほんとにギリギリじゃねえか。」

 未だに痛みにのたうちまわっているボスチンパンジーを傍目に、タツトは倒れ臥すクロを見て、感謝の念を込めて薄らと微笑む。

 直後には獰猛で強かな眼光に変わり、安らかだった口角も、獲物を射殺さんとする野生獣のようなそれへと変貌する。

 化け物が苦痛に喘いでいる内に、【超再生】によって体内の重大な損傷は全て回復させ終わっている。

「ッグ、グルゥゥゥ......」

 あっという間に再生して、喉を鳴らしながら起き上がったボスチンパンジーは、屈辱と、憤懣を多分に孕んだ眼でタツトを睨みつける。

 両者の鋭い眼光が交錯し、洞窟内に息の詰まるような空気が漂う。

 ーーそれからは、凄まじかった。

 先手は化け物側だ。地面を削り取るような跳躍でタツトに突撃する。その勢いに任せて、両腕での殴打。
続いてヘッドバット。その二連撃を、タツトはスレスレのところでひらりひらりと回避する。そうなると今度はタツトのターンだ。逆手に持った【空虚と否定の短剣イミディナイダガー】を振るって剣閃を生み出し、ボスチンパンジーへと飛ばす。

 その数四発。刹那の間に四度、短剣を振り抜いたのだ。

 それを向けられたボスチンパンジーは、まず一発目を蜘蛛のように地面スレスレまで屈むことで躱し、縦に飛んで来た二発目と三発目の間をすり抜ける、達人技のような方法で回避しきる。が、その超回避もそこまでで、斜めに飛来してきた四発目を肩に受け、剣戟の体内への侵入を許してしまう。

 魔物の口から吐血が漏れるが、それだけだ。クロと対峙した先鋒の二匹のそれを遥かに凌駕する驚異的な自己再生能力で治癒し、後には何事もなかったような
肩口だけが残る。

「こいつでもほとんどダメージがないのか......」

 その事実に驚愕しながらもタツトは、ボスチンパンジーに斬撃を飛ばし、間隙を作らせない。

 それに対し、その化け物は、タツトに向かって飛び出した。両者の間にはタツトが放った剣閃が今もあり、このままではその全てに直撃してしまうだろう。「決死の覚悟で特攻するつもりか?」とタツトが身構えたときであった。

 直後、化け物が“ありえない駆動”を行った。

 まるでスーパーボールを無作為に放り投げ、地面に叩きつけたような、予想の付かない軌道。というより、それらの駆動が早すぎて予想が付いたとしても動体視力が追いつかない、そんな動き。

 物理法則に堂々と背を向けた、凄まじいほどの緩急で移動し、タツトの斬撃を全て回避する。そのままのスピードで、天井から地面、地面から壁、壁から天井と、洞窟内を縦横無尽に駆け回る。

 無数の残像が洞窟内に迸り、それらの数が多すぎて一つの網のように見えてくる。

 無論のことではあるが、タツトは盛大に動揺していた。まるで先ほどまで手を抜いていたのかと思えるほど、急激に増した速度。何かの能力としか思えない、ありえない早業。一切次の軌道が読めない、バネ仕掛けの人形のような緩急。

 その全てに翻弄されて、戦いの最中であるというのに、あろうことか動きを停めてしまう。

 するとその隙につけ込むように、これまで縦横無尽に跳躍していたボスチンパンジーがはたと動きを変え、その網目状の残像のある一点から飛び出してくる。

 勢い任せの体当たり。本来ならタツトに当たるはずもないが、ただでさえ動揺を抑えきれていないタツトが、予測不可能な出現地点から唐突に突進されたことでその攻撃を無防備な状態で受けてしまう。

 尋常でない衝撃に、為す術無く吹き飛ばされ、壁に激突する。

 扇風機の前に紙吹雪を落としたような、想像を絶する速度で壁に衝突して、洞窟内に既にいくつかある、大きなクレーターを作り上げる。その勢いを失い、壁にめり込んだタツトが剥がれ落ちるように地面に落着する。
 
 少年は、そのまま死んだように倒れ伏していた。

 

 

 

 
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