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第五章 過去との再会
閑話1 彼女と彼のオープンキャンパス
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夏休みも後半の今日、未来はある大学のオープンキャンパスに来ていた。
瑞穂、雪愛、香奈とは被らなかったため、一人だ。
未来には瑞穂達以外に一緒に行きたい相手はいなかったから。
けれど、それがよくなかったのかもしれない。
誰か別の人を誘えばよかったという意味ではない。
この大学を止めればよかったという意味だ。
その理由が今目の前にいた。
「ちょっと聞いてるの?未来。あんた男漁りばっかで人と話すこともできなくなったわけ?」
未来はため息を吐きたい気持ちをグッと堪え、正面に立つ同級生、去年は友人だと思っていた相手に答えた。
「そもそもー、そんなことした覚えはないんだけどなー」
「未来、それはないよ。友里の好きな人奪っておいて」
「本当。よくそんなこと言えるね」
すると、その同級生、友里の横に立つ、同じく同級生の二人が未来に言葉をぶつける。
先ほどから、未来が何を言ってもこの繰り返しだ。
彼女達が言っているのはもう半年以上は前のことだ。もう少しで一年になるだろうか。友里が好意を寄せた相手が未来に告白してきたのは。その過程には自分にも落ち度はあったし、友里に対して申し訳ない気持ちもあるが、その後の彼女達の行動を考えれば同情ばかりしていられない。二年になって雪愛達と出会い、仲良くなるまで、未来はずっと苦しんだのだから。それは簡単に忘れられるものではないし、心に負った傷は簡単に癒えるものではない。
それなのに、未だ自分に突っかかってくる彼女達に未来は辟易していた。
まだ未練があるなら勝手に告白でもなんでもすればいいし、もう好きではないのなら自分に構ってないで新しい恋でも見つけた方が余程建設的ではないだろうか。
正直、すでにただの同級生というだけの彼女達に絡まれるのは迷惑以外の何物でもなかった。
それに、そもそも彼女達もオープンキャンパスに来たのなら、そろそろ集合場所に向かった方がいいと思うのだが。
そんな風に思っているのは未来だけで今は未来の相手に夢中らしい。ここまで執拗にされると自分を相手にストレス発散をしているだけではないかとさえ思えてくる。
未来はもう帰りたくなっていた。
このままもう一度正門を通って駅に向かいたい。そして何か甘いものでもゆっくり食べたい。そんな風に別のことを考えて嵐が去るのを待っていた未来だったが、それがいけなかったのかもしれない。
「あんた調子に乗り過ぎなんじゃないの!?このクソビッチが!」
未来ののらりくらりとかわすような態度が気に入らなかったのか、友里が汚い言葉を大声で言った。
今度は堪えられず、はぁ、っとため息が出てしまった。
こんなに人がいる中で、そんなことを大声で言う彼女は自分がどう見えるか考えないのだろうか。
そんな言葉を大声で言う友里の方こそ、そういう人間に見える。ここには他校の学生がたくさんいて今も近くを通った学生が驚いたようにこちらを見ているのだが、友里に気にした様子はない。一緒にいることでこんな人達と同じだと思われるのはすごく恥ずかしい。
「何ため息なんか吐いて―――」
「あれ、綾瀬さん?」
友里が未来のため息を咎めようとさらに言葉を発したところに割り込む声があった。
「安田っち?」
いつの間にか近くに立っていたのは隆弥だった。
「どうしたのこんなところで。もうすぐ集合時間になっちゃうよ?僕遅刻しそうだと思って駅から急いで来たんだ」
どうやら遅れそうだと急いで来たのに、未だこんなところで立ち話をしている未来を見かけて声をかけたようだ。
「安田っちもここ申し込んでたんだー?」
友里達と不毛なやり取りをしていた未来は隆弥の登場に表情を和らげる。が、友里は急に自分達の邪魔をしてきた隆弥を睨むようにして見る。
「ちょっと、何勝手に話に入ってきてんの?っていうか、あんた誰よ?」
知らない相手なのにかなり高圧的だ。隆弥が男子にしては小柄のため見た目で舐めているのかもしれない。
隆弥はチラリと友里を見ると未来に言った。
「この人達は綾瀬さんの友達?」
「んー、去年の途中までは、かなー?」
隆弥の問いに苦笑を浮かべ、未来は答える。
「そっか。じゃあさ、折角だし一緒に行かない?」
友里を無視して話を進める隆弥に友里達はイライラし始めた、かと思えば、下品なニヤニヤ笑いを浮かべだす。
「あんた、マジで何なの?……ああ、そういうこと?未来、今度はこいつに色目使ってるわけだ?こんなやつまで対象だなんてさすがビッチ。あんたもまんまと誑し込まれたわけだ」
「っ、安田っちは―――――」
「僕は綾瀬さんの友達だけど?変な言いがかりは止めてもらえるかな。そんな下らないことしか言うことがないなら僕たちはもう行くから。わざわざここまで来て遅刻したくはないしね。行こう?綾瀬さん」
関係ないと言おうとした未来の声に重なるように、隆弥が言った。
それどころか強制的に友里達との会話まで終わらせてしまった。
そして、未来の腕を掴んで、どんどん歩いていく。
それにつられて未来も進む。
「えっ?安田っちー?ちょっとー?」
後ろからは友里達の罵詈雑言が聞こえてくる。
だが、彼女達も極端に強く出るのは未来に対してだけだ。未来達を追いかけて来ようとすらしていなかった。
しばらく歩き、友里達の姿が見えなくなったところで、隆弥は未来の腕を放し謝った。
「ごめん、綾瀬さん。急に腕を掴んだりして。本当にごめんね。痛くなかった?」
必死に謝る隆弥に未来は目を丸くする。そしてパチパチと瞬きを繰り返す。先ほど友里達に向かって話していたときは今まで見たことがないほど冷たい目をしていたというのに、今はいつもの優しい目だったから。
それに、どう考えても自分は隆弥に助けてもらった側で、謝られることなんてない。
「ううん、全然。こっちこそ助けてくれてありがとー。でも、どうして助けてくれたのー?」
本当に痛くなんてなかった。隆弥は決して無理やりにならないように優しく導いてくれた。だからお礼を言ってから気になったことを聞いた。
「どうしてって、友達だもん。当たり前だよ。ただ、話しかけるのが遅くなってごめんね。最初はただの友達同士のお喋りだと思っちゃって」
そう言って恥ずかしそうに笑う隆弥。だが、未来からすればいったい何を恥ずかしがる必要があるのか、といった感じだ。
それを当たり前と言える人が一体どれほどいるだろうか。
今の言い方からすると友里達の言葉を隆弥は聞いていたことになる。
尚の事、見て見ぬふりをする方が自然に思えた。
未来が素直にそう言うと、隆弥は苦笑を浮かべた。
「前に…、球技大会の時にさ、試合中春陽君がクラスメイトから色々言われてるのがすごく悔しかったんだ。試合中だから言い返すことはできないし、元々僕はあんまりそういうことが得意じゃないんだけど。でも、もし次友達が謂れのないことを言われてたら絶対に行動しようって思って」
「……私が言われてたのはー、謂れのないことなんかじゃないかもしれないよー?」
未来はあえて自分を悪く言ってしまった。
隆弥が何と言うか聞いてみたくなったのかもしれない。
「?それはないよ。一緒に話したり、遊んだりして綾瀬さんはそんな人じゃないってそれくらいわかってるつもりだよ。まあもし彼女達の言うことが正しくてもあんな場所で言うことじゃないし、やっぱり止めるよ」
未来は隆弥の言葉に目を大きくする。
友里達が流した噂、それを信じる者はいても、未来はそんな人じゃない、そう言って味方になってくれる人は当時いなかった。
瑞穂達に話したとき、信じてもらえたのが初めてだったのだ。
男子は、自分も、なんて言ってくる人ばかりだった。
だから隆弥の言葉が未来にとっては大きな衝撃だった。
「安田っちは優しいねー」
「僕なんて全然だよ。それに相手は女子なのに出て行くのちょっと怖かったしね」
そう言って後頭部に手をやり、苦笑する隆弥。
「ふふっ、そうだったんだー。全然そんな風に見えなかったよー?」
あのときの隆弥の冷たい目は、普段なら、自分に向けられたなら、怖いと思ったかもしれない。でも自分のためだと思うと不思議なことにちょっと格好良かったとさえ思えてしまう。
「ならよかった。って話してる場合じゃなよ!本当に時間、遅れちゃう。行こう綾瀬さん」
「うん!」
こうして、この日のオープンキャンパスを二人で過ごすことになった隆弥と未来。隆弥はその話し方や見た目の雰囲気のとおり、とても優しい男子だ。アイドルオタクをしていた未来は自分のことをイケメン好きだと思っていた。だから恋をするならそういう相手だろう、と勝手に思い描いていた。そんな未来にとって、正直イケメンとは言えない、小柄で気の弱そうな隆弥は決して恋愛対象にならない。そのはずだった。それなのに――――。
説明会のとき、何となく隣に座る隆弥に目がいってしまった。
隆弥は真剣に話を聴いていた。その横顔を見ていたら、何だかずっと見ていたくなる。それに隆弥の隣はなぜかすごく居心地がいい。それは未来にとって、雪愛達と一緒にいるとき以外では初めてで、不思議な感じだった。当然、異性相手に思ったことなんてない。
「どうかした?綾瀬さん」
未来の視線に気づいたのか、隆弥が未来に顔を向け小声で聞いてきた。
「っ、……なんでもないよー」
首をぶんぶんと横に振って、同じく小声で答える未来。気づかれたことが恥ずかしくて少し頬が熱い。
「そう?」
隆弥は少しだけ首を傾げたが、すぐに顔を正面に戻した。
未来はほっと安堵の息を吐く。
そして心の中で自分に落ち着けと言い聞かせる。
隆弥はみんなに優しい。思えば花火大会に行ったときも、みんなに気を配っていた気がする。それに今日助けてくれたのだって隆弥自身で言っていたではないか。春陽の件があったからだと。自分が特別、という訳ではないのだ。それなのに何をそれだけのことで勝手に盛り上がっているのか。こんなのは吊り橋効果みたいなものだ。
それからなんとか気持ちを落ち着けた未来は、半日ほどのオープンキャンパスを隆弥と一緒に過ごした。
隆弥がずっと傍にいてくれたおかげで、未来のオープンキャンパスは充実したものとなった。それは一人で来ることが決まり、実際に来て、友里達に囲まれたところまででは考えられなかったほどに。
最寄り駅まで二人で歩き、別れのときとなった。もう夏休み中に隆弥と会う機会はないだろう。それがちょっぴり寂しく感じる。でも二学期になれば―――。
「それじゃあまたねー、隆弥っち」
「うん、またね綾瀬さん」
この頃には、呼び方が変わっていた。隆弥はまだ隆弥っち呼びに違和感があるのか苦笑を浮かべるが、嫌がっている様子はない。今後慣れていってほしいところだ。未来の中ではもう名前で呼ぶと決めたから。男子で、初めて。
(早く二学期にならないかなー)
隆弥と別れた後、未来はそんなことを考えていた。
二学期が始まったらどうしようか。とりあえず隆弥といっぱい色んな話をしたい。そうだ。だから自分から話しかけに行こう。今なら雪愛が五月の連休明けから積極的に春陽に話しに行っていたのがすごくよくわかる。
雪愛のときは恋してることに気づいていないだけだとわかったのに、自分のことになるとこれが恋なのか、未来にもよくわかっていない。けれど少なくとも仲良くなりたいという気持ちは本当だから。
これまでの学生生活で初めて、未来は夏休みが早く終わればいいのに、と思った。
瑞穂、雪愛、香奈とは被らなかったため、一人だ。
未来には瑞穂達以外に一緒に行きたい相手はいなかったから。
けれど、それがよくなかったのかもしれない。
誰か別の人を誘えばよかったという意味ではない。
この大学を止めればよかったという意味だ。
その理由が今目の前にいた。
「ちょっと聞いてるの?未来。あんた男漁りばっかで人と話すこともできなくなったわけ?」
未来はため息を吐きたい気持ちをグッと堪え、正面に立つ同級生、去年は友人だと思っていた相手に答えた。
「そもそもー、そんなことした覚えはないんだけどなー」
「未来、それはないよ。友里の好きな人奪っておいて」
「本当。よくそんなこと言えるね」
すると、その同級生、友里の横に立つ、同じく同級生の二人が未来に言葉をぶつける。
先ほどから、未来が何を言ってもこの繰り返しだ。
彼女達が言っているのはもう半年以上は前のことだ。もう少しで一年になるだろうか。友里が好意を寄せた相手が未来に告白してきたのは。その過程には自分にも落ち度はあったし、友里に対して申し訳ない気持ちもあるが、その後の彼女達の行動を考えれば同情ばかりしていられない。二年になって雪愛達と出会い、仲良くなるまで、未来はずっと苦しんだのだから。それは簡単に忘れられるものではないし、心に負った傷は簡単に癒えるものではない。
それなのに、未だ自分に突っかかってくる彼女達に未来は辟易していた。
まだ未練があるなら勝手に告白でもなんでもすればいいし、もう好きではないのなら自分に構ってないで新しい恋でも見つけた方が余程建設的ではないだろうか。
正直、すでにただの同級生というだけの彼女達に絡まれるのは迷惑以外の何物でもなかった。
それに、そもそも彼女達もオープンキャンパスに来たのなら、そろそろ集合場所に向かった方がいいと思うのだが。
そんな風に思っているのは未来だけで今は未来の相手に夢中らしい。ここまで執拗にされると自分を相手にストレス発散をしているだけではないかとさえ思えてくる。
未来はもう帰りたくなっていた。
このままもう一度正門を通って駅に向かいたい。そして何か甘いものでもゆっくり食べたい。そんな風に別のことを考えて嵐が去るのを待っていた未来だったが、それがいけなかったのかもしれない。
「あんた調子に乗り過ぎなんじゃないの!?このクソビッチが!」
未来ののらりくらりとかわすような態度が気に入らなかったのか、友里が汚い言葉を大声で言った。
今度は堪えられず、はぁ、っとため息が出てしまった。
こんなに人がいる中で、そんなことを大声で言う彼女は自分がどう見えるか考えないのだろうか。
そんな言葉を大声で言う友里の方こそ、そういう人間に見える。ここには他校の学生がたくさんいて今も近くを通った学生が驚いたようにこちらを見ているのだが、友里に気にした様子はない。一緒にいることでこんな人達と同じだと思われるのはすごく恥ずかしい。
「何ため息なんか吐いて―――」
「あれ、綾瀬さん?」
友里が未来のため息を咎めようとさらに言葉を発したところに割り込む声があった。
「安田っち?」
いつの間にか近くに立っていたのは隆弥だった。
「どうしたのこんなところで。もうすぐ集合時間になっちゃうよ?僕遅刻しそうだと思って駅から急いで来たんだ」
どうやら遅れそうだと急いで来たのに、未だこんなところで立ち話をしている未来を見かけて声をかけたようだ。
「安田っちもここ申し込んでたんだー?」
友里達と不毛なやり取りをしていた未来は隆弥の登場に表情を和らげる。が、友里は急に自分達の邪魔をしてきた隆弥を睨むようにして見る。
「ちょっと、何勝手に話に入ってきてんの?っていうか、あんた誰よ?」
知らない相手なのにかなり高圧的だ。隆弥が男子にしては小柄のため見た目で舐めているのかもしれない。
隆弥はチラリと友里を見ると未来に言った。
「この人達は綾瀬さんの友達?」
「んー、去年の途中までは、かなー?」
隆弥の問いに苦笑を浮かべ、未来は答える。
「そっか。じゃあさ、折角だし一緒に行かない?」
友里を無視して話を進める隆弥に友里達はイライラし始めた、かと思えば、下品なニヤニヤ笑いを浮かべだす。
「あんた、マジで何なの?……ああ、そういうこと?未来、今度はこいつに色目使ってるわけだ?こんなやつまで対象だなんてさすがビッチ。あんたもまんまと誑し込まれたわけだ」
「っ、安田っちは―――――」
「僕は綾瀬さんの友達だけど?変な言いがかりは止めてもらえるかな。そんな下らないことしか言うことがないなら僕たちはもう行くから。わざわざここまで来て遅刻したくはないしね。行こう?綾瀬さん」
関係ないと言おうとした未来の声に重なるように、隆弥が言った。
それどころか強制的に友里達との会話まで終わらせてしまった。
そして、未来の腕を掴んで、どんどん歩いていく。
それにつられて未来も進む。
「えっ?安田っちー?ちょっとー?」
後ろからは友里達の罵詈雑言が聞こえてくる。
だが、彼女達も極端に強く出るのは未来に対してだけだ。未来達を追いかけて来ようとすらしていなかった。
しばらく歩き、友里達の姿が見えなくなったところで、隆弥は未来の腕を放し謝った。
「ごめん、綾瀬さん。急に腕を掴んだりして。本当にごめんね。痛くなかった?」
必死に謝る隆弥に未来は目を丸くする。そしてパチパチと瞬きを繰り返す。先ほど友里達に向かって話していたときは今まで見たことがないほど冷たい目をしていたというのに、今はいつもの優しい目だったから。
それに、どう考えても自分は隆弥に助けてもらった側で、謝られることなんてない。
「ううん、全然。こっちこそ助けてくれてありがとー。でも、どうして助けてくれたのー?」
本当に痛くなんてなかった。隆弥は決して無理やりにならないように優しく導いてくれた。だからお礼を言ってから気になったことを聞いた。
「どうしてって、友達だもん。当たり前だよ。ただ、話しかけるのが遅くなってごめんね。最初はただの友達同士のお喋りだと思っちゃって」
そう言って恥ずかしそうに笑う隆弥。だが、未来からすればいったい何を恥ずかしがる必要があるのか、といった感じだ。
それを当たり前と言える人が一体どれほどいるだろうか。
今の言い方からすると友里達の言葉を隆弥は聞いていたことになる。
尚の事、見て見ぬふりをする方が自然に思えた。
未来が素直にそう言うと、隆弥は苦笑を浮かべた。
「前に…、球技大会の時にさ、試合中春陽君がクラスメイトから色々言われてるのがすごく悔しかったんだ。試合中だから言い返すことはできないし、元々僕はあんまりそういうことが得意じゃないんだけど。でも、もし次友達が謂れのないことを言われてたら絶対に行動しようって思って」
「……私が言われてたのはー、謂れのないことなんかじゃないかもしれないよー?」
未来はあえて自分を悪く言ってしまった。
隆弥が何と言うか聞いてみたくなったのかもしれない。
「?それはないよ。一緒に話したり、遊んだりして綾瀬さんはそんな人じゃないってそれくらいわかってるつもりだよ。まあもし彼女達の言うことが正しくてもあんな場所で言うことじゃないし、やっぱり止めるよ」
未来は隆弥の言葉に目を大きくする。
友里達が流した噂、それを信じる者はいても、未来はそんな人じゃない、そう言って味方になってくれる人は当時いなかった。
瑞穂達に話したとき、信じてもらえたのが初めてだったのだ。
男子は、自分も、なんて言ってくる人ばかりだった。
だから隆弥の言葉が未来にとっては大きな衝撃だった。
「安田っちは優しいねー」
「僕なんて全然だよ。それに相手は女子なのに出て行くのちょっと怖かったしね」
そう言って後頭部に手をやり、苦笑する隆弥。
「ふふっ、そうだったんだー。全然そんな風に見えなかったよー?」
あのときの隆弥の冷たい目は、普段なら、自分に向けられたなら、怖いと思ったかもしれない。でも自分のためだと思うと不思議なことにちょっと格好良かったとさえ思えてしまう。
「ならよかった。って話してる場合じゃなよ!本当に時間、遅れちゃう。行こう綾瀬さん」
「うん!」
こうして、この日のオープンキャンパスを二人で過ごすことになった隆弥と未来。隆弥はその話し方や見た目の雰囲気のとおり、とても優しい男子だ。アイドルオタクをしていた未来は自分のことをイケメン好きだと思っていた。だから恋をするならそういう相手だろう、と勝手に思い描いていた。そんな未来にとって、正直イケメンとは言えない、小柄で気の弱そうな隆弥は決して恋愛対象にならない。そのはずだった。それなのに――――。
説明会のとき、何となく隣に座る隆弥に目がいってしまった。
隆弥は真剣に話を聴いていた。その横顔を見ていたら、何だかずっと見ていたくなる。それに隆弥の隣はなぜかすごく居心地がいい。それは未来にとって、雪愛達と一緒にいるとき以外では初めてで、不思議な感じだった。当然、異性相手に思ったことなんてない。
「どうかした?綾瀬さん」
未来の視線に気づいたのか、隆弥が未来に顔を向け小声で聞いてきた。
「っ、……なんでもないよー」
首をぶんぶんと横に振って、同じく小声で答える未来。気づかれたことが恥ずかしくて少し頬が熱い。
「そう?」
隆弥は少しだけ首を傾げたが、すぐに顔を正面に戻した。
未来はほっと安堵の息を吐く。
そして心の中で自分に落ち着けと言い聞かせる。
隆弥はみんなに優しい。思えば花火大会に行ったときも、みんなに気を配っていた気がする。それに今日助けてくれたのだって隆弥自身で言っていたではないか。春陽の件があったからだと。自分が特別、という訳ではないのだ。それなのに何をそれだけのことで勝手に盛り上がっているのか。こんなのは吊り橋効果みたいなものだ。
それからなんとか気持ちを落ち着けた未来は、半日ほどのオープンキャンパスを隆弥と一緒に過ごした。
隆弥がずっと傍にいてくれたおかげで、未来のオープンキャンパスは充実したものとなった。それは一人で来ることが決まり、実際に来て、友里達に囲まれたところまででは考えられなかったほどに。
最寄り駅まで二人で歩き、別れのときとなった。もう夏休み中に隆弥と会う機会はないだろう。それがちょっぴり寂しく感じる。でも二学期になれば―――。
「それじゃあまたねー、隆弥っち」
「うん、またね綾瀬さん」
この頃には、呼び方が変わっていた。隆弥はまだ隆弥っち呼びに違和感があるのか苦笑を浮かべるが、嫌がっている様子はない。今後慣れていってほしいところだ。未来の中ではもう名前で呼ぶと決めたから。男子で、初めて。
(早く二学期にならないかなー)
隆弥と別れた後、未来はそんなことを考えていた。
二学期が始まったらどうしようか。とりあえず隆弥といっぱい色んな話をしたい。そうだ。だから自分から話しかけに行こう。今なら雪愛が五月の連休明けから積極的に春陽に話しに行っていたのがすごくよくわかる。
雪愛のときは恋してることに気づいていないだけだとわかったのに、自分のことになるとこれが恋なのか、未来にもよくわかっていない。けれど少なくとも仲良くなりたいという気持ちは本当だから。
これまでの学生生活で初めて、未来は夏休みが早く終わればいいのに、と思った。
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