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第一章
長い夜の終わり
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その後も、何度か黒刀に霊力を流す特訓を繰り返したレオナルドだが、相当集中力を要するようで、疲労の色が濃くなってきたため、ステラが止めてこの日の特訓は終了となった。
それから、レオナルドは眠るために、ベッドで横になったのだが、特訓の成果を実感して興奮しているのか、目が冴えてしまって中々寝つけなかった。これじゃ明日が大変だな、とレオナルドは苦笑いを浮かべるが、そもそもこんな夜更けまで起きてしまっている時点で、寝不足は確実で、特訓の疲れも残り、明日に支障をきたすのは間違いないだろう。
(…なあ、ステラ。身体強化はいつ頃できるようになるかな?)
そんなレオナルドが考えてしまうのはやはり自身の持つ霊力でできることについてだった。
『そうですね。とりあえず今日やったことをもっと自然に、もっと早くできるようになってから、ですかね。後は力むことなく維持することもできなければいけません』
(そっかぁ。やっぱり難しいんだ?)
『身体強化は、霊力で体の内側に鎧を纏う感じ、とでも言えばいいのでしょうか。霊力を肉体に作用させるのは、刀に霊力を流すだけとは難易度が違います』
(なるほど。それで精霊術はもっと難しい、と)
『ええ。精霊術はあなたの霊力を媒介とした外部―――、世界への事象改変です。使いこなすには、具体的な想像力、高度な霊力操作、高い干渉力が必要になります』
(聞いただけでも大変そうだな。けど、そう考えると魔法ってすごいんだなぁ。魔法名が頭に思い浮かんで、詠唱するとそれが使えるんだから。まあ俺は魔力がないからそもそも使えないんだけど)
『魔力なんて無くてよかったと思いますよ。人間にあんなものは不要でしょう。霊力の方が余程汎用性が高い、素晴らしい力ですよ』
ステラ自身の力の源、だからだろうか。贔屓がすごい、とレオナルドには感じて、それが何だかおかしかった。
(ああ。以前の俺は、魔力がないことに随分落ち込んだ―――、いや、絶望していたけど、前世の記憶を思い出して、それを嘆いてもしょうがないって思うようになった。そんなことより殺される運命を何とかしなきゃって。けど、ステラが霊力のことを教えてくれた今は、希望しかないくらいだ)
『それはよかったですね。もっと感謝していいですよ』
ステラの言い方にレオナルドは口元が笑みの形になる。
(そうだな。本当に感謝してる。今までは漠然と、殺されないように今できることを、って考えてきたけど、これで俺は自分の運命に真っ向から抗うことができるんだから)
『一つ、ずっと不思議だったのですが、よくそうして自分の死について客観的に話せますね』
(?どういう意味?)
『いえ、人間というのは生きることに貪欲で、死ぬことに恐怖する生き物かと思っていましたので。しかしあなたは、受け入れ難いはずの自分が死ぬ運命にあるという部分は受け入れた上で、どうするか考えているように見えます』
(ああ、そういうことか。生きることに貪欲なのも、死ぬことを怖がっているのも、まさに俺のことだよ。怖くて怖くて仕方がない。……よく考えるんだ。この世界がゲームと同じならレオナルドは絶対に死ぬ。もしそれが確定しているなら何をしても無駄なんじゃないかって。どれだけ対策をしようとしても、強制力が働いて、ある日突然、事故に遭うかもしれない、全く面識のない通り魔に後ろから刺されるかもしれない、雷に打たれるかもしれない、そうやってゲームの展開を待たずに死ぬかもしれないっていう不安がずっとある。世界が俺を殺そうとするんじゃないかって……。だから、自分が死ぬ恐怖は常に感じてるよ。その上で、絶対に殺されてなんかやるものか、って思ってる)
レオナルドは初めて自分の気持ちを吐露した。
それは前世の記憶を思い出したレオナルドが誰にも言えずにずっと抱えていた不安と恐怖だった。この世界がゲームだという秘密を唯一共有したステラが相手でなければ、今後も絶対に言うことはなかっただろう。
そんなレオナルドの言葉に何か感じるものがあったのか、
『世界が……。それは少しわかるかもしれません。私も封印されたまま、悠久の時を何もできずに過ごし、ただ消えるのを待つだけだったので……。世界は私という存在を消し去りたいのだと考えたことがあります……。だから私は人間だけでなく今のこの世界そのものを滅ぼしてやりたいと思いました』
ステラも少しだけ抱えていたものを吐露した。
(でも、今はこうして俺と一緒にいる。ステラはもう独りじゃないよ。だろ?)
『……ええ。そうですね。あなたももうそんな不安を抱える必要はありませんよ。私がいるというのに、そんな簡単に死ぬことはあり得ませんから』
(ありがとう……。頼りにしてるよ)
まだまだ眠気がやって来ないレオナルド。それから話題はゲームのことに移り、今後どんなことが起こりえるのか、というものになった。
レオナルドは、自分が大切に想っているということもあり、セレナリーゼとミレーネのルートについては詳細に語った。そして、主人公のことや、この世界がどのルートを辿るのかまだわからないため、他ルートにおける展開とその結末の概要なんかを語っている途中で、とうとう限界がきたのか、レオナルドは寝落ちしてしまった。
「すぅ……すぅ……」
現在、レオナルドの穏やかな寝息が聞こえている。
レオナルドが完全に眠ったことを確認したステラは、
『……おやすみなさい。レオ』
そう言って、レオナルドの霊力を使って何かをし始めた。その証拠にレオナルドの全身が淡く光っている。しばらく続いたその光は、その後唐突にふっと消えた。
翌日、ミレーネが起こしに来て目を覚ましたレオナルドは、全く疲れが残っていない、どころか体が軽い感じがすることを不思議に思ったが、若さってすごいな、と頓珍漢な感想を抱くのだった。
それから、レオナルドは眠るために、ベッドで横になったのだが、特訓の成果を実感して興奮しているのか、目が冴えてしまって中々寝つけなかった。これじゃ明日が大変だな、とレオナルドは苦笑いを浮かべるが、そもそもこんな夜更けまで起きてしまっている時点で、寝不足は確実で、特訓の疲れも残り、明日に支障をきたすのは間違いないだろう。
(…なあ、ステラ。身体強化はいつ頃できるようになるかな?)
そんなレオナルドが考えてしまうのはやはり自身の持つ霊力でできることについてだった。
『そうですね。とりあえず今日やったことをもっと自然に、もっと早くできるようになってから、ですかね。後は力むことなく維持することもできなければいけません』
(そっかぁ。やっぱり難しいんだ?)
『身体強化は、霊力で体の内側に鎧を纏う感じ、とでも言えばいいのでしょうか。霊力を肉体に作用させるのは、刀に霊力を流すだけとは難易度が違います』
(なるほど。それで精霊術はもっと難しい、と)
『ええ。精霊術はあなたの霊力を媒介とした外部―――、世界への事象改変です。使いこなすには、具体的な想像力、高度な霊力操作、高い干渉力が必要になります』
(聞いただけでも大変そうだな。けど、そう考えると魔法ってすごいんだなぁ。魔法名が頭に思い浮かんで、詠唱するとそれが使えるんだから。まあ俺は魔力がないからそもそも使えないんだけど)
『魔力なんて無くてよかったと思いますよ。人間にあんなものは不要でしょう。霊力の方が余程汎用性が高い、素晴らしい力ですよ』
ステラ自身の力の源、だからだろうか。贔屓がすごい、とレオナルドには感じて、それが何だかおかしかった。
(ああ。以前の俺は、魔力がないことに随分落ち込んだ―――、いや、絶望していたけど、前世の記憶を思い出して、それを嘆いてもしょうがないって思うようになった。そんなことより殺される運命を何とかしなきゃって。けど、ステラが霊力のことを教えてくれた今は、希望しかないくらいだ)
『それはよかったですね。もっと感謝していいですよ』
ステラの言い方にレオナルドは口元が笑みの形になる。
(そうだな。本当に感謝してる。今までは漠然と、殺されないように今できることを、って考えてきたけど、これで俺は自分の運命に真っ向から抗うことができるんだから)
『一つ、ずっと不思議だったのですが、よくそうして自分の死について客観的に話せますね』
(?どういう意味?)
『いえ、人間というのは生きることに貪欲で、死ぬことに恐怖する生き物かと思っていましたので。しかしあなたは、受け入れ難いはずの自分が死ぬ運命にあるという部分は受け入れた上で、どうするか考えているように見えます』
(ああ、そういうことか。生きることに貪欲なのも、死ぬことを怖がっているのも、まさに俺のことだよ。怖くて怖くて仕方がない。……よく考えるんだ。この世界がゲームと同じならレオナルドは絶対に死ぬ。もしそれが確定しているなら何をしても無駄なんじゃないかって。どれだけ対策をしようとしても、強制力が働いて、ある日突然、事故に遭うかもしれない、全く面識のない通り魔に後ろから刺されるかもしれない、雷に打たれるかもしれない、そうやってゲームの展開を待たずに死ぬかもしれないっていう不安がずっとある。世界が俺を殺そうとするんじゃないかって……。だから、自分が死ぬ恐怖は常に感じてるよ。その上で、絶対に殺されてなんかやるものか、って思ってる)
レオナルドは初めて自分の気持ちを吐露した。
それは前世の記憶を思い出したレオナルドが誰にも言えずにずっと抱えていた不安と恐怖だった。この世界がゲームだという秘密を唯一共有したステラが相手でなければ、今後も絶対に言うことはなかっただろう。
そんなレオナルドの言葉に何か感じるものがあったのか、
『世界が……。それは少しわかるかもしれません。私も封印されたまま、悠久の時を何もできずに過ごし、ただ消えるのを待つだけだったので……。世界は私という存在を消し去りたいのだと考えたことがあります……。だから私は人間だけでなく今のこの世界そのものを滅ぼしてやりたいと思いました』
ステラも少しだけ抱えていたものを吐露した。
(でも、今はこうして俺と一緒にいる。ステラはもう独りじゃないよ。だろ?)
『……ええ。そうですね。あなたももうそんな不安を抱える必要はありませんよ。私がいるというのに、そんな簡単に死ぬことはあり得ませんから』
(ありがとう……。頼りにしてるよ)
まだまだ眠気がやって来ないレオナルド。それから話題はゲームのことに移り、今後どんなことが起こりえるのか、というものになった。
レオナルドは、自分が大切に想っているということもあり、セレナリーゼとミレーネのルートについては詳細に語った。そして、主人公のことや、この世界がどのルートを辿るのかまだわからないため、他ルートにおける展開とその結末の概要なんかを語っている途中で、とうとう限界がきたのか、レオナルドは寝落ちしてしまった。
「すぅ……すぅ……」
現在、レオナルドの穏やかな寝息が聞こえている。
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『……おやすみなさい。レオ』
そう言って、レオナルドの霊力を使って何かをし始めた。その証拠にレオナルドの全身が淡く光っている。しばらく続いたその光は、その後唐突にふっと消えた。
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