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第一章
(幕間)フォルステッドの苦悩
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ある日の夜のこと、中々寝つけなかったフォルステッドは夫婦の寝室でソファに座り、一人酒を飲んでいた。フェーリスは眠っているため、室内の灯りはソファ横にあるスタンドランプだけだ。
(最近、レオナルドの様子がおかしい……)
フォルステッドが考えていたのはレオナルドのことだった。
いや、思い返せば、次期当主交代の話をしたときからだろう。
あの発端は、フォルステッドが国王に呼び出されたことだった。二人きりの場で、直々に、レオナルドがクルームハイト公爵家の後継者で良いと本当に思っているのか、と問われたのだ。もちろん、国王といえど、表向き貴族の継承について口を出す権利なんてない。だが、国王は、クルームハイト公爵家が国防の上で担う役割―――、他国への抑止力を魔力がないレオナルドに果たせるのか、と疑念を抱いていたのだ。
国王の言う抑止力の話を抜きにしても、問題はあった。いくら公爵家の長子とはいえ、魔力のないレオナルドが魔力に絶対の価値基準を置いているムージェスト王国の貴族社会で生きていくには恐らく常に困難がつきまとう。強さが求められる王国騎士などの武官はもちろん、魔法を使う機会などほとんどない文官であってもそれは変わらない。
それほど魔力がないというのは致命的だった。
フォルステッドは随分と悩んだ。そしてこれ以上レオナルドを苦しめたくない、という思いが勝ったのだ。
レオナルドは自分を恨むだろうか。憎むだろうか。そんな風に考えていた。
そうした事情があったとはいえ、レオナルドからすれば突如言い渡された当主交代話を彼はすんなりと受け入れた。それまで思い詰めていたはずなのに、セレナリーゼにあっさりと次期当主の座を譲り、自分は鍛錬、しかも護衛を断った上で実戦を増やしたいと言ってきたことには心底驚いた。フォルステッドにはそのときのレオナルドの考えが正直理解できなかった。
また、このときレオナルドが言っていた、公爵領内のどこかの田舎町で代官をしたい、というのは現実的で、確かにいい落としどころだと思ったのだ。公爵家の庇護下に置くことができるのだから。
その日の夜、レオナルドのことをとても心配していたフェーリスとも話し合ったが、レオナルドの心境が変化した理由は見当がつかず、結局は見守ろうという結論になった。
「はぁ……」
フォルステッドの口から何度目かわからないため息がこぼれる。酒を飲んでいても全く酔える気がしないが、最近はこうして夜中に酒を飲むことが増えていた。
「フォル……?眠れないの?」
そこに声がかけられた。
「フェリ……。ああ、すまない。起こしてしまったか?」
もちろん声の主はフェーリスだ。どうやら眠ってはいなかったらしい。
「ううん。大丈夫よ」
そう言ってフェーリスはフォルステッドの横に座った。そこで、フォルステッドの前に酒の入ったグラスがあるのを見たフェーリスは、
「私も一杯いただいてもいいかしら?」
自身も飲みたいと申し出た。あまりお酒に強くないフェーリスが望むのは珍しいことだった。
「もちろん」
フォルステッドは新しいグラスを用意し、酒を注ぐと、フェーリスの前にそっと差し出した。
「ありがとう」
フェーリスはお礼を言ってお酒を一口飲むとグラスをテーブルに置く。
「何か、考えごと?」
「ん?ああ、まあ……」
フォルステッドは苦笑を浮かべて言葉を濁したが、
「……もしかしてレオのこと、かしら?」
フェーリスはすべてわかっているかのように優しい笑みを浮かべていた。
「……ああ」
フェーリスには敵わないなと、フォルステッドは誤魔化すことを諦めたようだ。
そして今まで考えていたことを伝えた。
「ふふっ、何だか随分懐かしく感じるわね。あのときは本当に驚いたわ。てっきりレオのことだから猛反発だと思ったのにね」
「本当にな」
「でも私は今でも国王が介入してきたことは納得できないわ。役割については理解しているつもりだけれど……」
貴族としてではなく、親としての想いを口にするフェーリス。そんな彼女をフォルステッドは眩しそうに見つめたが、苦言を呈することも忘れなかった。
「フェリ。滅多なことを言うものじゃない」
例え二人きりでも王族批判はすべきではない。
「わかってるわ、フォル。レオもセレナも今はいい方向に進んでいるようだしね」
「……そうだろうか?」
フェーリスの言葉にフォルステッドは同意しかねる部分があった。セレナリーゼはともかく、レオナルドは本当にいい方向に進んでいるのだろうか、と。
「フォルには何か気になることがあるの?」
「ああ……」
相手がフェーリスだからだろう。フォルステッドは正直に胸の内を明かした。
年が明けた頃から、レオナルドはアレンとの鍛錬の時間を減らすようになった。それで何をしているかといえば、部屋にこもっているというのだ。しかも誰も入ってこないようにとわざわざ言いつけているらしい。
鍛錬を減らして部屋でいったい何をしているのか、レオナルドの行動がフォルステッドには理解できなかった。
あの異臭騒ぎの後から実戦訓練をしなくなったこともそうだ。
当時、レオナルド自身からやらないと言ってきたという報告を受けた。危ないことを避けてくれるのは親としてありがたかったため大して気に留めなかったが、僅《わず》かな違和感もあった。あれほど熱心だったのに、自分からやめるとは、と。
これらのことから、レオナルドが鍛錬から徐々に距離を置こうとしているようにフォルステッドには思えた。相当意志は固そうだったが、強くなる、という目標を諦めたのだろうか、それとも他にやりたいことができたのだろうか、色々と考えてみたが、どうにもしっくりこないのだ。
「きっとレオにも何か考えがあるのよ。だってレオったら毎日すごく楽しそうだもの。充実してるんだと思うわ」
「それはそうだろうと思うが、いったい何を考えているのか……」
「そんなに気になるならフォルの方から訊いてみたら?」
「そうなんだがな……」
「?何か訊きにくい事情があるの?」
フェーリスに促されフォルステッドは再び話し始める。
それはセレナリーゼが攫われた事件の後、レオナルドが目を覚まし、話を聞いたときのことだ。
『今の自分にそれほど利用価値があるとは思えません』
レオナルドのこの言葉を、フォルステッドは否定してやることができなかった。もちろん、親としては即座に否定したかった。だが、貴族としての冷徹な部分が、対外的にはレオナルドの言う通りだと認めてしまっていた。
フォルステッドはこれを今でも後悔している。それからの、少なくとも帰省中までのレオナルドが何か悩みを抱えているように見えたため余計に。
価値――――、その一つであることは間違いない、次期当主という立場を奪ったのは自分なのだから何とも皮肉が効いている。
それでもレオナルドは前を向いて、強くなりたい、と言っていた。レオナルドの願いは一貫していた。
だが、その願いすら、魔力のないレオナルドでは無理だと現実を突きつけたのは他でもないフォルステッドだ。
自分はレオナルドを傷つけるようなことばかり言っている。
だから、下手にレオナルドの考えを訊いたら、また傷つけてしまうのではないかと思ってしまうのだ。
(本当に私はひどい父親だな……)
話し終えたフォルステッドはそんな感想を抱き、口元に自分を卑下するような苦笑が浮かぶ。自分の想いがどうであるかは関係ない。レオナルドにした仕打ちがすべてだ。
だが、隣で話を聞いていたフェーリスは違った。フォルステッドが自分自身のことをどう思っているかもわかってしまったようだ。
「フォルはいい父親よ。少なくとも私はそう思うわ。だって、すべてはレオを想ってのことでしょう?」
初めて聞く内容だったが、フェーリスにはフォルステッドの気持ちがちゃんと伝わった。自分だって貴族として育ってきたのだから。フォルステッドが抱く貴族、それも公爵家の当主としての考えと、親としての気持ち、両者が相容れないこともあるのは当然だ。レオナルドにその機微が伝わっていればいいけれど……。
「ありがとう、フェリ」
フェーリスが優しく微笑むものだから、何だか少し照れ臭くて、フォルステッドはグラスに残っていたお酒をぐいっと飲み干すとおかわりを注ぎながら話題を変えた。
「それにしてもあのとき、レオナルドは自分に戦う力などないとわかっているのにどうして一人で賊の後を追ったりしたのか。結果的には最善だった訳だが……」
「そんなの簡単よ。レオはセレナのことをそれだけ大切に想ってるってことでしょう?」
「いや、そうかもしれんが……。何やらセレナリーゼの居場所がわかる、とレオナルドは言っていたがそれもどういう理屈なのかさっぱりだ」
「それは愛の力ね」
断言するフェーリスに思わずフォルステッドは呆れた目を向けてしまう。あまりグラスの酒は減っていないが酔っているのだろうか。
「フェリ……。まあ確かに次期当主をセレナリーゼにした辺りから兄妹仲は良くなっているようだが、それ以前レオナルドはセレナリーゼのことを避けていただろう?」
「ええ。だからこそ、今レオもセレナもいい方向に進んでるって思うの。それに、レオはまだ違う気もするけど……、私としてはセレナの方が本当の本気なんじゃないかって思うわ」
何かを思い出しているのか、フェーリスは実に楽しそうだ。
「?どういう意味だ?」
「ふふっ、この話はあの二人がもっと大きくなってから、ね?でも、だからこそフォルはセレナのお願いを何としても叶えてあげてね?」
「わかってる。貴族としては甘いとわかっているが、私としてもセレナリーゼが望まないことを強要したくはない。難しいが何とかするつもりだ」
「ありがとう、フォル」
フェーリスはフォルステッドの腕に自分の腕を絡め、彼の肩に頭を預けた。フォルステッドからもフェーリスの肩を抱き寄せる。
「……さっきはレオに訊いてみたらなんて言っちゃったけど、私達に色々言われるのは嫌がるかもしれないわね。レオはもう自分でしっかり考えて、決められるくらい成長してるもの」
「そうかもしれないな」
フッとフォルステッドは小さく笑った。
「私達は子供達を見守ってあげましょう?そしてもしもレオやセレナが自分一人ではどうしようもなくて、私達に相談してくれたときには、全力で応えてあげましょう?」
「ああ、そうだな」
この日、フェーリスとたくさん話すことができて心が軽くなったことを実感したフォルステッドは、やっぱりフェーリスには頭が上がらないな、とあらためて思うのだった。
(最近、レオナルドの様子がおかしい……)
フォルステッドが考えていたのはレオナルドのことだった。
いや、思い返せば、次期当主交代の話をしたときからだろう。
あの発端は、フォルステッドが国王に呼び出されたことだった。二人きりの場で、直々に、レオナルドがクルームハイト公爵家の後継者で良いと本当に思っているのか、と問われたのだ。もちろん、国王といえど、表向き貴族の継承について口を出す権利なんてない。だが、国王は、クルームハイト公爵家が国防の上で担う役割―――、他国への抑止力を魔力がないレオナルドに果たせるのか、と疑念を抱いていたのだ。
国王の言う抑止力の話を抜きにしても、問題はあった。いくら公爵家の長子とはいえ、魔力のないレオナルドが魔力に絶対の価値基準を置いているムージェスト王国の貴族社会で生きていくには恐らく常に困難がつきまとう。強さが求められる王国騎士などの武官はもちろん、魔法を使う機会などほとんどない文官であってもそれは変わらない。
それほど魔力がないというのは致命的だった。
フォルステッドは随分と悩んだ。そしてこれ以上レオナルドを苦しめたくない、という思いが勝ったのだ。
レオナルドは自分を恨むだろうか。憎むだろうか。そんな風に考えていた。
そうした事情があったとはいえ、レオナルドからすれば突如言い渡された当主交代話を彼はすんなりと受け入れた。それまで思い詰めていたはずなのに、セレナリーゼにあっさりと次期当主の座を譲り、自分は鍛錬、しかも護衛を断った上で実戦を増やしたいと言ってきたことには心底驚いた。フォルステッドにはそのときのレオナルドの考えが正直理解できなかった。
また、このときレオナルドが言っていた、公爵領内のどこかの田舎町で代官をしたい、というのは現実的で、確かにいい落としどころだと思ったのだ。公爵家の庇護下に置くことができるのだから。
その日の夜、レオナルドのことをとても心配していたフェーリスとも話し合ったが、レオナルドの心境が変化した理由は見当がつかず、結局は見守ろうという結論になった。
「はぁ……」
フォルステッドの口から何度目かわからないため息がこぼれる。酒を飲んでいても全く酔える気がしないが、最近はこうして夜中に酒を飲むことが増えていた。
「フォル……?眠れないの?」
そこに声がかけられた。
「フェリ……。ああ、すまない。起こしてしまったか?」
もちろん声の主はフェーリスだ。どうやら眠ってはいなかったらしい。
「ううん。大丈夫よ」
そう言ってフェーリスはフォルステッドの横に座った。そこで、フォルステッドの前に酒の入ったグラスがあるのを見たフェーリスは、
「私も一杯いただいてもいいかしら?」
自身も飲みたいと申し出た。あまりお酒に強くないフェーリスが望むのは珍しいことだった。
「もちろん」
フォルステッドは新しいグラスを用意し、酒を注ぐと、フェーリスの前にそっと差し出した。
「ありがとう」
フェーリスはお礼を言ってお酒を一口飲むとグラスをテーブルに置く。
「何か、考えごと?」
「ん?ああ、まあ……」
フォルステッドは苦笑を浮かべて言葉を濁したが、
「……もしかしてレオのこと、かしら?」
フェーリスはすべてわかっているかのように優しい笑みを浮かべていた。
「……ああ」
フェーリスには敵わないなと、フォルステッドは誤魔化すことを諦めたようだ。
そして今まで考えていたことを伝えた。
「ふふっ、何だか随分懐かしく感じるわね。あのときは本当に驚いたわ。てっきりレオのことだから猛反発だと思ったのにね」
「本当にな」
「でも私は今でも国王が介入してきたことは納得できないわ。役割については理解しているつもりだけれど……」
貴族としてではなく、親としての想いを口にするフェーリス。そんな彼女をフォルステッドは眩しそうに見つめたが、苦言を呈することも忘れなかった。
「フェリ。滅多なことを言うものじゃない」
例え二人きりでも王族批判はすべきではない。
「わかってるわ、フォル。レオもセレナも今はいい方向に進んでいるようだしね」
「……そうだろうか?」
フェーリスの言葉にフォルステッドは同意しかねる部分があった。セレナリーゼはともかく、レオナルドは本当にいい方向に進んでいるのだろうか、と。
「フォルには何か気になることがあるの?」
「ああ……」
相手がフェーリスだからだろう。フォルステッドは正直に胸の内を明かした。
年が明けた頃から、レオナルドはアレンとの鍛錬の時間を減らすようになった。それで何をしているかといえば、部屋にこもっているというのだ。しかも誰も入ってこないようにとわざわざ言いつけているらしい。
鍛錬を減らして部屋でいったい何をしているのか、レオナルドの行動がフォルステッドには理解できなかった。
あの異臭騒ぎの後から実戦訓練をしなくなったこともそうだ。
当時、レオナルド自身からやらないと言ってきたという報告を受けた。危ないことを避けてくれるのは親としてありがたかったため大して気に留めなかったが、僅《わず》かな違和感もあった。あれほど熱心だったのに、自分からやめるとは、と。
これらのことから、レオナルドが鍛錬から徐々に距離を置こうとしているようにフォルステッドには思えた。相当意志は固そうだったが、強くなる、という目標を諦めたのだろうか、それとも他にやりたいことができたのだろうか、色々と考えてみたが、どうにもしっくりこないのだ。
「きっとレオにも何か考えがあるのよ。だってレオったら毎日すごく楽しそうだもの。充実してるんだと思うわ」
「それはそうだろうと思うが、いったい何を考えているのか……」
「そんなに気になるならフォルの方から訊いてみたら?」
「そうなんだがな……」
「?何か訊きにくい事情があるの?」
フェーリスに促されフォルステッドは再び話し始める。
それはセレナリーゼが攫われた事件の後、レオナルドが目を覚まし、話を聞いたときのことだ。
『今の自分にそれほど利用価値があるとは思えません』
レオナルドのこの言葉を、フォルステッドは否定してやることができなかった。もちろん、親としては即座に否定したかった。だが、貴族としての冷徹な部分が、対外的にはレオナルドの言う通りだと認めてしまっていた。
フォルステッドはこれを今でも後悔している。それからの、少なくとも帰省中までのレオナルドが何か悩みを抱えているように見えたため余計に。
価値――――、その一つであることは間違いない、次期当主という立場を奪ったのは自分なのだから何とも皮肉が効いている。
それでもレオナルドは前を向いて、強くなりたい、と言っていた。レオナルドの願いは一貫していた。
だが、その願いすら、魔力のないレオナルドでは無理だと現実を突きつけたのは他でもないフォルステッドだ。
自分はレオナルドを傷つけるようなことばかり言っている。
だから、下手にレオナルドの考えを訊いたら、また傷つけてしまうのではないかと思ってしまうのだ。
(本当に私はひどい父親だな……)
話し終えたフォルステッドはそんな感想を抱き、口元に自分を卑下するような苦笑が浮かぶ。自分の想いがどうであるかは関係ない。レオナルドにした仕打ちがすべてだ。
だが、隣で話を聞いていたフェーリスは違った。フォルステッドが自分自身のことをどう思っているかもわかってしまったようだ。
「フォルはいい父親よ。少なくとも私はそう思うわ。だって、すべてはレオを想ってのことでしょう?」
初めて聞く内容だったが、フェーリスにはフォルステッドの気持ちがちゃんと伝わった。自分だって貴族として育ってきたのだから。フォルステッドが抱く貴族、それも公爵家の当主としての考えと、親としての気持ち、両者が相容れないこともあるのは当然だ。レオナルドにその機微が伝わっていればいいけれど……。
「ありがとう、フェリ」
フェーリスが優しく微笑むものだから、何だか少し照れ臭くて、フォルステッドはグラスに残っていたお酒をぐいっと飲み干すとおかわりを注ぎながら話題を変えた。
「それにしてもあのとき、レオナルドは自分に戦う力などないとわかっているのにどうして一人で賊の後を追ったりしたのか。結果的には最善だった訳だが……」
「そんなの簡単よ。レオはセレナのことをそれだけ大切に想ってるってことでしょう?」
「いや、そうかもしれんが……。何やらセレナリーゼの居場所がわかる、とレオナルドは言っていたがそれもどういう理屈なのかさっぱりだ」
「それは愛の力ね」
断言するフェーリスに思わずフォルステッドは呆れた目を向けてしまう。あまりグラスの酒は減っていないが酔っているのだろうか。
「フェリ……。まあ確かに次期当主をセレナリーゼにした辺りから兄妹仲は良くなっているようだが、それ以前レオナルドはセレナリーゼのことを避けていただろう?」
「ええ。だからこそ、今レオもセレナもいい方向に進んでるって思うの。それに、レオはまだ違う気もするけど……、私としてはセレナの方が本当の本気なんじゃないかって思うわ」
何かを思い出しているのか、フェーリスは実に楽しそうだ。
「?どういう意味だ?」
「ふふっ、この話はあの二人がもっと大きくなってから、ね?でも、だからこそフォルはセレナのお願いを何としても叶えてあげてね?」
「わかってる。貴族としては甘いとわかっているが、私としてもセレナリーゼが望まないことを強要したくはない。難しいが何とかするつもりだ」
「ありがとう、フォル」
フェーリスはフォルステッドの腕に自分の腕を絡め、彼の肩に頭を預けた。フォルステッドからもフェーリスの肩を抱き寄せる。
「……さっきはレオに訊いてみたらなんて言っちゃったけど、私達に色々言われるのは嫌がるかもしれないわね。レオはもう自分でしっかり考えて、決められるくらい成長してるもの」
「そうかもしれないな」
フッとフォルステッドは小さく笑った。
「私達は子供達を見守ってあげましょう?そしてもしもレオやセレナが自分一人ではどうしようもなくて、私達に相談してくれたときには、全力で応えてあげましょう?」
「ああ、そうだな」
この日、フェーリスとたくさん話すことができて心が軽くなったことを実感したフォルステッドは、やっぱりフェーリスには頭が上がらないな、とあらためて思うのだった。
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