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第二章
感想
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レオナルドがようやく終わった、と安堵したのも束の間、次はセレナリーゼの番ということで、皆で三階へと上がっていく。ただレオナルドは幾分気楽だった。待ち時間は変わらず長くなるだろうが、ここでは自分がすることは何もないはずだからだ。
一方、セレナリーゼは自分の服にはあまり興味がないようで、三階に到着した当初、はしゃいでいたのはフェーリス一人だった。最初にセレナリーゼの採寸が行われた後、フェーリスが数着の服を選び、その一着目をセレナリーゼが試着し、それにフェーリスが感想を言っている。
レオナルドは、近くにはいても、自分のセンスに自信がないため、下手な口出しはしないつもりだったのだが、何を思ったのか、
「レオ兄さまはこちらの服どう思いますか?」
なんとセレナリーゼがレオナルドにも感想を求めてきた。それも何だか非常に期待に満ちた目を向けられている気がした。
「あ、ああ。よく似合ってると思うよ」
「そうですか?では次の服を着てみますね」
レオナルドを見つめていたセレナリーゼは、そう言うと笑みを浮かべて、フェーリスが選んだ二着目の服とともに試着室に入っていく。
「うん……」
(なあ、ステラ。これって待ってろってこと、だよな?)
『そうでしょうね』
(だよなぁ……)
ちょっと気が重くなるレオナルドだった。
その後もフェーリスが選んだ第一陣の服をセレナリーゼは試着し続け、レオナルドは毎回感想を求められた。ただ感想といっても、レオナルドには、似合ってるや可愛いを繰り返すことしかできない。
もちろんレオナルドとしては本気で言っていたのだが、何度目かのときにセレナリーゼから、
「レオ兄さまは同じ感想ばかりですね。何だかどうでもいいみたいに聞こえます」
と、頬を膨らませて言われてしまった。拗ねている姿も可愛らしいが、セレナリーゼの機嫌が悪くなってしまったと、レオナルドはあたふたして困ってしまう。
「そんなことないよ!?」
「……本当ですか?」
レオナルドにジト目を向けるセレナリーゼ。
「もちろん!本当に全部セレナに似合ってて可愛かったから。こういうのあんまり慣れてなくて他に言葉が見つからないんだ。ごめん、セレナ」
「っ、そんな、謝らないでください。私の方こそ意地悪を言ってごめんなさい。レオ兄さまが、その、可愛いと思ってくださって嬉しいです。この後も見てくれますか?」
レオナルドがすぐに謝ったことで罪悪感を覚えたのか、セレナリーゼは慌てて自分の態度が悪かったと謝罪した上で、この後も感想が欲しいとおねだりする。
「あ、ああ、もちろん」
すぐにセレナリーゼの機嫌が直ってくれたのでレオナルドはそっと胸を撫で下ろしたのだった。
『レオは本当にセレナリーゼに弱いですね』
(うっせ。でも素直な感想をちゃんと言ってたんだけどなぁ)
『レオは語彙力を鍛えなければいけないのでは?』
(女の子にこうして感想を求められるのってマジで難しいんだぞ?)
『そんなことを言っているようでは今後も拗《す》ねられそうですね』
(今後、か……。どうなんだろうな。いつまでセレナが俺と仲良くしてくれるかわかんないんだよな)
『ゲームでは不仲なんでしたっけ?』
(ああ。今は大分ゲームと違う感じがするけど、学園に入学する頃にはゲーム通りになってる可能性もあるからさ)
『……それはどうでしょうね』
(ん?)
『いえ、何でもありません』
何か含みのある雰囲気に感じたが、ステラが何でもないと打ち切ったため、レオナルドもそれ以上は訊かなかった。
そうして第一陣が終わると、フェーリスは再び服選びに突入した。しかも、最初は乗り気じゃなかったように見えたセレナリーゼも一緒にだ。二人で楽しそうに選んでいる。二人とも買い物が好きなんだなとレオナルドは微笑ましく思った。
しばらく自分にできることはなさそうなので、レオナルドは二人からそっと離れ、店内を見て回った。
レオナルドが何をしているのか。それはミレーネへのプレゼント探しだったりする。もうすぐミレーネは十六歳の誕生日を迎えるからだ。
この国において、五歳、十歳、そして十六歳の誕生日というのは、特別なものだ。五歳の誕生日は無事に育ってくれたことへの感謝、十歳は下働きに出るようになったり、魔力測定を行ったりという節目の年というのが理由だ。
そして、十六歳というのは成人する年齢だ。成人年齢は周辺国も同じで、結婚もできるようになる。
ちなみに、ムージェスト王国の貴族は十六歳から婚約者を作るのが慣例となっている。学園に在籍している二年間で婚約する者は非常に多く、彼らは卒業後に結婚するのが一般的な流れだ。実際は、結婚は家同士の繋がりのため、入学前から様々な相手と顔を繋いでいるし、入学前に両家の間で婚約が内定していて、入学後、公にする者もいる。どうしてそんな面倒なことをしているのか。恐らくだが、これはゲーム開始時点で主人公やヒロインに婚約者がいたら恋愛が成立しないための設定だとレオナルドは考えている。
閑話休題。
ミレーネがそんな特別な日を迎えるため、何かお祝いをしたいとレオナルドは考えたのだ。
個人的にしたいと思っていることのため、父母に金銭を工面してもらうことはしたくなかった。だから使えるお金は実戦訓練で稼いだお金だ。本来今後のために稼いでいたものだが、ステラと一緒に周囲には内緒で戦うようになってから正直かなり稼げているため、こういうことに使うのもいいとレオナルドは思っている。
しかし、何がいいか具体的には考えていなかったので、こうして店内を見ていても、中々これだと思う物が見つからない。
そうこうしているうちに、ふとセレナリーゼ達の方を見れば、服選びが終わったようで二人は試着コーナーにいた。この後は第二陣の試着タイムが始まる。そうなればセレナリーゼが着替えている間くらいしか店内を見て回ることはできないだろう。先ほどのことを考えれば、試着した姿の感想を求められる可能性が高いからだ。
それほどまとまった時間、プレゼント探しはできそうにないため、今日は納得する物を見つけられないかもしれないなと思うレオナルド。
だが、たとえ今日が無理でも、また今度一人で訪れればいいかと思い直し、レオナルドはセレナリーゼ達の元に向かうのだった。
一方、セレナリーゼは自分の服にはあまり興味がないようで、三階に到着した当初、はしゃいでいたのはフェーリス一人だった。最初にセレナリーゼの採寸が行われた後、フェーリスが数着の服を選び、その一着目をセレナリーゼが試着し、それにフェーリスが感想を言っている。
レオナルドは、近くにはいても、自分のセンスに自信がないため、下手な口出しはしないつもりだったのだが、何を思ったのか、
「レオ兄さまはこちらの服どう思いますか?」
なんとセレナリーゼがレオナルドにも感想を求めてきた。それも何だか非常に期待に満ちた目を向けられている気がした。
「あ、ああ。よく似合ってると思うよ」
「そうですか?では次の服を着てみますね」
レオナルドを見つめていたセレナリーゼは、そう言うと笑みを浮かべて、フェーリスが選んだ二着目の服とともに試着室に入っていく。
「うん……」
(なあ、ステラ。これって待ってろってこと、だよな?)
『そうでしょうね』
(だよなぁ……)
ちょっと気が重くなるレオナルドだった。
その後もフェーリスが選んだ第一陣の服をセレナリーゼは試着し続け、レオナルドは毎回感想を求められた。ただ感想といっても、レオナルドには、似合ってるや可愛いを繰り返すことしかできない。
もちろんレオナルドとしては本気で言っていたのだが、何度目かのときにセレナリーゼから、
「レオ兄さまは同じ感想ばかりですね。何だかどうでもいいみたいに聞こえます」
と、頬を膨らませて言われてしまった。拗ねている姿も可愛らしいが、セレナリーゼの機嫌が悪くなってしまったと、レオナルドはあたふたして困ってしまう。
「そんなことないよ!?」
「……本当ですか?」
レオナルドにジト目を向けるセレナリーゼ。
「もちろん!本当に全部セレナに似合ってて可愛かったから。こういうのあんまり慣れてなくて他に言葉が見つからないんだ。ごめん、セレナ」
「っ、そんな、謝らないでください。私の方こそ意地悪を言ってごめんなさい。レオ兄さまが、その、可愛いと思ってくださって嬉しいです。この後も見てくれますか?」
レオナルドがすぐに謝ったことで罪悪感を覚えたのか、セレナリーゼは慌てて自分の態度が悪かったと謝罪した上で、この後も感想が欲しいとおねだりする。
「あ、ああ、もちろん」
すぐにセレナリーゼの機嫌が直ってくれたのでレオナルドはそっと胸を撫で下ろしたのだった。
『レオは本当にセレナリーゼに弱いですね』
(うっせ。でも素直な感想をちゃんと言ってたんだけどなぁ)
『レオは語彙力を鍛えなければいけないのでは?』
(女の子にこうして感想を求められるのってマジで難しいんだぞ?)
『そんなことを言っているようでは今後も拗《す》ねられそうですね』
(今後、か……。どうなんだろうな。いつまでセレナが俺と仲良くしてくれるかわかんないんだよな)
『ゲームでは不仲なんでしたっけ?』
(ああ。今は大分ゲームと違う感じがするけど、学園に入学する頃にはゲーム通りになってる可能性もあるからさ)
『……それはどうでしょうね』
(ん?)
『いえ、何でもありません』
何か含みのある雰囲気に感じたが、ステラが何でもないと打ち切ったため、レオナルドもそれ以上は訊かなかった。
そうして第一陣が終わると、フェーリスは再び服選びに突入した。しかも、最初は乗り気じゃなかったように見えたセレナリーゼも一緒にだ。二人で楽しそうに選んでいる。二人とも買い物が好きなんだなとレオナルドは微笑ましく思った。
しばらく自分にできることはなさそうなので、レオナルドは二人からそっと離れ、店内を見て回った。
レオナルドが何をしているのか。それはミレーネへのプレゼント探しだったりする。もうすぐミレーネは十六歳の誕生日を迎えるからだ。
この国において、五歳、十歳、そして十六歳の誕生日というのは、特別なものだ。五歳の誕生日は無事に育ってくれたことへの感謝、十歳は下働きに出るようになったり、魔力測定を行ったりという節目の年というのが理由だ。
そして、十六歳というのは成人する年齢だ。成人年齢は周辺国も同じで、結婚もできるようになる。
ちなみに、ムージェスト王国の貴族は十六歳から婚約者を作るのが慣例となっている。学園に在籍している二年間で婚約する者は非常に多く、彼らは卒業後に結婚するのが一般的な流れだ。実際は、結婚は家同士の繋がりのため、入学前から様々な相手と顔を繋いでいるし、入学前に両家の間で婚約が内定していて、入学後、公にする者もいる。どうしてそんな面倒なことをしているのか。恐らくだが、これはゲーム開始時点で主人公やヒロインに婚約者がいたら恋愛が成立しないための設定だとレオナルドは考えている。
閑話休題。
ミレーネがそんな特別な日を迎えるため、何かお祝いをしたいとレオナルドは考えたのだ。
個人的にしたいと思っていることのため、父母に金銭を工面してもらうことはしたくなかった。だから使えるお金は実戦訓練で稼いだお金だ。本来今後のために稼いでいたものだが、ステラと一緒に周囲には内緒で戦うようになってから正直かなり稼げているため、こういうことに使うのもいいとレオナルドは思っている。
しかし、何がいいか具体的には考えていなかったので、こうして店内を見ていても、中々これだと思う物が見つからない。
そうこうしているうちに、ふとセレナリーゼ達の方を見れば、服選びが終わったようで二人は試着コーナーにいた。この後は第二陣の試着タイムが始まる。そうなればセレナリーゼが着替えている間くらいしか店内を見て回ることはできないだろう。先ほどのことを考えれば、試着した姿の感想を求められる可能性が高いからだ。
それほどまとまった時間、プレゼント探しはできそうにないため、今日は納得する物を見つけられないかもしれないなと思うレオナルド。
だが、たとえ今日が無理でも、また今度一人で訪れればいいかと思い直し、レオナルドはセレナリーゼ達の元に向かうのだった。
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