こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

文字の大きさ
3 / 201
太陽都市『サンサイド』

人違い

しおりを挟む
「本当に着いたな」

 黒コートの男に言われた通の道を進んでみると確かに街が見えた。

 街に囲まれた西洋風の城もみえる。
その光景は、まるで中世ヨーロッパ の時代に来たのかと錯覚させる。

さらに言うならかなりの巨大都市で、一つの王国だと言われても不思議ではない。

(九割九分嘘だと思ったんだがな)

 ある意味街のイメージとはかけ離れていたので、今も騙された気もしないでもない。

 信用するしかなかったとはいえ、実際どんなとんでもない道かと思えば、その点は拍子抜だった。

 だがこの光景を見ても未だに信用ができない。

 最初にあった奴が説得力があればよかったのだが。
完全に不審者な上に暴行まで加えられたのなら仕方ないだろう。

「とりあえず進むしかないか」

 何かのドッキリや、アトラクションの可能性だってまだある。そっちの方がまだ個人的には説得力があるだろう。

 異世界説は取り敢えず他の人に出会うまで保留にして、大きく聳え立つ城を目指すことにした。

 進んだ先には如何にもと言った門が構えている。

 どうやらこの門を抜けられなければ街にすら入れないらしい。

それに門の前にいる二人は門番か。

騎士の鎧に大きな槍、あれで侵入者を防ぐのだろう。あの槍に突かれればひとたまりもない。

 この状況で正面からいくのは無謀だろ。

「……当たって砕けろだ」

 だがあえて進むことにした。ここで悩んでいても時間が過ぎるだけだ。

 それなら堂々としていた方がまだマシだろう。

いきなり問答無用で襲いかかってくることはないはずだ。

「……? 待たれよ!」

「何の用を持って我らが『サンサイド』の門に近付く!」

 リンの存在に気づき、門番は槍を交差させ行く手を阻む。この巨大都市の名前は『サンサイド』と言うらしい。

 その大きさは近くで見ると圧巻の一言だ。

さらに騎士達の事もあって、後ずさりしてしまいそうになる。

「あ~怪しいものではないんだが」

 だがここは踏ん張る。

 両手を挙げ敵意がないことを表しているが、自分でもさすがに怪しいと思うがこれしか思いつかなかった。

リン様・・・!?」

「戻られたのですか!?」

「……ん?」

 予想外の反応が返って来た。

この騎士達は俺の事を知っているようだ。

だがいきなり様付けというのは何だか抵抗がある。

「知っているのなら話が早い けどその様ってのはやめてくれないか?」

「「もっ申し訳ございません! 国王陛下!」」

国王陛下にレベルアップしてしまった。

どうやらこの騎士達は俺を国王陛下と間違えいるらしい。

「では早速国中に知らせてまいります!」

「いや できれば内密に……」

「なるほど!魔王軍のことに関しての緊急会議に戻られたと言うことですね! ではすぐに馬車を用意します!」

「バトラー様もお喜びになられますよ! 何せこの二十年間ずっと陛下の代わりを勤めていたのですから!」

「話を聞い欲しいんだが……」

 どうしてこの世界の人は人の話を聞かないのだろうか。このまま誤解を解かなかったら、おそらくは話がややこしくなる。


 結局無理矢理馬車に押し込まれ城に運ばれる。

 その中ではやれ『英雄』だの『伝説』だのなんだの褒め称えられる。

(……やめてくれ)

 そんなはなしききたくない。

 おれはそんなやつじゃないんだ。

「リン様! お久しぶりでございます! このバトラー主人無きこの城を二十年! 守り通す事ができました!」

「ああ それはすごいな」

「勿体無いお言葉!」

 いい加減疲れた。ここに来てからろくに休めていない上、精神的にも疲れてくる。

 バトラーと名乗るこの執事服の爺さんに無理矢理握手をされるが、もはやされるがままの状態でも御構い無しにブンブンと上下に動かす。

 だいたい騎士達もこの執事も二十年と言っている。

 いくら顔が似ていたとしても今ではいい歳したおっさんの年齢になっているはずだ。

 それでも間違えると言うことはよっぽど若作りがうまいということか。

「リン様が旅に出て九十年……帰ることはもともと少なかったですがついに二十年音沙汰無しは皆心配しておりましたぞ」

「ジジィじゃねーか!」

流石にもう余裕がなくなってくる。休ませて欲しい。こいつらの目は節穴なのか。

「おや? どうしました? ひどくお疲れのようですが」

「できればあんたの持ってる杖が欲しいくらいだよ」

「それはいけません! 早速お部屋にお連れします!」

 そう言うと長い長い廊下へ案内される。歩く力もなくなってきた体力には堪えるがもう少しの辛抱だ。

 部屋に向かう途中、ある肖像画が目に入った。

 その姿は鎧とコートを合わせたような見た目。
白をベースに青いラインのその服装は爽やかなイメージを与える。

 だがそれ以上に目に入ったのは『顔』だった。

「俺……?」

 その顔は自分でも驚く程にそっくりだった。

 今までしたこともない格好に、そしてあの微笑むような笑顔。

 とてもじゃないが直視できず、肖像画から目をそらす。

(キモイな)

「どうしました?」

「なんでも」

 なるほど。たしかに間違えるのは無理もない。

 だが、この肖像画の男が例え同じ年齢だとしても九十年経っているのなら話は別だ。

(なぜ間違える?)

答えの出ないまま、ついに部屋までたどり着いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...