こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

文字の大きさ
12 / 201
大海の海賊たち

めんどくさいやつ

しおりを挟む
 キーンと、頭にまで響く声。耳が痛い。遠くからの声だったが、まるで近くで叫ばれたようで身体がビリビリする。

「どういう事だよ兄ちゃん! そんなナヨッとしたやつのどこがいいんだよ!」

「にっ兄ちゃん? 兄弟か?」

 赤毛で小柄な海賊員。

 先程の声の主人の正体である。

「ああ紹介してなかったな コイツは『レイ』ってんだ よろしくな」

 いつもの事なのだろうか、さっきの怒号にも動じずにサラッと紹介する。

「おいテメェ!ちょっとでも兄ちゃんに触れてみろよ! 絶対ぶっ殺してやる!」

「はぁ……」

 突然の殺害予告に疑問を覚えるが、余計な口出しはかえって状況を悪化させそうだったのだやめた。

「丁度良かった レイ お前雑用の仕事教えてやってくれ」

「何でだよ!? こんな奴さっさと船から降ろしてやろうぜ!」

 何でここまで嫌われているのだろうか。今回コイツとは初対面なのだが、まるで親の仇のように睨まれている。

「まあまあ お前子分欲しがってたろ? 少しの間だし仲良くしてやってくれ」

「ええ~!?」

 アレクは何とか説得しようとしているが、やはり乗り気にはなれないようだ。まあ余所者にあまり長居されたくないのだろう。

「俺も長居する気は無い さっきの話はもともと聞く気は無かったしな」

「テメェ! 兄ちゃんの誘いを断るだとぉ!?」

「どっちなんだよ」

 この『レイ』とかいう奴は面倒くさい、すごく面倒くさい。非常に面倒くさい。

 あまり関わりたく無いタイプだ。

「わかったよ兄ちゃん こいつボロ雑巾みたいに使い倒していいって事だよな?」

「まあそういう感じで頼むわ」

「人ごとだと思ってアンタは……」

「まあまあ 仲良くしてやってくれ」

 肩をポンポン叩いていってアレクはその場を去るっていく。なるべくならコイツと二人っきりにしないでほしかった。

「よし! じゃあ付いて来い! お前には浴場掃除とか皿洗いとか仕事は山ほどあるからな」

「一つ聞きたいんだがチビルはどうした?」

「あの小悪魔か? そいつなら今偵察して貰ってるぜ 空飛べるのは便利だからな」

 チビルはすでに居場所を見つけているようだ。それで残った俺は余り物の仕事をか。

「お前海賊の掟のことは聞いたか?」

「ああ 『使えるものは何でも使え』だったか?」

「そして俺から一つ追加で『兄ちゃんに無断で近づくな』だ」

「努力するよ」

 これはアレか、所謂『ブラコン』という奴か。ここまで酷いのは初めて見たが。

「よし! ならこのオレがキチンとレククチャーしてやるからありがたく思えよ!」

「いえっさー……」

「もっと声だしやがれ!」

 ああ、本当にめんどくさい。

いったいいつまでこの生活が続くのだろうか。不安しかない。

「まずは浴場掃除からだ!」

 連れられた先の最初の仕事は浴場掃除だった。

 船の中ではあるがなかなか広い。大浴場と言っても良いだろう。

「思ってたよりも随分広いな」

「海の上での暮らしがどうしても長くなるからな 清潔に保つ事は自分と他の連中の『命』を守る事にも繋がる……って兄ちゃんが」

「受け売りかい」

「入る時間は決まってるからな いつでも入れるわけじゃないから気をつけろよ」

 ここの海賊はルールには厳しいのか幾つも掟と呼ばれるものがある。守らないと重りをつけて海に投げ出されるんだとか。

「じゃあこの風呂の掃除は十分以内に終わらせとけよ」

「さすがに無理じゃないか?」

「何言ってんだ? この後厨房の方にも行かなくちゃいけないんだぞ」

 結構なハードワークだ。インドア派の自分にはなかなか辛い。

「つべこべ言う前に手を動かしな 『雑用はただ無心に働く 命がけで』って掟を知らねえのか?」

「知るわけないだろ なんだそのブラック企業」

「テメェ兄ちゃんの掟が聞かねえってのか!?」

「はいはいわかりました」

 なんてめんどくさいのだろう。忠義を尽くすのは良いが、ここまで来ると信仰対象、宗教だ。

「なんでそんな兄貴が好きなんだ?」

「オレの唯一の肉親だからな」

 意外に重かった。これは軽はずみに聞いてはいけないことだった。

「無神経だったな すまん」

「ああ? 別に謝られるようなことでもねえよ」

 そうは言うが気にしてしまう。

「物心ついた時から親はいなかったし 知ってるのは前の船長と兄貴くらいだぜ」

「今は二代目なのか?」

「兄ちゃんは『アース船長』から継いだんだ オレ達の育ての親がアース船長でなんでもオレ達の親父の弟なんだとか」

「それで今は二代目を継いだと」

「エドの野郎のせいでな」

「エド?」

「海賊グールの船長だ」

 最初にあった海賊の奴らの船長か。
仲が悪いと聞いていたがそう言う理由があったのか。

「元々エドのやつはこの船のやつでな 裏切り者さ」

「大方自分か船長にでもなりたかったんだろうな」

「そうだったみたいだぜ? 裏で何人もエド派のやつを集めたやがったのさ」

「じゃあもしかしてその時にアース船長は……」

「ああ……その時にな」

 本当の親も、育ての親ももういない。だからこそこいつはアレクのことが心配だったのか。

「ほらほら! 無駄話はこれくらいにしてさっさと掃除掃除!」

「はいはい」

「なんだそのやる気のない返事は! もっと大きな声で!」

「はいはいわかりました……」

言い掛けたその時、外から爆音が聞こえた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...