こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

文字の大きさ
14 / 201
大海の海賊たち

闘争本能

しおりを挟む
「砲撃準備! グールの奴らを海に沈めてやりな!」

「「オオオオォ!」」

 アレクの指示で海賊達は雄叫びを上げ、あともう少しで戦いが始まる。

「奴らが離れたってことはグールも砲撃の準備をしてるってことか」

「敵を倒すには船を潰した方が楽だからな 向こうがその気ならこっちも乗るしかないね」

「俺は何をしていればいい」

「奴らの砲弾を撃ち落とせ タイミングは俺が教える」

「難易度高くないか?」

「な~に聖剣の力があれば楽勝だろ?」

 簡単に言ってくれる。まだあまり慣れていないのにそんなことできるのだろうか。

 最も選択肢は一つしかないが。

「やれるだけやってみるか」

「期待してるぞ?」

「だからするな」

「なあなあ! オレ様は何してればいいんだ?」

「お前さんは連絡係だ 奴らの船に気づかれないように近づいてグールの情報を伝えてくれ」

「責任重大だな……」

「お前ならできるさ」

 そう言うとチビルに通信機らしきものを渡す。

 アレクの言葉に自信がついたのかチビルはグール達の方に飛んでいった。

「グールの奴らに一発ぶちかましたら次は接近戦だ 船の被害に気を取られてる隙に奴らを叩く」

「船長! 奴ら砲撃の門を開き始めました!」

「よし! 出番だリン!お前の力見せてやれ」

「軽く言ってくれる」

 拳に力を込めるとそこから炎が燃え上がる。炎は瞬く間に聖剣へと姿を変えた。

「さあて……今のオレ・・にできるかな?」

 闘争本能に火が灯る。先程までやる気が出なかったというのに、聖剣を出している間は戦う事に怖れは消え失せる。

 グールな海賊船から砲弾が放たれた。全部で六発、確実にこちらを狙ってきている。

 聖剣に意識を集中させと、聖剣は炎を纏う。
前に放った時とは違い、炎が塊のようになるのではなく、炎で刀身が伸びる。

「三……二……一……今だ!」

「『火剣ひけん 熱波火燕ねっぱひえん』」

 聖剣を横に振りかぶると、炎の刃が砲弾めがけて勢い良く放たれる。

 すると砲弾は空中で一刀両断し、爆発した。

「良し今だ! 放て!」

 次はこちらの番だ。アレクの指示で砲門から轟音を放ち、砲弾が放たれる。

 一度砲撃を放った後だと次の砲撃には時間がかかる。そこを突けばこちらの攻撃が当たる可能性高い。思惑通りにことは進んだようだ。

「チビル! 状況は!?」

敵の船は煙に包まれこちらからはよく見えない。こういう時のことを想定していたのだろう。チビルに渡していた通信機に連絡する。

『ヒットヒット! 五発中四発命中! グールの奴ら慌ててるぜ!』

通信機からチビルの声が聞こえた。攻撃は無事命中したようだ。

「畳み掛けるぞ! 目標はグール! 奴らに引導渡してやれ!」

「「ウオオオオォ!」」

アレクがグールの船に向かって持っていたカットラスを向ける。
海賊達は雄叫びを上げ戦いへの士気をあげた。

「ナイスアシストだったリン!」

「このまま船が潰せればよかったがな」

「その意気だ」

 聖剣の事について少しわかってきた。

 戦い方が理解できる。聖剣から伝わってくるこの感覚は、賢者の石の力なのだろうか。

「俺らの船を奴らの船にぶつける! 衝撃に備えろ!」

「「ハイ!」」

「今から……じゃ遅いかな」

 再び聖剣を横に振り炎の刃を飛ばす。煙の中から砲弾がいつの間にか放たれていたのだ。

 先程と違い近くで砲弾が爆発したため、船が爆風で揺れる。敵も黙ったままではないということか。

「よくやったリン! お前らも油断はするなよ!」

「調子乗るなよリン! オレだって気づいてたんだからな!」

「張り合ってる場合か」

「この距離だと銃の範囲内だ! 気をつけろ!」

「待っていられんな」

「お前何やってんだ!?」

 そう言うとリンは突然飛び降りた。近づいてはいるが普通に考えれば、この距離では跳んでも届かない。

 だがそれは『普通』に考えればの話だ。

「『火剣ひけん 憤撃点火ふんげきてんか』」

 すると聖剣から勢いよく炎が噴射され、まるでミサイルかのようにリンの身体が船に向かって跳ん行き、そのまま船へたどり着いた。

「よう黒ひげ さっきぶりだな」

「聖剣使い……!」

「なんだよ 欲しがってたオレがわざわざ出向いてやったんだから感謝してほしいところだぞ?」

 船にたどり着くと、すぐに海賊に囲まれた。

 敵の本拠に来たのだから当たり前だが、それにしては人が少ない。おそらくさっきの砲撃で怪我をしたか修理に行っているのだろう。なんにしても都合がいい。

「フン! 一人でくるとはずいぶん威勢がいいなぁ? 聖剣使いのリン様は?」

「様付けで呼ばれるのは未だに慣れんな」

「余裕ぶっこいてんじゃあねえぞ!? テメェは包囲されてんだからよ!」

「撃ってみろよ?」

 自分でもすごいことを言っていると思う。だが『何とかなる』という根拠のの無い自信がふつふつと湧いてくる。

「渡すのは死体でも構わん! テメェらそいつを撃ち殺せ!」

「「イエッサー!」」

海賊達は一斉に引き金を引く。銃口から弾丸が発射されるがそれがリンに当たることはなかった。

「『火剣 ひけん|炎幕障火《えんまくしょうか』」

聖剣から炎を燃え上がらせ、リンがその場を一周回ると炎の壁が弾丸を阻んだのだ。
その壁はその場に止まらず、海賊達のもとに迫る。

「にっ逃げろ! 焼け死ぬぞ!」

 海賊達は次々に海に飛び降りて火から逃げていく。
これで邪魔者もいなくなった。聖剣をエドに向ける。

「残りはあんただけだ」

「わっわかった! 俺はあんたから手を引くよ死にたくねえ!」

 エドは両手を上げて降参する。体格に似合わないその姿は少し笑えてくる。

「本当だな?」

「本当だ! なんだったら俺が持ってる宝をあんたに上げてもいい! これでどうだ!?」

 なんとも情けない。こうもあっさりだと拍子抜けだ。

「ほら!? これなんてどうだ? この瓶の中身はな……こうなるんだよ!」

 突然液の入った瓶を投げつけられたかと思えばそれは爆発した。

「ハッハッハッハッー! どうだ!? エド様特製爆弾の味は!? 調子乗ってるからこうなるんだ!!」

 エドは勝ち誇り大笑いした。至近距離でダイナマイト並みの爆発を受ければ無傷では済まない。むしろ死んでいて当然だろう。

「さあて死体は残ってるかなあ? 証拠がなけれりゃ信じてもらえねえからな」

 だが倒れているはずの男はそこに立っていた。

 それどころか目立った外傷が見当たらない。

「この服すごいな 今ので破けないなんて」

「テメェなんで!? 何で無傷で!?」

「相性が悪かったな」

聖剣を天に向けると、纏っていた炎が大きな炎の塊となる。

火の聖剣フレアディスペアにそんなチンケな爆発に負けると思ったか?」

「まっ待て! 待てくれ! 話せばわかる!」

 命乞いなど聞こえなかった。ただ目の前の敵を倒すことしか考えられない。

「『火剣ひけん 迦具土カグツチ』」

 その一撃はエドに直撃した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...