こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

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水の庭『アクアガーデン』

久しぶりの

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(急に外に出されてもな……)

 とりあえず検査の結果は良好。

 異常もなさそうとのことで、外に出てリハビリをしろと言われたのだが、特別やることもない。

(今のうちにしときたいことも……これと言ってないしな)

 それ以上に周りの視線が痛い。ただでさえこの国には男が少ないのに電気泥棒事件を解決したせいで、より一層目立ってしまう。

 街中まで歩いてみたが周りからの好奇の目で見られるのが非常に痛い。

(これじゃあ動物園のパンダの気分だな)

「アニキ~! おはようございます!」

 一人で街中にぽつんとただずんでいると、遠くから聞き覚えのある声が近づいてくる。

「レイか 良くここがわかったな」

「デヘヘ~愛の力ですかね~」

「……チビルはどうした?」

「チビルとは二手に分かれてアニキを探してたんです んでアニキを先に見つけたのがオレッス やっぱ愛の力ですかね~」

「そうか じゃあな」

「マッテ! 行かないでください!」

「くだらん事言ってるからだ」

「冗談ですよ冗談 愛は本当ですけど見つけたのはたまたまです」

 最初のころと比べると、あまりにも違う態度に今更ながらやりづらいが、前のように嫌われているよりはマシなのかもしれない。

 本当は嫌われたままの方が楽だと思うが。

「まあ丁度いい ここを案内してくれ」

「え? でもそんな詳しくないっすよ?」

「俺よりは詳しいだろ 取り敢えず図書館にでも行ってみたいと思ってる」

「えぇ~? 図書館ですかぁ~? もっとデートっぽいとこにしましょうよ~」

「遊びよりも情報収集だ 俺はここだけじゃなく『この世界』のことにも詳しくないんだよ」

「まあアニキがそう言うなら……」

 不服そうに納得するレイを見ると、そういえば色々戦いの中で助けられてる事を思い出す。レイがいなければ雷迅にも負けていたかもしれない。

「……図書館で情報を集め終わったら俺はもうヒマだ お前の行きたいところに少しぐらいなら付き合ってやらんでもない」

「ホントっすか!?」

「……時間が余ったらな」

「よーし! さっきアニキ探してる時図書館なら見かけたんで早く行きましょ!」

「聞けよ」

 よほど嬉しかったのだろう。さっきまで気が向かない顔をしていたのが嘘のようにパァーッと笑顔になる。

 ちゃっかり図書館の場所を把握しているあたり、ここにレイがいてくれて本当に助かった。

「やっぱりな……」

 そしてレイに連れられ図書館には無事着いたのだが、なんとなく予想していたことが的中してしまった。

「文字が読めん……」

 この世界に来てから忘れてしまいそうになるが、最初にわからなかった言語がわかるようにはなっても、文字まではわからないのだ。

 その確認のためにも図書館に足を運んだわけだが、これでは情報収集もできない。

「お前の出番だ レイ」

「任せてください!」

 一人で来ないで正解だった。この世界の住人ならここの文字も読めるはずだ。

「……」

「? どうしたレイ」

「アニキ……ちょっと聞いていいっすかね」

「なんだ」

「この字なんて読むんすかね?」

「チビル呼んでこい!」

 見込み違いだった。

 急遽必要とされるチビルを探し出し、再び図書館へ戻るというタイムロスが発生した。

「う~ せっかくのアニキとのデートが……チビル許さん」

「お前が読めてたら邪魔しなかったよ」

 レイの八つ当たりに対して正論で返され、レイも何も言い返せないで終わる。

 一応この世界にも漢字のように読むのが難しいものがあるというフォローをチビルから言われた。

 まあ読めない自分からすれば、あまり強くもいえないので強く言わないでおこう。

「それで? この本でいいのか?」

「ああ それは聖剣の事が書かれてるんだろ?」

「正確に言うなら『なんで賢者の石ができたのか』が書かれた本だな」

「へ~ そんな本があるんすね」

「賢者の石はたしか九賢者が作ったんだったな」

「おうよ とんでもない魔力を持ってたって話」

 賢者の石にはまだ謎が多い。少しでも不安を無くすためにはまずこれから解決したい。

 本当なら手っ取り早く、元の世界に帰れる方法を知りたいのだがそんな本はここには無いだろう。

「え~となになにぃ? 長く続く『御伽戦争おとぎせんそう』で九賢者が創り出した魔力の結晶 それぞれの属性を蓄えた奇跡の石」

「御伽戦争?」

「だいたい百年前ぐらいの戦争のことっすね」

「今だになんであんな戦争が起こったのかわかってない戦争だよ」

 どう言う意味なのだろう?


 戦争をするのならそれ相応の理由がなければやる事はない。

 当たり前の話だ、大規模な『殺し合い』をするのだから理由も無しに始まらないのだから。

「全く理由が分からないのか?」

「いや 戦争自体はわかってるんだ ただ御伽おとぎって言ったろ? そのままの意味で御伽話を信じた馬鹿なやつらと それを止めようとしたやつらの戦争だ」

「なんだそれは」

「分からないのは何故そんな戦争が起きるほどの人数が御伽話を信じたかだ」

「それでその御伽話ってのは何だ?」

「あ~たしか何でも願い事が叶うとかなんとじゃなかたっすか?」

「アバウトすぎるだろ」

「だろう? しかもその願いを叶える方法もわかってないんだよ」

「何も?」

「そう何も それが何かするのか 場所なのか 物なのか はたまたそういう人がいるのかもわからない それを何故か信じた奴らが各地で戦いを始めた」

「そんな状態でか?」

「それを抑制するため各国がそいつらを鎮圧し始めた」

「そしてそれに反発した奴らが徒党を組んで最後には戦争までに発展したのか?」

「まあそういう事だな」

「いつ聞いても変な戦争だよな たしか何十万もその戦争で死んだんだろ?」

 あまりにも内容がおかしい、何故そんな信憑性のないを鵜呑みにする輩がそんな戦争になるまでの規模現れたのか全くわからない。

 それを広めた宗教かなにかがあったのだろうか?

「それで? その御伽話の本はここにあるのか?」

「多分ないと思うぞ その戦争以降その御伽話をする事は禁止されてるからな」

「あっても読めないか……」

「アニキ興味あるんですか?」

「まあな 是非読みたいところだ」

「まあその前にこの世界の字を習ったほうがいい気がする」

 チビルにそう言われると、ここの本を読んでもらうより確かに自分で読める方になった方がこれから先都合がいい。

 聖剣より気になる情報も手に入ったのだから今回はここで切り上げよう。

 よくよく考えたら聖剣の事も、使える人が一人しかいなかったのだから得られる情報も少ないだろう。

「そうだ! ならオレが教えますよ!」

「……頼むチビル」

「なんで!?」

「お前が読めなかったからだろ」

 久しぶりの平和な一日は、読み書きの練習に費やされた。

「あれ? デートは……」

「今日は時間が余らなかった」

 残念ながら期待には応えられなかった。
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