こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

文字の大きさ
43 / 201
姿見せる三銃士

暴れる

しおりを挟む
「ほらどうしたの? その程度じゃかすりもしないよ」

「くっ!」

「何だあの女!?」

 銃弾が縦横無尽に放たれる。だがその中をギリギリでかわし続けながら、海賊達を切り裂いていった。

「ほらまた一人……捕まえられるもんなら捕まえて見なさい?」

「バカにしやがって!」

「バカにはしてないよ? 事実を言ってるだけだからね」

 誰も捉えられなかった。

 その剣戟は、その華麗な動きはまるで踊っているかのように美しく行われる。

「いくら避けられても囲んじまえばこっちのもんよ!」

「あら? これって誘導されたのかしら?」

 一見有利そうに見えて実は誘い込んでいたようだ。その証拠に前後左右に逃げ場はなかった。

「全方位塞いだ! これで逃げ場はねえ!」

「……雑魚のようだけど多少は頭が回るのね?」

「うるせえ! 全員撃てぇ!」

 一斉にシオンに向けられた銃口から、弾丸が放たれる。

 それでもシオンは涼しい顔を崩さない。何故なら負ける事など頭にはないのだ。

「塞ぐなら……上も・・塞ぎなさいな」

 凄まじい脚力だった。

 相手が引き金を引くと同時に、シオンは真上へと飛び上がったのだ。

 目標を失った弾丸は、代わりに囲うようにしていた海賊同士に当てられる。

「ひっ怯むな! 今のうちに撃てる奴は上を狙え!」

「『剣だけの女』とは思わないことね」

 飛んでいただけではない。飛び上がると同時に魔法をの準備は整っていたのだ。

「水の力よ 今ここに……『アクアフォース』!」

 勢い良くは水の剣が放たれた。剣戟だけではない、魔法すら美しく舞う。

 だがその姿は、敵からすれば恐怖以外のなにものでもないだろう。

「ふふ 雑魚ばかり大量じゃ釣がいもないわね?」

 全力など微塵も出してはいない。これでは冗談でも不合格など言えないなと、リンはシオンを眺めていた。

「よそ見してんじゃねえぞ黒いの! 仲間が強いからってお前が強いわけじゃねえんだからよ!」

「全くもってその通りだ 俺も見習わないとな」

「なるべく近づくなよ! 何を隠し持ってるかわかんねえからよ!」

「あいにくだが今回は素手で戦わせてもらおうと思う 実験も兼ねて好きなだけ撃ってこい」

「はぁ!? こいつ頭おかしいぜ!」

「お望み通りこのバカを蜂の巣にするぞ!」

「これで死んだら本当に馬鹿だがな」

 拳を握る。その手の中には土の賢者の石が握られていた。

 雷迅の時と同様に体が硬化しているはず。それがどれだけの強度なのか確かめなくてはならない。

(もっとも痛みはあったからな……どれだけ我慢できるものか)

「撃ててめえら! 全弾撃ち尽くせ!」

 一斉にリン目掛けて銃弾が発射される。躱す事もできずに弾丸の殆ど全てが命中する。

 目の前で腕を交差させて守りの態勢に入るリンを見て、海賊は嗤った。

「こいつ本物の馬鹿だぜ! あんなので守れるわけねえだろが!」

「まずは一人! 残りの二人も倒しに行くぞ!」

 あれだけの弾幕を放ったのだ。生きているはずがない。

「なあ待てよ……おかしくねえか?」

「あぁ? 何がよ?」

「だってあいつ……」

 一人の海賊が指を指す。立ち尽くすリンを見てみるとおかしなことがあった。

「なんで……アイツ血が出てない・・・・・んだ!?」

「あれだけ撃ったのにか!?」

「じゃあアイツまだ!?」

「ご名答」

 交差させた腕を下ろし、リンはそう答えた。

「まあ予想通りか それにしてもこの身体もそうだがこの服もすごいな 傷ひとつない」

 パラパラとリンの身体に撃たれた弾が落ちてくる。弾は貫通することなく役目を終えていた。

「……今度はこっちの番だ 痛かった分は返してやる」

「ふん! 大方その服防弾チョッキにでもなってるんだろうが剣ならどうだ!」

 一人の海賊がカットラスを持ち出して斬りかかる。

 狙いは首だ。そこであれば服の恩恵を受けていないと考えたのだろ。

「死ね!」

 まるで岩を切りつけたなのような音を立て、カットラスは見るも無残に折れてしまった。

 そして思いっきり切り掛かった海賊の腕はビリビリと痺れてしまう。

「かっ硬え……」

「今殺す気だったな?」

「……へ?」

「今俺を殺す気・・・・・だったんだな?」

「だっだったらどうなんだよ!?」

「だったら……遠慮なく俺もお前を殺す気でぶっ潰す」

 
 海賊の顔を掴みそのまま床に叩きつける。

 床にはヒビが入る。それほどまでに強く叩きつけたのだ。

「アッ……グゥア……!?」

「まずは一人」

「テメェやりやがったな!」

 リンの頭に弾丸が放たれ命中する。本来であれば即死だろう、それは当たり前のことだ。

 だがそんな当たり前は、粉々に消え失せる。

「次は……お前だ」

 リンは狙いを定め歩み寄る。それに対して再び弾幕が貼られるがそんなもの関係なかった。

(痛みは感じるが怪我はしてない……この程度だと死ねないってことか)

「たっ助け……」

 近くにあったテーブルを鷲掴みにすると、片手で持ち上げる。思っていた以上にリンの身体は『普通』ではなくなっていた。

 鷲掴みにされたテーブルを狙い定めた海賊に頭から叩きつける。手加減などする気は無かった。

「お前らが殺す気で来るなら俺も殺す気で相手してやる……容赦すると思うなよ?」

「化け物かよ……」

「ひっ怯むな! 数はまだ上なんだ!」

「一つ聞くが弾の方は大丈夫か?」

「あっ!?」

 すでに何度も乱射した銃の弾倉には再装填しなくては撃つことができなくなっていた。

「リロードだ! 早くしろ!」

「その間に何人潰せるかな?」

 再びテーブルを持ち上げる。そのテーブルはさっきよりも大きなものだ。

「はっ早く……」

「潰れろ」

 思いっきりテーブルを、まるでフリスビーを投げるかのように海賊達に投げつける。

 逃げ遅れた海賊は壁にめり込むように埋まった。

「四人か 思ったよりも少ないな」

 この状況では、もはやどちらが暴れているのかわからなくなっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...