こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

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風の都『カザネ』

果たし状

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「はあ……どうしたものか」

「どうかしたんですか?」

「あっシオン殿に聖剣使い殿! お帰りですか」

 リン達が城の前に帰り着くと、そこには何やら頭を抱えている門番がいた。

 どうやら困り事の原因は、手に持った紙のようである。

「何かあったんですか?」

「ええまあはい……大変渡しにくいのですがこちらを聖剣使い殿に……」

「……手紙でいいのか?」

「これは……果たし状ね」

「果たし状?」

 困っていた理由。それはリンへの果たし状であった。

 とはいったものの、まだ文字を読むのに不自由しているリンからすれば、挑むのであればせめて直接口頭にしてもらいたかったとリンは思う。

「私が読もうか?」

「……俺が読む」

 ここで諦めるわけにはいかない。これから更なる難敵(読めない文字)が現れるかもしれないのだから、今のうちに読み慣れておかねばなるまいと、謎の対抗心をリンは燃やす。

 早速中身を見る為に果たし状を広げると、長々と文字が書かれていた。

「……読もうか?」

「読む」

 絶対に諦めない強固な意思で、提案を断る。

 固い決意とは裏腹に時間だけが過ぎていった。

「……神社で待つ」

「うん 要点だけ読めたね」

「あとは時間とどの神社かさえわかれば……」

「これ暗号じゃないんだから一旦諦めてもいいんだよ?」

「あとこの字汚いですし 読みにくくて当然ですよ」

「……」

 周りからの励ましに不服そうにしながら、リンはシオンに後を託す。

 これはまた勉強するほかあるまいと、リンは心に決意した。

「アハハ 今度二人で図書館でお勉強だね……え~と何々? 『聖剣使い 今日子ノ初刻ねのしょこく志那都比古シナツヒコ神社にて待つ 無論決闘であるため他の者不要ナリ……と」

「子ノ初刻……確か夜の十一時ぐらいだったか?」

「志那都比古神社はあちらですね」

 門番が指差す方向には山があった。
ここから見える階段の先に、確かに神社らしき物が見えた。

「いったい何者だ?」

「名前は書いてないみたいだね」

「まあどちらにしろロクなやつじゃないだろうな」

 こうしてわざわざ決闘を申し込んでいるのだから魔王軍か、もしくはよっぽどの戦い好きか。

「こちらにメリットが無ければ戦う理由もないんだがな」

「でもすっぽかして町で暴れたりするかもしれないよ?」

「だから怖いんだ 得体のしれない奴は何をしでかすかわからん」

「じゃあ行くんだね?」

 メリットの有無より、町への被害が起こるかもしれないと考えれば、受けない訳にはいかなかった。

「レイを任せたぞ」

「うん 気をつけて行ってきてね」

「まあまずは腹ごしらえをしときたいところだがな」

 リンはとりあえず城の中に戻って準備を整える。

 どれだけ強い相手かわからない以上、準備をしておくことに越したことはない。

(流石に魔王三銃士レベルはそうそう来ないだろ むしろ来られたら困る)

「おっ? リンじゃ~ん! 今帰りか?」

「チビルか レイはどうしてる?」

「まだ寝てるよ 寝言がうるさて逃げてきたところさ」

「面倒見させて悪いな」

「そう思うならさっさと身体治せよ」

 パタパタと宙を舞う小悪魔に心配され、おまけにレイの看病まで任せてしまって本当に悪いと思う。

「んで? シオンとはどうだった?」

「いい気分転換になった……はずだ」

「それだけじゃなかったんだけどな……まあ期待してなかったけど」

「なんの話だ?」

「個人的な話さ そろそろ夜メシだってよ 今から行くか?」

「少し早いがそうするか 食べ終わってから大体4時間後ぐらいに俺は出かける」

「んあ? なんでだよ?」

「果たし状だとさ 十一時ぐらいに神社に呼ばれてな」

「おー! 決闘ってやつか?」

「そういう事だ あんまり乗り気にならないがな」

「それって魔王軍か?」

「わからん まあこっちにメリットが無いなら直接話して断るさ」

「そう簡単に断れるもんかね~」

 確かにそんなもの送っておきながら、断られて『はいそうですか』とはいかないだろうと、リン容易に想像できた。

 本来なら望む事ではないのだろが、ここは戦うメリットがある魔王軍である事を祈る。

「悪いがチビル やっぱり先に行っててくれないか? 一応レイの顔を見ておく」

「そっか んじゃあ大広間で待ってるぜ」

 チビルはリンに手を振るとすぐに大広間へと飛んで行く。

 食事の前に、心配しているリンはレイのいる部屋に入り襖を閉める。

 レイが目の前で寝ているが、側に行き着く前に襖の前で座り込んでしまう。

(……くそったれ)

 強がってみたものの身体は常に悲鳴をあげている。

 それに耳を塞ぎ、無理やり動かしていたのだが今限界を迎えようとしていた。

(流石に傷が治ってそれでハイおしまい……とはならないか)

 実際に傷や腕の骨も治っていた。

 だが、その治りが余りにも早すぎる・・・・・・・

 目眩がする。吐き気がする。心臓が気持ち悪いほど鼓動は早く、音がうるさく感じた。

 これがその後遺症なのか何なのかわからなかったが、全くの無関係ではないだろう。

(決闘か……随分なハードスケジュールだ)

 だがご丁寧にリンをご所望だといたのだから、断りたくとも無視はできない。

 得体の知れない存在をほど、無視できないものはないからだ。

(場所が割れてる以上……ここは行くしかないか)

 無視をすればここが狙われる可能性が高い。それは何としても避けたかった。

 二つの意味でリンの頭が痛ませる。もう少し休みが欲しいところだった。

「んふふふ~……アニキそこはダメですよ~……」

 リンが悩んでいるとも知らずに、なんとも気の抜けるような寝言が布団に包まった怪我人から発せられる。

「お前は本当に……もう少し緊張感をだな……」

 リンは説教の一つでもしてやりたいところだったが、残念ながら夢の中の住人には無理だった。

 先程まで考え込んでいたのが、一瞬で馬鹿らしく感じさせてくれた。

「ああ……でもアニキなら大丈夫です……グゥ~」

 レイの夢の中でもどうやら、リンの存在は『アニキ』で変わらないようである。

「……俺のどこが良いのかね?」

 レイの頭を軽く撫でると立ち上がり、大広間へと向かう。

(ああなったのは俺のせいだ 他の誰かに負担はかけられない)

 襖を開けてレイの部屋を後にする。

(この世界じゃあ本当にいつ死んでもおかしくない……殺されるか限界が先かはわからんが)

 自分の事はどうでも良い筈なのに、そうさせてもらえないのが今の状況だ。

「これだから……嫌なんだ」

 信頼できる仲間を失いたくない。

 だからリンは、己の身よりも仲間を優先した。
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