こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

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より強くなるために

波乱

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「まったく……騒がしい奴らだった」

「まあまあ 皆リン殿を心配して集まったのでござる そう邪険にしてはよくないでござるよ」

「だとしても俺がアイツらに料理を振る舞うこともなかっただろうが」

 リンとアヤカの修行風景を観戦しに来ていたムロウが「そろそろメシ時だからなんか作れ」という要望に、嫌々お応えしてリンは振る舞った。

「その肝心のムロウは量が少ないだの味が濃ゆいだの何だの最後まで文句言いながら帰りやがった」

 シオンとレイは片付けを手伝うと言ってくれていたのだが、リンはまた一波乱ありそうな予感がした為、帰ってもらった。

「その代わりにあの修羅場を収めてくれるのだからうぃんうぃん・・・・・・? でござろう」

「そうとも言えるようなそうでもないような……」

 そのおかげでこうして無事にレイ達は城へ戻っていった。

 そう考えると確かにウィンウィンなのかもしれないが、どうにも腑に落ちないリンだった。

 普段から目つきが悪く、不機嫌そうな顔がさらにムスッとした表情になっているリン。一方のアヤカはこの状況を楽しんでいた。

「……楽しそうだな」

「それはもちろん」

「何だ?『人の不幸は蜜の味』ってやつか?」

「いやいや 楽しいのは本当でござるがそれは誤解でござるよ」

 アヤカかがリンの側に立つ。

 いつもなら一人分で片付く食器の量が、今日はこんなにも多い。

「ここにはもう長い事一人で暮らしていたでござるからな……みんなと一緒に食事をするということに少し憧れていたのでござるよ」

 母親との記憶は無く、父親は放浪癖で殆ど家に居ない。

 一番近くにいる祖父でさえも、山を下りたところにある鍛冶場に篭ってばかりいる始末。

 ほんの小さな幸せではあるが、アヤカにとってはそれは紛れもなく『夢』だった。

「リン殿にとっては迷惑と思われているかもしれなでござるが……実を言えばリン殿とこうして暮らせている事は 拙者にとって本当に嬉しいことなのでござる」

「アヤカ……」

「まあリン殿がてんやわんやしている光景を眺めているのもぶっちゃけ好きでござるよ」

「うるせぇ」

 それはそれとして、アヤカはリンをからかうのも大好きなのである。

「……俺にはわからん 一人の方が気が楽だからな」

「リン殿ならそういうと思ったでござる」

 アヤカの目に映るリンの人物像であればそう言うのは予想できていた。

気が楽だから・・・・・・とは言ってはいるが『嫌い』とは言わない……おそらく自分から避けている)

 それが一体なぜなのかまではわからない。

 が、それはアヤカからみてリンの眼が『濁っている』事に、何か関係しているのだろうとアヤカは察した。

「でもまあ……」

 一通り片付けを終えて台所を出ようとするリンは立ち止まるとこう言った。

「たまには……いいかもな」

「え?」

 柄にもない事を言ったと自覚はしているのだろう、照れ臭そうにリンは言った。

「……っぷ!」

「何だよ」

「なっ何でも……フフフッ!」

 肩を震わせながら笑いを堪えるアヤカ。当然リンは面白くない。

「どうせ俺には似合わないセリフだったさ 笑え笑え」

「いやいやいや 今のはぽいんと・・・・が高かったでござるよ」

 素直になれないながらも、人に気を使うのが面倒だと言いながらも、気遣ってくれた。

 目つきが悪く、口も悪いリンの言動の中には優しさが確かににあったのだ。

「リン殿はイイ奴でござるな」

「アンタはヤな奴だな」

「リン殿がどう思おうと……拙者顔だけでなく中身を好きになれそうでござるよ」

「はいはい左様ですか」

 リンは軽くあしらったが、アヤカのこの発言が本気であったことには気付いていなかった。

「ところで子供は何人くらいがいいでござる?」

「すっ飛ばしすぎだろ」

 魔王軍の木鬼が来てから、未だに動きが無い。

 だから忘れてしまいそうになる。この穏やかな時間のせいで。

 これから起こる『波乱』の時は、近づいてるとも知らずに。

「聞いたよドライく~ん! キミの部下の木鬼が倒されちゃったそうじゃあないカ!?」

 魔王城のある通路にて、魔王三銃士の二人が出会う。

「その様ですねアイン」

 斥候としてカザネに単身で送り込まれていた木鬼が、聖剣使いに倒されたという情報は魔王軍に当然入ってくる。

 無論、その木鬼の直接の上司といえる『ドライ』の耳には一番に知らされていた。

「何と言うことカッ! 大事な駒が一つ潰されてしまったタッ! これはもう仇をとりに今すぐ向かうほかあるまイィ!?」

「余計なお世話です 敵の偵察でその敵と遭遇したのであれば速やかな撤退か或いは戦闘になるのは必然……戦闘を選び敗北したのであれば木鬼の判断ミスによる敗北という事です」

「オヤマァドライさんったらドライですこト?」

「殺しますよ」

「怒るなヨ~ こう見えて慰めに来たんだゼ?」

「言ったでしょう 余計なお世話です この件に関しましては既に魔王様にもご報告済みです」

「魔王様ナント?」

「『偵察は戦闘能力の無い鳥や虫の使い魔に任せておけ』との事です その方が確かにカモフラージュにも適していますし無駄な戦闘を避けられます」

「フーン 処罰は特にナシデスカ ソウデスカ」

 楽しみにしていたドライの処分は特に無いと知って、アインは興味を無くす。

「何の面白味もない報告結果で申し訳ない それではお引き取りいただきましょうか」

「そうさせて頂こうとカナ 邪魔して悪かったネ」

「そう思うのであれば金輪際関わりに来て欲しく無いものなのですが」

 ドライはアインが嫌いだった。

 魔王に忠誠も無く、同盟だからといって好き放題に動くその姿を見ているだけで、ドライはアインを殺したくなる。

「それにしても意外だナ~ 魔王サマはドライの事気にかけてるものかと思ってたけどそうでもないのかナァ?」

「どういう意味です?」

「だってそうでショ? 期待していた部下のそのまた部下がやられたんならもっと怒るのかと思ってたヨ」

「……ハッキリと仰って頂きたい だからなんです?」

 既にアインが何を言いたいのかはわかっている。

 だが、だからこそ、その言葉を言った瞬間に八つ裂きにすると決めた。

「単刀直入に言えばドライちゃん魔王サマに『どうでもいい』って思われてるってことじゃあないかナ?」

「──ッ!」

 殺す、理由は今この瞬間出揃った。言い訳など後で幾らでも考えよう、もう許す必要は無い。

 ドライはアインに対して、殺意を込めた魔力を貯める。

「そこまでだよドライ」

「邪魔をしないでいただきたい……ツヴァイ」

 だがそこにもう一人の魔王三銃士の一人である『ツヴァイ』が止めに入った。

「仲間割れは良くないよ」

「仲間? 部下を『駒』としてしか扱っていないようなコイツが? 仲間と言えるのか」

「今はそれでも『同盟』である以上は魔王様との約束を破ることになる……それでもいいの?」

「……」

「気にしなくていいよツヴァイ 何をされようと自分の責任ってことで片付けるサ」

「うるさいよアイン これ以上はコッチも限界なんだからね」

 二人の怒りの矛先は全てアインに向けられる。

 流石にまずいと察したのか、無言のままでアインは二人に手を振って影の中へと消えていった。

「……まったくダメだよムキになっちゃ! 魔王様に怒られちゃうぞ!」

「申し訳ない 少々気が立っていたものでつい」

(少々……?)

「さてと……これから聖剣使い対策でも考えるとしますか」

「あっ! ならオレもオレも! またアイツと戦いたい!」

「わかりました では早速作戦室で計画でも立てましょうか」

 そうしてツヴァイとドライその場を後にする。

(すでに種は撒いた……さあどうする優月ユウヅキ リン

 消えた筈の影をその場に残して。
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