こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

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次を目指して

ギルド街にて

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「ここが『ギルドがい』か……思ってたよりも賑わってるな」

 駅から馬車で約一時間、宿があると言われた『ギルド街』と呼ばれる場所に着いた。

 その街並みは非常に人が多く、市場で買い物する客や自分達と同じく旅をしているであろう人達で賑わっている。

「駅からそこそこ近いってことで人が来やすいんだろうな それにギルドがデカイ」

 ムロウが指を刺した場所は街の中心部。そこには大きな建物構えられていた。

「あれがギルドだ あそこに依頼する人がいるってことはいろんな情報がギルドに集まってくるのさ」

「情報収集が捗りそうだな」

「気を付けろよ? 情報にも玉石混淆ぎょくせきこんこうはある 噂話なんて尾鰭がついて当たり前なんだからな」

 人伝の情報ではデマが紛れてしまう事もある。

 人が集まればある事もない事も、一度広がってしまえばそう簡単には収まらない。

「噂の中に紛れた真実を探し出すのも醍醐味でござろう?」

「そりゃあ中には掘り出し物もあるだろうがよ 聞くならギルドの職員にしとけよリン? 依頼者からの情報なら嘘は無いだろう」

「それもそうね ギルドだってどこの誰とも知らない依頼を受けたりはしないしだろうし」

「それじゃあ最初にギルドに行ってみるか」

 となれば早速ギルドへと向かうリン達。

 だが、それに異を唱える者がいた。

「ハイアニキ! オレはこの街を観光したいです!」

「右に同じくオレ様も!」

「お前ら……」

 それは、反対派のレイとチビルだった。

「せっかく来たんですよ~? 少しぐらい遊んでたってバチは当たらないですって!」

「オレ様達がわざわざ行かなくたってリン達だけでもできるだろう?」

「まあそりゃあそうだな」

「確かに全員で行く必要はないでござる」

 それに同意するムロウとアヤカ。残るはリンとシオンだった。

「この場所には何があるか調べる意味でも観光ってのは良いかもね」

「やたー! それじゃアニキはオレとデートで……」

「本末転倒だろうが」

 ただ遊びたいだけのレイに、ため息が出てしまうリン。

 とりあえずは一度解散し、日が沈み始めたらギルド前に集合という形に落ち着いた。

「それじゃあ私は宿を探してくるからここでお別れね」

「よ~しおじさん張り切って遊ぶぞ~!」

「おほ~! ウマそうなもん売ってるぜチビル!」

「あっちのもウマそうだぜ!」

「じゃあ拙者その辺をぶらぶらしてるでござる」

「真面目なの一人しかいないぞ」

 クセの強い仲間に思わず頭を抱えてしまい、リンはキチンとしてるシオンに安心感を覚える。

「アハハ……なら私達だけでもしっかりしないとね」

「まったく……シオンがいなければ俺はここで折れてたかもしれないな」

 そう言い残してリンはギルドへ向かう。

 リンはシオンの気持ちを、知る由もない。

(……今のはけっこう好感度上がったんじゃないかしら!?)

 その心は若干打算的であった。

 リンは早速ギルドへと向かい、目的の相談する。

「魔王軍関係の依頼ですか?」

「はい 依頼があればと思いまして」

 ギルドで真っ先に聞いたのは魔王軍についてだった。

「申し訳ございません 魔王軍関係の殆どが国で対応するようになってしまいまして……」

「そうなんですか?」

「ええ……こちらにくる依頼の殆どが害獣駆除や洞窟内の探索といったそれほど難しくない依頼ばかりでして」

「そうですか」

「確かに国からの依頼として 腕に覚えのある人材をスカウトしたいという依頼も無いわけでないのですが……殆ど稀ですね」

 魔王軍については一国どころか、世界全体の問題だ。
 その為依頼はせず、人集めも軍の強化のため集めているのだろう。魔王軍との戦いは誰か個人に任せる問題ではないのだ。

(つまり俺が例外ってことか)

 だがこれでハッキリしたことがある。

 それはこの世界の街の人々の危機感の薄さだ。

 情報のほとんどが国に管理されていては、世界が今どういう状況なのかを把握できないのだ。

(対岸の火事ってだけじゃあないな……『自分達がやらなくても国がなんとかする』っていう思いが強いのか)

 恐怖に怯える日々を送るよりいいかも知れないが、それだけでは駄目であろう。

(だとしても……俺なんかに何ができるってんだ)

「あの~……」

 一人考え込んでいると、受付嬢がリンに話しかける。

「あ……すみませんでした カウンターを塞いでしまっていましたね」

「あっいえお気になさらず! それでですね……もし宜しければご依頼を受けてみませんか?」

「依頼をですか?」

「はい! 依頼をこなしていただければ自ずとギルド全体で評価されます そうすると一般にはご紹介することの難しい依頼……つまり国からの極秘の依頼などをご指名で受けることもあるんですよ!」

 突然の受付嬢の提案。リンにとって悪い話ではなかった。

「何かおすすめの依頼でもあるんですか?」

「ちょっと待ってくださいね……こちらなんていかがでしょう?」

(読めん)

「コチラ農家の牛を連れ去る害獣退治ですね 実はこの依頼主以外の農家でも豚や馬なんかも襲われてる事件が多発してまして……」

 この世界の文字を勉強中のリンはとっさに文字を読むことはできない。
すぐに説明に入ってもらえて、リンは助かった。

「人間の仕業ではないんですか?」

「それがその場で食い散らかした痕跡が残っていまして……」

「なるほど」

 害獣駆除、この程度であれば自分にもできるだろうと、提案を呑むことにした。

「わかりました 依頼を受けてみることにします」

「承りました! ではこの書類にサインをいただきますね」

 そう言って差し出された空欄にサインをする。

「すみません この世界の文字に不慣れなもので……元の世界の文字でも大丈夫ですか?」

「本人確認ができるのでしたら問題ないですよ」

 断られたら作っておいた辞書で時間をかけて書かなくてはいけなかったので、あっさり受け入れてもらえて安堵する。

「あと……こちらにもサインを」

(ん? 白紙だけど予備か何か?)

 あまり気に留めず、そちらにもサインをする。
サインが終わると、受付嬢は笑顔で今後の事を教えてくれた。

「ありがとうございます! では明日こちらに来てください! 依頼者とご連絡が取れていれば改めてご説明致します!」

「わかりました」

 本来の得たかった情報とは違ったが、有益である事には変わりない。
満足してギルドから出ようとすると、強面の巨漢達がリンを囲う。

「……なんだお前ら」

「お前もしかしてその顔……聖剣使いか?」

「だったらどうする?」

 ギルド内が騒めく。揉め事は面倒であったが、すでに囲まれたこの状況では逃げ出すのは難しいだろう。

「な~にほんの挨拶がわりに……」

 男は拳を突き出し、リンへと向ける。

「握手……してください」

「え?」

「あっ次オレで」

「そん次オレで」

「え?」

「アンタ聖剣使いだろ? 教科書に載ってた通りの顔してるからよ!」

「すんげえ嫌な覚え方されてる!?」

 初代聖剣使いと同じ顔をしているリンの顔、歴史の教材があれば過去の戦争の事も載っているであろう。

(ん?……って事はさっきのサインって……)

「額縁に入れて飾っておきましょう!」

 仕事の早い受付嬢が先程のサインを飾る。

 確認もせずに、書類等にサインしてはいけない事を学んだリンだった。
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