こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

文字の大きさ
122 / 201
奪い奪われ壊されて

怒りと憎しみ

しおりを挟む
「ここがトールプリズン北地の洞窟 別名『神代しんだい魔性洞ましょうどう』……だったかな?」

「うろ覚えかよ」

 収容施設より少し離れた位置に存在する太古の洞窟。

 その名の通り、長い年月をかけて魔力が蓄積された洞窟である。

「前にリン殿に説明したと思うでござるが こういう場所は大抵魔物の巣窟となっているでござる」

「確か魔素ってのが溜まるんだったか?」

 いつだったか、リンはアヤカから魔物はどうやって生まれるのかという事を聞いていた事を思い出す。

「そう 古ければ古い程に魔素が生き物の体内に蓄積される……ここには特大の魔物が潜んでいるやも知れぬでござるな」

「警戒しろって事か……」

「そうじゃなくてもだ あの兵士が最期に『魔王』はここだって言ってたろ? よーし全員この雷迅様に続けぇ!」

「偉そうに指図すんじゃあねえよ! 新入りはまずこのオレ! レイちゃんの下で働いてもらうからな!」

(いつから階級制になったのかしら……?)

 松明を片手に、ゾロゾロと洞窟内へと進む聖剣使い一行。

 当たり前ではあるが洞窟の中は暗い、足元も当然整備されている筈も無い。

「こりゃあ歩きにくいねぇ……今は魔物と遭遇しちゃあいないがこう暗いし狭いしじゃあ碌に戦えないだろうよ」

「オレ様みたいに小悪魔サイズってなら良さそうだけど……オレ様は戦闘員じゃ無いしな~」

「銃も使いにくいな……でもアニキの事は必ず守るんで!」

「ここじゃあ長剣も使えないわ……魔法がメインになるかしら?」

「残念だったな蒼髪の姉ちゃん! ここいらの魔物は魔素の影響で魔法が効きにくい! らしい!」

「それもピヴワ王妃に教えてもらったのね……」

 つまり、ここでは長い剣は使えず、銃も危険で魔法も駄目だという事。

「襲われたらひとたまりもないな」

「諦めが早いなユウヅキ~? 拳が残ってんだろ」

「一応ナイフとか短剣は用意してますよアニキ?」

「レイ殿は準備が良いでござるな~ 流石はリン殿の妹分」

「えへ~! これはアニキの好感度もアゲアゲって感じで……」

「道が分岐してるな」

 残念ながら無視された。

 二手に分かれた通路、どちらが先に続いているのわからない。

「二代目 ここは二手に分かれようや」

「え? それだと危険じゃない?」

「いや……ムロウの言う通りだ こうも狭いと互いに足を引っ張り合う」

 狭い空間での戦いは、数が多いほど不利となる。

 ならばここは二手に別れて集団を避ける。どちらかが奥に通ずる道なのであれば、一方に賭けるよりも両方に行ってしまった方が良いと考えたのだ。

「シオンは俺と魔力を繋げて交信ができるから 左右選んで分かれよう あとは適当で」

「それじゃあ拙者はリン殿について行くでござる」

「じゃあオレも……」

「すまないでござるが……拙者とリン殿の二人だけにしては頂けぬかレイ殿?」

 今この場にいるのは七人、分かれるのであれば三と四に分けるのが妥当であろう。

 だがアヤカは二人だけ・・・・にしてくれと言った。

「何だとコラアヤカァ!? だったらオレだってアニキと二人っきりが良いに決まってんだろ!」

「まあまあそう言わずに譲っては頂けぬか……?」

「……行きましょうレイ 何かあったらリンに報告するから」

「ヤイヤイ! シオンが認めてもオレは許して……あっおい! 引っ張んなってぇ!」

「忝い……ではリン殿 えすこーと・・・・・は任せたでござる」

「はぁ……それじゃあな 奥が繋がってる事を祈ろう」

 そう言ってリンとアヤカは進み、シオン達はその反対の道を行く事となった。

「少しだけ 雰囲気が戻ったわね リン」

 最近は口数が減り、魔王軍の事しか考えていなかったリンだったが、少しだけ改善されたように見えた。

「ああ この兄ちゃんとの殴り合いが効いたんだろうよ」

「? おお! 細えことは拳で決めりゃあイイもんなぁ!」

「極端すぎる……」

 リンとの戦いは何か考えがあってのものか、あるいは何も考え無かったのかはよくわからなかったが、おそらく後者なような気がする一同。

「ホラ行くぞテメェら! 何としても合流すんぞ!」

「繋がってなかったら?」

「壁ぶっ飛ばして繋げる!」

 レイの思考も極端なのがわかった。

 一方のリンとアヤカも、繋がっているかわからない最深部を目指す。

「いや~久々にリン殿と二人っきりでござるなぁ!」

「そうだな……修行してた頃は嫌でも二人だったからな」

 ご機嫌なアヤカ。態々二人っきりになるのには理由があるのだろうと、察しているリン。

「イヤでもとは失礼な このような可憐な乙女との同棲にときめかぬ殿方はおらぬでござろう?」

「笑うところか?」

 だが、歩いてそこそこ経つというのに、未だ内容を切り出さないアヤカ。

 もしや本当に二人になりたかっただけかと、リンは疑い始める。

(有り得る……そういうヤツだよアヤカは)

「今失礼な事考えたでござろう?」

 まるで見透かされたかの様な反応は相変わらずであった。

「とんでもない 確かに……悪くなかったよ」

   嘘ではなかった。

 この世界に来てから、落ち着いた時間というのは貴重だった。

 たとえ修行がキツくとも、毎日が充実した時間だった。

「戻りたいでござるか?」

「戻れるなら……とっくに戻ってる」

「それは修行のころに? それとも……もっと前に・・・・・?」

 リンは胸を抉られるような感覚に襲われる。

 何を言いたいのかわかってしまう、隠すつもりもないのだろうが、敢えてはぐらかした言い方をされた事が、余計にリンを刺激する。

「……何が言いたい?」

「師匠として 道を踏み外しそうな弟子を見過ごせないと思ったのでござるよ」

 松明に照らされたその笑顔は、たとえ暗い洞窟の中でも眩しかった。

「リン殿の『怒り』は真っ当なものでござる それを否定するつもりはないでござるよ」

 アイススポットで奪われた多くの命を、守れなかった『悔しさ』は、怒りとなる。

「怒りを忘れることは無いのでござる 正しい怒りは強くなる為の糧となる……でも『憎しみ』の感情は早々に捨てるでござる」

「何だと……?」

 リンの心を支配する『憎しみ』の感情。

 それは今のリンを衝き動かす大きな動力となっている。

「俺にあの人達の事を……お前は忘れろって言ってんのか!?」

 何の罪もない人達が、魔王軍の手によって殺された。

 憎しみを忘れろとはリンにとって、その人達の事を忘れろと言われるに等しい事であった。

「それとこれとは話が別でござる 怒りは正しい 怒りは力になる」

 先程アヤカも言っていたように、怒りは力になる。

 誰かの為に怒れる事、それは尊い力。自らの糧とする事が出来るだろう。

「そして憎しみも力になる……でもリン殿 憎しみは『毒』みたいなもの 麻薬みたいになものなのでござるよ」

 憎くめば憎む程、人間は強くなるが『憎悪』する事に終わりはない。

 次から次へと湧き上がるその感情は、永遠に蝕み続ける『毒』となるのだ。

「怒りは過ぎてしまえそこで終わる けれど憎しみは早く消さなければずっと残ってしまう」

 憎しみの心は、人を復讐者へと変貌させ、絶対に赦す事は無い。

 「終わる事のない憎悪の炎……最後に残るのは灰色の世界でござるよ」

「ならどうすれば良い……どうすれば俺は赦される!? 何もしてやれなかった俺が! 死んでいった人達にどうすれば償えるんだ!?」

 リンの声が洞窟内に反響する。

 心を蝕み続け、救う事の出来なかった後悔が、やり場の無い感情をぶつける相手を探して求めている。

「俺は……魔王軍の奴らを殺し尽くす それが俺にできる唯一の償いだ」

「なら何故雷迅を殺さなかったでござるか?」

 氷の賢者の石だけで無く、火と土の賢者の石を使えば、拳では無く刀を使えば、勝機はいくらでも作れた。

 なのにそれをしなかった。いや、やめた・・・のだ。

「最初は殺すつもりだったのであろうが……やめたでござろう? それはまだリン殿が壊れていない証拠 まだ戻れる・・・・・のでござるよ」

「まだ……戻れる」

 頭の中がグルグルする。どうすれば良いのか、何が答えなのリンにはわからない。

「最終的に決めるのはリン殿でござるよ……答えはもう知っている筈でござる」

 アヤカの微笑みを、リンは直視できなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

処理中です...