こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

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奪い奪われ壊されて

神の名

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「うっ……くっ……ここは……?」

 リンが目を覚ますと、そこは見覚えのない空間であった。

「目を覚ましたか……優月ユウヅキ リン

「アンタ……」

 鎧の女が玉座に座っている。自らを『戦の神』と称し、度々リンの窮地を救った銀眼の少女。

「ふむぅ……別段変わった様子も無し……問題なさそうだな」

「またアンタに助けられたって事か……俺の仲間は!?」

「安心しろ 確保してある」

 指を鳴らすと扉が現れ、その先にはリンの仲間の姿が見える。

 気を失ってはいるが、命に別状はなさそうであった。

「此処は……どこだ? 俺達は洞窟最深部『ヴォルスンガ・サガ』で魔王と……」

「我に感謝するんだなぁ……態々お前達を逃してやったのだからな」

「逃した……? どうやって?」

「良いだろう お前には伝えておかなくてはならぬ」

 これまでの経緯を少女は語り始めた。

「さて……お前の相手をしてやろう 『戦の神』とやら?」

 遡る事数時間前。洞窟内で神と魔王が相対する。

「生憎と……我は帰り支度でもしようと思っていたのだがな」

「遠慮するな……『魔王』直々に相手だ」

「得たばかりの力を使ってみたい気持ちはわかるがな……餓鬼・・なのかお前は?」

「そうだ……何もできないただの……『餓鬼』だった」

 顕現した『黙示録の邪竜』の血を浴び、心臓を喰らった『魔王』のその姿は、魔王に相応しい風貌の『異形の怪物』であった。

 大きさは3メートル近くへと巨大化し、獣の体毛に覆われ悪魔の翼と角が生え、『ワーグナー』と名乗った時の面影は無い。

「醜いな……それがお前の求めた姿か?」

「姿形などどうでも良い……今更のこのこ姿を現した『無能な傍観者天上の神々』よ 手始めにお前を殺してやろう お前を殺ぜば『神々への挑戦状』には丁度良いだろう」

 憤怒ふんぬの化身。怒りの魔王『サタン』は、神々への叛逆を宣言する。

 世界征服を完遂した先は、神々をも敵に回すと宣言したのだ。

「お前は既に下界の者・・・・としては逸脱している……見過ごすわけにはいかぬな」

「それで良い それこそが我望み」

 魔王の口から放たれた光線は、戦の神を破壊せんと向けられる。

(さて……実に困った)

 躱す力程度なら残っている。が、魔王を倒す為の力となると足りない・・・・

(今の我にできることは……帰る事だけだ)

 此処にいるリン達を連れて。

「逃すとお思いですかぁ!? いつかの借りは返させていただきますよぉ!」

 魔王三銃士の一人である『ドライ』は魔物を従え、行く手を阻む。

「それじゃあオレも! 戦の神の実力見せてよ!」

 魔物は一瞬にして蹴散らされ、次に『ツヴァイ』が直接拳を交える。

「神様っていうなら相当強いんだよね! 楽しみだよ!」

「お前程度では退屈凌ぎにもならないな」

「え……?」

 ツヴァイは触れられた瞬間、気がついた時には壁に激突していた。

「あ……あれ? いつのまにオレ?」

(今はこれが限界か……回収を急がなくては)

「ご機嫌よう神サマァ? 下界の空気はそんなに合わないかイ?」

 ツヴァイの次は『アイン』が立ち塞がる。

 影は神を包み飲み込む。が、すぐに斬り裂かれた。

「お前は……何だ・・?」

「初めまして アインと覚えて帰ってくださいナ」

「アイン 生きて帰すな」

「エー……修正 殺せってサ」

 再び影で包み込む。何重にも影で包み、逃さない為に。

「フフ……フハハハハハッ! 中々楽しませるではないかぁ!?」

「効いていないのですか!?」

 影を引き裂き、戦を心底楽しむ『戦の神』の姿がそこにあった。

「魔王サタン! お前は言った! 世界征服の次は神々への叛逆だと!」

 魔王へ剣を向け、告げた。

「だがそれは残念ながら不可能だ! 何故ならお前の野望の第一目標である世界征服……お前はまずそれを成し遂げねばならない!」

「何が言いたい……?」

「お前の野望は『聖剣使い』が……絶対にそれを阻止する 絶対に・・・だ」

 瞳の色が紫へと変わり、全身の衣装が真紅に染まる。

「我を楽しませた褒美だ! 神の力の一端・・を見せてやろう!」

「一体何をする気で……何!?」

 その影響を受けたのは、その場に召喚した『魔物』であった。

「私の制御下を……!」

「無駄だ 我の『狂気』に堕ちたのだからな」

 ドライの『テイム』は、暴走する魔物への効力を失った。

 戦の神、狂気を振り撒く戦場の女神。

「我名は『バイヴ・カハ』…… 三相女神! 三柱の魂を宿す神である!」

 指笛を鳴らすと、一足の馬が引く戦車が現れ、戦場を駆け抜け、リン達を乗せていった。

「『バイヴ・カハ』……?」

 ここまでが今こうして、リン達が助けられた経緯である。

「どうだ驚いたか? 我名はお前達の世界でも知られているようで嬉しく思うぞ」

「確か……三姉妹の」

 神と名乗る女の名は『バイヴ・カハ』といった。

 それは『ケルト神話』で語られる女神の名である。

 『ネヴァン』『モリガン』『ヴァハ』の三柱の女神。戦いを象徴する女神達の総称を、『バイヴ・カハ』とした。

「お前の言う通り元々は姉妹だった 我ら・・は一つとなり 三つの人格……いや『神格』を統合した『第四の神格』となったのが今の我だ」

 戦いの最中、見た目が変わる事があった。

 それは元々の人格の名残であり、姿が変わるというよりも、『存在そのもの』が別の女神へと変わっていたと言った方が正しい。

「じゃあ……アンタ本当に『神』……なのか?」

「だから最初からそう言っていたではないか 戯け」

 失礼ながら、リンは自らを「神だ神だ」と言い張る謎の女程度にしか認識していなかった。

「いや……この世界だからあり得るのか……うん」

「まったく……お前はこの世界を『救う』という大事な役割がある あまり失望させるな」

「アンタの目的はなんだ? 俺にこの世界を『救わせる』事が目的なのか?」

「いや 別段世界平和など興味はない 我は『戦の神』であるゆえな」

 その言葉に嘘はないようで、心底どうでも良さそうな言い方をされる。

「ただまあ……『神界』の掟というやつか? 下界の存在に神が介入する事は固く禁じられておる」

「今は介入していないことになるのか?」

「今は『第二段階』だ 第一が『警告』 下界で神々の目に余る行いをするのであれば然るべき措置を下さねばならぬとな」

「第二は?」

「第二が『忠告』 下界の者に伝えるのだ『魔王を倒せ』とな 時には力を貸すがその程度に留めて 直接手を出さない」

「じゃあ第三は…」

「我ら『神』による直接の『干渉』だ 下界の者の手に負えないと判断されれば我らが介入することが許される」

「だったら洞窟内の出来事は第三なんじゃないのか?」

「緊急事態であったが故に仕方なくだ……それに『第三段階』への移行も時間の問題と思って良い」

 つまりそれは魔王の存在は『人間の手に負えない』強さであるという事の証明でもあった。

 世界を脅かし、全てを支配する日も近いと。

「そこでお前だ『優月ユウヅキ リン』 理由はわからないが神の枠域から逸脱した存在であるお前に白羽の矢がたったという事だ」

「随分重荷を背負わされたもんだ……」

 情報の多さに頭を抱えるリン。

 情報の量というよりは、自分の理解を超えた枠組みの所で、とんでもない事が起こっている非現実的な事に、ついていけないのだ。

「さっきの言い方だと……俺をこの世界に喚んだのはアンタら『神』じゃあないのか?」

まったく関係ない・・・・・・・・ この世界とは異なる世界……つまり『パラレルワールド』の住人であるお前の存在はこの世界の神々にとって管轄外なのだ」

 今の自分の立場を、神でさえ・・・・知らないと言われ、余計に頭を抱える。

「はぁ……それで? つまり俺が魔王と戦って負ければ『第三段階』に移行する その神様が『負ければ』どうなるんだ?」

「『第四段階』に移行する……『魔王』と『神々』による新たなる『戦争』……いや 戦争とは名ばかりの『破壊と創造』だ」

「おい……それはまさか?」

「流石に理解するか……『無』だ 全てを『無かった事として』新たな世界を創り上げるのだ」

 それは最悪のシナリオ。世界の終焉。

「どうだ? 少しは戦う気にはなったか?」

「知ってるだろ? 俺には戦わないって選択肢はもう残されていない事ぐらい」

「まあ安心しろ 我はお前を気に入っておる お前が戦う意思を見せるのであればそれなりの報酬も用意しよう」

「例えば?」

「そうだなぁ……」

 少しばかり唸りながら考えた後、『バイヴ・カハ』言った。

「『元の世界に還す』……というのはどうだ?」

 それは、リンが最も欲した答えであった。




 
 
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