こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

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決着の始まり

魔王決戦

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「ウオオオオオオラァッ!」

 魔王軍に向けて雷撃を放つ。

 大群を前にしても、雷迅は怯む事なく戦う。

「どうよ! シビレるだろぉ!?」

「雷迅くん そう勝手に進まれるとおじさん困っちゃう」

「ああ? 何だオッサンもうへばったのかよ?」

「冗談……まだまだいけるさぁ!」

 ムロウが刀に風の刃を纏わせる。

 刀を払うと、魔王軍は無慈悲にも切り裂かれた。

「やるじゃねえかオッサン!」

「これだけ数が多いと背中を狙われる おりゃあ別に良いがお前さんは困るだろ?」

「安心しな……問題ねえよ!」

 轟く雷鳴が戦場に響き渡る。

 風に裂かれ、雷で焼き焦がす。立ち塞がった魔王軍は次々と倒されていった。

「この……っ! 裏切り者の魔族がぁ!」

「前にも言われたが……冗談だろ? いつから魔族は仲良しか良しする種族になったんだよ?」

 魔族である雷迅に飛びかかる魔王軍を捻じ伏せ、同族の魔王軍と敵対する。

「魔族は本能に従う! 気に入られないならブッ潰す! 立ち塞がるならぶちのめす!」

 戦いに生きる種族。雷迅も例外では無い。

 その雷迅が何故魔王軍に反旗を翻したのか、それはとても単純な答え。

「だから『本能』に従う! オレは聖剣使い……『優月ユウヅキ リン』の仲間だぁ!」

 本能に従っただけ。そうする事が良いのだと感じた。

 一緒に旅をし、それは正しかったのだと、過ごした時間を通じて知ったのだった。

「味方で良かったよ 敵だったらと思うとゾッとする」

「オレはアンタとはガチでやりたいけどなぁ?」

「そいつは……この戦いを終わらせてからな」

「フラグってやつか?」

「ああ……勝利フラグだ」

 襲いかかる魔王軍を次々と倒していく二人。

 戦力差を物ともせず、確実に数を減らしていった。

「あっちは盛り上がってるわね?」

「どうする? シオンも行くか?」

「巻き込まれそうだからパス レイはサポートお願いね」

 離れたところでシオンとレイも戦っている。

 水の魔法と剣術で戦うシオン。レイはシオンの後ろを銃で守り抜く。

「このレイちゃんに任せな! 弾幕張ってりゃなんとかなんだろ!」

「う~んもうちょっと周りに配慮してね」

「こんだけ多いんだから魔王軍連中しか当たんねえって!」

「お願いだから細心の注意をはらって」

 とは言ったものの、レイの銃の腕は確かなものだった。

 どれだけ囲まれた状況であっても、精密な射撃が容赦なく敵の急所を狙い撃つ。

「先頭走ってる神様のおかげでオレらにも勝ち目はあるんだ! あとはアニキが帰る場所を守るんだよ!」

 戦の神が味方となってくれている。魔界には魔王を倒す為、聖剣使いであるリンが単身で挑んでいる。

「ラストスパートだ! 気張ってこうぜ!」

「レイ殿の言うとおり……拙者達は待つだけでなく頑張って戦いぬくでござるよ」

 そう言って、大群を押し切って現れたのはアヤカだった。

 敵を斬り伏せ、圧倒的速さで捌いていくアヤカ。肩にはチビルを乗せてレイとシオンのもとに現れる。

「よっ! 怪我してたら治してやんぞ?」

「おおチビル! 今のところ大丈夫だぜ!」

「アヤカはどう? まだやれそう?」

「ん~? 数は多いでござるが物足りないと思っていたところでござるよ?」

 絶え間なく押し寄せる魔王軍を相手に、全く動じずに倒していく。

 阿吽の呼吸。誰一人として諦めず、力を合わせ戦っている。

「やるでござるな?」

「アヤカもね?」

「万でも億でも来やがれってんだ! 全員ぶっ殺す!」

「流石にちょっとそれは……」

 戦えないチビルは弱音を吐くが、決して逃げるつもりはない。

「なんだよビビんなって! ここにいるやつらの強さはお前がよく知ってんだろ?」

「知ってんよ……だから前線に出てんだろ?」

 たとえ戦えなくとも、前に出て仲間を守りたい。

 その思いでチビルも戦場に出た。

「幾らでも傷ついていいぜ! オレ様が治してやっから!」

「頼りにしてるわチビル」

「ちなみに腕が吹き飛んだ場合は治るでござるか?」

「それは勘弁してくれ」

 最後の戦いといえど、何も変わらずに戦う。

 必ず勝って帰ってくる信じているからこそ、安心して戦う事が出来ていた。

「男連中には負けてられねぇ! こっちもペース上げて魔王軍倒そうぜ!」

「良いわね 沢山倒して驚かせましょ」

「おお! 珍しくシオン殿が余裕でござるな てっきり遊びじゃないとか言って断るかと」

「これだけいっぱいるんだもの 少しぐらい遊ばないともたないわよ?」

(オレ様は男なんだけど)

「さあ! 派手に暴れようぜ!」

 離れていても、共に戦っている。

 魔王に挑むのはリン一人っきりだとしても、こうして皆が魔王へと挑んでいた。

「待っていたぞ……聖剣使い」

 そして辿り着く。

「待たせたな……魔王」

 魔王城、魔王の間。二人は相対する。

 玉座に座り待ち構えていた魔王『サタン』と、階段を登った先にある扉を開いて現れた聖剣使いの『|優月 リン』の二人が再び出会う。

「待っていたぞこの時を」

「奇遇だな 俺もだよ」

「最初に会った時を……覚えているか?」

「覚えてるさ まさか魔王が十三歳の子供とは思ってなかったがな」

 ある廃村で出会った宿敵。

 最初は『ワーグナー』と名乗っていた魔王。リンもまさか魔王だとは気付いていなかった。

「今覚えばアレはアインの仕業だったのだろうな……俺があの村に行く事を知っているのはアイツぐらいだ」

 初めて会ったのは偶然では無く、仕向けられていたのだろうと、あの時の出会いは魔王も予想外の出来事であった。

 聖剣使いと戦える絶好の機会であったであろう。だが、戦う事はしなかった。

 全ては今この瞬間の為に、耐えていたからだ。

「人類の希望であるお前を倒す事……希望が絶望に変わった時こそ……完全な『世界征服』は達成される」

「随分遠回りだったんじゃあないか? いつでも殺せただろ?」

「言っただろ? お前が人類の希望……『最強』になったお前を倒さなければ意味がない」

 倒すべきは『最強』の存在。この世界に迷い込んだばかりの二代目聖剣使いでは意味がない。

 初代から受け継ぎ、皆の期待を背負った『人類最強』で無くてはならない。

「憎いのか……? 人間が」

「当然だ 俺から全てを奪った人間を許さない」

「どれだけ憎もうとお前の失った人達は戻らない」

 光の魔法がリンの頬を掠める。

 逆鱗に触れた。決して触れてはいけない忌まわしき過去に。

「黙れ」

「お前が話したんだろ」

「ふん……そうであったな」

「魔王だなんて名乗ってはいるがお前は『人間』だ どれだけ否定しようと変わらない」

 村を焼かれ、家族を奪われ絶望した。

 だから『人間』の存在を否定する。世界征服とは、全人類に対する『復讐』である。

「だから俺は……魔王『サタン』となった」

 その為に本物の魔王・・・・・の力を取り込んだ。

 魔族を従え、ここまできた。あとは目の前の聖剣使いを倒し、『世界征服は成し遂げられた』と宣言するのみ。

「あの日の無力だった俺は……人間の全てを捨てると決めた」

 憤怒の魔王として、無力だったかつての自分を塗り替える為に。

「なら何故俺に『ワーグナー』と名乗った?」

 朽ち果てた廃村。魔王との始めての出会いの場所でそう名乗った。

「お前が『人間である事』を捨て切れていない証拠だ お前はまだ……人間なんだ」

 いまだ『人間の姓』を残したままの魔王。

 憤怒の魔王の名を名乗っても、それだけは捨て切れてはいなかった。

「……そうだ! だから否定する・・・・・・・! あの日全てを失った……燃える故郷の光景が忘れられない!」

 嘆きが聞こえた。苦痛に苦しむ声がした。絶望の渦がそこにあった。

「俺は願った! 御伽話の英雄に『助けて』と……だが叶う事はなかった!」

 一介の兵士から騎士へと成り上がり、最後には一国の主とまで駆け上がり、語り継がれる英雄への道を歩んだ御伽話の英雄に、憧れていた。

「ずっと憧れた英雄はただの御伽話だと! 夢物語だと突きつけられた絶望を! 力の無い者は願う事すら許されなかった!」

 聖剣使いへと執着する理由。

 かつて幼き頃に『憧れた』英雄だったから。人である時の『最後の希望』だったから。

「お前倒す! 俺は『過去』の自分を清算し……『今』の自分と決別する! その時こそ自分が本当に『魔王』であると名乗る事が出来る! 初めて『未来』を歩める!」

「『過去と今』を否定する奴が! 『未来』を語るなぁ!」

 どれだけ未来へと縋ろうと、過去と今を捨てた先にある未来に、輝かしき未来が訪れるはずなど無い。

「お前がやっているのは不幸の上塗りだ 何も変わらない」

 過去を捨てる事は出来ない。

「目を逸らすな 未来に不幸を持ち込むな お前だってな……幸せぐらい望めたんだよ」

 絶望し、前に進む事を捨ててしまった。

「本当に変わらなくちゃいけないのは……向き合うべきは今でも過去でも未来でも無い……お前自身だ」

 決して交わる事無い英雄と魔王。

 だからこそ互いに、絶対に譲れる筈が無かった。

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