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一章
2.元聖女、剣を握る。
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突き抜けるような晴天の日、休みをもらったクレアはエリーゼと共に森へと繰り出していた。
クレアの額からはいくつもの雫がこぼれ落ちていた。整った顔立ちは苦渋に歪められ、時折漏れる声は女性らしからぬもの。
「お、んもいっ…」
騎士学校に行きたい、と宣言したクレアに、エリーゼは剣がどれくらい扱えるか試してみようと言った。
そして今に至る。でも、持ち上げるだけでこんなにも大変だなんて思いもしなかった。
「クレア、大丈夫?」
心配そうにクレアの様子を伺うエリーゼに、強がって笑った。
「だ、だいじょーぶ、だいじょーぶ」
クレアは千年前、できないことなど何一つなかった。だからまさか、できないことがあるだなんて思いもしなかった。
"クレア"にできないはずがない。
それは絶対的な自信。
クレアの紫色の瞳が、ほんのりと光った。瞬間、クレアの脳内に剣の記憶が流れてくる。この剣によって切られた人間の恨み、悲しみ、怒り、苦しみ。いつしかそれは剣を渦巻き、意志を持つ魔剣となった。
この剣は問うてくる。
"人を殺す覚悟があるのか"、と。
人の死なんて、怖くもなんともない。だって生まれた以上、人は死ぬのだから。クレアは眠りにつく前、何人もの死と向き合ってきた。助けられた命もあるが、それ以上に助けられなかった命がたくさんある。
クレアは莫大な癒しの力を持っていたが、全てを救えたわけじゃない。死んだ人間を生き返らせることはできない。
クレアに人を殺す覚悟はない。
ただ、人を救う覚悟は誰よりもあった。
「やっぱり騎士学校じゃなくて、魔法学校にした、ら…」
エリーゼが言いかけた言葉を止めた。クレアは剣を持ち上げて、構えていた。
「自由に扱うのはまだ難しいけど、第一関門突破ってところかな?」
不敵に笑うクレアの手に握られた剣は、白く光っていた。
***
クレアは魔法騎士学校の試験を受けにきていた。元々魔法学校だった場所に今年度から騎士科が設置され、第1期生を求めているという噂をエリーゼから聞きつけて。
会場で辺りを見渡し、受付の場所へと向かう。大人しく長い列に並んでいると、後ろから声をかけられた。
「おいおい、そこの平民。まさか騎士科に来たのか?」
振り返って見てみると、ミルクティーのような色の癖毛の青年が立っていた。腰には高そうな剣を提げている。
「うん!貴方も?」
クレアがにっこりと笑って答えると、青年はニヤリと笑った。
「平民なんか受からないぜ?なんせ、第三王子のアレキサンダー様がこの試験を受けられるってんだから」
「なんで王子が騎士科を受けるの?」
王子なら普通、家庭教師ではなかろうか?かくいうクレアも、聖女の頃は家庭教師だった。より美しく見えるように、動きを叩き込まれたものだ。
一度暗殺されそうになってからは、家庭教師をつけることもなくなったのだが。私がやりたいと思ったことは全て、護衛が叶えるようになったのだ。
「アレク様は王子でありながら武術に長けているんだよ。おそらく今後は国の軍事を担うことになるから、その訓練ってとこか」
「ふーん?」
「ま、そういうことだから怪我しないうちに帰んな。おチビちゃん」
「まだ成長期よ!」
「突っ込むところそっちかよ!」
呆れたようにため息をつく。
「そういえば貴方、名前は?」
「サーベル伯爵家の次男、オリバーだ。お前の名前も一応聞いておいてやる」
「私はクレアよ。ーーそれにしても、ほとんど男性なのね」
聖女は女しかいなかったから、見渡す限り男ばかりの光景は新鮮だ。
「そりゃ、騎士だからな。でも、女性がいないわけじゃない。ほら、あそこにいるのは代々王宮騎士として仕えてるグレッツェル公爵家の娘だぞ」
背がすらりと高く、凛々しい。黒い髪はかつての護衛の姿を思わせ、なんとなく懐かしさを覚える。彼の黒髪は見た目より柔らかく、撫でるととても嫌そうにするのが面白かった。
「ーー、次!」
大きな声に意識を引き戻される。いつのまにか自分の番になっていたようだ。明らかに不機嫌そうな顔の受付の男に、番号札を渡される。
「この札の数字が書いてあるゲートに移動しろ。あと、覚悟がねえならやめときな。死ぬぞ」
「ご忠告痛み入るわ」
死ぬってどんな試験なんだろう。胸が高鳴った。
クレアの額からはいくつもの雫がこぼれ落ちていた。整った顔立ちは苦渋に歪められ、時折漏れる声は女性らしからぬもの。
「お、んもいっ…」
騎士学校に行きたい、と宣言したクレアに、エリーゼは剣がどれくらい扱えるか試してみようと言った。
そして今に至る。でも、持ち上げるだけでこんなにも大変だなんて思いもしなかった。
「クレア、大丈夫?」
心配そうにクレアの様子を伺うエリーゼに、強がって笑った。
「だ、だいじょーぶ、だいじょーぶ」
クレアは千年前、できないことなど何一つなかった。だからまさか、できないことがあるだなんて思いもしなかった。
"クレア"にできないはずがない。
それは絶対的な自信。
クレアの紫色の瞳が、ほんのりと光った。瞬間、クレアの脳内に剣の記憶が流れてくる。この剣によって切られた人間の恨み、悲しみ、怒り、苦しみ。いつしかそれは剣を渦巻き、意志を持つ魔剣となった。
この剣は問うてくる。
"人を殺す覚悟があるのか"、と。
人の死なんて、怖くもなんともない。だって生まれた以上、人は死ぬのだから。クレアは眠りにつく前、何人もの死と向き合ってきた。助けられた命もあるが、それ以上に助けられなかった命がたくさんある。
クレアは莫大な癒しの力を持っていたが、全てを救えたわけじゃない。死んだ人間を生き返らせることはできない。
クレアに人を殺す覚悟はない。
ただ、人を救う覚悟は誰よりもあった。
「やっぱり騎士学校じゃなくて、魔法学校にした、ら…」
エリーゼが言いかけた言葉を止めた。クレアは剣を持ち上げて、構えていた。
「自由に扱うのはまだ難しいけど、第一関門突破ってところかな?」
不敵に笑うクレアの手に握られた剣は、白く光っていた。
***
クレアは魔法騎士学校の試験を受けにきていた。元々魔法学校だった場所に今年度から騎士科が設置され、第1期生を求めているという噂をエリーゼから聞きつけて。
会場で辺りを見渡し、受付の場所へと向かう。大人しく長い列に並んでいると、後ろから声をかけられた。
「おいおい、そこの平民。まさか騎士科に来たのか?」
振り返って見てみると、ミルクティーのような色の癖毛の青年が立っていた。腰には高そうな剣を提げている。
「うん!貴方も?」
クレアがにっこりと笑って答えると、青年はニヤリと笑った。
「平民なんか受からないぜ?なんせ、第三王子のアレキサンダー様がこの試験を受けられるってんだから」
「なんで王子が騎士科を受けるの?」
王子なら普通、家庭教師ではなかろうか?かくいうクレアも、聖女の頃は家庭教師だった。より美しく見えるように、動きを叩き込まれたものだ。
一度暗殺されそうになってからは、家庭教師をつけることもなくなったのだが。私がやりたいと思ったことは全て、護衛が叶えるようになったのだ。
「アレク様は王子でありながら武術に長けているんだよ。おそらく今後は国の軍事を担うことになるから、その訓練ってとこか」
「ふーん?」
「ま、そういうことだから怪我しないうちに帰んな。おチビちゃん」
「まだ成長期よ!」
「突っ込むところそっちかよ!」
呆れたようにため息をつく。
「そういえば貴方、名前は?」
「サーベル伯爵家の次男、オリバーだ。お前の名前も一応聞いておいてやる」
「私はクレアよ。ーーそれにしても、ほとんど男性なのね」
聖女は女しかいなかったから、見渡す限り男ばかりの光景は新鮮だ。
「そりゃ、騎士だからな。でも、女性がいないわけじゃない。ほら、あそこにいるのは代々王宮騎士として仕えてるグレッツェル公爵家の娘だぞ」
背がすらりと高く、凛々しい。黒い髪はかつての護衛の姿を思わせ、なんとなく懐かしさを覚える。彼の黒髪は見た目より柔らかく、撫でるととても嫌そうにするのが面白かった。
「ーー、次!」
大きな声に意識を引き戻される。いつのまにか自分の番になっていたようだ。明らかに不機嫌そうな顔の受付の男に、番号札を渡される。
「この札の数字が書いてあるゲートに移動しろ。あと、覚悟がねえならやめときな。死ぬぞ」
「ご忠告痛み入るわ」
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