『婚約破棄されたけど、あなたより優秀な竜王が拾ってくれました』

ソコニ

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第11話「王国の陰謀と進む修行」

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ハインツベルク王国、王宮の一室。

エドワード王太子は窓辺に立ち、沈む夕日を見つめていた。その表情には、これまで見せたことのない苦悩の色が浮かんでいる。

「王太子殿下、まだお悩みですか?」

背後からカミラの声が聞こえた。

「ああ」エドワードは振り返らずに答えた。「アリアの選択が理解できない。私のような王太子を捨て、竜族になるなど…」

「洗脳されているのでしょう」カミラは甘い声で言った。「あの竜王は、彼女の力を利用するためにそうしたのです」

「だが、アリアの目は澄んでいた」エドワードは思い出すように言った。「あれは洗脳された者の目ではない」

カミラの表情に一瞬、苛立ちが浮かんだが、すぐに優しい微笑みに戻した。

「彼女を救わねばなりません」彼女は王太子に近づき、その腕に手を置いた。「アリアさんは、ご自分の持つ力の危険性を理解していないのです」

エドワードは深いため息をついた。

「しかし、あの竜王の力は…想像以上だった。彼らに敵対すれば、千年前の大戦の再来になりかねない」

「その心配はありません」

新たな声が部屋に響いた。扉が開き、一人の男が入ってきた。

「アシュレイ宰相」エドワードが驚いて振り返った。

「殿下、お話があります」老宰相が静かに言った。「竜族に対抗する手段を見つけました」

「何だと?」

「古い文書が見つかりました」宰相の目が鋭く光った。「竜族の弱点についての記述です」

エドワードは食い入るように宰相を見つめた。

「弱点?」

「そう。竜族は強大な力を持ちますが、彼らの魔力は特殊な鉱石によって封じることができます」宰相はポケットから小さな石を取り出した。「『竜封じの石』です」

それは、黒く光沢のある小さな石だった。中心に赤い筋が走っている。

「これで竜族に対抗できるのか?」エドワードの声には疑いが混じっていた。

「封印石よりも効果的です」宰相は自信を持って言った。「この石を武器に埋め込めば、竜族の魔力を打ち消せます。既に職人たちが作業を始めています」

カミラが目を輝かせた。

「素晴らしい!これなら、アリアさんを救出できます」

「そうだな」エドワードの目に決意の色が浮かんだ。「準備が整い次第、再び北の森へ向かう」

「しかし、殿下」宰相が慎重な口調で言った。「一つ問題があります」

「何だ?」

「アリア令嬢自身が、既に竜の力を持っていることです」宰相の目が細くなった。「彼女が抵抗すれば、彼女自身も敵となります」

「なんと…」

「彼女も封じる必要があるかもしれません」宰相は冷静に言った。「一時的にでも」

エドワードの顔が曇った。

「アリアを傷つけるわけにはいかない」

「もちろんです」カミラが優しく言った。「彼女の力を封じるだけで、決して危害は加えません」

エドワードは思案に暮れた表情で窓の外を見つめた。

「…わかった。だが、アリアには最小限の力しか使わない。それを約束してくれ」

「もちろんです、殿下」宰相は頭を下げたが、その目には冷たい計算の色が浮かんでいた。

部屋を出た後、廊下でカミラと宰相は目配せし合った。

「殿下は優柔不断すぎる」カミラが小声で言った。

「焦るな」宰相は静かに言った。「我々の計画は順調だ。アリア・レスフォードの力を手に入れれば、王太子など必要なくなる」

「でも、彼女が本当に竜王の婚約者なら…」

「それこそが利点だ」宰相の唇が薄く笑みを浮かべた。「彼女を人質にとれば、竜族は手出しできない」

カミラの目が理解と残忍さで輝いた。

「さすがですわ、宰相様」

------

一方、竜の国では——

「もっと精度を上げろ!的を狙え!」

ザイファーの厳しい声が訓練場に響く。

私は両手から青い光の矢を放っていた。十メートル先の標的を狙って。

最初の数発は外れたが、集中力を高めると、徐々に命中するようになった。

「そうだ、その調子だ」

ザイファーの声には、かつての冷たさはない。むしろ、期待と激励が込められていた。

王太子との対決から一週間。竜の国は戦争の準備を進めていた。そして私も、より厳しい訓練を受けていた。

「休憩だ」

ようやくザイファーが休憩を宣言し、私は大きく息をついた。体から汗が滴り落ちる。

「ありがとうございます」

エレナが水の入った杯を差し出した。

「アリア様、本当に上達が早いです!」彼女は目を輝かせた。「最初の日とは比べものになりません」

「本当?」疲れた笑顔を浮かべる。「まだまだ当たらないけど…」

「いや、素晴らしい進歩だ」

ザイファーが近づいてきた。彼の態度は、私が竜王の婚約者となって以来、明らかに変わっていた。

「人間が三週間でここまで竜の魔力を操るのは、前代未聞だ」彼は真剣な表情で言った。「半竜の血を引いているとはいえ、貴女の才能は特別だ」

その言葉が、疲れた体に力を与えてくれた。

「ザイファー、ありがとう」

「礼には及びません」彼はかしこまって頭を下げた。「陛下の婚約者として、最強の力を身につけていただきたい」

「アリア」

振り返ると、レオンハルトが訓練場に入ってきた。彼の顔を見た瞬間、心臓が早鐘を打ち始める。

「レオンハルト」

彼は私に近づき、汗で濡れた額を見て微笑んだ。

「よく頑張っているな」

「はい」私は嬉しそうに答えた。「ザイファーが厳しく教えてくれています」

レオンハルトはザイファーに頷いた。「ご苦労だ」

「いえ」ザイファーは頭を下げた。「アリア様の素質は素晴らしい。教えがいがあります」

「そうか」レオンハルトの目が誇らしげに輝いた。「アリア、少し話があるのだが、良いか?」

「もちろん」

二人が訓練場を出ると、ザイファーとエレナが頭を下げて見送った。

------

レオンハルトに導かれ、私たちは城の庭園へと向かった。夕暮れ時の庭は、幻想的な光に包まれている。見たこともない花々が青や紫の光を放ち、小さな光の粒子が空中を舞っていた。

「綺麗…」思わず呟いた。

「気に入ったか?」レオンハルトは微笑んだ。「これは『月光の園』と呼ばれる場所だ。竜族にとって特別な場所だ」

「特別?」

「そう」彼は静かに言った。「ここは誓いの場所だ」

その言葉に、私の頬が熱くなった。

「誓い…」

レオンハルトは立ち止まり、私の方を向いた。彼の表情は真剣で、目には強い感情が宿っていた。

「アリア、人間界との対立は避けられない」彼は静かに言った。「彼らは貴女の力を狙っている。戦いになるかもしれない」

「わかっています」私は頷いた。「だから、もっと強くなるために訓練しています」

「それも大切だ」彼は私の手を取った。「だが、それだけでは足りない」

「どういうことですか?」

「貴女と私の絆を、より強いものにしたい」

彼の声は低く、感情がこもっていた。その意味を理解し、私の心臓はさらに激しく鼓動を打ち始めた。

「レオンハルト…」

「私たちは既に婚約している」彼は続けた。「だが、竜族の慣わしとして、もう一つ儀式がある」

彼は庭の中央にある、青く輝く池の方へと私を導いた。

「これは『誓いの泉』と呼ばれる場所だ」彼は説明した。「千年に一度だけ、満月の夜に光を放つ」

「今夜が…」

「そう、千年ぶりの満月だ」レオンハルトの目が優しく輝いた。「これは運命だと思わないか?貴女が来たのもこの時期。そして私たちが出会ったのも」

私は息を呑んだ。確かに不思議な巡り合わせだった。

「アリア」彼は真剣な表情で私の両手を握った。「この泉で誓いを立てれば、私たちの魂は永遠に結ばれる。それが、竜族の最も神聖な結びつきだ」

「魂の…結びつき」

「慣習としては、結婚式の前に行うものだ」彼は少し恥ずかしそうに言った。「だが今の状況を考えると、早めに行ったほうがいい。貴女の力を完全に覚醒させるためにも」

「私の力…?」

「そう」彼は頷いた。「この儀式を経ることで、半竜の血が完全に目覚める。貴女の魔力は何倍にも強くなるだろう」

私は池の青い水面を見つめた。そこには月の姿が美しく映っている。

「怖くはないか?」レオンハルトが優しく尋ねた。「無理にとは言わない。貴女の気持ちが最優先だ」

その言葉に、胸が熱くなった。彼はいつも私の意思を尊重してくれる。エドワード王太子とは大違いだ。

「怖くありません」私は彼の目をまっすぐ見つめた。「むしろ、嬉しいです。レオンハルトと永遠に結ばれるなんて…」

彼の顔に笑みが広がった。それはこれまで見たことのない、幸せに満ちた笑顔だった。

「本当か?」

「はい」私も微笑んだ。「あなたこそ、私の運命の人だと思います」

レオンハルトは私の両頬を優しく包み込んだ。彼の手は大きく、温かかった。

「アリア…」

彼の顔が近づいてきた。私は自然と目を閉じた。

その瞬間、彼の唇が私の唇に触れた。

初めてのキス——それは想像以上に柔らかく、温かく、甘いものだった。心臓が早鐘を打ち、体中に電流が走るような感覚。

キスが終わり、目を開けると、レオンハルトの顔は優しさと愛情に満ちていた。

「これが『誓いの接触』」彼は囁くように言った。「竜族の最初の誓い」

私の中に、これまでにない温かい感覚が広がっていった。まるで体の中で何かが目覚めたかのように。

「なんだか…体が温かい」

「それは良い兆しだ」彼は微笑んだ。「貴女の中の竜の血が反応している」

彼は私の手を取り、池の方へと歩き始めた。

「儀式は満月が頂点に達したときに行う」彼は言った。「あと数時間だ。それまでに準備をしよう」

「どんな準備が?」

「儀式用の衣装に着替え、祈りの言葉を覚える必要がある」彼は説明した。「シルヴィアが手伝ってくれるだろう」

私は頷いた。緊張と期待が入り混じる感情だった。

「レオンハルト」彼の腕を掴んで呼び止めた。「私…本当にあなたと出会えて幸せです」

彼の目が感情で潤んだ。

「私こそ、千年待った甲斐があった」彼は真剣に言った。「貴女は私の生涯の伴侶だ、アリア」

再び彼の唇が私の額に触れた。優しいキスに、体中が温かくなった。

「さあ、準備をしよう」彼は言った。「今夜、私たちは永遠に結ばれる」

私は彼の手を握りしめ、頷いた。かつて婚約を破棄された時の絶望が、今や信じられないほどの幸福に変わっていた。

これこそが、本当の運命だったのだ。
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